34話でのアンケートにご協力頂き、誠にありがとうございました。
この辺りに関係する今後の展開については、あとがきでチラっと触れさせていただきます。
時間は少し巻き戻り、出久と轟の試合が終わった後の救護室。
リカバリーガールからの治療を受けた出久は、ベッドの隣に設置された椅子に腰かけている無言で笑顔を浮かべている狐白に見詰められ、冷や汗を滝のように流していた。
何故彼女がここに居るのかと言えば、試合が終わりまるで自らへ勝利を宣言するかのように出久が左腕を掲げた後、糸が切れたかのように出久が倒れた姿を狐白が目にした瞬間。
クラスメイトが呼び止めるのも聞かず、なりふり構わない全速力で救護室へ駆け込んできたからである。
そんな彼女の事情はともかく、困ったのは針の筵に座らされたかのような出久である。
思わず視線でリカバリーガールに助け舟を求める出久だが、彼女は出久の視線を受け流して今も気絶している轟へ治療を施しており助ける様子は欠片も見えない。
「あ、あの、こーちゃん……」
「何? いずちゃん」
「ご、ごめんね……?」
「……僕の方こそごめんね、いずちゃんを怒るのは筋違いだってのはわかってたんだけどさ」
冷や汗を流し言葉を震わせながら謝罪の言葉を述べた出久に、狐白は先ほどまで纏っていた空気を霧散させ尻尾を垂らして申し訳なさそうに出久へ頭を下げる。
出久の意地も気持ちも理解しており彼の味方になると偉そうに言っておきながら、感情のままに出久へ怒りを抱いていた自身に狐白は溜息を吐き。
包帯塗れとなった出久の右腕をそっと手に取り、自身の胸元に引き寄せて彼に痛みを与えないよう留意しながら抱き締めた。
突然の幼馴染の行動と、腕全体に感じる暖かさと柔らかさに出久が目を白黒させている中、狐白は口を開いて言葉を紡ぐ。
「こ、こここ、こーちゃん?!」
「ごめんねいずちゃん、だけど……このぐらいはさせて」
誰もが持てる力を振り絞り、そして力を消耗しながらも戦い続けているこのトーナメントにおいて、疲労と引き換えに治療を施すリカバリーガールの処置とは異なる。
対象者に負担をかける事のない、狐白の治療を特定人物へかける事はある意味不公平なやり方である。
その事は狐白も理解しており、だからこそ初戦の殴り合いで出久が負った怪我も狐白は治療しなかったのだ。
そしてまた、リカバリーガールも二人の様子を若干厳しい目で見ながらも口を出さない事から、彼女の判定的にギリギリセーフであったのだろう。
「玉藻、今回は見なかった事にするよ」
「ありがとうございます、リカバリーガール」
勿論命に関わるようなら話は別だけどもね、とも言葉を続けつつ釘を刺した救護担当のプロヒーローの言葉に狐白は椅子から立ち上がり、深く頭を下げる。
「しかし玉藻、あんたの個性はあんた自身の負担は大きいが……あたしの個性よりも優しい個性だね」
「どういう事ですか?」
椅子に座り直しつつ、出久へ尻尾を差し出し始めた狐白へリカバリーガールは飴を差し出しながら、先ほど浮かべた厳しい表情を緩めて微笑む。
一方で微笑みかけられた狐白は、何のことやらと言わんばかりに首を傾げ。出久に尻尾をもふられるがままとなっている。
「あたしの個性『治癒』は、患者の体力を消耗して怪我を治すんだけどね。患者の容態や症状によっては患者の体力が持たずに死んでしまう事もあるのさ」
どこか遣る瀬無さそうに溜息を吐きながら言葉を続けるリカバリーガールに、狐白と出久は彼女が救えなかった患者の事を思い出している事を悟。
「だけどね玉藻、あんたは違う。あんたの個性はしっかりと成長させてやれば、あたし以上に沢山の誰かを救えるようになるかもしれないね」
治療系個性の大先輩であるリカバリーガールの言葉を、狐白は狐耳を動かしながら聞き入る。
そして、続けてリカバリーガールが笑いながら告げた言葉に顔を真っ赤にする事となった。
「まぁ、あんたはそこの緑谷しか目に入っていないようだがね。チューとかしたのかい?」
「ふぁっ?! な、なに言ってるんですか!」
世話焼き婆さん全開と言える表情を浮かべ……小声で狐白へ問いかけてきたリカバリーガールに、狐白は顔を真っ赤にして尻尾を膨らませると。
出久が先ほどまで両手でモフモフしていた事を忘れ、慌ただしい速度で尻尾を勢いよく左右へと振り、その結果。
「わっ、ちょっ、わぷっ……こーちゃ……っ」
まるで大型犬が勢いよく左右へ振る尻尾で往復ビンタを食らった小型犬のような状態に出久は陥り、勢いよくフワフワモフモフ尻尾による往復ビンタに晒される。
先ほどまでと比べ、一気に救護室の中の空気が緩い雰囲気になっていく中。
気絶から覚めたらしい轟が呻き声と共に目を覚まし、半身を起こして周囲を見回し始める。
「ようやく目覚めたかい、気分はどうだい?」
