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【1-A放課後カラオケ集会(欠席者多数)】
雄英体育祭が差し迫る中のある日の放課後。
1-Aの面々は駅近くのカラオケに集合し、和気藹々と楽しんでいた。
その中には絶賛狐白の祖父母から特訓を受けてる身である狐白と出久もいるが、彼らは特訓を監督している妙齢の狐美女の皮を被った鬼婆より、たまには休みも必要でしょうという事でこの日は特訓を免除されたらしい。
「爆豪もノリわりーよなぁ」
「まぁアイツはアイツなりに気合入れてるみてぇだしな、しょうがねーだろ」
軽食メニューが記載されているメニューを見ながらぼやくように呟いた上鳴に、勝己にそっけなく扱われながらもそれなりに勝己と交流を築けている切島がコーラを喉に流し込みながら応じる。
一方で今までの人生で初めてカラオケなるものに足を踏み入れた八百万は、そわそわしながら薄暗い室内を見回していた。
「なるほど、コレがカラオケというものなのですね!」
「お嬢様かっ!」
「けろけろ、百ちゃんはお嬢様よお茶子ちゃん」
幼子のように目をキラキラさせている八百万の様子にお茶子が噴き出し、蛙吹もまた初経験である友達とのカラオケにワクワクした様子を隠していない。
そんな具合に思い思いに雑談している内に、一番乗りとはしゃぎながら芦戸が入力した曲のイントロが流れ始める。
「いえーい!それじゃ皆、いっくよー!」
ここがあたしのステージだー!などとばかりにマイクを手に取り、可愛らしく軽快な歌を軽く踊りながら歌い始める芦戸。
制服姿のまま踊る彼女の姿に男子達はおおっ!と身を乗り出す様に注目し、翻ったスカートの下に芦戸がスパッツを穿いていた事に露骨に落胆を示す。
しかし一方、その中で峰田は意味ありげに腕を組んで頷くと、芦戸の歌声が響く中でドヤ顔を浮かべながら呟く。
「わかってねぇな、スパッツもまた下着。そう芦戸は恥ずかしげもなくオイラ達にその恥ずかしい聖域を……ぐぇ」
「峰田ちゃん、さすがにアウトよ」
そして、表情を変えずに蛙吹が放った鞭のようにしなる舌の一撃を頬へ受けて昏倒する峰田であった。
どこに出しても恥ずかしい自業自得である。
【1-A放課後カラオケ集会、意外な彼女の持ち歌】
「凄い上手だったよ耳郎ー!」
「見事な歌声、研鑽を積んでるに違いないな」
「も、もうやだやめてよ……」
静かに、しかし激しく情熱的に歌い終えた耳郎に葉隠が飛びつき……歌声に酔いしれていた常闇もまた、腕を組み深く頷いた。
困るのは耳郎だ、楽器の演奏や歌う事が大好きだからついつい全身全霊で歌ってしまったが、こうやって持て囃されると恥ずかしい事この上ないとばかりに頬を赤らめている。
「いやぁほんとパねぇわ耳郎、次俺とデュエットしない?」
「遠慮しとくよ、あんたは自分だけ気持ちよく歌いそうだし」
「辛辣ぅ!?」
ウェーイ、と言わんばかりの勢いでノリノリにカップル御用達な歌を一緒に歌おうと耳郎へ呼びかける上鳴であったが、つれない言葉にあえなく撃沈。
だが思った以上に凹んだ仕草を見せる上鳴に耳郎は慌て、一曲だけならとオーケーを出せば上鳴即座に大復活。現金極まりない男である。
そんな中流れる、次の曲目。
イントロ最初から流れる琴の旋律、そして続けざまに流れる三味線の音。
そう、どこに出しても恥ずかしくない昔々の時代となった昭和を代表する演歌であった。
「え、演歌……誰がいれたの?」
「あ、僕の入れたヤツだ」
田舎のお婆ちゃんが聴いてたヤツだとお茶子が呟く中、狐耳をピコりと立てた狐白がマイクを受け取り席を立つ。
ちなみにリモコン操作すらおぼつかなかった彼女は、隣に座っている出久に入力してもらったらしい。
そして、少女の口から放たれたのは……しっとりとした声音で紡がれる、激しい情愛の歌であった。
若干アダルティな歌詞に耳郎がぎょっとし、八百万が両手で口を覆う中も狐白はコブシを効かせて歌い続けた。
「そう言えばこーちゃん、最近の歌は良くわからないとか言って演歌良く聴いてたなぁ」
ノリノリでどろりとした情愛の籠った歌を歌う幼馴染に、若干遠い目をしながら呟く出久であった。
気のせいか幼馴染の視線が時折自分へ向けられた気がしないでもないが、気のせいに違いないと思う事にした。
