嘘の災害や事故ルームことUSJにヴィラン連合と名乗る集団が襲撃してきてからの、翌々日の1-Aの教室。
HRの時間が近づいている事もあり、クラス委員長である飯田がクラスメイトに着席を促していたその時、教室の扉を開いて重傷を負っていた筈の相澤が顔中に包帯を巻いて姿を現した。
「相澤先生復帰早えええええ?!」
「リカバリーガールの処置が大袈裟なだけだ、大した傷でもない」
生徒達の驚愕の叫びに対して相澤は気怠そうに返しながら教卓につくと、闘いはまだ終わっていないと不穏な事を口走る。
その内容に生徒達はどよめき、峰田などは頭を抱えてまだヴィランが?!などと騒ぎだす中。
相澤は包帯の隙間から見える目に鋭い眼光を宿し、生徒達へと告げた。
「雄英体育祭が迫っている!」
肩透かしとも言える相澤の発言に、にわかに色めき立ち学校っぽい内容だと叫んだ。
しかし即座に我に返った一部の生徒が、襲撃間もないというのに大丈夫なのかと問いかけるも……。
相澤は若干不本意そうな様子を滲ませながらも、大人の事情により警備を5倍に増やした上で決行する事、そして生徒達にとっての最大のチャンスである事を述べる。
「いやそこは中止しよう……?」
「ああ、雄英体育祭っていずちゃんが毎年ワクワクしてたヤツか、毎年一緒に見てたよね」
「う……うん、そして雄英の体育祭は日本にとって今やオリンピックにとって代わるほどのビッグイベントなんだよ! 全国のトップヒーローもスカウト目的で観るぐらいのね!」
「緑谷、そのぐらいにしておけ……まぁ、そう言う事だ」
危ないから止めよう?と震える声で呟いた峰田の言葉を他所に、雄英体育祭と言う単語に聞き覚えがあるなぁなんて思いながら首を傾げていた狐白は、その手をポンと打ち。
毎年はしゃいではしゃいでしょうがない幼馴染の様子を微笑ましく思いながら、毎年隣り合いながら座って眺めていたヤツだという事を思い出して呟くと。
その幼馴染の言葉に、未だに謎の照れ臭さが抜けない出久は若干頬を赤くしながら、強い熱意を持って雄英体育祭について語る。担任の相澤を置き去りにして。
一方自分が言おうとしていた事のほぼ全てを出久に言われてしまった相澤は、説明の手間が省けたとばかりにまだまだ語り続けそうな出久を言葉で止めつつ、言葉を締め括った。
そして、相澤は静まった教室内の生徒達を見回すと、時間は有限である事を前置きした上で……年に一回計三回だけのチャンスでありヒーローを志すなら絶対に外せないイベントだと、生徒達へ発破をかけるかのように言葉をかけるのであった。
そしてそのまま午前の授業を滞りなく終えた昼休み。
ヴィラン襲撃があったとはいえ、それでもプロへ駆けあがる為の大きなチャンスと聞かされては落ち着いていられないとばかりに、切島を筆頭に男子達が盛り上がる中。
何のかんの言って、いつも集まっている出久と狐白と飯田とお茶子の四人組の内、いつも朗らかで麗らかなお茶子の表情が引きつっている事に狐白が気付いた。
「大丈夫?麗日さん、どこか調子悪いの?」
「大丈夫だよ玉藻さん……頑張ろうね、体育祭」
「か、顔がアレだよ麗日さん!」
どこか思い詰め、切羽詰まった様子な表情を浮かべている級友に狐白は尻尾を差し出し、お茶子は差し出された尻尾を両手でもふりもふりと撫でまわしながら鬼気が籠っているかのような声音で、体育祭への戦意を語り。
尋常じゃない表情と声音に出久が怯える中、こっそりと……もしかして生理とか言いかけた峰田が、蛙吹の鞭のように長くしなる舌で頬を張られていた。
その後いつもの4人組で食堂へ向かう事となったのだが、やはりどこか只事じゃない様子に心配になった出久はお茶子が気合を入れている原因を尋ねたところ。
お茶子はどこか言い辛そうにしながらも、忙しなく髪をかき上げたりしながら口を開いた。
