彼は僕のヒーロー   作:社畜だったきなこ餅

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37.傲岸不遜な宣戦布告

 

『ここまで圧倒的な試合運びを崩してこなかった常闇、まさかまさかの大苦戦だーー!』

 

『広い範囲をカバーして対応できる常闇の個性の強みが、徹底的に爆豪の爆破で封殺されているな』

 

 

 出久と飯田の試合が終わり、出久が勝利を収めて決勝へと勝ち進んだ次の試合である常闇と勝己の試合がステージ上で激しく繰り広げられている。

 双方共に個性に恵まれた優秀な学生、そうなると強い影響が出てくるのが個性の相性であった。

 

 

「ああ、常闇君のダークシャドウがまた吹き飛ばされた!」

 

「なんか気のせいかダークシャドウ、涙目になってるように見えるね」

 

 

 そして今も観客席から固唾を飲んで見守る出久の視線の先で、勝己が放った爆破でダークシャドウが大きくのけぞっており。

 彼の隣に座る狐白は試合の内容にコロコロと表情を変える出久の横顔をチラチラと見ながら、ふと視線で捉えたダークシャドウの様子にまぁそうなるよねなどと思いながら言葉を漏らす。

 

 常闇の個性であるダークシャドウは暗所であればあるほど強く狂暴になる性質を持っているが、一方で強い光に晒されると弱体化し弱気になるという性質を持っている。

 日光下ぐらいなら戦闘力にさほど影響は出ないとは言え、今まさに爆破と合わせて強い閃光を絶えず浴びせられている現状は、ダークシャドウにとって……そして常闇にとって最悪と言える状況であった。

 

 そのまま試合は勝己の優勢が揺らぐことなく進み、そして常闇は健闘するも及ばずに顔を掴まれて投了をせざるを得ない結末に終わってしまう。

 

 

「……爆豪が、勝ったな」

 

「あ、轟君……そうだね。やっぱりかっちゃんは強いや」

 

「幼馴染なんだってな、昔からあんななのか? 爆豪は」

 

「あー……うん、割とあんな感じ。嫌な所もあるし乱暴者だけど、いつも皆の先頭にいるんだよね」

 

 

 4人組みで並んで観戦していた出久の背後から、ひょっこりと現れた轟が勝己について出久へと問いかけると。

 今まで自発的に交流する気配のなかった轟が話し掛けてきた事に出久は驚きながらも、長い付き合いがあるが故に言える内容を轟へ教える。

 そして、勝己を切っ掛けとして始まった二人の会話は先の試合についての互いの健闘の称え合いへと移っていく。

 

 一方で出久の隣に座っている狐白は、幼馴染の交流が広がったことを素直に喜びながらも同時に、何とも言えないモヤモヤを抱えて尻尾を不機嫌そうにゆらゆらと振っていた。

 先ほどの救護室にてリカバリーガールに揶揄われた事もあり、変に幼馴染の少年を意識してしまっている状態な模様。

 

 

「あ、玉藻さんがまるで彼女をほったらかしにして友達と話し込んでいる彼氏を見てるような顔してる」

 

「麗日女史、随分と具体的すぎる表現をするな……」

 

 

 そんな狐白の様子を観察していたお茶子は内心で乙女か!などと勢いよくツッコミを入れながらもそんな事を呟き。

 彼女の呟きが聞こえた飯田は、眼鏡を押し上げながら何とも言えないような表情を浮かべ。

 

 次の瞬間激しくその全身を震わせた、例えるならばマナーモード飯田と表現するに相応しいほどに。

 

 

「うわぁ何だ?!」

 

「どうしたの急に?」

 

「……大丈夫か?」

 

「電話だ」

 

 

 突如全身を震わせた飯田の様子に話し込んでいた出久と轟は驚き、狐白もまた首を傾げながら怪訝そうな表情を浮かべれば飯田はポケットから携帯電話を取りだすと。

 母親からの着信を示す物が液晶に表示されており、友人らへ少し席を外す旨を伝えると電話を片手に声を聞き取り易いであろう静かな方へと歩いて行った。

 

 

「……携帯のマナー着信で、あんなに揺れるものなのか?」

 

「もしかすると飯田君は、ロボなのかもしれない」

 

「なるほど」

 

