彼は僕のヒーロー   作:社畜のきなこ餅

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UAが10万突破したので更新します。
これからも頑張って更新続けます!


36.僕は君を越えたい

 

 

 出久と轟が救護室送りになっている間も試合は進み。

 切島と勝己の試合が勝己の勝利で終わった次の試合、出久と飯田の試合が始まろうとしていた。

 

 

「常闇強すぎー!」

 

「むぅ……」

 

 

 なお切島と勝己の試合の前にあった芦戸と常闇の試合は、芦戸を完封した常闇の勝利に終わっており。

 今も観客席にて、完膚なきまでに手も足も出なかった案件について芦戸が冗談交じりに常闇にゲラゲラ笑いながら絡んでいた。

 

 

「飯田くんとデクくん、どっちが勝つかなぁ」

 

「普通に考えたら、幼少期の頃からご家族のサポートも受けて個性と地力を伸ばしてきた飯田君に勝つ事は難しいかもしれないよね。だけど……」

 

「……だけど?」

 

 

 いつもの四人組の中の男子二名が、プレゼントマイクがアナウンスする中ステージ上で対峙しているのを見詰めているお茶子が心配そうに呟き。

 彼女の隣に座っている狐白は、ごく一般的な視点を交えた客観的な評価を述べる、しかしその後に続けられた意味深な結びの言葉にお茶子が首を傾げ問い返せば。

 

 

「僕はいずちゃんを信じてるからね、勝つのはいずちゃんさ」

 

「アツアツだねー玉藻さん」

 

「ち、違うよ麗日さん!僕といずちゃんは別にそう言う関係じゃ……」

 

 

 誇らしげにドヤ顔を浮かべながら言い放った狐白の言葉に、はいはい御馳走様と言いながらお茶子は苦笑いと共に心からの本音を告げ。

 その本音をぶつけられた狐白は途端に顔を赤くすると両手をばたばたと振り、尻尾をばさばさ振りながらお茶子の言葉を否定した。

 

 お茶子を含め1-Aの女子陣は狐白が抱える複雑な事情を知っているのだが、その上でもう二人は細かい事考えずくっついてしまえば良いんじゃないかな。そんな感じの意見で統一されているようである。

 そして……。

 

 

『さぁて今度は肉体派二人がどんな勝負を繰り広げるか……見逃すなよリスナー! 緑谷 対 飯田……試合開始ぃぃぃ!!』

 

『お前良くそのテンションを維持し続けられるな』

 

 

 体育祭スタートから今に至るまで、テンションがほぼノンストップなプレゼントマイクが激しく試合開始の合図を告げるとほぼ同時に。 

 駆け出した出久と飯田がステージのほぼ中央で、互いの足を激しく交差させた。

 

 意外にも飯田は今までの試合と異なりレシプロバーストの使用をしておらず、出久もまたその肉体に纏う雷光はそれほど強くない状態で。

 まるで剣豪が刀を構え、剣先をぶつけあって牽制しあうかのような構図を作り出していた。

 

 

『おおっとぉ!飯田、ここで意外にもあの高速移動を使わずに真っ向勝負だぁ!!』

 

『飯田もあの速度を御すのは難儀していそうだったからな、この大会有数のインファイターである緑谷相手に使用するのは愚策と判断したんだろうな』

 

 

 ハラハラとした様子で狐白とお茶子が見守る中、出久と飯田は歯を食い縛りながら拳と蹴りを激しく交差させて力を競い合う。

 時に飯田が脚部のエンジンを噴かせながら激しく後ろ回し蹴りを放てば、出久はぎりぎりまで身を屈めてその一撃を躱すと全身のバネを使って飯田へ掌打を打ち込む。

 そうかと思えば飯田は掌打の衝撃が自身へ突き刺さる瞬間に、蹴りを放つための軸足に目いっぱい力を込めてバク転をするかのような動きでその攻撃を回避して見せた。

 

