今回の各サブタイトルの元ネタわかったら、凄いかもしれない。
【雌狐総進撃】
ある日のこと、狐白は母親に連れられ実家である祖母の屋敷へとやってきていた。
日課である出久の観察やハグからの臭いつけやら出久成分の接種を邪魔された狐白は、当初は不機嫌そうに尻尾をゆらゆらと揺らしていたが……。
その機嫌は、いつも以上ににこやかな笑みを浮かべていた祖母と対面し告げられた言葉で、霧散する事となる。
「ごめんね狐白ちゃん、急に呼びつけるような真似して……早速だけど、狐白ちゃん緑谷ちゃんの事が大好きなのでしょ?」
突然の祖母からの言葉に目を見開き、下降していた機嫌を霧散させた狐白は即座に思考を切り替える。
代々稲荷の個性を強く発現させた一族の女性が当主となる玉藻家において、彼女の母が当主になる気が欠片もない今もっとも当主に近いのは直系である狐白。
まさか、出久との交際は認められないと言われるのではないかとまで考え、危惧した少女は座ったまま身構える。
「そんなに怯えなくてもいいわよ? 緑谷ちゃんなら狐白ちゃん任せても良いと私は思ってますからね」
だが海千山千の修羅場を潜って来た狐白の祖母にとって、そんな孫娘の警戒心などむやみやたらと吼える仔犬のような可愛いものでしかなく。
狐白の危惧とは相反するどころか応援するような発言まで口にし、狐白は言葉を返すことなく油断なき瞳で祖母の顔を見詰める。
「無理に交際する事を否定しても、あの時の娘みたいに飛び出されるのは目に見えてますからねぇ」
くすくすと微笑みながら祖母、血桜が視線を狐白の母である糺狐へ向ければ……向けられた母は気まずそうに目を逸らす。
どうやら狐白の知らない部分で、彼女の両親は情熱的なドラマを繰り広げていたらしい。
「そもそも私達の一族は昔から、個性が持て囃されるようになるはるか前から一度男性へ惚れ込んだら、脇目も振らない生き物ですし。色々言うのは野暮というものです」
私もあの人と結ばれる為に色々とやらかしたモノですわ、などと呑気に呟きながら血桜は着物の袖で口元を隠しながら愉快そうに笑い声を漏らすと。
ちなみに余談であるが、この話を頭から否定するであろう狐白の祖父は話が始まる前に伴侶である血桜の手で眠らされている、酷い話だ。
「玉藻家当主として尋ねます。 糺狐、あなたから見た緑谷ちゃんはどんな男の子ですか?」
「はい、お母様。出久君は無個性であるが故に虐げられた過去から卑屈な面がありますが、それでも他者への優しさや勇気を決して忘れないとても心が強く……好感を持てる男の子です」
「よろしい、力が足りないのなら全力で鍛え上げれば良いのです。狐白ちゃん、私はあなたの祖母として……そして当主としてあなたの恋路が成就するよう全力を以て協力しましょう」
嘘偽りは許さないという眼光を宿した己の母の視線に、狐白の母である糺狐は正座したまま背筋を伸ばすと彼女から見た出久と言う少年について隠す事なく血桜へと報告する。
実の母がそんな具合に幼馴染を見ていた事に驚きながらも、個性の有無に囚われることなく出久を良い方向に見てくれた事に無意識に安堵し。
母からの報告を受け取った祖母が、少し考え込んだ後交際を許可する旨を出してくれた事に、狐白は尻尾を激しく振りながらその顔を輝かせる。
なおこの場に狐白と出久の二人がまだ正式に交際していないという事実を否定する人物は一人もいなかった、強いて言うなら狐白の母が思う事はあれども母である血桜の眼光に押し負けて言えなかったという有様である。
一方その頃、出久は水着を着た獣系個性持ち女性ヒーローの写真が表紙を飾っているグラビア雑誌を買うかどうか、欲望と理性の狭間で激しく葛藤していた。
【やんでれ時限爆弾】
中学三年生のある日の休日。
その日は引率のオールマイトこと八木が外せない用事がある関係で、早朝訓練後は自習トレーニングとなった。
決してオールマイトが狐白の目力に負けたとかそんなワケではない、ただまぁ普段から厳しいトレーニングを続けているから自習と言う名のお休みでもよいかなと思っただけである。
当初こそ玉藻家の庭で組手やらなんやら、をやるところだが……。