「リカバリーガール……そうか、俺は負けたんだな」
気絶する直前の状況と、今自身が置かれている状態から結果を察した轟は自身にかけられていた掛布団ごと拳を握りしめ。
試合を開始する前のようなギラついた闘志を目に宿しながら、先ほどまで浮かべていた危うさがなりを潜めた顔で出久へと顔を向けて。
今も狐白に尻尾ビンタを受けている出久の様子に、心の底から困惑した顔を浮かべた。
「……なぁ、一体何があったんだ?」
「わぷっ、ぼくもっ、しらなっ……あっ、ちょっと癖に……」
「チューとかそんな、僕といずちゃんは幼馴染で友達で、そもそも僕はなんというか元がアレなわけで」
心の底から解せぬと言わんばかりの表情で、出久と狐白へ問いかける轟であるも。
リカバリーガールが小声で狐白へかけた言葉を知らない出久は、ただ為されるがままに尻尾ビンタを受け続けて新たな扉を開きそうになっており。
狐白に至っては、顔を真っ赤にしながら自分でも何が何やらと言わんばかりの状態でオーバーヒートしていた。
人はこのような状況を総称して、カオスと呼ぶ。
リカバリーガールの悪戯心で少しばかり賑やかになった救護室の空気は……。
出久が心配で様子を見に来た、1-Aの面々達によって漸く打ち破られる事となる。
ちなみにすぐに出久へ声をかけに行こうとオールマイトはしていたのだが、事情を知っている出久とリカバリーガール以外の人物がいる事から入ってよいものか悩んでる内にタイミングを逃したらしい。
「あれ?皆……次の試合は?」
「先ほどの君達の試合でステージ大崩壊の為、しばらく補修タイムだそうだ」
「心配してたんだけど、デクくんも轟くんも大丈夫そうで何よりやわー」
先ほどまで狐白に尻尾往復ビンタを受け続けた自身の顔を擦りながら出久は、救護室へ入って来たクラスメイト達へ不思議そうに問いかける。
特に、飯田なんて自分のすぐ次の試合のはずだったのに、という疑問が彼の顔には書いてあったが……。
すかさず飯田が解説をしてくれた事により、出久の疑問は解決する事となった。
ちなみに狐白は先ほどまでの自分の醜態を思い出して無性に恥ずかしくなり、救護室の隅っこで自身の両手で狐耳を抑えて蹲っている。
「それよりもオイラ、隅っこで蹲ってる玉藻が気になるんだけど」
「きっと聞いたらダメな事よ、峰田ちゃん……それより轟ちゃん、凄い勢いで吹っ飛んだみたいだけど大丈夫?」
「……ああ、大丈夫だ」
そんな狐白を指差して峰田が素朴な疑問を口にするが、大方出久との間に何かあったのだろうと察している蛙吹は深く追求する事はなく。
置いてけぼりな様子を醸し出している轟の体調を気遣い、気遣われた轟は気を取り直したかのような様子で蛙吹の問いかけに対して頷いた。
「ところで緑谷君、先ほどから玉藻女史がすみっこで蹲っているのと君の両頬が赤いのは何か関係があるのかね?」
「飯田お前すげーよ、オイラでもさすがに直接訊くのは躊躇したのにお前アクセルベタ踏みなんだな」
男女の機微や事情関係を知ってるのか知らないのか不明な飯田からの問いかけ、その言葉に出久はちらりと隅っこ暮らし中の幼馴染へ視線を向ける。
その視線に気づいた狐白は、ちらりと視線を出久へ送ると目線で説明しないでお願いと懇願。アイコンタクトで幼馴染の意図を余すことなく理解した出久は静かに頷くと。
「まぁ色々あったんだけど、うん大丈夫。心配するような事はないよ」
「そうか!それならばよかったよ、試合終了後君が倒れた時の玉藻女史の狼狽っぷりは酷かったからな」
微妙にはぐらかした物言いな出久の言葉に少し不思議そうにする飯田であるが、彼が言うのなら大丈夫なのだろうと自己完結すると。
試合終了直後のクラスメイトの様子を思い出し、二人の仲がすれ違ったりしなくて済んで良かったよなどと笑みを浮かべて告げるのであった。
なおこの会話の間、羞恥プレイかと言わんばかりの状況に晒されている狐白は……自身の狐耳を両手で押さえたまま救護室のすみっこでぷるぷると震えていた。
Q.なんで狐白がオールマイトより先に出久の隣にいるの?
A.オールマイトが駆け付けるよりも早く救護室へ駆け込んだらしいよ、狐白。
前の話で取っていたアンケートですが、どうするか迷ってた展開について貴重な意見を賜れたことを改めてこの場を借りて感謝したく思います。
ただでさえオリキャラ多めな話なのに、そこに追加するのはどうなんかなぁという考えも実はあったのです。
ですが今回のアンケートで、賛否の比率がほぼ2:1だったことを考えるとアンケートで確認を取って正解だったなぁ、などと思います。
賛成に入れて頂いた皆様には申し訳ないのですが、追加オリキャラによるインゲニウム救済は避けて今後の展開を書いていきたいと思います。
(インゲニウムの救済をしないとは言っていない)