彼は僕のヒーロー   作:社畜だったきなこ餅

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38.鏡合わせでありながら対極に位置する者

 

 

 観客席からの歓声が聞こえてくる、選手用通路。

 今その場にはアナウンスで呼び出された出久の隣に、痩せこけたトゥルーフォーム姿の八木が並んで歩いていた。

 

 

「緑谷少年、君は何度も私を驚かせてくれるね」

 

「……いえ、全部こーちゃんやオールマイト達のおかげだから、僕は」

 

「おーっとその先はナンセンス過ぎるから言わせないよ、君の自己評価の低さは相変わらずだね!」

 

 

 ある意味ミスターネガティブだよ!とまで豪快に笑いながら言い放ってくるオールマイトに、自分自身ではそんな自覚など無かった出久は肩を落としつつ。

 即座に笑いを止め、真面目な表情を浮かべたオールマイトはその傷だらけの手を出久の肩へ乗せ、出久の脚を止めさせて彼の目を真正面から見詰めて口を開く。

 

 

「確かに切っ掛けは君に託したワンフォーオールや、玉藻女史の支えだったかもしれない。しかしそのチャンスを逃がさずに食らいつき、ここまでやってこれたのは紛れもなく君自身の力だ」

 

 

 オールマイト自身も力んでしまい、世間一般に認知されているオールマイトの姿であるマッスルフォームへと変わりながらナンバーワンヒーローは語る。

 君は何一つ間違っていない、恥じ入るものなど何もないのだと。

 

 憧れの存在からのその言葉に出久は感激し、口元を震わせて歓喜の涙を目尻に浮かべ。

 オールマイトはそんな涙脆い後継者の姿に優しく豪快に笑い声を上げると、強引に出久の体の向きを入場口の方へ向けて背中を力強く叩く。

 

 

「さぁ行くのだ緑谷少年、皆が君を待ってるぞ!」

 

「~~~~っ! はいっ!!」

 

 

 オールマイトの言葉に出久は袖で涙を拭い、振り返る事なく入場口へと駆けていく。

 まるで輝かしい未来へ走り出すかのようなその背中にオールマイトは満足げに笑みを浮かべると、咳き込むと共にトゥルーフォームへと戻り……小さく呟いた。

 

 

「玉藻少女のおかげで予想より長く活動できそうとはいえ、私も早い段階で何か必殺技を緑谷少年へ伝授すべきかな」

 

 

 想定以上どころじゃない成長を見せた出久の姿に、オールマイトは観戦の定位置と化した入場口の陰へこっそり移動する。

 決して、後継者が使う技が自分の師匠の友人であるおっかない人らから伝授されたモノばかりな事に嫉妬したわけではない、多分。

 

 

 

『さぁいよいよラスト!今大会を盛り上げに盛り上げてくれた二人が主役の決勝戦だ!』

 

「デク、てめぇはいつもいつもよえー癖に俺の後ろをチョロチョロチョロチョロついてきてたよなぁ?」

 

「うん、そうだね。僕は君の背中をいつも見てきた」

 

 

 観客達の興奮は最高潮、プレゼントマイクの司会も絶好調。

 出久、そして勝己の名前を叫ぶようにして飛んでくる応援を聞きながら、二人の少年は静かに言葉を交わす。

 

 

『泣いても笑っても勝者は一人!今年の雄英一年の頂点がここで決まるぞぉ!!』

 

「無個性のデクの癖によ。その上俺の心配までするとか随分舐めた態度とってくれたじゃねぇか」

 

「そりゃ幼馴染だからね、心配するさ……かっちゃんは気に入らなかったみたいだけどね」

 

 

 観客席から聞こえてくる幼馴染の少女、狐白の声援を耳に受け……入場口からこっそり見守っているであろうオールマイトの視線を背中に受けた出久は、勝己の言葉に臆する事なく言葉を返し。

 かつての怯え切った姿からは想像が出来ない程に、むかつくぐらい強くなった出久の姿に勝己はケッと言葉を吐き捨てる。

 

 

『決勝戦! 緑谷 対 爆豪!! 今!!』

 

「言ってくれんじゃねぇかデク、てめぇはここで」

 

「何度だって言うさ、そして僕は君を」

 

 

 試合開始の合図が近い事を本能で察した出久と勝己は互いに構えを取り、そして。

 

 

『スタートォォォォォ!!』

 

「ぶっ殺す!!」

 

「越えてみせる!!」

 

 

