彼は僕のヒーロー   作:社畜だったきなこ餅

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雄英体育祭が迫る中、割と血生臭い雰囲気が隠し切れない狐白の祖父母によって特訓を受ける事となったデク君(と狐白)
彼らの運命や如何に。


23.求:地獄への道連れ

 出久と狐白が、狐白の祖父母によってプロヒーローが使うような施設へ連れていかれた翌日の1-A。

 教室の中では既に登校している生徒達が集まり、神妙な顔で何やら言葉を交わしていた。

 

 

「緑谷、いい奴だったよな……」

 

「ああ、羨ましいし妬ましかったけど、それでもヤクザに拉致されて良いヤツじゃなかったよ……」

 

 

 重苦しい顔で言葉を交わすのは上鳴と瀬呂の二人である。

 彼らは見ていたのだ、昨日の放課後……雄英高校の正門へ横付けされた黒塗りの高級車へ乗り込む出久と狐白の姿を。

 

 

「だけどよぉ、緑谷は抵抗してなくて玉藻も変な様子無かったんだろ? 考えすぎだって絶対」

 

「けろ……その手の組織の大半はヒーローの台頭で無くなったと聞いてるわ、瀬呂ちゃん」

 

 

 級友二人の言葉に砂藤は逞しい腕を組みながら、釈然としない様子で首を傾げて所見を述べ。

 逞しいクラスメイトの言葉に同調するように蛙水も二人の考えすぎだとばかりに言葉を放つ。

 

 

「そもそも、反社会組織が堂々と雄英の正門に車乗りつけねえと思うけどな」

 

 

 クラスメイト達が口々に話題に上げてる内容に、轟は鞄を机へ下ろしながらぼそりと呟く。

 そんな具合に出久の運命について誤解が広まる中、有力な証言者である飯田とお茶子が登校してきた事でクラスメイト達の視線が二人に集中する。

 

 

「わわっ、皆どうしたの?」

 

「むむっ」

 

「あ、良い所に来たね!二人ともさー、緑谷がヤクザにケジメ取らされるために拉致されたってホントー?」

 

「「はぁっ?!」」

 

 

 突如集まった視線にたじろぐ飯田とお茶子を他所に、手をブンブン振りながら大声で質問してきた芦戸の言葉に。

 登校したばかりの二人は目玉が飛び出んばかりに仰天しながら、驚愕の叫びを上げた。

 

 

「ヤクザに拉致も何も、デク君は玉藻さんのお婆様に連れてかれただけだよ!?」

 

「う、うむ。玉藻女史の御祖母も緑谷君を害そうとするどころか、可愛がってる風に見えたしな」

 

「ちぇー、なんだー」

 

「蓋を開けてみたら平和な話だったねー!」

 

 

 狼狽えながらもそんな様子欠片も無かったよと説明するお茶子に、飯田は落ち着いた様子で補足を加え。

 その内容に透明少女こと葉隠は宙に浮いた制服の肩を竦めてスキャンダルな事じゃない事につまらなさそうな声をあげ、芦戸もまた愉快そうに笑いながら感想を述べた。

 

 しかし、飯田の言葉に別の意味で瀬呂と上鳴が度肝を抜かれた様子で声を上げる。

 

 

「え、ちょ、ちょっと待てよ嘘だろ飯田ぁ!あの女性って玉藻のかーちゃんじゃなくてばーちゃんなの!?」

 

「どう見ても孫いる年齢に見えなかったぞあの人!?」

 

 

 あの時の光景を遠目から眺めていた瀬呂と上鳴は、連れていかれた出久の冥福を祈りながらもソレはソレこれはこれとして。

 狐白の親族っぽい妙齢の女性を、彼女の母だとばかり思いこんでた二人は驚愕の表情を浮かべる。

 

 

「嘘も何も、そろそろ二人も来るはずだから直接聞いたらどうだ?」

 

「……二人とも凄くくたびれてたけどね」

 

 

 何が何やらとばかりの表情を飯田は浮かべて自らの席へ向かい、妙にげっそりと疲れ果てた狐白と出久をチラ見した麗日は苦笑いしながら席へつく。

 一体何のことだ?とばかりに頭を浮かべたクラスメイト達、そして話題の中心となっていた出久と狐白が扉を開いて現れた瞬間、クラスメイト達は話を聞こうと色めき立ち。

 狐耳どころか尻尾までだらんと垂らして疲労困憊な様子の狐白と、ふらつきながら教室へ入って来た出久の姿に絶句する事となった。

 

 思わず話を聞いてよいモノかという空気が流れ、意を決して切島が口を開こうとしたその時。

 担任の相澤が教室へ入って来た事によって、級友たちは好奇心に首輪を駆けられたかのような気分で、HRを過ごす事となった。

 

 

 そしてHRも滞りなく終わり、授業と授業の合間にある休み時間。

 好奇心を抑えられなかったクラスメイト達は、出久と狐白を取り囲むように集まり質問をぶつける。

 何故そんなに話題になっているのか、理解できずに二人は目を白黒させつつも昨日何があったかを説明し始めた。

 

