飯田と狐白の試合が終わった後も当然、トーナメントは続いていく。
芦戸対青山の試合では、激しく断続的に放たれていた青山のネビルレーザーを掻い潜った芦戸が……腰の入った芸術的なアッパーカットを青山の腰へ叩き込んだ事で、見事ノックアウト。
続いての試合である、尾白対常闇の試合においては……。
「尾白も善戦したんだけど、踏み込み切れなくて拘束かー」
「良くも悪くもアイツは俺と同じで、中遠距離は苦手だもんなぁ」
あちゃーと言わんばかりに観客席にいる瀬呂の視線の先では、ダークシャドウに抑え込まれている尾白が居た。
その状態に追い込まれても尚、拘束から逃れようともがく尾白であるが既にどうにもならず、やがてミッドナイトが腕を大きく交差させて試合終了を告げた。
「常闇君のダークシャドウはとても範囲が広くもう一つ頭があるようなもの、その警戒の中掻い潜る事は簡単じゃないし仮に抜けて迫れてもすぐに下がった常闇君がダークシャドウで攻めてくる。味方にすると心強いけど相手にするとなるととても大変だな、ああでも特別ダークシャドウの視界が広いという事もないのかな?」
「絶好調だねー、いずちゃん」
一方観客席から尾白対常闇の試合を一時も見逃す事なく、ノートにペンを走らせながら見続けた出久は仮に自分が相手をするとなるとどうするかを思考しながら、ブツブツと高速で呟く自分の世界に突入していた。
さり気なくクラスメイト達が若干距離をとる中、彼の隣に座っている狐白は優しく微笑みながら尻尾をゆらゆらと揺らしている。
「緑谷ちゃんって、自分の世界に入りやすいわよね」
「善良な方ですしひたむきな様子は好感が持てるのですけど、あの癖は独特ですわね」
何とも言えない表情を浮かべながら述べる蛙吹に八百万もまた同意を示しつつ溜息を吐く。
一方で男子陣はどんな具合かと言うと。
「峰田、俺は禊を済ませたから……達者でな」
「おいぃぃぃ!そんな事言わないでくれよ仲間だろ?! ベストフレンドと書いて共犯者と呼ぶ仲だったじゃないかオイラ達ぃぃ!」
顔や体のあちこちに絆創膏を張りつけながらもどこか清々しい、まるでお勤めを終えた元囚人かのような笑顔で上鳴はお仕置き不可避な峰田へ颯爽と告げ。
共犯者の余りにも無慈悲な言葉に峰田は恥も外聞も投げ捨てて、どうせなら一緒に折檻うけてくれよぉぉ!などと縋りついていた。
そんな二人をオロオロしつつも見守りさすがに峰田が可哀想になった口田は、さりげなく耳郎へ助けを求めるような視線を送るも。
口田の視線に気づいた耳郎は無言で首を横に振り、情け容赦無用と言わんばかりの姿勢を崩さなかった。残念でもなければ当然かもしれない。
1-Aの生徒達がそんな具合にわいわいがやがやと楽しんでる間も試合は続く。
鉄哲と切島の試合では先ほどの試合と打って変わって真正面からの派手な殴り合いが始まり、スティールの個性を持つ鉄哲も硬化の個性を持つ切島も一歩も引かず殴り合いを続けた結果。
最終的に双方が同時に放った拳が、これまた双方の顔面へ突き刺さりダブルノックアウトという雄英体育祭でも滅多に見ない結末となり……。
一旦引き分けとし、二人の回復を待った後に腕相撲で決着を付ける事となった。
「あーくっそ、俺も出たかったなぁ」
「大丈夫だって、俺みたいに一撃で沈没する可能性もあったしよ……」
男子として心に火が付くような試合に、トーナメントに出る事が叶わなかった砂藤が悔しそうに言葉を滲ませ。
