いやほんとありがとうございます、やっぱ皆TS大好きなんですね!
しかし、ツッコミが来ると思っていたのにサブタイトルに突っ込みが来なかった驚きが実はあったりなかったりします。
とある街に住む少年が個性発現と共に性転換してしまってから一か月ほどの時が流れた。
季節もまた春から梅雨へと移り変わろうとしており、晴れ間が減り曇り空が目立つようになってきた頃……。
「今日から復学だけど、本当に大丈夫?」
「大丈夫だよ母さん、授業の内容は自習といずちゃんが持って来てくれたプリントである程度補填出来てるしね」
ローファーを履き、玄関に片手をつきながら爪先を軽く土間へ打ち付けながら出発しようとしている我が子に、母である狐耳と尻尾を生やした女性が心配そうに声をかける。
しかし母の心配とは裏腹に、声をかけられた母親によく似た狐耳と尻尾を生やしている子供の方は、特に気にすることなく飄々とした調子で笑みを浮かべた。
「そうじゃないわ、個性の影響とはいえ男の子から女の子になったのだから学校で何かあってはいけないじゃない」
「それこそ大丈夫だよ母さん、いずちゃんもいるし……クソ煮込み爆発野郎以外は有象無象だからね、気にする必要もないさ」
かつては狐太郎、という名前だった娘へと変貌した我が子に母親は気が気でない様子で尻尾をゆらゆらと振りながら言葉を続ける、しかし。
可憐な美貌を持つ少女はローファーを履き終え、玄関の鏡で変な所がないか確認しながらその可憐な美貌には似つかわしくない声音でとある人物を揶揄しつつ、狐耳をピコピコと上機嫌そうに揺らしていた。
個性が発現し性別が変わったという事例は、この個性社会時代前例がないわけではないらしく役所では戸籍の変更は大きな混乱を生むことなく終える事が出来た。
しかし当人や家族にとっては、手続きを終えれば全てが心機一転とはいかないというのが事実である。
今の所気をもんでいるのは母親だけに見える状態であるが……。
「だけど、スカートってのは中々慣れないね、ソレに下着もなんだか窮屈に感じるしさ」
「諦めなさい」
指先でスカートをつまみ、軽くヒラヒラと振る娘の様子に母は苦笑いを浮かべてはしたないからやめなさいと窘める。
狐太郎の胸中によぎるのは男子中学生の時は割と楽だったなぁ、などという最早戻らない被服が楽だった過去への未練であった。
「ところでのんびりしてていいの?」
「はっ、い、いってきまーす!」
「行ってらっしゃい、気を付けてね」
どこかズレた調子の娘の様子に笑みを浮かべながら、時計へ視線を向けて告げてきた母の言葉に狐太郎は狐目と揶揄される切れ長の細い目を僅かに見開くと。
鞄を手に掴み、母へ声をかけながら慌ただしく玄関を飛び出して行った。
そして家を飛び出た狐太郎は、一カ月ぶりの通い慣れた通学路を駆け足で進んでいく。
狐太郎自身は走る度に軽く揺れる胸が煩わしく思っているが、デザイナーである彼女の母が彼女の為にデザインし調達した下着のおかげで、胸の揺れが最低限で済んでいる事はまだ気づいていない。
そんな彼女の事情はさておき……狐太郎は幼馴染といつも合流する地点で、塀に寄りかかり待ってくれていた大事な幼馴染へ声をかける。
「ごめんいずちゃん、待った?」
「大丈夫だよこーちゃ……っ」
鞄を持っていない方の手を振りながら、大声で待ってくれていた親友へ呼びかけた狐太郎の声に顔を向けた出久は目を見開き、慌てて顔を背ける。
女の子へ性転換した狐太郎には毎日のように会っていて最近漸く慣れてきた出久であるも、その時の狐太郎は部屋着として中性的な衣服を好んで着用していた。
しかし今の狐太郎の恰好は、彼が通っている中学校の女子用制服で更に彼女が走る度にその豊満な双丘が、制服の上からでもわかる程度に揺れていたのだ。
女性への免疫が乏しいどころか壊滅的と言える出久にとって、視覚から齎されたその情報はまさにオールマイトのSMASHに匹敵する衝撃であった。
「どうしたのいずちゃん? やっぱり、どこか変かな……」
「ち、ちがう、そんなことないよこーちゃん!」
露骨な親友の態度に狐太郎は狐耳をペタンと倒し、ふわふわの狐尻尾をしゅんと垂らしてしまう。
慌てたのは出久の方である、自分の態度で大変な状態にある親友を傷付けてしまったと思ったのだから。
必死に彼の脳細胞は回転を始める、思った事をそのまま口にしたらソレはそれで気まずいから言えない、だけども言葉を変に濁したら更に傷つけかねない。
どうする、どうすればいい、そう考える出久の脳裏に稲光にも似た閃きが走る。
「ほ、ほら!僕女の子と殆ど話した事ないから……」
