まだ原作三巻時点なんだぜ、これ……(震え声)
24.証明せよ、己の到来を
時は流れて雄英体育祭当日。
1-Aの面々は、自分達に宛がわれた控室で開催の時をそわそわしながら待っており……。
心なしか緊張感に更にいつもより角ばってる感が強いクラス委員長こと飯田が間もなく入場時間である事をクラスメイトへ周知する中。
静かに瞑目し精神統一をしている幼馴染の許可の下、彼女のふわふわの尻尾を両手で無心でもふっている出久に轟が静かに声をかける。
用件はただ一つ、オールマイトに目をかけられている出久への宣戦布告と勝利宣言、突然のクラスメイトの言葉に控室の中がざわめくも。
出久は幼馴染の尻尾から手を放して椅子から立ち上がると、正面から轟の瞳を見据えて口を開いた。
「轟君が何を思って僕に勝つと宣言したのかはわからない、だけど僕だって負けるつもりは無いし……色んな人達に支えられてここにいる」
出久の胸に去来するのは、ヒーローになれると自分自身を見出してくれたオールマイトの姿に自分を鍛えてくれた幼馴染の祖父母の姿。
そして、自身をいつも心配してくれる母と……幼い頃から自身の夢を応援してくれた幼馴染、狐白の姿であった。
彼らの想いと応援を裏切らない為に、そして自分自身の夢を叶えるためにも出久は右手を強く握りしめ、左手を狐白の肩へ無意識の中置きながら轟へ宣言する。
「僕も本気で迎え撃って、そして一位を獲りに行く」
「……そうか」
闘争心を剥きだしにした輝きを宿した瞳で真正面から視線をぶつけてきた出久の姿に、轟は出久への評価と警戒度を上げながらそっけなく応じる。
クラスメイト達もまた普段のおどおどとした出久の姿からは想像できなかった言葉と態度に、USJ事件の時の姿を思い出し出久は腹を括ると男気が増す類の人種かと考え……弱々しかった頃の出久の姿を良く知っている勝己は、苛立ちを感じながら舌打ちをした。
そして間もなくアナウンスが流れ、雄英体育祭の入場時間となり。
司会を担当しているプレゼント・マイクからけたたましい紹介をされながら、1-A生徒達がゲートをくぐり会場へと姿を現した。
会場へ足を踏み入れた出久は、余りの人の多さに頬を引きつらせ忙しなくきょろきょろと見回し、そんな彼の姿にクラスメイトはいつもの出久だと少し安心する。
その間もヒーロー科以外のクラスの生徒達が紹介されながら入場し、今年の一年生の主審を担当する煽情的なボンテージじみた戦闘服姿の18禁ヒーロー……ミッドナイトの前に整列。
改めて目の当たりにしたその姿に、18禁ヒーローなのに高校にいてもいいのだろうかと言う疑問が生徒達の中で飛び交う中、入試試験で一位を獲った勝己が選手宣誓担当として呼び出された。
呼び出された勝己は背筋を曲げポケットに両手を入れたままの不遜な姿勢でミッドナイトが立つ壇上へと上がると、眼下の生徒達へ視線を巡らした末に出久へ強い競争心を込めた眼光を向ける。
その眼光は今まで出久を侮り格下に見てきた幼馴染が己を見下してきた視線とは大きく異なる、まるで対等の敵を見るかのような視線を向けて来た事に出久が困惑する中壇上の勝己は口を開いた。
「俺はどいつもこいつも見縊らねえし侮ったりしねえ、だけどその上でせんせーする……全員ぶっ飛ばして俺が一位になる」
獰猛かつ戦意に満ちた笑みを浮かべながら勝己が言い放った言葉が、マイクを通して一年生全員のみならず観客席にまで響き渡った。
傲岸不遜過ぎる宣戦布告、当然幾人もの生徒からブーイングが飛び交うが勝己は相手にする事なく壇上から下りると列の中へ戻る。
しかし主審であるミッドナイトはこれもまた青春だと笑みを浮かべると、どよめきなどどこ吹く風とばかりに第一種目である障害物競走を発表。
コースを守れば何をしたって構わないと前置きし、生徒達をスタートラインへつかせていく。
一般科を含めた合計11クラスの総当たりレースとなれば当然込み合うスタートライン。
その中で列の関係から狐白と逸れた出久は、心中で敬愛するオールマイトに見ていてほしいと呟き、同時に無様な姿を狐白の祖父母に見られたら何されるかわからないと身震いしながらカウントダウンを示すランプを見詰め。