「待って麗日さんさすがにソレは酷いって、というか轟君も納得しないで?!」

 

 

 そんな飯田の後ろ姿を見送った轟が、素朴な疑問をぽつりと呟けばお茶子が冗談を飛ばし。

 お茶子の言葉に割と純朴な所がある轟は素直にうなずいて納得をしてしまった為、出久は友人の誤解を解くために慌てて二人へと声をかけるのであった。

 そして狐白は何となくだが、座ったまま少しだけ移動しさり気なく出久との距離を詰めたりしていた。

 

 この時4人はすぐに飯田が戻ってくると信じて疑わなかった、しかし。

 その後飯田が戻ってくる事は無かった。

 

 

 しかし一部の思惑や心配を他所に準決勝後の少しの休憩時間を挟めば、やってくるのは決勝戦。

 出久はクラスメイト達に激励されながら控室へと向かい、狐白は当然と言った顔で彼に付き添い出久の控室へと向かう。

 

 アレ良いのだろうかと一部のクラスメイトは思わなくも無かったが、今までの試合で摘まみだされていない様子からセーフなのだろうという事で、納得する事にしたらしい。

 なお、峰田を含む一部男子生徒は嫉妬の炎を激しく燃やしていたりするが、この後の試合には特に影響はない。

 

 

「……どうしようこーちゃん、ふるえがとまらない」

 

「うん、むしろ控室に入るまでよく耐えたねいずちゃん」

 

 

 控室に入りパイプ椅子に腰かけた瞬間、先ほどのマナーモード飯田なんて目じゃないぐらいに激しく震え始める出久の様子に狐白は柔らかく笑みを浮かべると。

 彼の隣にパイプ椅子を置いて座り、出久へ己の手入れをかかさないふかふかな尻尾を差し出した。

 

 

「ありがとう、こーちゃん」

 

「気にしないで、だけどいずちゃん僕の尻尾好きだよね」

 

「その、なんだか触ってくると落ち着くんだよね……今度何かお返しするね」

 

「んーー、それなら尻尾の毛繕いしてもらおうかな。一人だとやっぱり大変なんだよね」

 

 

 最初は遠慮がちに両手で狐白の尻尾へ触れていた出久は、触っている内に落ち着いてきたのか尻尾をもみ込むようにしながら……毛を梳くような指捌きで狐白の尻尾を撫でていく。

 狐白はと言うと出久の言葉に冗談っぽい調子で返しているが、実際は出久も意図してないところで尻尾弄りのテクニックが上昇している関係か、時々甘い声を漏らしそうになるのを必死に堪えていたりする。

 

 選手呼び出しのアナウンスがかかるまでの間の、僅かな時間に流れる二人だけの時間。

 互いが互いを意識しながら性別に関する複雑な事情もあったりする二人が、何となく時間を過ごしていた心地よいそんな空間は突如暴君が控室の扉を蹴り開けた事で終わりを告げた。

 

 

「ア゛? 何でデクと陰険狐目がここに!?」

 

「かかか、かっちゃん!?」

 

「いやその言葉そっくりそのまま返してあげるよ? このクソ煮込み爆発頭」

 

 

 居るとは思わなかった出久と狐白の姿に、こいつら俺の控室で乳繰り合うとは良い度胸じゃねぇかと一瞬勝己は考えるも、蹴り開けたばかりの扉への印を見て部屋を間違えた事を悟る。

 一方でデクは目玉が飛び出るんじゃないかというぐらいに驚き狼狽し、狐白はと言うと心地よい二人だけの時間と空間を芸術的と言えるまでに木っ端みじんに爆砕した幼馴染へジト目を向けている。

 

 

「か、かっちゃん!決勝戦では頑張ろうね!」

 

「うるせぇ調子に乗ってんじゃねぇぞクソナード!ブチ殺すぞ!」

 

「あーやだやだ、二言目には殺すとか何とか……君はその濁り切った品性と人格を漂白する事から始めるべきじゃないの?」

 

「あ゛?!」

 

 

 狼狽しながらも精一杯の言葉を発した出久を威嚇するかのように勝己が歯を剥き出しにして咆哮すれば、狐白が悪意の籠った笑みを浮かべて口元を隠して勝己を全力で煽り嘲る。

 割と中学校時代の幼馴染三人組が、狐白が性転換する前から繰り広げていた彼らを知る人物にとってはなじみ深すぎる光景であった。

 

