彼は僕のヒーロー   作:社畜だったきなこ餅

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PVが3万突破したので更新します。

実は最初の展開から少し書き直したのですが、結果良い流れに出来たと自画自賛しております。

2020/3/1 感想からの指摘により再確認したところ、緑谷家が集合住宅と判明。
       大慌てで、全体を見直しつつ修正を加える社畜であった。


13.感覚派と理論派

 

 出久が幼馴染である狐白に懇願され、自身の体と引き換えにヒーローを目指そうとする危うさに枷がかけられた……雄英入学初日の日の夕方。

 少年と狐白は、玉藻家の中庭を望める縁側に隣り合って座る……のではなく、背中から狐白が出久の背中に覆い被さるようにしながら彼の右腕に己の右手を重ねていた。

 

 

「こ、こーちゃん、本当にこの姿勢で始めるの?」

 

「くっついていた方がすぐ治せるし、それにいずちゃんの腕への力み方も把握できるからね」

 

 

 若干顔を赤くし心臓を痛いほどかき鳴らしながら、震える声で出久は背後の狐白へ問いかける。

 何故なら二人は密着と言えるほど体をくっつけており、彼の背中には狐白の大きく柔らかな乳房が強く押し付けられているのだ。

 

 狐白を幼馴染の親友と認識している出久であるが、しかしその体から感じさせられる女性と言う刺激は出久には聊か刺激が強すぎたのである。

 

 

「さ、いずちゃん。出来る限り力をおさえながら、個性を発動させてみて」

 

「う、うん」

 

 

 背中から感じる温かさと柔らかさ、そして己のうなじを擽る幼馴染の吐息に精神をかき乱されながらも少年は右手に意識を集中し。

 庭に設置している訓練用の若干爆豪勝己に似てる気がしなくもないカカシに出久は若干躊躇しながらも己の右手を向け……赤い稲妻のような力の奔流を右手へ奔らせその本流を右手の人差し指へと集める、そして。

 

 

「はいストップいずちゃん、その力をぶっ放さないギリギリを維持して」

 

「が……がんばるよ、こーちゃん」

 

 

 その力をいざ解き放つ、という瞬間に幼馴染から言葉をかけられて集めていた力を額に汗を浮かべながら出久は手に必死に留める。

 イメージで言うならば、バーベルを担いで持ち上げ切る寸前の姿勢で耐えているといったところだろうか。

 そんな小刻みに震える親友の腕を狐白は個性を発動させながら触れ、彼の右腕や手にどのように力が集中し体に負荷をかけているのか診断を勧めていく。

 

 

「うん、ありがとういずちゃん。もう解いていいよ」

 

「ぷはっ……はぁ……はぁ……」

 

 

 集めていた力を解き放つことなく、大きく息を吐き出し呼吸を荒げながら出久は力を霧散させていく。

 その間も狐白は神妙な顔をしながら彼の右腕や、そこから繋がる肩や肩甲骨へとそのほっそりした手を這わせて尻尾をゆらゆら振っている。

 

 

「……うーん、ねぇいずちゃん。拳で打つ時のコツや動きは覚えてるよね?」

 

「うん、こーちゃんのお婆さん……血桜さんに徹底的に扱かれたからね……」

 

 

 狐白からの問いかけに、出久は若干遠い目をしながら一昨年に受けた彼女の祖母からの扱きを思い浮かべる。

 オールマイトからの特訓である海浜公園清掃活動もハードであったが、幼馴染の祖母からの扱きはそれとはベクトルの違うだけで似たようにハードなモノであった。

 

 

「いずちゃんが個性を発動しようとしてた時の損傷と、力の動き方が何というかこうチグハグなんだよね……力の入り方は背中から肩、肩から腕にかけて連動していたんだけどさ」

 

「ふむふむ」

 

「個性を発動する瞬間に負荷がかかっていたのが、力を込める範囲じゃなくて指と手だけに集中してたんだよ」

 

 

 こんなんじゃ、そこに圧倒的な反作用が発生してるんだから体壊して当然だよ。と溜息交じりに呟いて密着姿勢を解いた幼馴染の言葉に。

 出久の頭脳に火花にも似た閃きの種火が生まれ……。

 

 

「入学試験であの巨大ロボへ立ち向かう際に踏み込んだ時そう言えば両足だけじゃなく全身に負荷かかった感覚あったけど、思いきり殴った時は右腕だけだったということは無我夢中で殴ったからその辺りを意識してなかったせい?ということは……」

 

 

 閃きの種火を燃え上がらせ、ぶつぶつと推論を口から垂れ流しながら出久は思考を進める。

 あの時出久が両足で踏み込んで天高く舞い上がる時、オールマイトが脚力だけで飛び上がる姿をイメージしながらも自身の体全体を使うイメージで彼は飛び上がった。

 しかし、その後の全力の一撃を叩き込んだ瞬間は逼迫した状況であった事、そして不安定な空中での一撃だった事もあって無我夢中に右腕だけで殴りつけた。

 

 その結果出久は……両足に繋がる下半身全体に負荷からダメージを負いつつも両足の骨に罅が入るだけで済んだのに対し、右腕は無残とも言える重傷を負ったのだ。

 

 

「そうだよ、そもそも血桜さんも言ってたじゃないか。人の手なんて簡単に壊れるからそこも考慮しながら動きなさいって……」

 