 少し瞬きするだけで目まぐるしく互いの立ち位置と戦局が変わっていく試合に、観客達は目を見張りステージ上の二人へ激しい歓声を送り始める。

 一方でステージ上の二人は互いに息を荒くしながらも、不敵に笑みを浮かべて視線をぶつけ合い……。

 

 

「さすがだね緑谷君、入試の時からは見違えるぐらいの上達ぶりだよ」

 

「ありがとう飯田君、飯田君こそとんでもない速さでこっちは対応するので精一杯さ……!」

 

「君が武術の指導を受けていると聞いてね、俺も兄さんから指導を受けていたのさ。君を越える為に!」

 

 

 仲の良い友人でありながらも今は互いを蹴落とさねばならないライバル同士、だからこそ二人の少年は不敵に笑い合いながら相手を認め合いつつも勝つのは己だと表情で語り。

 互いに息が整った瞬間、どちらからともなく駆け出すと己が積み上げてきた全てをぶつけるかのように、激しく拳や蹴りをぶつけ合っていく。

 

 飯田は徹頭徹尾自身の機動力や脚力を生かした攻撃を、息つく暇も出久へ与えない為に激しい連続攻撃を加え続け。

 出久は身を捻って激しい攻撃をかわし、時に受け流した事で掴んだ飯田の脚へ関節技をかけようとすれば、飯田はその大柄な肉体を生かして力任せに出久を振り回して強制的に関節技を振り解く。

 その状況は一見して、攻撃のチャンスが少ない出久が不利に見える光景であった。

 

 

「おいおい飯田が止まんねぇぞ、アレ緑谷やべーんじゃねーの?!」

 

「いや待て瀬呂よく見ろ、緑谷はギリギリで躱したり受け流してて殆どダメージ食らってない。むしろ要所要所でカウンター食らってる飯田の方が苦しいんじゃないのかな」

 

「なんでわかんだよ尾白」

 

「俺も格闘技やってるからな」

 

 

 嵐と表現するに相応しい連撃を放ち続ける飯田の様子に、瀬呂は冷や汗を流しながら隣へ座っている尾白へ語り掛ける。

 しかし尾白はこの攻防を一瞬たりとも見逃さまいと言わんばかりに、ステージから視線を外すことなく瀬呂に応じ……瀬呂からのツッコミに誇らしげに笑う。

 

 

「そこだー!やれぇ飯田ぁぁぁ!」

 

「負けるな緑谷!ジャブだジャブ打て!!」

 

 

 一方で峰田は個人的嫉妬から飯田へ拳を振り上げながら熱い声援を送り、その辺りの事情はあんまり気にしてない切島は拳メインな出久へ熱い声援を飛ばす。

 そして今もステージ上の出久が飯田が放った激しい蹴りを刹那の見切りで躱し、直後に摺り足で踏み込んで飯田の鳩尾へ激しい肘撃ちをねじ込もうとする。しかし。

 

 

「かかったな!緑谷君!!」

 

 

 蹴りを放った直後の姿勢のまま飯田は不安定になる筈の状態で、出久の脇腹にその逞しい腕を激しく叩きつけると同時に脚部エンジンの出力を急速に上げてレシプロバーストへ移行。

 今まで足技メインだったことから……無意識に飯田の腕への警戒が緩んでしまっていた出久は為す術もなく叩きつけられた腕で激しく掴まれ、独楽のように激しく回転する飯田に振り回されてしまう。

 

 

『おおっとー!ここで試合が動き始めたぞーー!!』

 

『試合開始から今まで足技メインに徹する事で緑谷の意識をそちらに向かせていたか、やるな飯田』

 

「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 ここで決められなければエンジンが一分弱使用不可となり、そうなってしまえば巻き返しは困難である飯田はここで試合を決める為に更に出久を振り回すと。

 裂帛の気合を込めた雄叫びと共に、出久を場外へ向けて全力で放り投げた。

 