障害物走開始の合図と共に、勢いよく踵を地面へ打ち付けると同時に肉体と思考のスイッチを切り替えて全身を巡らせるように、個性のワンフォーオールを発動してゲートへ殺到する人波を飛び越えるように跳躍。
そのままトンネル状になっているゲートの壁面を足場にしながら駆け抜ける事で、渋滞を起こし団子状になっている集団の中から飛び出した。
宣戦布告をした相手である出久の飛び出しに轟もまた遅れじと己の個性によって地面を凍らせながら疾走、後続の妨害を並行しながら出久に追走。
そして二人に負けじと各々の個性を発動した1-Aの面々が集団を飛び越え、轟を追いかけるように走り始める。
『さーて実況してくぜ!解説アーユー……オイオイオイ!いきなり飛び出したのは1-Aの緑谷だぁぁぁ!』
「凄いなあの一年生、スタートと同時に一気に抜き出て一位になったぞ」
「後続のヒーロー科の生徒も凄いが、体捌きに関してはずば抜けてるな」
実況のプレゼント・マイクがノリノリで実況し、観客席で観戦していたヒーロー達が一際目立つ形になっている出久を評価する中。
狐白もまた爆風で出久を猛追する勝己に一歩遅れながらも、軽やかな体捌きで人混みを駆け抜けていく。
だがそれでも一位を疾走する出久と二位以下の生徒達の距離が中々埋まらない状況が続き、やがて障害物走は次なるステージへと至る。
『ターゲット、確認』
「邪魔だぁ!」
入試の際にも酷使された仮想ヴィラン事、雄英高校が誇る設備の一つであるロボがトップを走る出久へその鋼の腕を横から叩きつける。
しかし、その挙動を読んでいたとばかりに出久は走行速度を緩める事無く、地面を這うかのように姿勢を沈めロボットの腕部が己の体の上を通り過ぎた瞬間その身を跳ね上げ、腕を振り切った無防備な姿を晒すロボの頭部を蹴り砕くように。
軽く跳躍と同時にその身を翻し、流れるかのような動作で雷光を纏わせながら空中後ろ回し蹴りをロボットへ叩き込む。
叩き込まれたロボットは任務失敗任務失敗とスピーカーから途切れ途切れに言葉を発しながら、蹴り飛ばされたゴミ箱のように其の身をひしゃげさせ転がっていった。
そのまま走り続けようとした出久であるが、視界の先を塞ぐ存在に気付くと身構えながら速度を落とす。
『すげぇな緑谷!まるで昔流行った格闘技映画みてぇだな! だけど更なる障害物だ!まずは手始め第一関門、ロボ・インフェルノォ!』
「入試の時の、0Pヴィラン……!」
「どうした緑谷、怖気づいたのなら先に行かせてもらうぞ」
間をすり抜けようにも、猫の子一匹通させまいとばかりに配置された巨大なロボットに出久が逡巡すれば追いついてきた轟が己の個性を発動し、瞬く間に巨大ロボを凍結させその間を悠々と走り抜けていく。
その姿に咄嗟に追いかけようとする出久であるが、それよりも早く不安定な姿勢で凍結させられたロボが目の前で傾いて倒れた事で残骸をまき散らされ……進行方向が塞がれてしまう。
攻略と妨害を一度に成したクラスメイトの行動に、出久は内心で舌を巻きながら視界を巡らせて今の倒壊で怪我人が見える範囲に居ない事に安堵しつつ攻略手段を模索する。
彼の視界の隅で二人ほど硬さに定評のある生徒が残骸を突き破って現れているが、無事そうなので出久はとりあえず気にしない事にしたようだ。
「いずちゃん、お先に!」
爆風を噴き出しながら残骸を飛び越えていく勝己に負けまいと、狐尻尾をたなびかせながら出久の横を幼馴染である狐白が駆け抜けていく。
少女は僅かな足場や巨大ロボの装甲の継ぎ目を足場にしながら駆け上がり、時に尻尾を空中で勢いよく振る事で姿勢を制御しながら、まるで空を舞うかのようにロボの頭上を飛び越えていった。
体育祭の前に出久は狐白と互いに約束していた、もし競争する事になるのならその時は遠慮なしの全力で闘おう……と。
当初は非常に渋る姿勢を見せていた狐白であるが、勝った方が負けた方に命令できるというのはどうかと冗談交じりに出久が提案したところ、瞬く間に狐白が快諾したという裏話があったりするのは内緒である。
「そうか、下がダメなら……!」
幼馴染二人の行動に精神的な視界が広がった出久は躊躇う事なく走り出し瞬く間にトップスピードへと至ると、巨体で迫ってくるロボットを足場にしながら駆け上がる事で立ち往生している集団から抜け出すと。
