彼は僕のヒーロー   作:社畜だったきなこ餅

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絵師のようぐそうとほうとふ先生に狐白を描いて頂いたので更新します。


【挿絵表示】

制服姿のとても可愛い狐白ちゃんです。
全てが作者のイメージ通りの仕上がりで嬉しい、ほんと嬉しい……。



30.意地と意地のぶつかり合い

 

 

 最終種目であるトーナメント戦の組み分けも発表され、始まるレクリエーション。

 玉転がしや借り物競争等の高校生らしい種目に奮闘する生徒達に観客は声援を送り。

 騙されたとは言えやるからには本気でやろうと芦戸や狐白が言い出した事により、恥ずかしがりながらも全力でチアリーディングを行う1-Aチアガール一同に観客は歓声を上げる。

 

 なおその際狐白は時折生徒用観客席にいる出久へ視線を送り、目が合った瞬間照れながら狐白がしたウインクに出久は今まで感じた事のなかった胸の高鳴りを感じたりしていたが。

 そんな時間も瞬く間に過ぎた事で、総勢16名が繰り広げるトーナメント戦の時間が到来し一回戦の選手として、出久と心操の二名が教師であるプロヒーローのセメントスが作り上げた試合会場に姿を現した。

 

 

「いずちゃん、頑張って……!」

 

「だ、大丈夫だよ玉藻さん。デク君あんなに強いんだから!」

 

 

 心配そうに会場に立つ出久を見守りながら狐白は声援を飛ばし、出久の強さを知るお茶子は心配無用だと狐白を励ましながらもどこか緊張を滲ませていた。

 一方、出久の対戦相手である心操の応援はどんな具合かと言うと。

 

 

「心操氏ーー!あなたなら勝てますぞぉーーー!!」

 

「そーだそーだ!美少女な幼馴染がいるラブコメ主人公みたいな野郎なんてぶっ飛ばせーー!!」

 

 

 口からはみ出ている牙が特徴的な大柄な男子が拳を振り上げて心操へ声援を送り、彼の隣に座っていた顔が漫画の吹き出しのようになっている男子は嫉妬心に塗れた声援を送る。

 ちなみに出久と狐白が幼馴染で親しい仲だという事は、二人の関係性を聞かれた飯田が特に深く考えずに素直に答えた事で1-Bへ広まったらしい。

 

 一方で、プレゼントマイクのアナウンスが続く中対峙する出久に対して心操は語り掛け始めていた。

 

 

「あの玉藻だっけか、お前のクラスメイトから聞いたんだが幼馴染なんだってな」

 

 

 突然の心操の言葉に出久は困惑しながら、相手の個性がわからない以上は慎重に動くべきだと警戒を解く事なく真正面に心操を見据える。

 しかし、プレゼントマイクが放った開始の合図と共に放たれた心操の言葉に出久は、平静を大きく乱される事となる。

 

 

「お前ら、もうキスとかしてんのか?」

 

「なぁっ!?」

 

 

 心操から投げかけられた言葉に平静などどこへやら、目を見開き顔を真っ赤にしながら反射的に出久は叫び声をあげてしまい。

 次の瞬間、まるでブレーカーを落としたかのようにその動きを止めてしまった。

 

 

「……悪いな緑谷、俺の勝ちだ」

 

『オイオイどうした大事な緒戦だってのに、緑谷開始早々完全停止だー!?』

 

 

 どこか気まずそうにしながらも、己の策がピタリとはまった感触に心操は小さく呟き。

 突如動かなくなった出久に対してプレゼントマイクが、何が何やらとばかりに言葉を会場へ響かせる。

 

 

「デク君……? あれ、どうしたの玉藻さん」

 

「な、なんでもないよ!」

 

 

 戦うどころか無防備な姿勢を晒したままになっている出久に対してお茶子やクラスメイトが怪訝そうな顔を浮かべる中、優れた聴力でほんの僅かであるが二人の会話が聞こえてしまった狐白は真っ赤に赤面して俯き。

