今回は原作一話とかの流れを踏襲した話になっております、そのままなぞってるわけじゃないけど大筋は近いです。
だけども、ここは出久くんの大事なオリジンでもあるからしっかりやりたかったのだ……!
爽やかな風が桜の花びらを巻き上げながら吹き抜けていく。
暦は春、そして春と言えば出会いと別れの季節と巷ではよく言われるが学生にとっては新たな環境へ移り変わる季節であり、在学生にとっては学年が一つ繰り上がる季節である。
そして……それはとある中学校でも例外ではなかった。
「えー、お前らも三年という事で本格的に将来を考えていく時期だ!」
教卓に勢いよく手をついたクラス担任が、まるで生徒達の興奮を煽るかのように叫ぶ。
言葉を投げかけられた生徒たちは思い思いにボルテージを上げているのを担任はひしひしと感じながら言葉を続ける。
「今から進路希望のプリントを配るが皆! 大体ヒーロー科志望だよね」
担任が勢い余ってプリントをばら撒いてしまうのを意に介さず、彼の言葉を肯定するかのようにクラスの生徒達が各々の個性を強くアピールするかのように個性を発動する。
その中でただ一人無個性の少年、緑谷出久はクラスの熱狂に若干鬱屈した気持ちを抱きながら、通学時に目撃した本日デビューした巨女系ヒーローについての考察を愛用のノートへ書き込んでいた。
なお彼の隣に座っている幼馴染の……白銀の髪を肩口まで伸ばしている狐耳と尻尾を生やした美少女は、最早習慣になっている幼馴染の個性考察を眺めていた。
そんな中でばら撒いてしまったプリントを慌てて拾い集めた教師が、個性を発動した生徒達を窘める発言をしていたところ。
「せんせえー! 『皆』とか一緒くたにすんなよ! 俺はこんな没個性共と一緒に仲良く底辺なんざ行かねーよ」
傲岸不遜に教師に向かって言い放ったのは、両足を上げて机に乗せながらふんぞり返っている爆豪勝己である。
クラスメイトに向けて言うには余りにも乱暴すぎる物言い、さすがに彼の態度に慣れている同級生であったがその物言いにはカチンと来たのか一斉にブーイングをするも、当の本人はまるで負け犬の遠吠えと言わんばかりに涼しい顔を浮かべる。
「あー……確か爆豪、お前は雄英高志望だったな」
成績優秀個性も優秀、素行最悪のいつもの態度にもはや担任は慣れたと言わんばかりにスルーして彼の志望高校を容易くばらした。
トップヒーロー達の母校であり、ヒーローとして大成するならば必須とも言える最難関高校の一つとされるその名前に、一斉にクラスメイト達がざわつく。
一方、嫌な予感を感じた出久はノートをしまうと机に突っ伏して出来る限りその存在感を消そうとし、隣に座る彼の幼馴染の少女はこの後に起きるであろう騒動に諦観の表情を浮かべた。
「そう言えば、緑谷と玉藻も雄英志望だったな!」
少々配慮に欠けると言わざるを得ない担任の言葉に、一瞬凍り付くクラス。
そして次の瞬間、一斉に名前を挙げられた二人へクラスメイト達の視線が集中した。
ああやっぱり、と言わんばかりに突っ伏したままの出久は冷や汗を流し、片割れである玉藻と呼ばれた少女は大きく溜息を吐いた。
「おいおいおい緑谷さすがに無茶だろ?!」
「いくらお前が下手な異形系個性なんてあしらえるって言っても無個性だぜ、それじゃぁヒーロー科は無理っしょ!」
一部のクラスメイトは腹を抱えてゲラゲラ笑って出久を野次り、また別の生徒は鍛錬を続け実力をつけている出久を認めてはいるもののさすがに無理だと叫ぶ。
余りにも無遠慮で、そして善意と言う名の残酷な言葉を親友である幼馴染に相変わらず向けてくる同級生達の様子に、玉藻……狐白は不機嫌そうに眉根を潜めながら立ち上がろうとしたが。
「無個性だからって入れないなんて規制はないよ!ただ前例がないだけで……ってあぶなっ!?」
「ごるぁぁぁぁデクゥゥ!!」
勢いよく席を立ちクラスメイト達へ抗弁をする出久であるも、次の瞬間爆破の個性を勢いよくぶつけてきた幼馴染の勝己の攻撃を隣に座っている幼馴染を庇いつつ、とっさに掴み上げた自身の鉄板入り学生鞄で凌ぐ。
「没個性どころか無個性のてめぇがぁ」
「それぐらいにしといたらどう? ただでさえクソを煮込んだような性格をしてるのに、そこにヘドロを飾るような真似を自らしなくてもいいじゃない」