「根を詰めっぱなしなのは良くないよいずちゃん、折角のお休みだしゆっくりしようよ」
「あ、うん、そうだねこーちゃん。オールマ……じゃなくて八木さんにもオーバーワークは良くないって言われたし」
そんな具合の会話を経て、最終的に出久の家で前みたいにのんびり一緒にヒーローの動画を見るという方向で話は落ち着いたのだ。
なお狐白は言うほどヒーローに興味がないのは変わりなく、むしろ目を輝かせて説明する出久を見たいという若干どころじゃない不純な動機なのは言うまでもない。
というわけで早朝トレーニング後、一旦二人はわかれて各々の自宅へ帰宅。
出久は汗まみれになった体をシャワーで洗い流し、狐白はその日も回収した出久の汗と臭いが沁み込んだタオルを手に自室の布団で謎のモゾモゾを行った後シャワーで体の火照りを洗い流す。
そして昼食を摂ったお昼過ぎのぴったり一時に、狐白は緑谷家の呼び鈴を鳴らして彼の家へとお邪魔するのであった。
若干どころじゃないぐらい出久の警戒心が薄いと思えるが、実際問題彼にとって狐白は変わる事のない大事な友人であるし。
スキンシップやら何やらが激しくなったとは言え、彼女との交流を拒むという選択肢は出久にはないのだ。
もしかすると、ほんの少しであるがそのスキンシップというか女体との触れ合いを出久が望んでいるかもしれない、しかしそこまで言うのは最早野暮である。
「飲み物とってくるね、適当にゆっくりしててねこーちゃん」
「うん、ありがとうねいずちゃん」
この日は偶然にも狐白の母が仕事関係で手に入れたエステのチケットを引子へ渡した事で、ママ友同士で自分へのご褒美日帰りツアーに出かけていた為家には出久しか居らず。
出久に迎えられ幼馴染の家へ上がった狐白は、出久の部屋へ足を踏み入れるといつものように定位置と言える、出久のベッドへと腰掛けて上機嫌そうに尻尾を揺らし……出久は飲み物を持ってくるために、一度部屋から退出する。
ちなみに狐白の母と引子は、無個性の子供を持つママ同士な関係で割と普段から色々と交流をしていたりする。
その関係からママ友からチケットを渡された引子は最初は悪いと言って断ったものの、たまには良いでしょ?という友人の言葉に満更でもない様子で受け取り、共にお出かけする事となったのだ。
「……えへへ」
出久が部屋を出ていった後、狐白はへにゃりとだらしない顔を浮かべるとその体を出久のベッドへと倒し、ベッドや枕に染み付いた彼の臭いを深呼吸する事で堪能し始める。
その尻尾はどこか蠱惑的に見える仕草でゆらりゆらりと揺れており、少女は己の豊満な乳房を含めた体を彼のベッドへと擦り付ける事で、まるで臭いづけをするかのような仕草をする。
控え目に言って何も知らない第三者から見ると十分アウトな光景なのであるが、ここで出久は己のポカミスと言う名の不幸を引き当ててしまう。
それが何かと言うと、手に入れてから毎日欠かさず目を通している女性ヒーローの写真が何枚も収められたグラビア雑誌……ソレをうっかり枕元の掛布団の下に置きっぱなしにしてしまっていたのだ。
当然出久のベッドの上でぐりぐりごろごろと動いている狐白は、その感触に気付くと不思議そうな顔を浮かべる。そしてそれが何だろうと思うと出久に悪いと思いながらベッドを漁り始め……。
そして、出久がこっそり購入したソレを手に取ってしまうのであった。
【発情雌狐の恐怖 出久大ピンチ】
「なんだろ?コレ」
出久がこんな雑誌を読んでいたという事実に、グラビア雑誌への嫉妬を露わにして瞳のハイライトを消しながらベッドに腰かけ直した狐白はパラパラと雑誌を捲り始め……。
すぐに瞳のハイライトを戻し、どこか嬉しそうな表情を浮かべて尻尾を激しく振り始める。
何故狐白が機嫌を急速に良くしたのか、その理由は至極単純な話である。
特に何度も読み込まれたであろう折り目のついたページが、軒並み狐白のような耳と尻尾を持っている女性ヒーローの写真だったからだ。
そこに気付いて更に雑誌を狐白がチェックしてみれば、続いて折り目がついているページは巨乳の女性ヒーローの写真であった。平たく言うと出久の性癖がモロバレな状態である。