 お茶子は友人の変化に首を傾げて問いかけるが、我に返った狐白は両手をばたばた尻尾をばさばさ振りながら何もないと言い張った。

 

 そうしている間も、出久は心操からの指示でその体の向きを反対側へ向けると……まるで夢遊病患者のような足取りで場外へ歩いて行こうとする。

 信じられない光景に狐白を始めとした1-Aの生徒達は必死に声を張り上げ出久へ声援を送るが、心操の個性である洗脳の支配下に落ちた出久にはその声は届かない。

 

 否、正確には声援自体は届いていたのだが出久自身の意志で己の体を動かせない事態へと陥ってしまっていた。

 

 ぼんやりとした思考の中で久はコレが心操の個性かと確信するが、必死に気持ちだけは抗おうとするも彼の足は止まる事はなく、後一歩で自らの足で場外へと踏み出そうとしたその時。

 一瞬だけ、眼光だけ光っている幾人もの人影が出久の視線の先にある入場口の中に見えた。

 

 出久はその人影達を根拠などなく知識もなしに、本能的にオールマイトから受け継がれた個性であるワンフォーオールの意志だと感じた。

 

 その人影たちは出久に対して何も語らない、何も訴えて来ない。

 ただ、その眼光だけが出久へと問いかけていた。

 『ここで負けてしまって良いのか?』と。

 

 そして次の瞬間、出久の耳に先ほどから声援を送り続けていた幼馴染からの必死な声が届く。

 

 

「負けないで!いずちゃん!!」

 

「っ……ぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 眼光達から視線だけで問いかけられた意思、そして大事な幼馴染からの叫びに出久はほんの僅かな自由を取り戻すと同時に。

 敢えて意図的にワンフォーオールを左手の人差し指一本で暴発させるかのように発動させ、出久は体内を走った衝撃と激痛によって急速に意識を取り戻して体全体の自由を取り戻した。

 

 突然の出久の急停止、そしてその動きに司会と心操は当然の事。

 幼馴染やクラスメイト、観客や入場口の陰からこっそり見守っていたオールマイトこと八木までもが驚愕する。

 

 

『緑谷!留まったぁぁぁ!!』

 

『緑谷め……指一本犠牲にしやがったな』

 

「何だと……体の自由は利かない筈だ、何をしたんだ?!」

 

 

 今にも踏み出そうとしていたその体を強制的に留め、激痛に歯を喰いしばりながらも体全体で再度心操へ向き直った出久にプレゼントマイクは盛り上がって来たとばかりに声を張り上げ。

 出久が何をしたのか察した相澤は解説しつつ、負けない為とは言え相変わらず無茶をする奴だと嘆息交じりに解説、そして対峙する心操は誰よりも知っている己の個性を打ち破った事に驚愕しながらも……。

 会場の地面を蹴り、一足飛びで踏み込んできた出久を迎え撃たんとばかりに構えを取り始める。

 

 

「一体どんな手品を使ったのか、後学のために教えてもらえるか?」

 

 

 歯を喰いしばりながら向かってくる出久の速度に冷や汗を流しながらも、放たれた右の正拳突きをぎりぎりでいなし懐に潜り込んだ心操は出久へ言葉を投げかける。

 だがしかし、同じ轍は踏まないとばかりに口を真一文字につぐんだ出久は痛みに堪えながら、人差し指が折れた左手で即座に掌打で心操の胸を打ち。

 短く息を吐き出しながら吹き飛びながらも両足を滑らせつつ両足で着地した心操へ即座に追撃を開始する。

 

 指が折れた激痛がある筈なのに、全身に雷光のようなモノを纏いながら暴風のような連撃を放ち続ける出久に必死に捌き活路を見出そうとする心操。

 彼は……出久が放つ拳や蹴りの一発一発が、自身に直撃したら一撃で戦闘力を奪い取る破壊力を秘めているという事を、先ほどその身に受けた……折れた指と不十分な踏み込みから放たれた掌打の威力から確信していた。