目と口角を吊り上げて出久を嘲笑いながら、暴言をぶつけようとする勝己の言葉を。
鈴を転がしたかのような声音で、情け容赦のない罵倒が遮る。
「あぁん!? この陰険狐目野郎が口挟むんじゃねぇよ!!」
「大事な親友を傷付けて貶めようとされたら口を挟むのは道理でしょ? あーーゴメン、品性どころか常識まで脳みそから爆破で消し飛ばした君には難しい話だったかなー?」
周囲のクラスメイト達が机と椅子ごと、爆心地じみた緊張感を放つ二人から離れる事も意に介さず……勝己と狐白が可視化されたかのような眼光をぶつけ合う。
ちなみに事の発端となる発言を行った担任教師は既に、教卓の下に避難済みである。
「っ~~~~~~!! この陰険狐目ホモ野郎、ぶっ殺す!!」
「やれやれ、事あるごとに人をホモだとか。そんな事言う君が実はいずちゃんに気があるんじゃないの?」
出久と同じく幼馴染であり、元は男であった狐白を口汚く罵りながら爆破と共に大ぶりの右を全力で叩き込もうとする勝己。
今現在は可憐な美少女の外見をしている相手とはいえ、勝己には手加減をするという思考は欠片も無かった。
彼の名誉のために付け加えておくならば、勝己と言う少年は女性には基本的に手を上げる事などない。
しかし、今も目の前で腹の立つ笑みを浮かべながら煽り倒してくる不倶戴天の敵だけは、紳士的な応対など論外な相手であるだけなのだ。
「今日という今日はぶちのめして這いつくばらせてやらぁぁぁぁぁ!!」
「そうやって馬鹿の一つ覚えみたいに突っ込んできて、そんなんだから最近いずちゃんにもやり返されてんのにね」
「ちょ、ちょっとこーちゃん! こっちに飛び火させないでよぉ!?」
「まとめてぶっ殺してやらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そして今日もまた、とある中学校のとある教室が派手な爆心地となるのであった。
なお最終的に、生徒指導の屈強な先生が突入し勝己と狐白の頭に勢いよく拳骨をおとし、巻き込まれた出久を憐れみながらも説教をする事でこの事件は鎮圧された。
余談であるが、担任教師は教頭と校長から叱責を受けた上に始末書を書かされたらしい。
そんな感じに賑やかどころか喧しい学業の時間も終わり、帰宅の途につく出久と狐白は並んで家路を歩いていた。
「あれ、こーちゃんそう言えば下駄箱に手紙入ってたけど大丈夫なの?」
「あー、どうせまた告白だろうから相手しなくていいよ、今度いずちゃんを馬鹿にしてまで付き合おうとする輩が出たら怪我させかねないし」
生徒指導室で幼馴染3人揃ってこってり絞られ、いつもより下校時間が遅くなったせいか自分達以外誰も歩いていない道を二人で歩く。
そんな中で、いつものように二人そろって登校した時に狐白の下駄箱に手紙が入っていたのを、偶然目にした出久は隣を歩く親友へ問いかけるも。
また別の日に手紙で呼び出した挙句、無個性の幼馴染なんか捨てて自分に乗り換えろなどと言い放ってきた輩の事を思い出し、心の底から不機嫌そうに返答をした。
なおその時はギリギリで彼女の理性が働いたおかげで、当の男子中学生は無傷で家に帰る事が出来たらしい。
「……ねぇ、こーちゃん」
「ん?どうしたの、いずちゃん」
二人並んで、帰り道の途中にあるトンネルに差し掛かった時点で出久が足を止め、隣を歩いていた幼馴染に不安そうな声音を投げかける。
投げかけられた少女は、振り返ると不思議そうな表情を浮かべた。
「やっぱり、無個性の僕が雄英を受けるって無謀なのかな?」
「そこは、僕も何とも言えないかなぁ……だけどさ、いずちゃん去年の夏に僕と一緒に御婆様に稽古つけてもらった時は凄い筋が良いって褒められてたじゃない」
少女が思い出すのは、去年の夏一週間ほど母の実家である田舎へ帰るとなった時に、折角だから武芸百般の祖母に手ほどきを受けてはどうかと親友へ持ちかけた日の事。
意味深な笑みを浮かべていた母の笑みが未だに気にはなっているが、出久が非常に乗り気だったのもあって出久の母もソレを了承し……狐白と彼女の母、そして出久と共に田舎へ行き。
そして、徹底的に狐白の祖母に扱かれたのである。