「こんな格好したら、いずちゃん喜んでくれるかなぁ?」
にへら、と他所様に見せられないだらしなくも蠱惑的な笑みを狐白は浮かべるも、出久が戻ってくる足音を自身の狐耳が拾うと即座に雑誌を閉じて元あった場所へと戻す。
色々と聞きたい事はあれども、その現物が自身の手元にあっては出久も落ち着いてられないであろうという配慮に基づいた行動であるが、そもそも男子へ性癖について女子が尋ねるという時点でだいぶアウトである。
「お待たせこーちゃん、麦茶で良かったかな?」
「急にやってきたんだから、そんな気使わなくてもよいのに。ありがとうねいずちゃん」
両手にそれぞれ飲み物が入ったコップを持って来た出久にお礼を言いつつ、狐白はベッドに腰かけたままコップを受け取るとその中身を一口味わう。
初夏頃である時期にしては暑い日にぴったりと言える清涼感に、狐白は頬を緩めながら出久の勉強机へ飲みかけの麦茶が入ったコップをコトリと置くと。
「ねぇねぇいずちゃん」
「?」
「いずちゃん、やっぱりおっぱい大きい女の人が好きなの?」
「ぶっふぅぅぅぅぅ!?」
椅子に座りぐいぐい麦茶を飲んでいる出久の顔を覗き込むように前かがみになりながら、とんでもない発言をぶち込んだ。
幼馴染からの突然な発言に出久は目を見開き、勢いよくその口から麦茶を噴き出し狐白へとぶっかけてしまう。
「ひゃぁっ」
「げほ、ごほ……ご、ごめんこーちゃん! というか藪から棒に何言い出すのさ?!」
麦茶を直撃させてしまった幼馴染へ、出久は咳き込みながら謝ると同時に突然トンチキな事言い出した幼馴染へ思わず叫ぶ。
出久の脳裏に浮かぶのは、まさかあの雑誌がバレたのではないかという危惧。そういえばあの雑誌隠すのを忘れていたという事まで気付くと出久は血の気が引くような思いをする。
「え、だって……その、ベッドの中に女性ヒーローの写真がたくさん載った写真集があったよ?」
「ノォォォォォォォォォ?!」
外れていてほしいという出久の願いと想い、だがしかしソレは届くことなく無慈悲な回答が麦茶に濡れた幼馴染の口から紡がれ。
やらかしたという悔恨とバレてしまったという焦り、幼馴染に幻滅されるんじゃなかろうかという恐怖がない交ぜになった出久はとある名画のように両手を頬に中てて絶叫。
しかし、その後に狐白の口から紡がれた言葉は出久の斜め上を突き抜け、遥か彼方へかっとんでいくかのような発言であった。
「いずちゃん……僕のおっぱい、見たい?」
「ファッ?!」
顔を赤くし恥じらいながら、幼馴染の口から紡がれた言葉に出久の思考回路はショート寸前。
しかし本能は忠実なモノで狐白の言葉は彼の脳に余すところなく刻まれ、出久の視線は麦茶で濡れた事で白いブラウスが狐白の肌に張り付き下……着まで薄っすらと透けて見えている彼女の胸へと吸い寄せられる。
何がどうなったのだという混乱に陥る出久の脳、まさかコレは自分が見ている夢ではないかと言う想いまで頭を過る中。
狐白は未だに彼自身の頬へ当てられていた彼の右手首を手に取ると、少し躊躇いながら……自身の豊満な胸へと押し当てる。
彼女の豊満な胸へ押し当てられた出久の右手、その手からは彼女の肌にはりついた衣服や下着の感触と共に確かに柔らかくて温かい、いつまでも感じていたいような本能に訴えてくる感触が出久の脳へと伝達された。
その後狐白は色々あった末に出久の夕食を幸せそうに甲斐甲斐しく手作りし、共に食事をした後……洗濯と乾燥が終わった服を身に纏って出久に連れ添われながら家へと帰っていったそうな。
少しだけ狐白が歩き辛そうにヒョコヒョコ動いていたけども、その顔は動きとは裏腹に満ち足りた多幸感に満ちた表情を浮かべていたらしい。一体ナニがあったんだろうね、二人に。
怒られたら消します。
え?二人とも未成年だけどいいのか? 大丈夫さ多分きっと恐らく。
いや大丈夫じゃねぇなうん。
ちなみに祖母との問答は、本編ユニバースではまだやってません。
あっちは狐白が出久への感情が、女性から男性へ抱く感情なのかどうかが自分でもはっきりしてないからね!