 

「デクより先にてめぇぶっ飛ばしてもいいんだゾ? 陰険狐目ぇ」

 

「おー怖い怖い、君はこんなか弱くて清廉潔白な学生を暴力で虐げると言うのかい?」

 

「ギギギギ」

 

 

 殺意と憤怒を欠片も隠すことなく勝己は狐白へ凶悪な表情と共に脅迫じみた宣告をすれば、狐白は欠片も怯えることなく真正面から詭弁を弄して受け流す。

 ちなみに中学生時代は割と勝率はトントンである、狐太郎時代の彼女は割と盤外戦術まで持ち出してくるからタチが悪いのだ、なお直接戦闘では逃げの一手から繰り出すカウンター関節技が決め手である。

 

 

「……クソが!今回は見逃してやんけどデクとの決着の邪魔だけはすんじゃねーぞ!?」

 

「そんな野暮な真似しないさ、ソレはいずちゃんへの冒涜でしかないからね……ところでさ、一つ良いかな? 『爆豪』」

 

「……ンだよ、『玉藻』」

 

 

 口喧嘩では分が悪いと判断した勝己は、出久へ何事か告げようとするがその前にかけられた狐白からの呼びかけに、その動きを止めると。

 互いに普段は罵倒じみた呼び方しかしないが故にこそ、滅多にされないちゃんとした狐白からの呼びかけに勝己は不機嫌さを隠す事なく視線だけ狐白へと向ける。

 

 

「僕が女の子になってしまってから、一度もホモ呼ばわりしてないのとさ……クラスメイトに僕が性転換したこと言いふらさないのは、どういう風の吹き回しだい?」

 

「ハン!そんなくだらねぇ事聞く為に俺を呼び止めたってのかアァン?! ンなクソくだらねぇ陰口じみた事やれるかボケ!」

 

「……え、ちょっと、それ本当? そこまで配慮出来る感性有ったなら、もう少しいずちゃんに優しくなりなよ君」

 

「うっさいわボケ!」

 

 

 心から不思議そうに問いかけられた狐白からの言葉に、そんなくだらない事聞いてくるんじゃねぇとばかりに言い返す勝己。

 驚いたのは問いかけた本人である狐白である、まさかそんなまともな理由だとは欠片も思っていなかったらしい。

 

 そんな失礼極まりない狐白へ言うだけ言うと、勝己は出久へ指を突きつけてその口を開く。

 

 

「デク、てめぇが出せる全力で来やがれ。俺はソレをまとめてぶっ飛ばして一位になってやる」

 

「……うん、わかったよかっちゃん。僕は……僕が出せる全力で君に勝ってみせる」

 

「クソ生意気な事言うじゃねぇかデク、腑抜けた真似したらぶっ殺した後にもう一度ブチ殺すからな!」

 

 

 傲岸不遜極まりない宣戦布告、その言葉を受けたデクは戦意を顔へ漲らせると力強く頷き幼馴染からの宣戦布告を受け止め。

 自分自身も負けるつもりは欠片もないという意思を込めて、勝己の眼光を真正面から受け止めて視線だけで互いに火花を散らした。

 

 その後言うだけ言って満足した勝己は乱暴な足音を立てながら控室から出ていき、後に出久と狐白の二人だけが残される。

 そして、ふと何かに気付いたように狐白が呟いた。

 

 

「そう言えば、ホモ呼ばわりをやめた理由聞いてないや」

 

「……こーちゃんって、割とマイペースだよね」

 

 

 呑気な幼馴染の少女の言葉に出久はずっこけそうになりながらも、どこか肩の力が抜けた自然体な笑みを浮かべると。

 今先ほどまで触りっぱなしだった狐白の尻尾から右手を離し、その手を握りしめてずっと背中を追い続けてきた幼馴染との闘いの舞台となる決勝戦へ向けてその戦意を激しく燃やすのであった。

 

 




Q.かっちゃんがホモ呼ばわりやめた理由って何?
A.詳しくは本編でかっちゃんの口から言わせるつもりだけど、もう見た目的にホモじゃないからだよ。

本当はこの話でデク君とかっちゃんの決戦をやる予定だったけど、次回冒頭からの決戦にする事にしました。
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