 プレゼントマイクが勢いよく発した試合開始の合図と共に。

 左手から爆風を発しながら飛び出した勝己と、全身に雷光を漲らせた出久がステージ中央で激しくぶつかり合う。

 

 勝己は敢えて真正面から出久をねじ伏せてやるとばかりに、大振りの右をいけ好かない幼馴染へ全力で叩き込み。

 その所作を読んでいた出久は真正面からその大振りを捌きカウンターを打ち込もうとする、が。

 

 

「かかったな!アホがぁ!!」

 

「なっ、ぐぅぅぅっ!?」

 

 

 出久の腕と勝己の腕が交差する瞬間に勝己はニヤリと口角を吊り上げて嗤い、出久が受け流すよりも早く。

 一点集中させた爆風を、出久へ至近距離から叩き込んだ。

 

 今までの試合、そして今まで接してきた幼馴染の行動にはなかった爆破の仕方に出久の対処は一拍遅れ、衝撃を逸らしきる事が出来ずにその体を吹き飛ばされてしまう。

 

 

『オイオイオイ?!ここで爆豪新技の披露、緑谷の防御ごとぶち抜いたぁぁぁ!!』

 

『衝撃が逸らされる直前で爆破、それも一点集中か……センスの塊だな、アイツは』

 

 

 一瞬の攻防で起きた技術の応酬にプレゼントマイクは驚愕しながら実況し、二人の動きを俯瞰して見ていた相澤は適切な解説を入れていく。

 一方で吹き飛ばされたデクは両足を激しく滑らせながら着地し、間髪入れずに飛びかかって来た勝己の攻撃を辛うじて躱すとがら空きになった脇腹へ躊躇せずに肘を叩き込む。

 

 

「がっ……やるじゃねぇか、デク!」

 

「今の一撃を普通に耐えるとか……さすがとしか言いようがないよ、かっちゃん」

 

 

 人間は簡単に死ぬが壊そうとすると中々壊れない、という教えの下叩き込まれた武技のダメージが見受けられない幼馴染の様子に出久は冷や汗を浮かべつつ追撃を放とうとするが。

 勝己は出久の思惑を読んでいたと言わんばかりに、爆風を利用して瞬く間に勝己は距離を取る。

 

 

「オラオラオラオラァ!!」

 

「ぐっ、このぉぉ!!」

 

 

 一足飛びで間合いを詰めれる位置にいながら、しかし出久に踏み込ませまいとばかりに勝己は両手から断続的に爆破を放ち、出久は両腕をクロスさせて猛攻を凌ぎ。

 一瞬の切れ間を縫って、出久は武術の師匠である幼馴染の祖母が見せた、飛ぶ斬撃の踏み込みと所作を脳裏に描きながらその動きをトレースして手刀を作った右腕を振りぬく。

 

 ワンフォーオールが込められてブーストがかかった身体能力によって放たれたソレは、疑似的でありながら斬撃状の衝撃波となって爆煙を切り裂きながら勝己に直撃し……。

 勝己の上着を切り裂きながら、彼の上半身に袈裟懸け状の刃潰しされた刀で斬られたかのような痕を残す。

 

 

『おおっと苦し紛れと思われた緑谷が放った手刀がぁ!斬撃となって爆豪を襲ったぁぁぁ!!』

 

『一部の達人は得物でやるとは聞いていたが、生身でやるのはオールマイト以外では初めて見たな』

 

「はっ、やっぱりてめぇも隠し種持ってたかよクソナードォ!」

 

「実は一回やろうとして失敗したんだよね!轟君の試合の時にさ!」

 

「ああそうかよ! じゃあ死ねぇぇぇ!!」

 

 

 試合開始から今に至るまで繰り広げられる派手でレベルの高い攻防は、プレゼントマイクとイレイザーヘッドの実況と解説によってさらに盛り上がり。

 観客達は手を振り上げて二人の少年の名前を連呼しながら、エールを送り続ける。

 

 

「いい加減くたばれやクソがぁ!!」

 

「それは、聞けない!!」

 

 

 狙いをつけさせないよう勝己が両手で交互に爆破を放つ事でジグザグ状に動きながら出久へ急接近し、空中から激しいあびせ蹴りを出久へ打ち込めば。

 出久は効果的に反撃を叩き込むべくギリギリを見切って躱し、出来た隙を見計らって後ろ回し蹴りを打ち込む。

 

