漸くUSJイベントだ……長かった。
クラスの委員長を決めたり食堂で人混みに流されそうになった狐白を、出久が強く抱きしめて守ったりした日の翌日の水曜日の午後。
1-Aクラスの生徒達は、担任である相澤の指示により……バスに乗ってこれから受ける事となる人命救助訓練の授業の為の施設へと向かっていた。
その際車中の会話にて、蛙吹から緑谷の個性がどこかオールマイトに似ていると指摘され、出久が不自然に動揺するのを狐白は不自然に感じながらも。
いつもより気持ち距離が近めに、出久の隣に腰かけており彼の体温を感じ取れる事に、上機嫌そうにその尻尾を揺らしていた。
無論、隣に座る幼馴染の体温と感触は出久も感じる事となっており、煩悩から気を逸らすようにクラスメイト達と個性について談義を進めていくのだが……。
「しかし玉藻の個性って戦闘には不向きだけど、味方にいると心強いよな」
「まさに回復役って感じだもんねー、ゲームで言うとそこそこ戦える僧侶って感じ!」
不意に出久の個性の話から、彼の隣に座っていた狐白の個性へと話題が移り変わる。
話を振られた狐白はクラスメイトの言葉に少し考え込んだ後に、口を開く。
「人体や簡単な道具は直せても、戦いってなるとどうしても自前で何とかするしかないからねー」
「だけどさ、玉藻って緑谷と個性の相性的にもお似合いじゃん。ボロボロになりがちな緑谷を支えるサイドキックって感じだよ」
長巻とか簡単な構造の服も直せない事ないけど、複雑なものになるとお手上げなんだよね、などと肩をすくめて答える狐白へ対し。
揶揄うような笑みを浮かべた芦戸がそんな事を口にすれば、狐白は狐耳をピンと立てて狐のような細い目を開いて驚きの表情を浮かべると。
昨日の食堂での騒動で、強く抱きしめられ庇われた際に感じた出久の逞しさを思い出して、顔を真っ赤にし狐耳をペタンと倒して俯き自らの尻尾を弄り始めた。
「……ッチ」
「爆豪も確か緑谷や玉藻と幼馴染なんだよな、もしかしてお前も玉藻に気があったんじゃ……」
「あるわけねぇだろアホが! 殺すぞ?!」
日を追うごとにかつての自分へ一々歯向かってきていた様子の鳴りを潜ませ、女子っぽくなっていく不倶戴天の敵の様子に勝己が舌打ちを漏らせば。
その音を聞きつけた上鳴がニヤニヤ笑いながら勝己を揶揄い、その聞き逃せない言葉に今にも爆破を漏らしそうな勢いで怒号を上げる。
性転換前の狐白を知っている身としては、そんな事土下座で頼まれたとしても死んでもお断りな内容なのだが、そんな事知る由もないクラスメイト達には通じるわけもなく。
むしろ勝己としては、性転換前を知っている筈のデクがさり気なくまんざらでもない様子を見せている事に、やっぱりあいつら元からデキてたんじゃなかろうかなどと心配する始末である。
そんな具合に若干のすれ違いと言うか何と言うかを挟みながら交流を続けていた生徒達だが、やがてバスが目的地へ到着すればその顔を引き締めてヒーローの卵らしい表情を浮かべ。
バスから降りた生徒達は、宇宙服のようなコスチュームに身を包んだスペースヒーロー13号から、ヒーローとしての心構えについてと施設についての説明を始める。
その中で、憧れのヒーローである13号に会えた事でテンションが爆上りしているお茶子が、13号からの説明に対して大げさ気味にリアクションを取っていたがその事を気にするクラスメイトは誰も居なかった。
もしかすると、事あるごとに考察に入ったりメモを取り始める出久に慣れてきた結果なのかもしれない。
そして、様々な環境下を再現した施設の訓練を始めようとした、その時。
付き添いとして共に来ていた相澤の視界の隅で、不自然な黒い空間の歪みが現れ……異常事態を察知した相澤は生徒達と同僚である13号へ向けた警告の叫びを上げる。
「一塊になって動くな! 13号は生徒を守れ!!」
空間の歪みから次々と現れる、可視化されたかのような悪意を身に纏った集団を目の前に相澤は即座に臨戦態勢を取り相澤、13号は生徒達を守るべく一歩前へ踏みでる。
突然の事態に生徒達がどよめく中、切島が呟く。
「何だアリャ? また入試ん時みたいな、もう始まってるぞパターン?」
「動くな! アレはヴィランだ!」
事態の急変についていけていない生徒へ振り向く事なく相澤は首元にかけていたゴーグルを着用。
張りつめていく空気と、招かれざる客たちが放つ不穏な空気、そして。
入手したカリキュラムから、この場にいる筈の抹殺対象であるオールマイトが居ない事に、集団の中心に陣取る人の手そのものと言えるマスクを着けた青年が苛立ちを吐き出しながら。
