彼は僕のヒーロー   作:社畜だったきなこ餅

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UAが9万こえてたので更新します。
寝る前に更新出来たから、実質毎日更新!!


33.燃えよ緑谷怒りの鉄拳

 

 会場全体が燃え上がるような歓声を上げながら、ステージ上で二人の少年が額に汗を浮かべ腕相撲をしている。

 片方は硬化の個性を持つ1-Aの切島、もう片方はスティールの個性を持つ1-Bの鉄哲。

 個性だだ被りとまで揶揄される彼らは今、己のプライドをかけて全身全霊をかけつつ妨害など一切考えない、真正面からの力比べを繰り広げていた。

 

 

「あ、麗日お疲れー残念だったねー」

 

「ナイスファイトだったよー!」

 

 

 そんな中、頬に絆創膏を貼り付けたお茶子が飯田を伴いながら観客席に現れ。

 彼女の姿に気付いたクラスメイト達が、口々にお茶子の健闘を称える言葉を口にするとお茶子は一瞬ハッとした顔を見せた後に、親指を立ててクラスメイト達の言葉に応えた。

 

 悔しくない筈がない、しかし今自分が出せるモノを全て出し切っての敗北であり、悔し涙はもう流しきった。

 だからこそお茶子は笑い、次こそは勝つと強い決意を抱いたのだ。

 

 

「そう言えば玉藻さんはどうされたのですか?」

 

「ああ、玉藻女史なら控室に緑谷君を激励しに行ったよ」

 

 

 間もなく試合を控えた出久はともかく、玉藻の姿が見えない事に八百万が不思議そうに首を傾げつつ飯田へ問いかけ、返って来た言葉に納得したとばかりの表情を浮かべ。

 さり気なく癒しを狐白の尻尾に求めていたお茶子は、少しだけ残念そうにしていた。

 

 一方その頃、会場の歓声が聞こえてくる控室では……。

 パイプ椅子を隣同士に並べ、出久と狐白は言葉を交わすことなくただ隣り合って座っており。

 出久は轟が抱えてきた複雑な事情に想いを馳せながら考え込み、狐白は彼の思考を邪魔しないようにしているかのように、ただ傍に寄り添っていた。

 

 

「……こーちゃん、僕はさ」

 

 

 やがて考えがまとまった出久は静かに口を開き、狐白は顔をそちらへ向けて尻尾をゆらゆらと振りながら幼馴染の言葉の続きを静かに待つ。

 

 

「個性を持っている人は皆それだけで恵まれていて、強い個性を持ってる人は幸せなんだと勝手に思っていた」

 

 

 持たざる者であるが故に、そして託され受け継いだ者であるが故に出久は躊躇うようにしながら言葉を続ける。

 まるで、ただ幼い憧憬だけを抱えていた自分に言い聞かせるように。

 

 

「かっちゃんもそうだし、クラスの皆も自分の個性に誇りを持っていて。だけど……轟くんはそうじゃなかったんだ」

 

 

 いつもの自分の世界に入り込んだ時のような機関銃のような呟きではない、まるで刻み込むかのように出久は言葉を紡ぐ。

 

 

「こんな事話されてこーちゃんも困るかもしれないし、轟くんの事情を僕が軽々しく言えない……言っちゃいけないと思うんだ、それでも」

 

「……それでも?」

 

 

 語る言葉に熱を込めながら強く握りしめられた出久の拳に、狐白はそっと己の手を重ねる。

 狐白はただ、出久の言葉や想いに己の意見を重ねることなく……少年の言葉の先を促した。

 

 

「僕は、轟くんの全てを引き出したい。君の個性は君自身の力なんだと、伝えたいんだ」

 

 

 無個性だからと夢を嘲笑われて否定され続けてきた過去と、個性を誇らしげに語る同年代の子供達をただ羨望の眼差しで見るしかなかった思い出が出久の脳裏に蘇る。

 自分には同じような境遇の幼馴染が居てくれたから耐えられた、それでも己の持つ個性に強い憎悪を抱え続ける轟に対して、深い嫉妬を隠せなくて。

 だからこそ出久はたとえ分不相応な行為と願いだとしても、轟に自分の力である個性に憎悪だけを抱いてほしくなかったのだ。

 

 強い想いと共に語り終えた出久、彼に対して隣に座り寄り添っていた狐白は静かに立ち上がると。

 そっと、座ったままの出久の頭を優しくその胸にかき抱く。

 

 

「……それがいずちゃんの選択なら僕は否定しないし、たとえ全てが君の想いを否定しても僕は君の味方だよ」

 

 