特訓によって得た個性の制御力にものを言わせた圧倒的な速度によって瞬く間に第二関門である大規模な綱渡り地帯へと到達し、躊躇することなく個性の出力を上げて大跳躍する事で綱を無視しながら柱を足場にする事で飛び越えていく。
その際に勝己から少し遅れる形となっていた狐白はあっという間に抜かれてしまったが、根本的な出力差だけは如何ともし難かったようだ。
第一関門から一位をキープし続けている轟に迫る勢いで猛追する勝己と、雷光を纏わせながら疾走する出久。
この3人に観客席で観戦するプロヒーロー達は注目し、各々の感想を述べ始める。
「今一位を走ってるのはエンデヴァーの息子さんだっけか、さすがの身体能力と判断力。そして個性だな」
「だけど、あの爆風で空を飛んでる子も中々よ。あんな選手宣誓をするだけはあるセンスが見えるわ」
「一位から転落したけどすぐに持ち直してきた男子もすげぇよ……こりゃ今年の一年生は豊作も良いところだな」
今からサイドキック指名が殺到しそうなヒーローの卵達にプロヒーロー達がアツい視線を向ける中、障害物走のトップ陣は最終局面である地雷地帯……その名も『怒りのアフガン』へと到達。
激しい音と爆風をまき散らしながら、ほぼ横並びになった男子達が互いに火花を散らしながら地雷原を駆け抜けていく。
「おらデクゥ!俺の前を生意気に走ってんじゃ……ねぇよ!!」
「今回は僕も負ける気はないんだよかっちゃん!」
「てめぇら……俺を無視するなんて、余裕じゃないか」
3人が3人とも足を止めず、しかし互いが互いへ攻撃を繰り出しながら地雷原を疾走する。
勝己が歯を剥きだしにしながら出久へ爆風と共に襲い掛かり、出久が幼馴染の攻撃をいなしながらも掌打をくりだす。
そしてその二人同士の争いが激化した事で無視された形となった轟が、苛立ちまぎれに2人まとめて凍らせようとするという激しい三つ巴が繰り広げられる。
ちなみに狐白は級友や同級生が爆風で吹っ飛ぶ中、自身の両手で自らの狐耳をおさえつつ良く見れば見分けられる地雷を軽やかな足取りでかわし、ステップを踏むように地雷原を進んでいた。
一方譲れない矜持と意地のぶつけ合いが続くトップ3のデッドヒート、最終的な勝者は誰かと言えば。
地雷地帯を抜けた瞬間、3人の中で誰よりも早く妨害から引き離しに思考をシフトさせた出久が勝己と轟を置き去りにするように加速、背後から迫る二人の妨害を紙一重で回避しながら走り抜けた事で……。
『さぁさぁ体育祭一発目からホットでクールな大会模様だったがぁ!今ここに激闘を制した男が到着だぁぁ! 拍手と共に迎えてやってくれ、この……!!』
全身から雷光を迸らせながら、プレゼント・マイクの実況をBGMに出久は全力疾走でスタジアムへ続くゲートへと飛び込む。
今の出久には時折聞こえてきた実況も、聞こえてくる歓声も気になっていなかった。
ソレを気にする余裕がなかったとも言えるが、その事以上に出久は無我夢中だったのだ。
『緑谷出久をぉぉぉぉ!!』
スタジアムに現れた少年を、見守っていた観客達は会場を揺るがすような歓声と拍手で迎え入れる。
到着した事で緊張と個性が途切れ、どっと全身から汗を流しながら膝に手をつき大きく深呼吸すると観客席の中にいた八木ことオールマイトを見つけ、誇らしげに笑みを浮かべながらガッツポーズを浮かべて勝利を報告した。
出久にとっては恩師で敬愛する存在であるナンバーワンヒーローに報告したつもりの動作であったが、そんな事露知らない実況のプレゼント・マイクはノリノリで実況をする。
『さすが一位の男!観客へのアピールとサービス精神も一位だ! 皆ぁ、今一度この男に盛大な拍手と歓声をプレゼントしてやろうぜぇ!!』
ボルテージが最高潮に達した観客を煽るかのようなプレゼント・マイクの言葉。
その言葉は、スタジアムを揺るがすかのような大歓声と万雷の拍手を齎すのであった。
Q.かっちゃん妙におとなしくない?
A.デク君を無個性だったからと侮るのを止めて、徹底的に他のモブもろとも相手したる。という決意によるものだそうです。
なお狐白は10位ぐらいに食い込んだ模様。
体捌きや機動力はそこそこだけど、彼女は身体能力強化はそんなにされてないが故の結果でした。