悍ましい害意と悪意を……着用している手マスクの隙間から見える瞳に浮かべ、生徒達を睨みつける。
人生の中で初めてと言える強力な害意と悪意に、生徒達は背筋に氷柱を突っ込まれたかのような寒気を感じながら漸く理解した。
ヒーロー達が何と向き合い、そして何と戦っているのかを。
そして、生徒達がどよめきながらも相澤や13号の指示の下、個性を用いて生徒達が救援を呼ぼうとするのを相澤は確認した後単身でヴィランの群れの中へと飛び込んでいく。
ヴィラン達が生徒へ注意を向ける前に自身が引き付け、救援が来るまでの時間を稼ぐために。
その間に生徒達は13号主導の下避難を開始しようとするも、全身を黒い靄に包まれた……否、黒い靄が人を象っているかのようなヴィランに立ち塞がられたことで足を止められてしまい。
平和の象徴であるオールマイトを殺す事が目的だと告げると、勝己と切島の奇襲を意に介することなく己の個性によって生徒達を掴み、施設内のあちこちへ無造作に散らした。
それは狐白達もまた例外ではなく、咄嗟に互いの手を掴もうとする出久と狐白であるが……後一歩のところでその手が届く事はなく。
出久達は水難ゾーンに……狐白は暴風大雨ゾーンへと飛ばされてしまう。
「玉藻もこちらに飛ばされたか、大事ないか?」
「常闇君に口田君……うん、こっちは大丈夫だよ」
言葉で形容しづらい奇妙かつ不快な感覚に顔を顰めながら、離れてしまった幼馴染の心配をする狐白であったが。
飛ばされた先で彼女は、無作為に飛ばされたと思しきクラスメイトと即座に合流出来た事から、出久もまた一人ではない筈と己に言い聞かせて今はこの場を切り抜ける事を最優先目標へ据える。
「この嵐の中じゃ全く声は届かぶぇっ?!」
ゴーグルをつけた海パン姿のヴィランが何か言いかけていたが、常闇や口田と共に駆け出した狐白が全力で首筋へ叩き込んだ模造長巻の一撃で強制中断され。
運よく頸椎を折らずに済んだ男が咳き込み体勢を崩した脇を、狐白は自身の尻尾を使って急制動を駆け乍ら通り抜け……行きがけの駄賃だとばかりに真横からヴィランの膝へ蹴りを入れる事でその足をへし折っていく。
流れるような情け無用の狐白の様子に、常闇と口田はただ優しいだけではなく苛烈な所もあると認識し若干戦慄しつつも、今この場においては頼もしい事この上ないと前向きに考える事にした。
ちなみに物騒な真似をした狐白当人は、仮に不幸な事故が起きてしまっても全力で自己弁護する準備を頭の中で整えた上で行動している、ある意味最もタチが悪い人種なのは言うまでもない。
しかし、学生に好きなようにされる事は人生裏街道を生きているヴィラン達にとって我慢できる光景であるわけがなく。
即席の粗末な連携を使いながら各々の個性を使って、3人の学生達へ襲い掛かる……が。
遠距離や中距離からの攻撃は全て……常闇の個性によって操られた影、ダークシャドウによって阻まれ近距離から攻撃を仕掛けようとしたヴィランは、クラスで一二を争う体格の持ち主である口田のパワーで薙ぎ倒され。
不意を討とうとしたヴィランに至っては、大雨の中でも狐耳を忙しなく動かして警戒を解かない狐白に察知されその次の瞬間には、人体急所を穿たれて沈黙させられていった。
「急いで先生たちに合流するぞ、二人とも!」
「うん!」
ダークシャドウを操りながらもその足を止める事無く走り続ける常闇の叫びに、狐白は大雨や暴風に負けないよう声を張り上げながら応答し。
口田もまた常闇の視界に映る位置で、頷きを返して彼の指示に従って動いていく。
人への悪意のぶつけ方、暴力の振るい方でヴィラン達が劣っていたという事は断じてなかった。
しかし、ヒーローになる為に研鑽を積みこの舞台へ辿り着いた学生達と、大事な幼馴染が心配でしょうがない少女の方が気持ちが強く……そして連携が取れていたというだけの話なのである。
そして結論から先に言うなれば、彼ら三人は一人とて欠ける事無く最短距離を駆け抜けて今も戦っている筈の担任がいる場所へと辿り着いた。
だが、そこで絶望的な光景を彼らは見る事となる。
そう、脳を剥きだしにした巨漢かつ異形のヴィランに無惨にへし折れた腕を掴まれて組み伏せられた、頼りになる担任の姿を。
割と原作にあった流れは相変わらずざっくりカットのダイジェストにしつつのUSJ襲撃イベントでした。
ちなみに狐白が飛ばされる場所はサイコロ振って決めました、そしたらこうなりました。不思議だね!