 自身の頭を包み込むような温かく柔らかい感触、そして鼻腔から感じる狐白の仄かな汗の香りと入り混じった甘い香り。

 普段の出久ならば顔を真っ赤にし狼狽えるしかないモノだったソレは、今は不思議と昂った出久の心を安らげるかのような心地よさを出久へと与える。

  

 そのまま静かに互いの体温を二人は控室で感じ合い、やがて流れたアナウンスにどちらともなく二人は離れると。

 出久は椅子から立ち上がり、強い決意を抱いた貌で歩き始める。

 

 

「こーちゃん」

 

「なに? いずちゃん」

 

「……いつも、ありがとう」

 

「気にしないで、僕が好きでやってる事なのだから」

 

 

 今更になって少し恥ずかしくなってきた出久は振り返る事なく、かつては男子だった幼馴染の少女へ感謝を告げ。

 言葉を投げかけられた狐白は、柔らかく微笑むと尻尾をゆらゆらと振りながら出久へいつもの調子で言葉を返すのであった。

 

 

 そして歓声が響き聞こえてくる通路を、強い決意を抱いた出久が進む中。

 通路の脇から姿を現した炎を纏ったNo.2ヒーロー、そして轟の父であるエンデヴァーの姿に顔を強張らせた。

 

 エンデヴァーは出久へ語り掛ける、まるでオールマイトのような素晴らしい個性で。

 そしてだからこそ、我が子がオールマイトを超える為のテストベッドとして出久との試合は最適なモノであると。

 

 出久は熱狂的なヒーローオタクであり、オールマイトを超えようとし続けるエンデヴァーもまた憧れの対象であった。

 しかし、今この時だけは出久は強い反発心を胸に抱いて、話は終わりだと歩み去ろうとするエンデヴァーへと静かに語り掛ける。

 自分はオールマイトではないし、轟もまたエンデヴァーその人ではない、と。

 

 

『今回の体育祭、両者トップクラスの成績!』

 

 

 ステージに立った出久と轟、彼ら二人の事をプレゼントマイクはアナウンスする中。

 轟は対戦相手であり父親を見返す為の障害である、出久を静かに見据える。

 

 

『まさしく両雄並び立ち、今!』

 

 

 涼やかな表情と裏腹に隠せない戦意を表すかのように轟が右半身から冷気を漂わせ。

 出久もまた、幾度となく繰り返し体に染み付かせた構えをとりながら全身に雷光を纏わせる。

 

 

 そして。

 

 

『緑谷 対 轟! スタートォォォォ!!』

 

 

 プレゼントマイクが激しい試合開始の合図を叫んだ次の瞬間。

 轟が放った氷塊と、流れるかのように放たれた雷光を纏った出久の正拳突きが真正面から衝突した。

 

 

『おォォォォ!? 緑谷ぃ!轟のぶっぱを真正面から破ったぁぁぁぁぁ!!』

 

「……やるじゃねぇか」

 

 

 出久が放ったソレは、図らずも玉藻家の庭で狐白の助力で至った時に放ったものと同じ型の正拳突きであった。

 その事実に気付いた観客席に戻り試合を見守っていた狐白は、あの一瞬でソレを放った出久の力量に両手を口に当てて驚き。

 出久と対峙する轟は、拳を振り切った姿勢からすぐに構え直す出久の姿に……倒し甲斐があると、父親の力を否定する為の相手に相応しいと口の中で呟く。

 

 その後も轟が氷塊を放っては出久が、幾度も繰り返し続けてきた構えの正拳突きでソレを真正面から打ち砕く。

 力を授けてくれたオールマイト、心配をかけ続けてきた母、自身に訓練をつけてくれた幼馴染の祖父母、そして……今も見守り応援してくれている幼馴染への感謝を心の中で呟きながら。

 

 

『さぁさぁ盛り上がってきたぜお前ら!一撃ぶっぱで終わるかと思いきやの足を止めての力のぶつけ合いだぁ!!』

 

『緑谷のヤツ、あの構えからの一撃の速度は目を見張るものがある。長い間研鑽を積んできた動きだな』

 

 

 轟が放ち出久が砕く、それが幾度も幾度も繰り返される会場。

 砕かれた氷塊は陽光を反射させ煌めきながら飛び散り、幻想的な光景を創り出し。。

 轟が氷塊を放つたびに気温は下がり、出久が氷塊を砕くたびに彼の右拳は傷付いていく。

 

 どちらかが根負けするまで、力比べであるぶつけ合いは終わらないと誰もが思う中……試合の流れが変わる。

 

 

「耐久戦のつもりか? それなら、残念だったな」

 

「そうくるのは、予想済みさ!」

 

 