 

「玉藻の祖父母、それもプロヒーローから直々に特訓してもらってたってぇ?!」

 

「凄いじゃん!羨ましい!」

 

「なぁなぁ、どんな訓練してたか教えてくれよ!」

 

 

 黒塗りの高級車によって拉致られケジメ案件を受けていたと思われていた出久からの言葉に、羨望を隠し切れない様子で切島が叫び。

 ミーハーな気質が強い芦戸は身を乗り出して詳しい話を二人へせがむのを見ながら、砂藤もまた興味深そうに二人に特訓の詳細を聞かせてほしいと頼む。

 

 盛り上がる二人を中心とした輪の様子に勝己は、負けてられないとばかりにトレーニングを更に己へ課す事を心に誓いながら不機嫌そうに机の上に足を乗せ。

 家庭の事情から父親を見返したい轟は、話の輪に加わる事なく己の力に出来る内容はないか、聞き耳を立て始める。

 

 ちなみに瀬呂と上鳴は、『僕達はデマを流してクラスを混乱に陥れました』と書かれた看板(八百万製)を首から下げ、教室の隅で二人仲良く正座させられている。

 

 

「僕はお婆様にひたすら身体感覚を鍛える訓練させられたり。個性を強くする特訓と……消費した栄養をすぐ活力に変えれるよう訓練させられてたよ」

 

 

 今日も授業終わったら特訓なんだー、と虚ろなお目目で呟く狐白の様子にクラスメイト達は若干ドン引きしながら後退りした。

 若干やつれ気味なのはそういう事なのですね、と一人八百万が納得する中。今度は出久へクラスメイト達の視線が集中すれば。

 

 

「僕の方は、こーちゃんのお爺さんとマンツーマンで……武術の型どころか足運びを一動作ごとに、物凄い低速でやらされ続けたよ……個性常時発動状態で」

 

 

 ゆっくりとした動作で正しい型や足運び繰り返すのって、物凄い大変なんだね。と虚ろな様子で呟く出久の言葉にクラスメイト達は更にドン引きして後退りした。

 

 

「だけどよぉ緑谷、ゆっくり動くってのはそんなに大変なのかよ? いやお前の個性発動しながらって物凄い大変そうだけどよ」

 

「うん、凄い大変だぞ切島。俺も自分の個性有効活用する為に格闘技習ってんだけどさ、綺麗に型通りの動作をぶれなくゆっくりやるのってマジで地獄」

 

 

 マジかよ、と言わんばかりの声音で呟いた尾白の言葉が1-Aの中に響き、シンと教室が静まった。

 そんな中、ふと何か良い事を思いついたとばかりに狐白は虚ろな笑みを浮かべながら口を開く。

 

 

「そうだ、御婆様がお友達を連れてきてもいいって言ってたんだけどさ、興味あるなら来る?」

 

 

 まるで地獄への道連れを求める亡者が如き少女の言葉。

 最初は二人を羨んでいたクラスメイト達であったが、幽鬼のような気配を滲ませる二人と共に地獄へ赴こうとするクラスメイトは誰も居ないのであった。

 

 なお絶賛力を求め中な轟の方は、自身が母から受け継いだ個性を伸ばすのに集中した方が良いな、と思考を切り替えた事により名乗りを上げず。

 負けず嫌い筆頭の勝己はどうかと言えば、二人と同じ特訓を受けても意味がない、自分自身の力でアイツらをぎゃふんと言わせてやるとばかりに闘志を燃やしていたらしい。

 

 

 

 

 そんなこんなでその日も授業が終わり放課後、下校する生徒達に注目されて恥ずかしいから正門への横づけはやめてほしいと懇願した狐白の要請により。

 最寄りの駅で待っていた祖父母の乗る車まで、狐白と出久は互いに励まし合いながら重い脚を引きずって向かい、乗車し昨日も自重しない老人たちに扱かれた現場である施設へと赴く事となる。

 

 そして、狐白は自身の祖母と共に特訓を、出久は幼馴染の祖父と特訓をする事となるのだが……。

 狐白の方の様子はと言うと。

 

 

「狐白ちゃん、今日も始めましょうか」

 

「はい、おばあさま」

 

 

 どさり、と祖母が置いた籠の中にたっぷりと放り込まれている、デフォルメされたオールマイトがプリントされているゼリー飲料を狐白は手に取ると。

 『緊急時のSMASH!な栄養補給に!』が売り文句の、常用するにはハイカロリー過ぎるソレを両手で抱えるように持ってチュウチュウと吸い始めた。

 

 一見どころかどう見ても疲労困憊な狐耳尻尾の少女が、特訓前の栄養補給に励んでるとしか見えないその光景。

 しかしその実、狐白は吸収性の高さに定評のあるハイカロリー飲料を飲みながら修復の個性で胃腸を活性化させる事で、個性の燃料である脂肪や栄養へ高速変換しているのだ。

 