究極論的にはお金が目的であり、何故お金が必要なのかと言えば仕事で苦労している両親を楽させてあげたい、だから自分はヒーローを目指すのだと。
力強く決意を持って告げたお茶子であったが、他の3人がどこか呆けた顔でお茶子を見詰めてきた事にお茶子は両手で顔を覆い、なんか不純でゴメンと消え入りそうな声で呟いた。
「麗日くん、ブラーボー!」
「うん、凄い立派だよ麗日さん」
飯田と狐白の素直な賞賛にお茶子は更に顔を赤くし、いややーはずかしいーなどと言いながら狐白の尻尾を勢い良くも優しくモフモフし始める。
そして出久もまた感想を述べようとしたその時。
「おお!緑谷少年がいた! ……ごはん、一緒に食べよ?」
「乙女や!!」
廊下の角からひょっこり現れたオールマイトに、接近を感知できなかった狐白が驚き耳を立てる中。
オールマイトがおずおずと弁当箱が入ってるであろう包みを摘まんで差し出した事に、お茶子は素直な感想と共に勢いよく噴き出した。
「ぜひ……ごめんね3人とも」
「……いずちゃん、何かされそうになったら大声で呼んでね?」
「何もしないさ玉藻少女!?」
出久とオールマイトの間に何事かただならぬ様子を第六感で察知した狐白が、警戒心を隠すことなく出久へ告げた言葉にオールマイトは全力で否定しつつ。
快諾を得られた出久と共に、いつもの密談場所である仮眠室へと向かうのであった。
そんなこんなで、いつものメンバーから出久を抜いた三人組となった飯田と狐白とお茶子達は食堂にて列に並び。
思い思いの食事の載ったトレイを手に、適当な席に座って談笑しながら食事を始めた。
「そういえばさ、玉藻さんはヒーローを何で目指したの?」
「確かに、俺もそこは気になっていた」
「あー……飯田君や麗日さんみたいな立派な理由じゃないんだけど、それでもいい?」
薄く味付けがされた厚揚げがたっぷり入った煮物を中心とした、和食中心な食事を口へ運んでいた狐白にお茶子と飯田はふと感じた疑問をぶつけ。
疑問をぶつけられた少女は、咀嚼していた厚揚げをしっかり噛んだ後に嚥下してどこか照れ臭そうに口を開くが、二人は狐白の言葉に何度もうなずく事で続きを促した。
「正直ね、僕が雄英を受けたのはいずちゃんと離れたくなかったからなんだ、だからヒーローになって何かしたいって事もそんなになかったんだけど……」
「……だけど?」
「……今は、うん。目を離すたびに無茶をして怪我をしちゃういずちゃんを支えられる、そんなヒーローになりたいかな」
言い淀みつつも、お茶を啜り吐息を漏らしながら告げられた狐白の言葉に、飯田はなんと……などと言いながら目を見開くが。
狐白の声音にそれだけじゃない何かを察知した麗日は、乙女的な好奇心を隠し切れずに笑みを浮かべて狐白の言葉の先を促し。
促された事で引っ込みがつかなくなった狐白は、はにかみつつ忙しなく動こうとする自らの尻尾を手で押さえながら、恥ずかしそうになりたいヒーロー像を述べた。
思った以上に乙女な狐白の言葉に驚愕を隠せない飯田とお茶子、そんな二人の様子に変な事言っちゃったかななどと心配になる狐白。
なおこの二人は狐白が元々は男子だったことを知らないが故に、幼馴染が乙女心全開で好きな男の子を支えようとしていると誤解した。ある意味間違ってはいないかもしれないが。
「……やっぱり変だよね、お兄さんみたいなヒーローになりたい飯田君やご両親に楽させたい麗日さんとも、また違うし」
「そんな事ないよ!凄い素敵じゃん、応援するよ私!」
「うむ、ソレに男女でヒーローとサイドキックをやっているコンビは割とそのまま結婚に至る事も多いと聞くからな、おかしい事じゃないさ」
「け、けっこん?!」
飯田とお茶子の様子に、気まずそうにお茶を啜り食事の続きへかかろうとする狐白であったが、再起動を果たしたお茶子は目を輝かせて机に手をついて身を乗り出しながら興奮気味に捲し立てる。