「……あ、うん、ごめんね、いずちゃん」
出久の選択、それは真実を混ぜつつ意図を有耶無耶にする事であった。
気のせいか狐太郎が自身を見る目がとても優しくなったことを感じつつ、出久は窮地を乗り切れた事を確信した。
「その内慣れるよいずちゃん、最近は僕がお風呂上りの状態でいても慌てなくなったじゃない」
「ウン、ソウダネ」
あはは、と無邪気に出久の背中をぽんぽんと叩いて呑気な事を言い放つ親友の言葉に、出久は限りなく悟りに近い表情を浮かべて力なく答える。
決して出久はそんな状況に慣れたワケではない、ただ性転換をしてしまったのに自分を信じて無防備な姿を晒している親友を気遣わせまいと、最近特に鍛えられてきている鋼の精神力で耐えているだけである。
なお最近はバニースーツエンデヴァーだけでは凌ぎきれなくなってきたのか、バニースーツベストジーニストとバニースーツホークスを脳内に追加召喚して何とか耐えている有様である。
このままではバニースーツオールマイトを脳内召喚するしかないと、心の中で懺悔する出久であるがそんな事懺悔されてもオールマイトは困惑するしかないであろう。
むしろその前にエンデヴァーとベストジーニスト、そしてホークスに出久はごめんなさいをしないといけないかもしれない。
「一か月ぐらいしか経ってない筈なのにさ、なんだか凄い久しぶりな気がするね」
「うん、でもこーちゃんが元気になってくれて本当に良かったよ」
嬉しそうな笑みを浮かべて語り掛けてくる狐太郎の言葉に、出久は口に出せるはずがない静かなる葛藤と煩悩との戦いの歴史を振り払い。
今は美少女となってしまった幼馴染が立ち直ってくれたことを素直に喜ぶ。
出久のその言葉に、狐太郎は口どころか表情に出すことなく胸中で思いを呟く。
君がいてくれたから、僕は立ち直れたんだけどね。と。
なんて事はない言葉の筈なのに、狐太郎は何故か気恥ずかしさを感じてしまい出久の言葉に柔らかく微笑むのみであった。
「じゃあ、後で教室で会おうねいずちゃん」
「うん、また後でねこーちゃん」
やがて学校へと到着した二人は、どよめく周囲を気にすることなく玄関で分かれて出久は教室へ、狐太郎は職員室へと向かう。
周囲のどよめきの原因、それは彼らが通う中学校で今まで見た事もない美少女が、冴えなさという概念が擬人化したような出久と共に登校してきた事である。
「おい緑谷、あのかわいい子誰だよ? 紹介しろよな」
そして出久を知り、下に見ている同級生達は当然の権利であるかのように教室へ向かおうとしている出久を取り囲み。
その中の一人が出久の肩へ乱暴に腕を回しながら、一緒に登校してきた美少女を紹介しろと迫る。
出久がまず最初に感じたのは困惑、そして次に感じたのは苦しみを乗り越えて歩き始めた親友によからぬ感情を抱いている事への、微かな怒りであった。
「誰だろうね、君達も良く知ってる子だよ」
狐太郎がまだ男だった頃に手ほどきを受けた経験を活かしつつ、出久は同級生の腕をするりと振り解いて振り返る事なく教室へ歩を進める。
面白くないのは同級生達である、自分達の顔色を窺うばかりだった無個性の男がまるで、自分達が眼中にないかのように振る舞ってきたのだ。
「おいてめぇ」
「おうこらデクゥゥゥ!!」
剣呑な光を目に宿した同級生が出久の肩へ手を伸ばそうとしたその時、廊下中に怒声が響き渡る。
「どうしたのかっちゃん?」
「どーしたもクソもあるかごらぁ! なんだあの女はよぉ!」
声の主に向かって出久が顔を向ければ、そこに居たのはのっしのっしと大股で近づいてくる天上天下唯我独尊の化身と中学でも評判の爆豪勝己である。
なんのかんの言って二人もまた幼馴染になる程度にはご近所さんであり、勝己は呑気に喋りながら登校する出久と狐太郎を見ていたのだ。
何故その時にいつもの調子で声をかけなかったのかと言えば、彼は彼なりにどこかで見た事ある気はするが知らない女子を怯えさせることは躊躇する程度に良識が欠片程度に残っていたらしい。
そうなるようになった切っ掛けが、彼にとって不倶戴天の敵である陰険狐目野郎こと狐太郎に小学生時代に、言葉でやりこめられたという少々しまらない話なのは彼にとってトップシークレットだ。
「あーー……うん、えーっとね」
「何時にもまして歯切れがわりぃなぁアァン?!」
いずれ露見する話であるが、人目が集中してる今の状況で言って良いとは思えない出久は勝己に胸倉をつかまれて冷や汗を浮かべながら、曖昧な言葉を口にするしかなく。
その煮え切らない様子に、一秒ごとに勝己の凶悪な目付きが更に吊り上がっていく。