 それ故に一撃も貰うまいと、そしてその中で活路を見出す為に張り詰めたか細い糸を渡るかのような攻防を続ける。

 

 

「拳に蹴りに肘に膝……! 随分と物騒な師匠に師事を受けてるみたいだな!」

 

 

 命にはぎりぎり関わらない、しかし一撃でも当たれば確実に人体にダメージを与え破壊する武技を、痛みに歯を喰いしばりながら放ってくる出久へ心操は問いかける。

 思わず出久はその言葉に、心の底から色んな意味で容赦がない師匠について解説したくなる衝動にかられながらも、今も応援してくれている幼馴染やクラスメイト。

 そして、見守ってくれているであろうオールマイトを裏切らない為にただ無心で、全身を駆使した技を放ち続ける。

 

 二人にとっては数十分にも感じた濃密な時間、しかしその実は数分にも満たない攻防。

 その攻防を制したのは……。

 

 

『おおっと!絶妙に躱し捌き続けていた心操に緑谷の一撃が炸裂ーーー!!』

 

 

 攻撃を捌き続けられなくなった心操に、とうとう一撃を叩き込む事に成功した出久に軍配が上がった。

 一方で出久の拳を受けた心操は吹き飛び、激しく咳き込みながらもなんとか立ち上がろうとするが……すぐに膝をついてしまい。

 審判を務めるミッドナイトが両手を上げてその腕を交差させ、試合終了を告げた。

 

 

「っはぁ! 何とか勝てた……」

 

「……クソッ、勝ちたかったんだけどなぁ」

 

 

 審判から告げられた合図と観客席から発された激しい歓声で漸く試合終了を解した出久は、大きく息を吐き出しながらワンフォーオールを停止させ。

 座り込んだまま立ち上がろうとしない心操に近付くと、右手を差し出す。

 

 差し出された心操は目を見開いてその手を見詰めると、くしゃりと顔を歪めて心から悔しそうに呟きながらも出久の右手をしっかりと掴んで立ち上がる。

 始まりこそ不穏であったが、終わってみれば見事な好勝負を繰り広げた上にヒーローらしい光景を見せてくれた二人の少年に、観客達は感動すると共に大きな拍手を二人へ贈った。

 

 

「個性が破られてどうなるかと思ったけど、やるじゃないかあの生徒」

 

「ああ、あの個性だけでもヴィラン捕縛には有用なのにあそこまで戦えるなら……是が非でもサイドキックに欲しくなるな」

 

「あの緑谷って子も実に鍛えられてるな、個性に振り回されることなく使いこなしてた上にあそこまで技術があるとは思わなかったぞ」

 

「今年は特に目を離せないな、この大会……」

 

 

 拍手の中聞こえてくるプロヒーロー達の寸評に、どこか気恥ずかしくなった出久と心操は同じタイミングで顔を見合わせると、これまた同時に笑みを浮かべて互いの拳を軽くぶつけ合う。

 

 

「つまんねえ負け方するんじゃねぇぞ、緑谷」

 

「……うん!」

 

 

 無個性でヒーローになる事すら危うかった、夢を諦めないと思っていた時からは想像もできない状況に感無量になりながら。

 出久は心操の拳と言葉から伝わるエールを受け取り、力強く頷き。

 

 

「あっ……」

 

「だけど、少し素直すぎるな。お前」

 

 

 悪戯心交じりに心操に個性を発動させられ、ほんの一瞬だけその動きを止めるのであった。

 

 

 




Q.なんで心操くん、こんなにこの時点で強いん?
A.何とかヒーロー科に浮かれた事で鬱屈感情が抑えめなのと、クラスメイトや教師に積極的に師事を乞い個性だけじゃない戦い方を模索してたみたいです。
彼等(1-B)もまた、日々成長を続けているのだ。
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