 このままでは埒が明かないと判断した轟は右手を下から掬い上げるように大きく振り、ステージ上に出久へと迫る地を這うかのような氷塊を放ち。

 注意深く轟の動きを見ていた出久は即座に構えを解くと、その身ギリギリに放たれた氷塊を掠めさせながら弾かれたかのような動きで、轟へと肉薄する。

 

 

「ちっ!」

 

「ぐぅっ!!」

 

 

 ただ横へ躱すかと思いきや敢えて突撃してきた出久に轟は舌打ちしながら、地面から打ち出した氷塊を足場に飛び上がり……右手で作り出した氷の盾を右手に持ちながら空中から出久へと猛襲をかける。

 一方で突然の上下運動に視線が追い付かなかった出久は反応が一歩遅れ、咄嗟に勢いよく後方へ飛び退くも。

 

 その瞬間を見逃さなかった轟が、全力で出久めがけて氷塊を放ち。

 出久は氷塊を回避するために、左手で手刀を作りワンフォーオールを発動しながら勢いよく振り抜き切り砕く事で、辛うじて直撃を免れる。

 

 だがしかし出久……の左手は迫りくる氷塊へ直接叩きつけた事により、凍傷と擦り傷塗れになった上。

 砕き切れなかった氷塊が出久の全身を強く打ち付けた事で、彼の全身は傷塗れとなった事で戦闘能力の低下は避けられない状態となっていた。

 

 満身創痍と言える姿となった出久の姿に轟は攻撃の手を休め。

 ここまで攻撃を重ねても負けるどころか戦いを繰り広げ続けてきた出久に、彼の評価を内心で上げながらゆっくりと口を開く。

 

 

「……やるじゃねぇか、だがありがとう緑谷。おかげで……奴の顔が曇った」

 

 

 轟なりの賞賛と、ある意味で彼なりに素直な感謝の言葉。

 だが、今この場この状況においてもなお自らを見ていない轟のその言葉と態度は……。

 

 出久の逆鱗に触れた。

 

 

「……どこ見てるんだ……!」

 

 

 歯を喰いしばりながら、これで終わりにしようとばかりに放たれた氷塊を。

 出久は確かな怒りを込めて、傷付き血塗れとなった己の右拳で叩き砕いた。

 

 

「てめぇ……左手も軽い怪我じゃねぇし右手なんて血塗れじゃねぇか、なのに何で……!」

 

 

 個性を使い続け体温が下がった事実以外に、確かに感じた凄味にその身を一瞬だが僅かに震わせた轟は出久へ叫ぶ。

 しかし出久はその言葉に対して明確な返事をせずに、轟の右半身を傷付いた左手の人差し指で指差して口を開いた。

 

 

「早く終わらせたいのは轟くんの方だろ? 震えているよ」

 

「っ!!」

 

 

 静かな言葉で指摘してきた出久の言葉に、轟は反射的に左手で右腕を抑えてたじろぐ。

 轟自身も理解はしていた右半身を使い続ける事で起きるデメリット、しかしそのデメリットが露見する事なく今まで決着をつけてこられた為に顕在化する事がなかったソレは。

 今この場において、確かな事実として轟の行動に大きな制限をかけていたのだ。

 

 

「個性だって身体機能の一つなんだ、君自身冷気に耐えられる限度はあるんだろう?」

 

「……それが、なんだって言うんだよ」

 

「そしてソレは、左側の熱を使えば解決出来る……そうだろう?」

 

 

 離れて対峙してる今も凄味を感じる出久の眼を真正面から睨みつけながら、轟は煩わしそうに言葉を返し。

 続けて放たれた出久の言葉に、歯軋りを漏らす。

 

 

「僕はまだ戦える、そして君が冷気だけで闘い続けるなら勝つのは僕だ」

 

 

 皮膚が破れ血を流す右手を握りしめながら、出久は言葉を紡ぐ。

 己自身が抱えてしまった嫉妬も肯定して、その上で真正面から轟と相対する為に。

 

 

「皆、本気で夢の為にやってるんだ。なのに半分の力で君が僕に勝つ? ふざけるな!」

 

 

 全身全霊で挑むクラスメイト達の姿を脳裏に思い浮かべながら、出久は構えを取り直し。

 大きく息を吸い込み、腹の底から咆哮するように出久は叫んだ。

 

 

「全力でかかって来い!」

 

「ふざけるなって、言ったよな……ソレは俺の言葉だ……!」

 

 

 出久の言葉に轟は苛立ちを隠すことなく、感情の赴くままに氷塊を放とうとするが。

 それよりも一歩早く踏み込んできた出久が放った、血塗れの正拳突きが……体温低下によって動きが鈍った轟に炸裂した。

 