「いずちゃん?」

 

 

 ブツブツと呟き続けながら出久は縁側から立ち上がり、狐白の祖母と……興味深そうに色々と手解きしてきた祖父から叩き込まれた教えを頭に思い浮かべながら。

 長年の訓練と風雨にさらされた事でくたびれているカカシの前に立つと、心配そうに見守っている狐白の目の前で両足を肩幅程に開くと。

 足から脹脛、そして太腿から背筋へと力を込めてワンフォーオールを発動させながらゆっくりと拳を握りしめて腰を捻りながら右腕を引く、そして。

 

 

「SMAAAAAAASH!!」

 

 

 裂帛の気合と共に掛け声を放ちながら、腕だけではない。全身に己自身の力と個性が齎した力を巡らせながら正拳突きをカカシへと叩き込んだ。

 解き放たれる力が齎した荒れ狂う暴風に生垣や庭に植えられた木が激しく揺らされ、力を直接叩き込まれたカカシに至っては木っ端微塵に爆裂四散するだけでは留まらず破片が、庭の内側から玉藻家のブロック塀へ勢いよく叩きつけられた。

 正拳突きを放った出久はその口から、そして全身から煙のような蒸気を吐き出しながらゆっくりと佇まいを正す。

 

 

「できた……できたよ!こーちゃん!!」

 

「すごい、すごいよいずちゃん!!」

 

 

 ほんの僅か、それこそ力としては1%かそこらしか込めていないにも関わらずの圧倒的な暴力。

 かつてならこの破壊力を出そうとしたら、また体のどこかに致命的破損を齎していた事は想像に難くないのだが、全身に負荷を分散させたおかげで出久の体には一切怪我は出来ていなかった。

 

 新たに到達したその領域に出久が目に涙を浮かべながら、切っ掛けをくれた幼馴染へ振り返り大声で報告すれば、狐白は満面の笑みを浮かべて出久へ飛びつく。

 身体に感じる幼馴染の柔らかい胸の感触と体温、しかし歓喜に打ち震えている出久は幼馴染の体を受け止めると彼女の腰を抱いて、くるくると振り回す。

 

 もしも出久の傍に狐白が居なかった場合、師匠であるオールマイトと二人三脚で進みながら様々な教師やヒーローに叱咤され、漸く到達する地点。

 その地点に、出久は到達できたのだ。

 

 

「ちょ、ちょっと二人とも大丈夫?!今の轟音一体何があったの!?」

 

 

 娘とママ友の子供であり……娘にとって大事な人である少年の様子に少し心配しながらも、まぁあの二人ならそうそう変な事にはなるまいと信じて仕事に没入していた狐白の母が息せき切って縁側へと現れる。

 だが彼女の目の前にあるのは、先の轟音による衝撃のせいか若干傾き葉っぱを大量に落とした庭木に内側から罅の入っているブロック塀、そのような状況の中で娘である狐白の腰を抱いてくるくると回っている少年の姿だった。

 

 一体何があったの?!と白目を剥き狐耳と尻尾を激しく立てた彼女が混乱したのは、ある意味当然の帰結と言えるだろう。

 

 

 

 そんな、こんなで。

 

 

 

「まったく、何があったかと思ったら個性の訓練とは……個性が目覚めて嬉しいのはわかるが、程々にするんだぞ!」

 

「はい、ごめんなさい! 後サイン下さい!!」

 

「君本当に反省してる?」

 

 

 突如夕方の住宅地に響き渡った轟音に、場は騒然としたのは言うまでもなく。

 通報を受けて駆け付けたヒーロー、シンリンカムイが事の次第を知ってまず行ったのは見覚えのある少年、出久へのお説教であった。

 素直な少年である出久はお説教を受けて素直に謝罪、そのまま腰を直角に折り曲げたままの姿勢でどこからともなく取り出したノートを差し出してサインを強請る。

 流れるような少年の動きにヒーローは額に汗を浮かべながらも、出久が心から反省している事は目に見えてわかっているので、素直にサインを書いてあげる辺り面倒見の良い気質が隠しきれていない。

 

 

「出久くんが急に個性に目覚めたって聞いた時は驚いたけど、とんでもない力ね」

 

「僕もここまでだとは思わなかったよ、母さん」

 

 

 ご近所さんに娘の親友が引き起こした轟音についての謝罪行脚を終えた狐白の母が頬に手を当てながら、今もシンリンカムイから受け取ったサインを掲げて小躍りしている我が子の親友を眺めている。

 

 そして、彼女の隣に立っている狐白もまた自身の母の言葉に同意しながら幼馴染の様子に微笑ましそうな表情を浮かべており、その尻尾は上機嫌そうに揺れている。

 狐白は出久が無茶をする事で己の体を傷付ける事は望んでおらず、そうしないとヒーローになれないと言うのならばその夢は決して応援出来ないと考えていた。

 しかし、その代償を回避できるのならば彼の夢を狐白は否定する気はなく、むしろ心から応援をしたいと願っているのだ。

 

 

 彼女にとって、出久は紛れもないヒーローなのだから。

 

 




出久くん、狐白を切っ掛けとした武術の鍛錬や……彼女の祖父母からの教えを切っ掛けに、フルカウル的な境地へ僅かに至るの巻。
次回の戦闘訓練でオールマイトと、ついでにかっちゃんが度肝を抜かれるかもしれない!
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