そんな彼の背中を、瀬呂が優しく叩き自身の背中を煤けさせながら自虐も交えて慰めた。
彼はまだ知らない、後日通行途中で見知らぬ小学生からもどんまいコールを受ける羽目になる事を。
「あれ?緑谷達は?」
「緑谷くん達なら、次の試合にでる麗日さんを励ましに控室に行ったよー」
「けろ、飯田ちゃんも居ないって事はいつもの仲良し四人組なのね」
悲しくも美しい男達の友情に芦戸はほろりした気持ちになりつつも即座に切り替え、つい先ほどまでいた筈の仲良しコンビが居ない事に気付いてきょろきょろと辺りを見回し。
芦戸の様子に気付いた葉隠が、ぱたぱたと袖を振りながら彼らの行方を芦戸へ教え……蛙吹も飯田が見えない事から、いつもつるんでる四人組で集まってるのかななどと思考しつつ呟いた。
そうしている間に試合会場にお茶子と勝己が姿を現し、少し遅れて出久と狐白と飯田が観客席へと戻ってくると。
彼らを目ざとく見つけた芦戸が手を振りながら3人へ声をかける。
「ねーねー、麗日に何かアドバイス送ったりしたの?」
「あ、えーっと……そうしようとしたんだけど、断られちゃって……」
「麗日女史もまた挑戦者だったという事だ」
ぴょこぴょこと角を動かしながら興味津々に尋ねてきた芦戸に、出久はどぎまぎとしながら答え。
どういう事?と言わんばかりの視線を芦戸は飯田へ向けるも、何かに感じ入ったように感動している飯田の様子にこれまた要領が得ないと芦戸は困り顔を浮かべた。
「あれだよ芦戸さん、アイツと付き合いの長いいずちゃんと僕が考えたガチ攻略法を渡そうとしたら、皆ライバルだからこそ受け取れないって言われちゃったのさ」
「なるほど納得!!」
「……個人的には物凄い気になるのですけど、それ」
困ったように笑顔を浮かべた狐白の言葉に、そりゃ受け取れねぇわ!と芦戸は得心がいったとばかりに手を打ち。
知的好奇心から攻略法が知りたくなった八百万が、思わずそんな事を呟いてしまう中……プレゼントマイクの合図と共にお茶子対勝己の試合が始まった。
勝己とお茶子の試合は、逃げ回るかと思われたお茶子が真正面から勝己を己の個性で浮かせるべく姿勢を低くし、突進するところから始まり。
真正面から勝己の爆破がお茶子を直撃、かと思いきや辛うじて躱したお茶子が反撃をすると見せかけた所で、即座に反応した勝己がすかさず爆破でお茶子を吹き飛ばす。
その後も何度か突進を繰り返すが、情け容赦無用の爆破を繰り返す勝己の姿に1-Aのクラスメイト達ですら、何とも言えない感情が心を満たしていくのを感じた。
「爆豪まさか、あいつそっち系の……?」
「違う、かっちゃんは本当に油断していないんだ。だからこそ徹底的に麗日さんの攻撃を先回りして潰しているんだよ」
「まぁそこは否定しないけどさ、何も知らない人から見たら目付きも態度も悪い男子が女子を苛めてる風にしか見えないよね。いずちゃん」
ひぇ、と声を漏らす峰田の呟きに応じるように出久は呟くと共に。
ある意味で徹底した態度を取り続ける幼馴染の姿に戦慄するが、隣から聞こえてきた狐白の言葉に座ったまま姿勢を崩したかのようにガクッとなる。
「見事にブーイングが響いてるけど堪えた様子を見せないアイツも流石と言わざるを得ないけどさ、麗日さんも中々に割と策士だよね」
「え?それってどういう……あ」
ブーイングを続ける観客席のヒーロー達を、相澤が淡々とした口調で黙らせる中呟かれた狐白の言葉に出久は彼女へその意図を問いかけ。
無言でステージの上空を指差した狐白の指の先を見て、出久はハッとしたような表情を浮かべた。
