彼は僕のヒーロー   作:社畜だったきなこ餅

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評価を赤くしてくれたから更新なのです。
皆さんありがとうございます!!

出久君節、中々難しい……さすが原作主人公です。


3.緑谷出久の受難

 

 平日の昼下がり、麗らかな陽気が降り注ぐ住宅地の中にある『玉藻』と表札が掲げられた一軒家。

 その中のリビングにて、3人がテーブルを囲みお茶を啜っていた。

 

 

「出久君のおかげで、狐太郎も元気になったみたい。本当にありがとうね」

 

「い、いえ!こーちゃんは大事な親友ですから、気にしないで下さい!」

 

 

 一人はこの家の主である、白銀色の長く艶やかな髪と同じ色の狐耳と尻尾を生やした麗しい未亡人。

 彼女からたおやかな笑みと共に礼を述べられた、ボサボサ頭が特徴的な少年こと緑谷出久はどぎまぎとしながらも、慌てた様子で言葉を返す。

 

 先ほどまで美少女になった親友に抱き着かれ大混乱に陥っていた、多感極まる時期の少年にとって親友の母親は聊か目に毒な類の女性であった。

 

 

「いずちゃん、母さんに変な目向けないでよ?」

 

「そ、そそそ、そんな事しないよこーちゃん!」

 

「あらあら、うふふ」

 

 

 そして二人の様子が面白くないのは、少年の隣に座っている昨日までは少年で現在は狐耳と尻尾の生えた美少女の狐太郎である。

 家に遊びに来るたびに、母と顔を合わせると頬を赤らめる親友に肩をすくめて苦笑いを浮かべるのがいつもの構図であったが、未だ情緒不安定なのかはたまた形を成していない嫉妬によるものか。

 寝巻の上に少しサイズが大きい母のカーディガンを身に纏った狐太郎は、狐のような糸目を少し吊り上げて親友へジト目を向ける。

 

 そんな乙女初心者な息子だった我が子の様子に母はぽかんと口を開けて驚きの表情を一瞬浮かべ、口元に手を当てて楽しそうにころころと笑みを漏らした。

 

 

「狐太郎、もう大丈夫?」

 

「うん、これからで心配な事あるけども……でも、大丈夫だよ」

 

 

 親友と言うには若干距離が近い我が子と、我が子の親友である出久を見ながら母は慈愛に満ちた眼差しで我が子へと問いかけ……狐太郎は逡巡しながらも、それでも力強く前を向いて頷いた。

 先ほど嬉し恥ずかしなハプニングに巻き込まれた出久は、親友が立ち直ってくれたことを心から喜びながら、水を差さないように静かにお茶を啜る。

 

 

「なんならさ狐太郎、いっそ出久君をお母さんに紹介しちゃったらどう? お母さんなら出久君気に入ると思うし付き合いも祝福してくれると思うわ」

 

「ぶぅぅぅぅぅぅぅぅぅ?!」

 

 

 そして、親友の母が口にしたとんでもない発言に出久は目を見開いて勢いよくお茶を噴き出した。

 

 

「ちょ、ちょっと母さん?! 何変な事言ってるのさ!!」

 

 

 大丈夫、いずちゃん!?と声をかけながら、派手に咽ている出久の背中を擦る我が子の様子に、母は性急すぎたかしらなどと呑気に呟きながら頬へ手を当てる。

 なお彼女は出久の対面に座っていたのだが、身体を傾けながらテーブルの上に載せたままのお盆を盾にしたので無傷であった。

 

 

「いずちゃんは親友だし、僕は昨日まで男だったんだよ!?」

 

「でも、今は女の子よ」

 

 

 出久の肩を擦りながら顔を真っ赤にし、狐耳と尻尾をピンと立てながら吼えるように抗議する我が子の反論をぴしゃりと母は遮り。

 母は『稲荷』の個性とは別に所持している、『糸繰り』の個性で少し離れたところに置いてあった台拭きを引き寄せると出久が噴き出したお茶で濡れたテーブルを拭き始める。

 

 

「ごめんね出久君、狐太郎に今の性別を強く自覚させる出汁にしちゃって……」

 

「い、いえ大丈夫です。その……こーちゃんには必要だと思いますし」

 

 

 愛息子を立ち直らせてくれた恩人にするには無体な行動を母は詫び、詫びられた出久は怒ることなくその謝罪を受け入れる。

 彼にとって狐太郎はかけがえのない親友でソレは性別が変わった今も変わりはないが、しかし前のような距離感で今の体で来られた時のことを想うと出久も気が気でなかったのだ。

 

 余談であるが、美少女と化した親友に抱き着かれている間の出久は、バニースーツ姿でポージングを取っているNo.2ヒーローエンデヴァーを思い浮かべて煩悩を焼き払っていた。

 あの特徴的な髪の毛的にオールマイトの方が適任にも思えるが、No.1ヒーローを神聖視している出久にとってそれは実行できない暴挙だったらしい。

 

