彼は僕のヒーロー   作:社畜だったきなこ餅

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22.地獄へようこそ!

 

 担任の相澤から、二週間後に雄英体育祭が開催される事を知らされた日の夜。

 出久は自室でその体に汗を浮かべながら、双方の手に持ったダンベルを用いてワンフォーオールを使用してゆっくりとダンベルを上下させる筋トレをしていた。

 

 

「もっと、意識しなくても出来るように……無意識の内にとはいかなくても、それでも殆ど意識することなくワンフォーオールを全身に巡らせないと」

 

 

 ブツブツと呟きながらダンベルを上下させる出久は、個性を暴発させて自傷しない安全圏での使用を心掛けながらも、気を抜くとすぐに出力が危険域に到達しかねないナンバーワンヒーローから受け継いだ個性に冷や汗を流しながら、出久は呟く。

 憧れていたオールマイトから受け継いだその個性は、受け継いだばかりの頃と違い今ならある程度の予備動作があれば、それなりに運用できるようにはなっている。

 しかしそれでも……15歳で個性を手にする形となった出久にとっては制御する事にとても難儀する代物であった。

 

 だがしかし、オールマイトから託された想いを裏切らない為にも弱音なんて吐いていられないと、出久は己を奮い立たせると力なく下ろしかけたダンベルを持つ自らの手に力を込める。

 そしてこのまま筋トレを続けていたら、息子の様子を見に来た母の引子に止められるぐらいに根を詰めた筋トレをしていた出久であるが、不意に室内に鳴り響いた着信音にその手を止めた。

 

 汗を拭いながら出久が確認した携帯の画面に出ている名前は幼馴染の名前で、時間を見れば夜の8時……彼女にしては珍しい時間にかかってきたなどと思いつつも、出久は通話開始ボタンへその指を乗せる。

 

 

『こんな時間にごめんねいずちゃん、今大丈夫かな?』

 

「うん、大丈夫だけどどうしたの? こーちゃん」

 

 

 ダンベルを机の上に置き椅子に腰かけながら通話を開始すれば、遠慮がちに聞こえてきた幼馴染の言葉に気にする事はないと出久は返答し。

 軽く背筋を伸ばしながら、珍しくこんな時間に電話をかけてきた幼馴染に要件を伺う。

 

 

『えっとね……今度の雄英体育祭の事お婆様に電話で話したら、こっちに来て訓練をつけてくれるって言ってるんだけど……いずちゃんもどうかな?』

 

「え゛?」

 

 

 出久から話の先を促され、遠慮がちに幼馴染が告げてきたのは中学二年生の夏に受けた地獄の特訓とも言える日々を思い出させる言葉であった。

 思わず出久が強張った声を上げたのも、ある意味やむを得ないのかもしれない。なんせ今日の昼にオールマイトとトラウマを共有したばかりなのだから。

 

 

『あ、勿論いずちゃんが嫌ならいいんだよ?』

 

「あ、い、いやごめんねこーちゃん。 ……その話、お願いしてもいいかな?」

 

 

 出久が思わず出した声に狐白は、自身の祖母が筋の良い出久を気に入った結果彼女すらドン引くほどの鍛錬を施したことを思い、慌てた口調で電話の向こうで言葉を続ける。

 そんな狐白の様子に出久もまた慌てて少女へ謝罪すると、決意を込めて幼馴染の申し出を受ける旨を告げた。

 

 オールマイトからは立ち向かえたことを誉められ、むしろ入学したての学生で良くもあそこまで食い下がれたと褒められた出久であったが……

 もしあそこで自分が力尽きていたら自分は勿論、クラスメイトや担任……そして己の大事な幼馴染の命は無かったという、考えるだけで足がすくむ恐怖と無力感がこびり付いていたのだ。

 

 故にこそ、自分を追い込み更に強くなるための糧として、PlusUltraの精神と共に幼馴染の申し出を受けたのだ。

 そして少年は後日、この日の決断を心の底から後悔した。具体的には狐白の祖母のみならず、祖父も合わせてやってきた二日後ぐらいに。

 

 

 

 その後少しばかり時間が流れ、出久が幼馴染の申し出を受けた夜から二日後の放課後。

 いつもの四人組で談笑しながら、正門を潜った4人組の前に黒塗りの車体が長い高級車が停まり……帰宅の途につく生徒達がどよめく中黒服に身を包んだ運転手が降りると、後部座席をうやうやしい仕草で開いた。

 

 

「ご苦労様、久しぶりね狐白ちゃんに緑谷君」

 

「お婆様、今年の正月にも会ったでしょ……」

 

「お、お久しぶりです!!」

 

 

 運転手に手を取られ降りてきたのは、狐白と似たような銀色の長い髪を持ち狐耳と尻尾を生やした妙齢の和装の女性。

 そう、狐白の祖母であり短期間であれども出久の武術の師匠である、玉藻血桜であった。

 

 

「もうそんな事言わないで狐白ちゃん、出久君もそんなに固くならないで頂戴?」

 

 

 孫娘とその筋の良さから目をかけている少年の様子に、血桜は上品な仕草でころころと微笑むと呆気に取られているお茶子と飯田へ向き直り。

 いつも孫がお世話になっております、とたおやかに微笑みながら二人へその頭を下げる。

 

 

