ヴィラン連合からの襲撃を凌ぎ撃退した日の翌日、その日は臨時休校となった事から早朝に起きる必要はない筈なのだが。
出久は自宅のリビングのソファに座り、どこか虚ろな瞳で早朝のテレビ番組を眺めていた。
何故少年が目覚め、二度寝をする事もなく起きているのか、ソレは……。
「僕は、僕はなんて夢を……!!」
寝起きでぼさぼさ率120%な自身の頭を掻き毟るように抱えながら、出久は呻くように呟く。
なんて事はない、出久は親友で大事な幼馴染だと心から思っている相手である狐白で、聊か如何わしい夢を見てしまった罪悪感に頭を抱えているのだ。
その夢は妙に感覚がリアルで、触れた狐白の唇や乳房にお腹の感触、その全てが現実なのではないかと思えるほどの内容であり。
いざ結合合体という瞬間に目が覚めた事で、例え一瞬でも惜しい勿体ないと考えてしまった己に対して自己嫌悪倍率ドンな状態であった。
「これも全部峰田くん達が悪い……そうだ、さすがに僕に非は……」
頭を抱えたままブツブツと呟く出久。
そもそも、唐突に幼馴染の女体を強く意識する切っ掛けとなったのだって、昨日保健室から教室へ戻った瞬間全力で殴りかかって来た……。
峰田を筆頭とする1-Aのモテないモテたい男子即席連合軍とのやり取りが原因なのである。
ちなみにどんなやり取りがあったかと言えば……。
・
・
・
「くたばれ緑谷ぁぁぁぁぁぁ!」
「天誅じゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
「う、うわ何なのさ急にぃ?!」
瀬呂のテープに繋がれ、遠心力を用いたカタパルトで射出されたが如き勢いで殺到する峰田を、小さい体ごと咄嗟に叩き落とした出久。
だがその瞬間を隙ありとばかりに、ド派手にブチ切れた勝己のごとき凶相を浮かべた上鳴が出久へ飛びかかった事で、出久は何が何だかわからないといった表情を浮かべながら咄嗟に側転をする事で追撃を躱す。
「すっとぼけてんじゃねぇぞオルァン! どうせ緑谷アレだろ!? 組手と称して玉藻のやわらかきつねっぱい触れたりとかしてラッキースケベに勤しんでるんだろぉ!?」
「何を言ってるのかワケがわからない、よ!」
叩き落とされても尚不屈の闘志、PlusUltraと呼ぶに相応しい覇気を纏いながら立ち上がった峰田は、キシャァァァ!などと叫びながら出久へと襲い掛かる。
生徒指導の先生に厳重注意どころじゃない暴れっぷりであるが、ぎりぎりのところで個性は使用していない辺りに、僅かな冷静さが垣間見える峰田であった。
ちなみに、この騒動は話題に出されている狐白も見ているのだが、何が何だかと言った様子で困惑していたりする。
「第一そんな事してないし、そういう言い方はこーちゃんにも失礼だぞ!」
「うるっせぇぇぇぇ! ラッキーなスケベがあるのかないのか!あったならオイラ達に事細かに説明しやがれこんちきしょぉぉぉぉ!!」
「そもそもそんな事自体ない…………あ」
机の上に仁王立ちし、モテない男子の憎悪と希望を一身に背負ったが如き形相で咆哮する峰田に、飯田が机の上に立ったりするんじゃない!と注意するのを見ながら。
出久は咄嗟に彼の言葉へ反論しようとした際に視界の隅で心配そうに眺めている狐白を見た瞬間、こんな時に限って思い出してしまった。
組手の最中勢い余って彼女の胸元をブラごと勢いよく引いてしまい、半ば事故のような勢いで彼女の豊満な片乳房を乳輪どころか乳首が丸見えになる程度にまろび出させてしまった事件を。
そこから連鎖的に、普段は封印していた出久の記憶の引き出しが開店大セールフィーバーと言わんばかりに開き、出久の脳裏にラッキースケベ映像集が連続上映されていく。
狐白の家で日が暮れるまで組手を行い、その後シャワーを浴びて出てきたシャツの内側から乳首を浮き上がらせた狐白の姿や。