 そしてその効果は、若干しおれ気味だった狐白の体に活力が漲っていくことで現れ始め、狐白が4つ目のゼリー飲料を飲み切る頃には彼女の体は本調子へと戻り始めていた。

 

 

「ぷはぁっ、うぅお腹が気持ち悪い……」

 

「弱音はいけませんよ狐白ちゃん? さぁドンドン遠慮せず飲みなさいな」

 

 

 特訓初日である昨日、孫娘の修復について己の目で確認した祖母が立てたプラン、それは……。

 修復の個性を使用したパフォーマンスの長期維持と、個性の燃料である脂肪を早急に補給できるようにする為の、半ば強引な肉体改造であった。

 可愛い孫娘にさせる所業ではないんじゃないかと、祖父は遠慮気味に口を出したりしたものの、妻である血桜を説得する事がかなわなかった結果こうなったらしい。

 

 

「多少の不調は自分で治せてると聞いた時はもしや、と思ったものですけど……これなら自壊しながら戦闘する手法も仕込めそうですね」

 

 

 半泣きになりながら栄養を補給し、個性によって即座に変換できている孫娘の様子に祖母は心から嬉しそうな笑みを浮かべて見守る。

 彼女に悪意は一切ない、それどころか善意しかない。自身の体をすぐに治し、その上で他者を治せるというのはソレだけ生き残る力になる事を知っているからだ。

 故にこそ、平和と言われている今の時代でもヒーローを目指している孫娘を死なせないよう、心を鬼にしているのである。

 

 

 一方、出久の方はどのような特訓をしているかと言うと……。

 

 

「……ほれ、また変な所が力んどるぞ?」

 

「ぐはぁっ!?」

 

 

 狐白の祖父が両手から伸ばした鋼鉄よりも頑丈で絹糸よりも柔軟な糸を出久は全身に巻かれ、まるで操り人形のような見た目になりながら。

 全身に僅かに雷光を迸らせた状態で、足運びから武術の型までの一連の流れを……通常の十分の一の速度でやらされていた。

 

 ただでさえ過酷な訓練、そこに少しでも気を抜くと余分な力が入らざるを得ない個性ワンフォーオールを発動した状態でやっている出久は、汗だくになりながら訓練を続け。

 今も型からほんの少しずれた動きをしてしまい、狐白の祖父が指先を軽く動かしたことで無理やりニュートラルな姿勢へと戻される。

 

 

「……また最初からだ、肩に力が入り過ぎておる。必要な所に必要な分だけ力を入れりゃいい……返事は?」

 

「はいっ!!」

 

 

 昨日よりもやり直しとなる地点がまた伸びた孫娘の幼馴染な少年に、家内が目をかけるだけはある飲み込みの早さだと狐白の祖父は内心呟く。

 適当に面倒を見るぐらいの子供が相手なら、多少型が崩れる程度は見逃してやる腹積もりな狐白の祖父であるが、今指導している若者は特別も特別なのだ。

 故にこそ心を鬼にし、少しでも誤りがあれば容赦なく指摘し最初からやり直させているのである。

 

 

「あ、あの!一つよろしいでしょうか?!」

 

「ん、なんだ?」

 

「ぶ、武術も確かに大事だと!思うんですがっ!体の動かし方はやらなくて、いいんですかっ?!」

 

 

 額に汗を流し、歯を食いしばりながら足運びと型の動きをやりつつ幼馴染の祖父へ、出久は昨日から感じていた疑問をぶつける。

 それでもなおその所作に乱れはないあたり、出久の集中力を称えるべきかもしれない。

 

 ともあれ、若者らしい疑問に狐白の祖父は口の端を吊り上げるように愉快そうな笑い声を上げると、少年の疑問に愉快そうに答え始めた。

 

 

「今やってる動作、めんどっちぃしややっこしいだろう? そいつを儂に修正される事なくやりきれれば、お前さんの個性は馴染むってぇ目算さ」

 

「な、るほ、ど!」

 

「それに異形だなんだってのが増えてるが根っこは人間だし人型も多い。ヒーローになるってんなら人様ぶっ壊す技術の一つや二つ極めておいて損はねぇぞ……っと、はいやり直し」

 

「ぐへぇっ!?」

 

 

 未来へひた走ろうとする少年の疑問に事細かに答えつつ、指をくいっと動かしまた型からズレた出久の動きを狐白の祖父は強制的に修正した上で、最初からやり直させた。

 

 ちなみに、今現在出久の面倒を見ている狐白の祖父であるが……。

 孫娘の連れ合いと認めるからには、中途半端に仕上げるわけにゃいかねぇな。などと言う割と容赦のない思惑も含んでいたりする。

 

 




ヒロアカ世界って格闘技や武術の大半は廃れたり、時代に合わせた変化してそうですけども。
それでも、人型をとってる人間がまだ多いからそれなりに需要はあると思うんですよね。

そんなわけで、割とやべー技術を個性を常時発動させられつつ仕込まれていくデク君であった。
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