「い、いいえ私の方こそ玉藻さんと仲良くさせてもらって、出会ってまだ数日だけど楽しく付き合わせてもらってます!」

 

「玉藻女史とは仲良くさせて頂いております!」

 

「元気が良い子達ねぇ、結構クセの強い孫だけど。これからも仲良くして頂戴ね?」

 

 

 上品に腰を曲げて頭を下げた級友の祖母……には見えないぐらい若々しい女性の行動に。

 お茶子は慌てて手を振りながら、飯田は直立不動で行儀よく元気よく返事を返す。

 そんな若者二人の様子に血桜はクスクスと微笑むと、狐白と出久に車へ乗るよう促した。

 

 

「お婆様、気合入り過ぎだよ……ごめんね二人とも、また明日学校でね」

 

「お、お邪魔します……じゃあね飯田君、麗日さん」

 

 

 祖母のクラスメイト達への応対に狐白は恥ずかしそうに頬を赤らめ、尻尾を忙しなく振りながら車へと乗りこみ。

 出久もまた、生まれてこのかた乗った事などない高級車へ緊張に体をガチガチにしながら幼馴染に続いて乗車し、最後に狐白の祖母が乗り込んだ事で運転手が後部ドアを閉めてから運転席へ戻ると。

 雄英高校の前に横付けされていた高級車は、颯爽と走り去っていった。

 

 

「……玉藻さん、もしかしてお嬢様?」

 

「かも、しれないな」

 

 

 残された飯田とお茶子は、思わずそんな事を呟く。

 なおこの光景を見ていた上鳴と瀬呂から噂が広まり、尾びれと背びれがついて翌朝出久はお嬢様である狐白に手を出した結果ケジメを取らされるべく拉致られてという、根も葉もない噂に晒される羽目となるのだが。

 今この瞬間、高級車の中にて実は車内にいた狐白の祖父との間に緊迫感に満ちた沈黙に晒され冷や汗を流していた出久は、知る由もなかった。

 

 

 

 そんなこんなで、狐白と出久……そして狐白の祖父母を乗せた車はやがて、大きな建物の前に車を一時的に停車させて運転手は4人を車から降ろすと。

 4人は施設へと足を踏み入れるのを尻目に、警備員の誘導に従って車を駐車場へと向かわせていった。

 

 

「あの御婆様、ここは……?」

 

「個性を使った鍛錬となると、あの家の庭では狭いですから。昨日の内に予約をとっておきました」

 

「まさかプロヒーローが本格的なトレーニングに使う施設に入れるなんて……!」

 

 

 学生服のまま、きょろきょろと忙しなさそうに周囲を見回している孫娘に祖母である女性は微笑みを浮かべたまま答え。

 狐白と同じく初めてこの施設へ足を踏み入れた出久はと言えば、名前や規模は知っていたけども入る事がかなわなかった施設の内装や、時折目に入るプロヒーロー達に歓喜の声を上げていた。

 

 

「狐白に出久、動き易い服装は準備してあるか?」

 

「え?あ、うん。学校の体操服だけどもあるよ、お爺様」

 

「は、はい!」

 

 

 和服姿の妻と隣を物言わず歩いていた甚兵衛姿の祖父の言葉に、狐白と出久は準備済みである事を伝えれば祖父は満足そうに頷いてそのまま歩みを進める。

 

 なお本来この施設はプロヒーローの資格を持っていなければ使用は疎か、安全上の理由から立ち入りすらも見咎められる施設である。

 なのに何故狐白の祖父母が利用を申請出来たかと言えば……。

 

 

「しかし、ヒーロー活動なんざ殆どやってなかったが時々やってたおかげで資格を維持できてて良かったぜ。なぁ『鮮血夜叉』?」

 

「もう旦那様ったら、そんな事言いながらいざという時の為に活動できるよう準備は入念にしてたのはそちらもでしょう? 『鋼糸』」

 

 

 最近は資格を失くさないよう適度に活動をしている半ば引退気味な存在でこそあれ、狐白の祖父母もまた資格を持ったヒーローだったのだ。

 そして今4人が歩いているこの施設は、ヒーロー資格を持つ人物から予め申請をしておく事で、子供へヒーローが英才教育を施す為等の名目で資格未所持者でも利用可能となるのである。

 

 ちなみに、祖父母の若干物騒なヒーローネームに対して狐白は不思議そうに首を傾げるのみで、出久もまた聞いた事のない名前に幼馴染同様首を傾げていた。

 

 

 ただこの後数十分後、出久と狐白は老体二人からの特訓を受けた事を後悔する事になるのは言うまでもない。

 

 

 




原作だと数コマで表現されてた、雄英体育祭までの二週間をねっとり描写する作者であった。
ちなみに、施設規模的にはこの施設よりも雄英高校の方が充実しているのですが……。
高校にとって部外者である狐白の祖父母は立ち入れない為、こちらの施設を使って個性を利用しながら鍛錬を施す事に決めた模様。

なおこのトレーニング施設は捏造です、ただあの世界観的にはこういう施設が幾つか存在しても不思議じゃないよなぁ、という思いと勢いで設定しました。
反省はしてるが後悔はしていない。

余談ですが、高級車の送迎は必死に調べたけど調べきれなかったのでガバ多数の可能性が普通にあります。許して下さい何にもはしませんけど!
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