 振り回された影響で三半規管が大きく掻き乱され、上下左右の間隔があやふやとなった出久は吐き気を堪えながら必死に思考を回す。

 投げ飛ばされた勢いは激しくこのまま何もしなければ場外へ落ちるのはほぼ確定、しかし今この瞬間何かをしようにも視界が定まらない。

 

 故に出久はここで大博打に出る事に決めた。

 

 

「負けて、たまるかぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 その口から感情そのものと言える雄叫びを上げた出久は、後少しで場外へ落ちる瞬間まで自身の平衡感覚が戻るまで僅かな時間であるが心を落ち着けながら耐え。

 空中で腰から下に限界ギリギリまでワンフォーオールを発動させながら、身体が進行方向である場外の方へ向いた瞬間にその脚を全力で蹴りぬいた。

 

 

『緑谷苦し紛れの一発を放つが抵抗空しく逆方向に暴発ぅぅぅぅ!!』

 

『いや……違うなよく見てみろ』

 

『へ? お、おおおおおおお!? 緑谷あの瞬間の蹴りで放った空圧でギリギリ踏み止まったぁぁぁぁ?!』

 

 

 無理矢理空中を足場にするかのように、己が放った蹴りの風圧で耐え切れないかという出久の大博打は辛うじて成功に終わる。

 だがその代償は大きく、この試合の間は激しい踏み込みを含めた行動に制限がかかるのは否めず機動力低下は避けられない状態であった。

 

 

「うおぉぉぉマジか緑谷?!」

 

「やっべぇすっげぇカッケーぞ何あれ?!」

 

 

 負け確定と思われた出久が咄嗟に取った手段とそれが齎した結果に、砂藤は目を見開き口をあんぐりと開きながら驚愕の叫びを上げ。

 滅多に見れないようなスーパープレイを見せられた上鳴は大はしゃぎしながら、出久の行動を称える。

 

 そしてその感動は1-Aのクラスメイトのみならず、観客達も共有しており。

 ギリギリで見せた出久のPlusUltraな行動を、爆発的な歓声で褒め称えた。

 

 

「今ので決まったと思ったのだが……さすがだな、緑谷君」

 

「正直、いちかばちかだったよ。飯田君……その様子からもう、レシプロバーストは使えないんじゃないの?」

 

「ああそうだね、だけど俺は……いや。僕は君を越えたい、だからこそ最後まで付き合ってもらうぞ!」

 

「望むところだよ、飯田君!」

 

 

 脚部のエンジンをエンストさせた飯田が苦笑いを浮かべ、眼鏡を指で押し上げながら出久へ素直な賞賛を贈る。

 出久もまた一世一代の大博打を成し遂げた感覚に未だ心臓を激しく鳴らしながらも、飯田の状況を正確に読み取って突きつけるが……。

 必殺技を破られ不利になったからと言って、諦められるワケがない飯田は戦意高らかに出久へと突進を始め、出久は構えを取り直して強敵を迎え撃つ。

 

 互いに疲労し最大限のパフォーマンスを発揮できない状況下、だが二人の少年は全力で残っている力全てをかけて全力で力を競い合う。

 そして、その戦いは一瞬のスキをついて今まで何度も出久の窮地を救ってきた正拳突きが飯田の体へ突き刺さった事で、終わりを告げた。

 

 

『飯田戦闘不能! 緑谷危うい所があったが見事な機転で打ち破った事で決勝戦へと勝ち上がりだぁぁぁぁぁ!!』

 

 

 出久の一撃が刺さり、ステージ上に大の字になって倒れた飯田へ主審のミッドナイトが駆け寄り……大きく両手を交差させたことで二人の試合が終了。

 少年二人の熱い戦いに中てられたプレゼントマイクは、高いテンションで絶叫するかのように出久の勝利を告げた。

 

 




書いててふと気づいたのですけど……。
デク君と飯田君って、多少口論することはあっても拳で語り合う事って原作中ないんですよね。
見落としてるだけかもしれないけど!

そして昨日更新分のやんでれこーちゃんが好評で草生えました。
ちょくちょくとアレもやっていきたいと思っておりますので、ご期待ください。

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