 

「お詫びになるかわからないけど、狐太郎にする『稲荷』の個性の説明でも聞いていく?」

 

「是非ともお願いします!」

 

 

 難色を示される事を前提に、冗談めかした笑みを浮かべながら出久へ提案する母親。

 そして予想外なほどの勢いで食いついてきた子供の親友の勢いに、思わず若干及び腰になった。

 彼女的には冗談よなどと言いながら仕事柄付き合いのある、クックヒーローのランチラッシュからもらったクッキーの詰め合わせを出すつもりだったようだ。

 

 

「いずちゃん……」

 

「あ、ごめん、こーちゃん」

 

「ふふふ、いいよ気にしないで。いずちゃんはヒーローの話が大好きだけど個性の考察にも目がないもんね」

 

 

 声に呆れを込めた狐太郎の呼びかけに出久は我に返り慌てて親友へ頭を下げたが、狐太郎はふわりとした笑みを浮かべた。

 その笑顔に、出久はドキリとするが自分が女性に免疫がないだけだから、それだけだからと内心で自分に言い聞かせて平静を保つ。

 

 

「相変わらず二人は仲良しねぇ、それで『稲荷』の個性なんだけど……コレ自体は感覚が鋭くなったり身体能力が上がる程度の個性でしかないのよ」

 

「え、でも母さん……お爺様から受け継いだって言う『糸繰り』の個性で片付けられない事仕事でしてるでしょ?」

 

「そこなのよ、うちの一族の個性がヘンテコなの」

 

「見た目通りの動物の特徴を持った個性?いやそれだけだとこーちゃんが女の子になった理由にならないだろうしそもそもただの動物系異形個性なら『狐』になるよね?『稲荷』ていうのは神様の使いの事で……」

 

 

 白魚のような指をピンと立てながら解説を始めた母の語った内容に、狐太郎は耳を動かしながら小首をかしげて不思議そうな表情を浮かべる。

 その反応を予想していた母親は、苦笑いと共に溜息を吐き出し……説明を聞いた出久は口元に手を当ててブツブツと早口で考察を呟いている。

 

 

「まず、うちの一族の女児はほぼこの『稲荷』の個性が出るわ……その上で父親側の個性を強く補助する形で体を変化させるの」

 

「そんな特性あったなんて、そうなると『稲荷』の個性を持った子が凄い増え……あ」

 

「気付いたようね、うちの一族は女が強いんだけども女の子の数自体は少ないの」

 

「そう言えばこの前読んだ本だと化け狐は大半が女性に化けていたって言うけど、それももしかして個性ありきの話?狐が女性に化けて現れるのを確か女化って言ったはずだけど実は逆で女性しかいないから狐が美女へ化けたという風説が広まった?」

 

 

 昨日までは男だったことから、親族の女性にしか影響がないと思っていた『稲荷』の個性について詳しい話を聞いた狐太郎は、変わり者にもほどがある個性に困惑しながらも。

 正月等で集まった親族の中で人目を引く女性陣は目立ってはいたが、数は少なかったことを思い出す。

 

 そして出久は考察を呟き続けている、すでに慣れたモノな狐太郎は全く気にしていなかったが母親の方は若干引いていた。

 

 

「うちの一族は基本的に秘密主義な上に、個性について調べられるの嫌うから私もこのぐらいしか知らないんだけどね……ただね、狐太郎もあの人の個性を受け継いでいるのは間違いないわ」

 

 

 その結果、息子が娘になっちゃうなんて想像もしていなかったけどね、と彼の母は力なく笑いながらお茶で唇を濡らす。

 朝起きたばかりの時にもし、この説明を受けていたら狐太郎は個性に対して負の感情しか持たなかったであろう。

 しかし、今も隣で早口でブツブツ呟きながら考察を続けている親友が、どんな姿になっても親友だと宣言してくれたことが狐太郎の精神を安定させていた。

 

 

「説明はこれでおしまい、ごめんね出久君」

 

「化け狐の伝承は個性のカバーストーリー?そうなると色んな伝奇や都市伝説ももしかして……はっ、い、いえ凄く興味深いお話でした!」

 

 

 ぶつぶつぶつぶつ、と呟き続けていた我が子の親友へ母親は声をかければ我に返った出久は勢いよく頭を下げてお礼を述べる。

 この少年は心の底から興味深い話が聞けたことを喜んでいた、社交辞令無しの心からの言葉である。

 

 そして次の瞬間、出久のお腹から空腹を告げる腹の虫が鳴く声がリビングに響く。

 時計を見れば既にお昼の時間は過ぎており、時計の針は3時を示していた。

 

 

「あら、ごめんね話し込んじゃったみたいで……お昼には遅いし夜には早いけど御飯食べていく?」

 

「あ、い、いえさすがにそこまでは悪いです、母さんが作ってくれたお弁当も……お弁当も……アレ?」

 

 