 出久が万全な状態だったなら、この一撃で試合が終わっていた事は想像に難くない。

 しかし、出久もまた傷塗れとなっており全身に受けた凍傷によって、その身体能力の低下が顕著となっていた事で轟は吹き飛びながらもステージ上に留まった。

 

 

「げほっ……なんで、てめぇはそこまで……!」

 

「期待に応えたいんだ、そして……僕を助けてくれた人達に笑って応えられるようなカッコイイ人に、なりたいんだよ!」

 

 

 個性の反動で身体能力が低下した轟、負傷によって身体能力が低下した出久。

 二人の少年が互いの感情を剥き出しにしながら、全身全霊で衝突しあう。

 

 出久が想いを叫び、咆哮しながら轟へ突進し。

 轟は忌まわしい過去と、確かに幸せだった頃の思い出を同時に想起しながら目の前の相手へ母から受け継いだ個性だけをぶつける。

 

 試合当初とは打って変わって泥臭いぶつかり合いが続き、轟は右半身に霜を張りつけさせ出久に至っては傷がない所の方が少ない有様。

 だがここまでやり合って、ようやく……轟は目の前の相手を父親を否定する為の材料ではない、力をぶつけ合う相手だと認識し始める。

 

 そして……。

 

 

「君の力だろう!受け継いだんだとしても、君の右側も左側も!君だけの物じゃないか!!」

 

 

 何もない無個性だった出久だからこそ言える、その心の底からの絶叫じみたその叫びは。

 今この瞬間、確かに轟の心を縛る父親への怨嗟の呪縛を打ち砕いた。

 

 

「緑谷……ふざけてんのはどっちだよちくしょう、勝ちてぇのに敵に塩送るなんてよ……!」

 

 

 轟の呪縛を砕いた出久のその言葉は、轟がまだ純粋にヒーローにあこがれていた頃の熱を呼び覚まし。

 それと共に轟の左半身から激しい炎が噴き出す事で、霜が張り付いていた彼の左半身が溶かされ……右半身からは激しい冷気が漏れ始める。

 

 

「俺だって……ヒーローに……!」

 

 

 幼い頃の原風景、愛と幸せが確かにあった頃に抱いていた憧れを胸に抱いた轟はどこか吹っ切れたかのような笑みを口元へ浮かべ。

 どこか嬉しそうに笑う出久に呆れながら、先ほどまでの殴り合いで余力が残っていない体で構え直すと。

 ソレに応じるかのように出久もまた、何度も轟の氷塊を砕いた正拳突きを放つための構えを取る。

 

 

「全部込めた全力で行く、応えてくれよ……緑谷!」

 

「うん、僕も全力全開で行くよ、轟くん!」

 

 

 互いに好戦的な笑みを浮かべながら少年達は、示し合わせたかのようなタイミングで今己が出せる全力をぶつけ合う。

 轟は炎と冷気を全力で放った事で生まれた激しい爆風を放ち、出久は……。

 

 心の中で今も心配しながら見守っているであろう幼馴染に心中で詫び、更にこの後謝らないといけないなどと思いながら。

 自壊をする事を承知の上で、全身の動きを流れるように連結させながら全力のワンフォーオールと共に正拳突きを迫りくる爆風へ打ち込んだ。

 

 

 その凄まじい力同士の衝突はステージ上のみならず観客席すらも暴風を届かせ、誰もが固唾を飲んで煙が晴れるのを見守る中。

 晴れた先に見えてきたモノ、ソレは。

 正拳突きを放ったままの姿勢で微動だにしない出久と、場外に吹き飛び大の字に倒れた轟の姿であった。

 

 

『何今の、何が起きたのというか何なのオマエのクラス』

 

『散々轟の個性で冷やされた空気が瞬間的に熱された膨張したところに、緑谷が全力で放った正拳突きの拳圧がぶつかったんだ。そりゃこうなる』

 

『イレイザーヘッドお前も割と冷静じゃねぇよな、第一拳圧ってお前……オールマイトか何かかよって話じゃねぇか』

 

 

 爆風によって耳鳴りが止まない中聞こえてきた実況のプレゼントマイクと、解説の相澤の言葉。

 そして会場全体から響き渡る、先の爆風にも負けない激しい歓声に出久はようやく我に返ると。

 

 今にも気絶しそうな痛みに出久は耐えながら、観客席から今も心配そうに見つめ見守ってくれていた幼馴染である狐白へ。

 その傷だらけの左腕を掲げて見せ、勝利を宣言した。

 

 




静かなイチャラブと激しいバトル展開を書いたからとても疲れました(小並感)
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