 そして決まったと思われたその一撃は、勝己が全身を捻りながら両手から爆風を放つ事で回避され……発生した爆風によって逆に出久がダメージを受ける。

 だが出久もやられっぱなしと言うわけではなく、回転しながら距離を取り体勢を立て直そうとする勝己へ全身から雷光を迸らせながら肉薄し、激しく踏み込みながら掌打を叩き込んでいく。

 

 驚異的な身体能力とセンスで個性を撃ち込んでいく勝己と、良く鍛えられた肉体と技術で立ち向かう出久。

 まさに一進一退というに相応しく、互いの攻撃が当たるたびに歓声が上がりダメージを与えられた側へ対して熱い声援が送られる。

 

 

「いい加減死ねやデクゥゥ!!」

 

「それはこっちの台詞だ、かっちゃん!!」

 

 

 感情を剥き出しにして激しく殴り合い個性をぶつけ合う二人の衣服はボロボロになっており、肉体にもダメージが蓄積していく。

 だがそれでも、そんな事知った事ではないとばかりに二人の少年は咆哮して譲れない気持ちを胸に、持てる全てを以って相手へと立ち向かっていく。

 

 

 その中で生まれたほんの一瞬の空白、その瞬間に出久と勝己は互いに眼光をぶつけ合うと。

 

 

 勝己が両手を地面へつき爆風でその身を空へと飛びあがらせ、出久は強い決意を込めた眼差しを浮かべて腰を深く落とす。

 全力で迎え撃とうとする出久の姿に勝己は好戦的でありながら満足げな笑みを無意識の内に浮かべ、空中で断続的に爆風を放つ事でその身を加速させ回転しながらその全身を出久へ叩きつけようとし。

 出久もまた何度も繰り返し続けてきた構え、そして動作と共に全身にワンフォーオールを漲らせる。

 

 そして。

 

 

「こいつで、くたばれやぁぁぁぁぁ!!」

 

「負けて、たまるかぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 ハウザーインパクトと名付けられている勝己の全身を叩きつける必殺技と、出久の必殺技と言える正拳突きが正面衝突。

 下手な当たり方をすればどちらも命に関わりかねない破壊力を持ちながら、ほぼ同等の威力を持つ技同士がぶつかった事による勝敗の命運を分けたものは。

 

 回転しながら突撃してきた勝己の中心を拳で撃ち抜けなった事で、出久の正拳突きの威力が逸れてしまった事であった。

 ほんの僅か打点がずれていれば真正面から打ち勝てたかもしれない一撃は、正拳突きが直撃した勝己の肩の骨を砕きながらもその突進を留める事が出来ず。

 迎撃によって威力が弱まった勝己の必殺技によって出久は吹き飛ばされてステージ上を激しく転がっていく。

 

 

『爆豪のド派手な必殺技が緑谷に直撃ぃぃぃぃ!! おいアレ大丈夫なのか下手すると命に関わらねぇか?!』

 

『……今回は大丈夫なようだが、しかし来年からは何かしらの安全対策は必要かもしれんな』 

 

 

 砕かれた右腕に肩を左手で押さえながら、両足で立っている勝己と……ステージ上に倒れ起き上がる気配のない出久。

 観客席から狐白が必死な声で出久へと呼びかけるものの彼が動く気配はなく、主審のミッドナイトが屈み出久の容態を確認し命に別状はないものの意識がない事を確認すると。

 左腕を上げて試合終了を合図を司会であるプレゼントマイクへと送ると共に、ミッドナイトは声を張り上げる。

 

 

「緑谷くんダウン!よって……爆豪くんの勝ち!!」

 

『試合終了ぉぉぉぉ!!以上で全ての競技が終了! 今年度雄英体育祭一年優勝は……A組爆豪勝己!!』

 

 

 プレゼントマイクの絶叫じみたアナウンスと共に会場全体を大地が揺れんばかりの歓声が包み込む。

 会場に爆豪コールが響く中、勝己はロボット達によって担架で運ばれていく出久に視線を向ける。

 

 

 出久へ向けられた勝己の視線には、確かな優越感と……後一歩のところまで追い詰められた焦燥感が浮かんでいた。

 

 




ものっそい疲れた、だけど書きたい事は書けたと自負しております。
いずちゃんはかっちゃんに勝てませんでした、もしかすると後一歩のズレがあれば運命は逆だったかもしれません。

この二人は感情剥き出しにして殴り合ったりぶつかり合ったりするのが、キュンキュンする……しない?
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