そして、そんな二人の様子を中学の腐の民達は痴話喧嘩よ、むしろ略奪愛よなんて小声で盛り上がっているが幸いにも勝己はその内容に気付く事はなかった。
余談であるが、腐の民達の主流派は出久と狐太郎の関係でどっちが前でどっちが後ろであるかというモノだが、出久と勝己のカップリングを推してる派閥も居るそうだ。
「そ、そんな事よりかっちゃん!このままだとチャイム鳴っちゃうよ!」
「……チッ」
慌てふためいた出久の言葉に勝己は乱暴に舌打ちすると、彼の胸倉をつかんでいた手を放して不機嫌そうにのっしのっしと教室へと向かっていく。
その様子を見た出久のみならず、周囲の同級性が……檻の中で不機嫌そうにうろうろしてる虎みたいだ、などと思ったのは内緒である。
そんなこんなで一波乱、ならぬ二波乱あった始業前の中学であるが。
出久達のいる教室の、朝のホームルームではある意味本番が待っていた。
「よーし、今日も全員いるなー。今日は皆に大事なお知らせがあるぞー」
「せんせー!それってまさか転校生ですか?!」
「あの、緑谷と一緒に登校してきたって噂の!」
教壇の上から、春から休学しており誰も座っていない出久の隣の席を除き。
生徒が全員着席している事を確認した担任が告げた言葉に、教室中の男子が俄かに色めき立つ。
「あーー、転校生じゃない。復学生だ」
「ちぇー、なんだよー」
「復学って事は、玉藻戻ってくるのかよ……アイツ苦手なんだよな」
若干言い淀みながら応じた担任の言葉に、とたんに鎮火する男子達。
一部の男子に至っては、出久や狐太郎に絡んだ際に手痛い反撃を受けたことを思い出し、その体を震わせる生徒すらいる始末である。
「ただ皆落ち着いて聞いてほしい、休学していた玉藻だが個性が発現した事で体が少しだけ変化している。優しく迎え入れてやってくれ」
「マジかよアイツ無個性だったんだろ? 緑谷もかわいそうにな、無個性仲間減っちまって」
「むしろアイツがどんな姿になってるか楽しみじゃね? 顔だけは良かったしよ」
「ちょっと男子ー、酷い事言わないであげてよねー」
奥歯にものが挟まったかのような物言いの担任の言葉に、生徒達が先ほどまでとは別の意味で盛り上がり言葉を交わし合う。
その内容に真相を知っている出久は何とも言えない表情を浮かべ、勝己はつまらなさそうに机の上に両足を乗せながら舌打ちをする。
しかし、担任はそんな生徒達の様子にただ苦笑いを浮かべ、俺と同じ驚きを味わうが良いなどと言う教育者にあるまじき感情を抱きつつ。
教室の外で待っていた狐太郎は、教室の扉を開き中へと足を踏み入れる。
その瞬間、教室の中の喧騒がまるで時を止めたかのように静まる。
そこにいたのは線が細い小柄な体格の、腹黒い性格に反比例して顔だけは文句がつけられないと言われていた少年ではなく。
同じような身長、しかし女性らしい体つきで制服の上からでもわかる大きな胸と、白銀色の髪の毛と同じ色を持つ狐耳と尻尾を生やした美少女だったのだから。
静かな教室の中の空気を意に介する事なく少女は歩みを進め、教壇の上で担任の隣に立つとその口を開く。
「お久しぶりです、玉藻 狐太郎改め……個性が発現した事で女性になってしまい、玉藻
鈴を転がしたかのような、少女そのものの声音で生徒達が思考停止している間も自己紹介をする狐太郎、改め狐白。
事情を知っていた出久を除き、同級生たちは言うに及ばず、勝己すらも目を見開き顎が外れんばかりに口を開いている。
「ですが根っこは前と一緒です、変わらずにお付き合い頂ければ幸いと思います」
「というワケだお前ら、性別が変わって個性が発現しただけだから今まで通り接してやってくれ、席は前のままでいいな」
「はい、それでお願いします」
生徒達が唖然としている中、担任と狐白がトントン拍子に話を進めると。
狐白は教壇の上からいつもの席、出久の隣の席へ尻尾をゆらゆらと振りながら歩を進め……当然と言った表情を浮かべて席へと座る。
そして。
「なんじゃ、そりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」
教室どころか、中学校全体を震わせる爆発にも似た勝己の絶叫じみた咆哮が響くのであった。
このユニバースの出久君は、原作ユニバース出久君に比べて少し精神的に図太くなってます。
そして、守られるだけじゃダメだと口喧嘩が達者になり小手先の技を身に着けた不倶戴天の敵である、狐太郎が存在する勝己は冷静さと取り繕うことの大事さを少し覚えたので、結果的にマイルドになってます。
なんというご都合主義!