そして飯田もまた眼鏡を指で押し上げながら、兄から聞いた話を口にし……男女の仲な事を言ったつもりは欠片もなかった狐白は、結婚という単語に耳をピンと立て尻尾をばさばさと振って狼狽し始めた。
ちなみに男女の仲の縺れで解散するヒーローとサイドキックも居るし、18歳でヒーローデビューした挙句12年近く出会いがない乙女を複数抱えたヒーローチームも居たりするが、その事を指摘する野暮な人間はその場に一人も居なかった。
「あ、ご、ごめんなさい!」
「アハハハハ!いいよいいよこそばゆくて気持ちよかったしね!」
飯田の結婚発言によって大きく揺さぶられた心と同じく勢いよく振ってしまった尻尾が、背中合わせに座ってる上級生と思しき男子に当たっていた事を狐白は慌てて謝罪し。
人間が出来ているのか心からの発言かは不明だが、金髪を短く刈り上げた男子は元気よく笑って狐白の尻尾接触を許してくれた。
「まったくもう……僕といずちゃんは、そ、そ、そんな関係じゃないよ。幼馴染で親友なんだしさ」
「むぅ、そうだったか。玉藻女史、本当に申し訳ない」
「いや飯田くん、あの反応は満更でも……まぁいいか」
その後は特に波乱もなく和気藹々と食事を楽しむ三人組なのであった。
しかし、具体的すぎる結婚というワードは僕は元男でいずちゃんはソレを知ってるからそんなのあり得ないなどと自分に言い聞かせつつも……暫くの間狐白の頭から離れなかったらしい。
一方その頃、オールマイトと共に仮眠室で昼食を摂りながら話し込んでいた出久であったが。
個性の制御がこの短期間で著しく向上している事を褒められた上で、オールマイトの後継としての話やオールマイト自身の活動限界時間の話をされ、お互いお茶を飲んで一息をついた後。
保健室で互いにベッドの上の住人となっていた時に感じた、ふとした疑問を出久はオールマイトへとぶつけていた。
「そういえばオールマイト、この前オールマイトの御師匠さんの友人に玉藻って苗字の人がいるって話してましたけど……もしかしてその人の名前、血桜って言いません?」
「ぶっふぉぉっ! な、なんで緑谷少年が血桜さんの名前知ってるんだい?!」
目が離せない子であるが非常に将来有望な後継者な少年の突然の発言に、吐血交じりのお茶を勢いよく噴き出すオールマイト。
それもしょうがないだろう、半ば引退してる上に意図的に名前を残そうとしていなかった師匠の友人の名前を、知ってる筈のない少年が口にしたのだから。
「いえ、こーちゃんのお婆さんが血桜さんなんですけど、こーちゃんの紹介で短期間武術を叩き込んでもらったんです」
「……緑谷少年、大丈夫? 心折れたり砕けたりしてない?」
「……正直何度か折れそうになりました」
敵の命なんて死ななきゃ安いんですよ?が口癖だった師匠の友人である女性を思い出し、震えながら問いかけるオールマイト。
そして、オールマイトの問いかけに対して目の光を消し、身体を小刻みに震わせながら答える出久。図らずも師弟ともに同じ女性にトラウマを植え付けられるという珍現象に見舞われていた。
「だけど、それなら緑谷少年の足運びや体術にも納得がいくな。血桜さんは見込みのある若者を鍛える事が好きだし……本腰入れると痛くないと覚えませんよ、とか言い出すけど」
「はい、おかげであの脳がむき出しだったヴィランとの闘いでも何とか立ち回れました……あ、それ言われかけました。だけど、こーちゃんのお爺さんが全力で止めてくれました」
「……生きててよかったなぁ緑谷少年、いやほんとに」
「何されたんですかオールマイト……凄い震えてますよ?」
おや……狐白の様子が……?
この娘、今の今まで同性時代の感覚だった模様、あれだけやってたというのにね!!
そしてさり気なく登場した上級生男子。
一体どこの何ミリオンなんだ……!