余談であるが、この後も自分の番が来るたびに狐白は色んな演歌を披露したらしい。
【プロヒーロー御用達な施設の女性用リラクゼーションルームであった一幕】
その日、Mt.レディはとてもお疲れであった。
疲労の理由は己の個性である巨大化を活用した大捕り物が原因……ではなく、最近増えてきた撮影の仕事が立て続けに押し寄せてきた気疲れである。
彼女自身注目される事は大好きだし、名声を集めて個性発動後の巨体に相応しいビッグな存在になる事を夢見ている。
だがそれはあくまでヒーロー活動によって得たいのであって、女を前面に押し出したり語るのも憚れるような特殊性癖な大きなお友達に囲まれたいわけではないのだ。
故に、彼女は個性を発動した状態で体を大きく動かせる施設に足を運んで運動し、シャワーを浴びてさっぱりしたのだが……。
「なんかもうつかれちゃったなぁ」
リラクゼーションルームに備え付けられてるマッサージチェアに深く腰掛け(無論個性は発動していない)、マッサージを受けながら遠い目で呟くMt.レディ。
彼女もまた乙女であり、ヒーローを目指すと共に出会いとか欲しい女性なのだ。
決して三十路を超えたのに夫どころか、恋人もいないこの道の大先輩達みたいなことにはなりたくないのである。
そんな遣る瀬無い気持ちを抱えつつ、視線をぼけーっとリラクゼーションルームの中へ動かしていたMt.レディであったが。
ふと、とある場所で視線が止まる。
「あ゛ーー、いい、そこぉ……」
「凄い体に疲労蓄積してますよ、これ……」
「う゛ぁぁぁぁ、溶けるぅ……」
Mt.レディの視線の先、そこには。
同じ女性プロヒーローとして尊敬はしているが、同じにはなりたくないなぁとさり気なく思っているヒーローチーム……ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツの一人であるピクシーボブが。
狐耳尻尾を持つ白銀色の髪を持つ少女に、うつ伏せになった姿勢のままマッサージを受けて男性諸氏にはお見せできない程度に蕩けた顔を浮かべていた。
思わず目を見開き、なにあれなどと考えたMt.レディを誰が責められようか。
というかあの人、違う地域が縄張りだった気がするんだけどとMt.レディが考えてる間もマッサージは続き、やがて終わりを告げる。
そしてうつ伏せになっていたピクシーボブは起き上がると腕をぐるぐると回し、心から嬉しそうな笑みを浮かべて先ほどまでマッサージをしていた少女の両手を取り、上下にブンブン振りながら感謝の念を告げていた。
気のせいか、遠目でもわかるぐらい肌の張りも良くなってる気がする、そう考えたMt.レディは気が付くとマッサージチェアから立ち上がり。
きょとんとした表情を浮かべた二人に近付くと、腰を90度曲げて自分もマッサージしてくださいと恥も外聞もなく、強くお願いした。
三十路の乙女の肌の張りを取り戻し、活力漲らせるマッサージを見逃せる乙女はそうそう居ないという話である。
なおピクシーボブに続いて狐耳尻尾少女のマッサージを受けたMt.レディは……明日からも頑張れる程度には気力が漲ったらしい。
【プロヒーロー御用達な施設の女性用リラクゼーションルームであった一幕の裏】
「ありがとね!何かあったらすぐ駆け付けるし助けるよ!」
「高校卒業して進路に困ったら言ってね、最高の待遇で迎えるから!」
元気にはしゃぎながらお礼を述べるピクシーボブと、同じく肌をツヤツヤさせたMt.レディがお礼を言いつつ狐耳尻尾少女こと狐白を勧誘したりする中。
狐白は毎日絶えず出久へやっていたマッサージや、八木ことオールマイトの継続治療、そして重傷を負った担任の相澤への応急処置……それらを経て得た経験が、祖母から受けた特訓によって昇華された手応えを感じていた。
彼女はただ善意でやっていたというわけではなく、己が得た力を実践してみせなさいと祖母から言いつけられ……お疲れな様子の女性ヒーローへのマッサージを申し出ていたのだ。
そして、その結果はと言うとマッサージを受けた二人の女性プロヒーローは肉体に蓄積させていた疲労がほぼ完璧に取り除かれただけではなく、三十路超えなピクシーボブは肌に十代の少女のような張りを取り戻していたし。
最近の忙しさによるものか肌へのケアが怠りがちだったと思われる、Mt.レディもまたツヤツヤ肌を取り戻していた。