 羞恥に顔を赤くする少年の様子に母はくすくすと微笑み、食事の誘いを出久へ持ちかける。

 彼の隣に座る狐太郎もまた、そうするといいよと尻尾をぱたぱた振りながら出久へ話すが……苦労をかけている母親が栄養バランスも考えて用意してくれたお弁当を無駄にすることを思うとその誘いは受けられず。

 学生鞄の中にある弁当へ触れようと身を屈め、椅子の足元に学生鞄がない事に気付く。

 

 

「あ、あのすいませんおばさん。僕こちらに来た時……鞄持ってました?」

 

「そう言えば、持っていなかったわね」

 

 

 恐る恐る親友の母へ問いかける出久、返って来たのは無慈悲な回答。

 思わずやらかしたと頭を抱える少年である、何故なら彼は無個性でその上狐太郎とはまた別の幼馴染とその取り巻きからはいじめを受けている身。

 鞄やその中身が無事だと良いんだけどなどと、現実逃避気味に天井を見上げながら茫然とするのであった。

 

 

 

 

 その後、ただならぬ様子の出久を心配する狐太郎と……彼女の母親に心配無用だと出久は答え、玉藻家を辞すと。

 空きっ腹を抱えながら、家路への道をとぼとぼと歩く。

 

 

「素直に、おばさんのお誘い受けて何かお菓子御馳走になれば……いやいや、こーちゃんも大変な時に長居するのは良くないよね」

 

 

 今更言ってもしょうがない後悔を呟きつつ道を歩く出久、しかし途中でその足が止まる。

 何故なら、自宅へ帰る道の途中に学生鞄を『二つ』持った、もう一人の幼馴染がそこに居たのだから。

 

 

「デクの分際でサボりたぁ、良い身分だなぁ。えぇ!?」

 

 

 ツンツン頭と吊り上がった目付きが特徴的な幼馴染の少年、爆豪勝己は怒鳴り散らしながら大股で出久へと歩み寄る。

 狐太郎の影響で多少は彼に立ち向かう気概がまだ残っている出久であるも、色々な意味で導火線の短い幼馴染の怒号は出久の体を硬直させる。

 

 

「え、えっと……これには理由が……」

 

「どうせあのクソ狐目が関係してんだろがアァン?! いつもいつもホモくせーんだよてめーらはよぉ!!」

 

「何言ってんのさかっちゃん!?」

 

 

 至近距離で吊り上がった目付きからのガン付けを受け、たじろぎ後退る出久。

 更にぶつけられたホモ臭いという単語に、出久は思わずぎょっとするが彼の抗議の声など傍若無人の擬人化とも言える勝己には全く通じない。

 

 出久は知らない、中学校の腐の民達が自身と狐太郎のカップリングでひそかに盛り上がっている事実を。

 

 

「てめーの鞄だ。センコーめ……俺をデクへのパシリに使いやがって、クソが!」

 

 

 冷や汗を流し怯える幼馴染の様子に勝己は興味を失くしたかのように鼻を鳴らすと、乱暴に手に持っていた学生鞄を出久へ向けて放り投げ。

 唐突に勢いよく投げられた鞄を出久は慌てて両手で受け止める。

 

 

「で、狐目の様子はどーなんだ。アァン?」

 

「……もしかして心配してるの? かっちゃん」

 

「アァン!? 何生意気言ってんだクソナードォ! 俺様があの陰険狐目野郎を心配するわけねーだろうがよぉぉ!!」

 

 

 ぶっきらぼうに言い放った乱暴者の幼馴染の言葉に、出久は両手で鞄を持ったまま恐る恐る問いかけ……ギラリと睨みつけていた勝己の眼光に言葉を引っ込める。

 しかし既に時は遅く、機嫌を急降下させた勝己は右手に持っていた鞄を左手へ持ち替え、その右手をゆっくりと開き始める

 

 その動作を見た瞬間の出久の行動は素早かった、もしかすると今までの彼の人生の中で最大の瞬発力を発揮したかもしれないと言えるほどに。

 

 

「あ、こら待てやデクゥ! やっぱりてめーはぶっ殺す!」

 

「か、かっちゃん!街中での個性濫用は犯罪だよぉ!!」

 

「安心しろやクソナード! 無個性のてめーなんざ拳で十分じゃい!」

 

 

 ぎゃーぎゃー言いながら、中学生の追いかけっこというには聊か殺伐すぎる空気を振りまきながら逃げる少年を、何も知らない人が見ればヴィランかと思うほどの悪人顔をした少年が追いかけていく。

 いつもなら出久の親友がこうなる前に鎮圧するか、上手い事煙に巻くのだがその人物は今諸事情によってこの場に居ない為。

 

 

 久しぶりに、出久は己の力だけで切り抜ける羽目に陥るのであった。

 




本作はノリと勢い重視なのでサクサク進めていくのだ。
しかしかっちゃん、動かしやすいんだけど口調がすげぇ難しいな。
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