休日に二人でヒーロー関係の映像を見ていた際、無性に耳が痒くなった素振りを見せた出久に自然な仕草で膝枕と耳掃除をしてきた、幼馴染の太ももの柔らかさや吐息に少女の甘い匂い。
中学三年生の時にやっていた海浜公園清掃後の狐白から施されたマッサージ、それも夏の暑い日だった事で少女も薄着だった事でシャツ越しに感じた彼女の柔らかな女体や心地よさ、しっとりと汗ばんだ幼馴染の女性を感じさせる匂い。
この時点でも割と大概に思えるが、そのほかにもあれやそれやを思い出してしまった出久は顔を真っ赤にし、応戦の構えを取ったまま硬直してしまったのだ。
「『あ』って何だよ『あ』ってよぉぉ!? 言ってみろよぉぉぉ!!」
「え、ええと…………」
硬直した出久の隙をついて肉薄した峰田に胸倉を掴まれた出久が、小柄な少年とは思えない力で前後に揺さぶってくる峰田の形相にたじろぎ。
何かしら話さないと解放されないと判断、そして急速に思考を回して一番無難に終わりそうな記憶を開封する事を決意した。
「……膝枕してもらいながら耳掃除してもらった、はセーフ……かな?」
引きつった笑いを浮かべながら口を開いた出久の言葉に、1-Aの時間が止まった。
しょうがない連中だなぁと思いながら談笑していた男子陣も、ドキドキしながら展開を見守っていた女子陣も含めて。
そして出久は悟った、目の前の峰田から立ち上るどす黒い気配にやっちゃった、と。
「ぶっちぎりでアウトに決まってんだろうがよぉぉぉぉ!? 今すぐそのポジションをオイラと代わってくれよ緑谷ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」
「うん緑谷、さすがにソレは俺も羨ましいわ。というか峰田に加勢するわ」
「俺も俺も」
モテないモテたい男子にとって憧れとも言える、幼馴染でドスケベな体をしてる美少女からの膝枕と耳掃除という単語に、峰田の怒りは限界を超えてPlusUltra。
更に状況を見守っていた中立派のそれなりにモテたい男子勢である砂藤や尾白まで、峰田に加勢して一発出久を殴ってやると言わんばかりににじり寄る始末である。
結局この騒動は、あまりにも賑やかになり過ぎた結果乗り込んできた生活指導の先生である、ヒーローのハウンドドッグに鎮圧されるまで止まらないのであった。
なおその後の顛末としては羨ましすぎて我慢できなかったと涙ながらに訴える峰田と上鳴を筆頭とした同級生の訴えに、逆に申し訳なさを感じた出久が水に流す旨を告げた事で軟着陸したらしい。
しかし、一度硬く封印していた甘い女体の記憶は出久の思考を苛み、その日は一日中悶々としたまま寝床へ入る事となった結果。
出久は、狐白を対象とした青少年としては至って健全であるが言葉細かく説明するには憚れる、そんな夢を見る事となったのである。
・
・
・
「どんな顔して、こーちゃんと会えば……」
時計の針が一周してもなお、自宅のリビングで頭を抱えていた出久。
そんな息子の様子に起きてきた、彼の母である引子は首を傾げながら様子のおかしい息子の安否を気遣う。
「大丈夫? 出久、やっぱりヴィランに襲われたせいでどこか痛いの?」
「え? い、いや大丈夫だよお母さん! ランニングいってくる!」
「あ、ちょっと出久ぅ?!」
しかし背後からかけられた母の言葉は、自意識に沈んでいた出久には不意打ちも良い物であった。そもそもリビングで悩んでると言う時点で彼は相当混乱しているのは言うまでもない。
そのまま出久は弾かれたようにソファから立ち上がると自室へと駆け込み、トレーニングウェアに着替えて家を飛び出して行くのであった。
緑谷出久15歳、女体に対して免疫のない思春期真っ盛りの高校一年生であった。
出久君も色々と頑張ってるんやで。
だけど、そろそろ決壊しそうなんやで、大変だね(他人事)