コレがどういう事かと言うと、狐白は手に入れてしまったのである。
負傷の治療だけではない肉体疲労すら取り除ける術を、ヒーロー活動における最前線や救助現場でも足手まといにならない力を。
言い争いを始めた二人の女性プロヒーローを他所に、狐白はこれでもっと出久の手助けが出来ると微笑みを浮かべて小さく拳を握って離れた所から見守っていた祖母へ笑顔を向け。
孫娘の笑顔を受けた彼女の祖母は嬉しそうに頷くと、順番待ちをしていたらしいお疲れムードな女性ヒーローの御歴々をそっと指差さした。
次の瞬間、狐白の笑顔は見る見るうちに曇ったらしい。
己の個性を使いながら全身をケアするという事は、中々にハードなのだ。
【ある日のナンバーワンヒーローと過去の遺物の会話】
「よう俊典じゃねぇか、急に呼び出して何だ藪から棒に」
「相変わらずですね玉藻さん、お久しぶりです」
孫娘と飲み込みが早い愛弟子な少年への特訓がお休みだという事で適当にぶらつこうと思っていたところを、戦友の後継者である八木に呼び出された狐白の祖父は……。
国立雄英高校に勤めるとある人物、オールマイトこと八木に高校へ呼び出され来客用の部屋へと足を運んでいた。
立派な学び舎じゃねぇかなどと思いながら案内の職員に部屋へ通され中へ入った狐白の祖父は、ソファに座っているガリガリな大男である八木に片手を上げながら声をかけ。
傍若無人気味な老人の様子に、八木は昔からこの人は変わらないなどと思って苦笑を浮かべながらソファから立ち上がって腰を深く曲げて頭を下げる。
「実は、最近玉藻さんに面倒を見てもらってる緑谷少年の事なのですが……」
「アイツの個性については大体察しがついてる、だが……いいのか?」
酷く言い辛そうに口を開く八木に対して、甚兵衛姿の老人はどっかと八木の対面に座り腕を組んで瞑目しながら八木の言葉を止めつつ。
片目を開いて鋭い眼光を八木へ向けて、様々な意図を含んだ確認の言葉を向けた。
「……はい、私の後継者は彼。緑谷少年以外に考えられない、だからこそ受け継がさせてもらいました」
「そうかい、お前がしっかり考えてそう決めたのなら儂は何も言わねえし。家内にも口は出させないさ」
現役時代から変わらないどころか、更に鋭く研ぎ澄まされたかのような眼光にひるむことなく八木は真正面から老人の視線を受け止めて、決意を込めて答える。
驚いたのは老人の方で、思った以上に強い決意と意志をもっての行動だったのなら何も言わないとばかりに、軽く息を吐くと。
今度は老人が己の両膝に手をつきながら、深く頭を下げて悔恨の念に満ちた言葉を絞り出し始めた。
「……正直な、儂達は俊典……お前にどれだけ詫びても詫び足りん。儂らの世代で終わらせにゃならんかった事を、お前に背負わせてしまった」
「正義の象徴となる事を選んだのは私の意志です。それにあの男以外にもあの時代は様々な悪が犇めいてましたから」
自分達の世代で、オールマイトの先代であるワンフォーオールの継承者やグラントリノ達、それらで確実に事に当たって少しでもマシな時代のバトンを……。
幾多もの死闘を乗り越え命を削って来た目の前の男に渡せていたのなら、もっとこの男は幸せになれていたのにという慚愧の念が、狐白の祖父の胸中を苛む。
「……玉藻さん、貴方のお孫さんのお力もあってまだ時間はありますが……それでも私が象徴でいられる時間は、もうそう長くはないでしょう」
「……だろうな、今のお前さんは全て溶け落ちた蝋燭の芯が辛うじて燃えてるようなもんだ」
故にこそ、もう目の前の男には老人はこれ以上戦ってほしくなかった。彼の相棒であるサー・ナイトアイと共に何度も八木を説得した事すらあるのだから。
「ですから、もし私に何かあったら……どうか緑谷少年を」
「その先は言うなや俊典、もしそうなったら儂がてめぇの首に糸巻いてでも地獄から引き戻してやるからよ」
だから、バカな事考えるんじゃねぇぞ?と念押ししてくる老人に対して、八木は押し黙りながらも。
小さくありがとうございます、と何かを堪えながら深く頭を下げた。
Q.狐白は何歌ったの?
A.天城〇えと津軽海峡〇景色
爺婆達は、八木先生ことオールマイトが無茶やるのをたしなめながらも。
彼が無茶しないといけない時代をバトンタッチしてしまった事を、今でも悔やんでいます。