そこには、勝己の爆破によって巻き上げられたステージの大小さまざまな瓦礫が、重力に引かれて落ちる事無く空中に浮遊していた。
ちなみにほぼ同時のタイミングで、1-Bの問題児ともっぱらの評判である物間も狐白と同じところに気付いていたりする。
「でも、あの密度……落としたら麗日さんも無事じゃすまないと思うんだけど。いいのかなぁ」
「そんな事言ってる場合じゃ……っ?!」
大丈夫かなぁ、などと呑気に呟く狐白に対して焦りながら声を荒げた出久の視線の先で。
お茶子と勝己に降り注ぎ始めた流星群じみた瓦礫が、勝己の爆破によってまとめて一掃された。
「不意打ち上等な上で、クソ煮込み爆発頭の個性が使えない距離での闘いなら何とか出来ると思ってたけど……アレはもう僕には対処できそうにないね」
いやぁ、人格と品性はともかくとしてあの実力だけは間違いないよね、と褒めてるのか貶してるのかよくわからない言葉を放つ狐白の言葉に出久は形容しがたい表情を浮かべつつ。
今はそれどころじゃないとステージへ視線を戻すも、そこには最後のチャンスだと突進しようとしたお茶子が、膝から崩れ落ちる光景が見えていた。
何とも言えない沈痛な空気が1-A全体を包む中、ぼそりと誰かが呟いた。
「……玉藻ってさ、バクゴーに関しては割と辛辣だよな」
「緑谷への態度とは、露骨なまでに正反対な態度とるよな……極端に口悪くなるし」
誰かが呟いたその言葉は、この空気を何とかしたいという冗談の意味も込めた発言だったのだが……。
不思議と誰も否定する気持ちがわかない程度には、確かにと皆の心の中にストンと落ちる言葉であった。
本当は今回でデク君VS轟君を描く予定だったのですが、微妙に原作との違いとかを書きたくてこうなりました。
だけど殆ど流れが変わらないところは描写だけで、ダイジェストで流すのであった。
そして今の流れにはあんまり関係ないですが、狐白の母親についてプロフィールを下記に八着けさせて頂くのだ。
【キャラクタープロフィール】
『玉藻 糺狐(れいこ)』
玉藻狐白の母であり、夫に先立たれた未亡人。
稲荷の個性の影響か、彼女の母(狐白の祖母)同様見た目は若々しく高校生の娘がいるとは思えない美貌を持っている。
元々は家族三人で違う都市に住んでいたが、夫との死別を切っ掛けに娘と共に静岡県某市にへと転居してきた。
なお娘(当時は息子)を連れて実家へ戻らなかった理由は、当時はまだ実家を飛び出し駆け落ち気味に夫と結婚した事から、実家に帰り辛かった為。
所属:クズノハデザイン事務所デザイナー (在宅勤務)
誕生日:10月4日
身長:172cm
血液型:A型
出身地:京都府あたり
好きなもの:ジャンクフード、夫(故人)、娘(元息子)
嫌いなもの:犬、ヴィラン(※『稲荷』の個性を持つ者達は、大体が訓練をしない限り犬が苦手らしい)
戦闘スタイル:なし
個性:『稲荷』と『糸繰り』
稲荷:狐白のモノと一緒の為省略
糸繰り:彼女が父から受け継いだ個性、しかし一方で父親とは違い衣服のデザインや日常生活にその個性を使用している。
指先から糸を飛ばしソレを操ると言うのが基本的な内容であるが、彼女の場合は思うがままに糸を操り、衣服や下着に己の意図を実現させることが出来る。
その特異性から、彼女が本腰を入れて強い意図を込めて作り上げた下着や衣服は、総じて高い評価を受ける傾向にある。
なお気乗りしない仕事の時はクオリティが露骨に下がる。