その際に、年の割に妙齢な美女としか言いようのない外見である祖母に可愛がられる様子や、親戚の独身女性達に可愛がられていた出久の様子も思い出して何故かモヤモヤする狐白であった。
「あーー、あの時は大変だったなぁ……こーちゃんのお婆さん、尋常じゃないぐらい厳しかったもんね」
「でも、僕が男だった時よりも手放しでほめてたよいずちゃんの事、僕もそこそこ才能があるって言ってたけど僕の時以上に褒めちぎってたしね」
少しだけ遠い目をしながら、思った以上にしんどかった去年の夏の事を思い出しながら呟く出久に、狐白は尻尾を振りながら柔らかく微笑んで告げる。
そんな幼馴染の、時折無防備に見せてくる可愛い様子に出久は無意識に目を逸らすように視線を上げ……。
「っ! こーちゃん、危ない!!」
トンネルの天井に張り付いていた、ヘドロじみた何かが今にも幼馴染の少女へ降りかかろうとしていたのを、咄嗟に彼女を突き飛ばす事で庇う。
その試みは確かに成功し、狐白にヘドロが降りかかる事は回避できた出久であったものの彼自身が、そのヘドロを被り全身を不快な粘液によって拘束されてしまう。
「Mサイズの……かくれミノ……」
「なっ、いずちゃんから離れろ!」
ぎょろり、とヘドロの中から姿を現した醜悪な目玉が自身の体に取り込んだ少年、出久を睨みつけて歯をむき出しにしながら下品に嗤う。
咄嗟の事に呼吸がままならず混乱しもがく出久を救おうと、辛うじてヘドロの外へ出ている彼の体を狐白が必死につかんでひっぱるが……。
「大丈夫、身体を乗っ取るだけさ。そこの娘も後で可愛がってやるからよぉ」
「ふざけるなぁ!」
普段は糸目のように閉じている切れ長の目を見開き、ヘドロへの敵意をむき出しにしながら必死に幼馴染を救おうとする狐白。
しかし、個性が発現した事で筋力が昔より増しているとはいえ……少年一人を覆うかのようなヘドロから、大事な親友を救い出す事は叶わず……死を想起し恐怖に顔を歪める親友の名前を悲痛な声で叫ぶ。
狐白には、狐耳尻尾が生えて女体化する切っ掛けとなった『稲荷』の個性とは別に、死別した彼女の父親から受け継いだ個性を一つ持ってはいる。
だが、その個性は今のこの状況を好転させることは出来ないモノであり、哀れな中学生二人がヘドロ……ヴィランの毒牙に為す術もなくかかる、その未来が最早不可避となったその時。
「もう大丈夫だ少年に少女! 私が来た!」
トンネルの出口付近にあるマンホールの蓋を勢いよく吹き飛ばしながら、拳を突き上げた筋骨隆々のVの字に突き出た髪の毛が特徴的な大男が現れる。
突然の乱入者にヘドロの目は焦燥を瞳に浮かべ、狐白が純粋な驚きを瞳に浮かべ、出久が安堵と歓喜を瞳に浮かべる中……大男は力強く拳を握りしめて腕を引くと。
出久を取り込んでいたヘドロが慌てふためいて逃げ出そうとするよりも早く。
「TEXAS……SMASH!!」
出久へその剛腕を当てる事なく、振りぬいた拳が生んだ風圧だけでヘドロの体を戦車砲の砲弾を撃ち込まれたような形で抉りぬく。
荒れ狂う暴風よりも激しい風圧で出久の顔が凄い事になったり、狐白のスカートが勢いよく捲れあがったりしたがコラテラルダメージの一つであろう。
そして吹き飛ばされたヘドロは地面へと粘着質な音を立てながら墜落し、必死に這うような動きで逃れようとするがそれよりも早く大男が手に持っていた空のペットボトルによって。
その液体状の体を、まるでちょっと作るのに失敗したグロテスクな手作りゼリーのような塩梅で封入される事となった。
「はぁ、はぁ……お、おおお、お……オールマイトォォォォ?!」
「おお、思った以上に元気そうで何よりだ少年! いやぁヴィラン退治に巻き込んでしまって申し訳ない!オフだったのと慣れない土地で浮かれちゃってたみたいだね!」
酸欠一歩手前な状態で救出された出久は、狐白に介抱されながら息を整えそして己を救い出してくれた存在をしっかりとその目で視認した事により、思わず歓喜の籠った絶叫を上げる。
出久の介抱をしていた狐白が狐耳と尻尾をビクゥっとさせる程の声量を出す元気がある出久の様子に、大男ことオールマイトはアメリカンな笑みを浮かべながら満足そうに暑苦しい笑みを浮かべた。
「良く鍛えているね少年!あの状況でも意識を失わず居られたのは素直に尊敬しちゃうぞ!」
ヘドロヴィランの詰まったペットボトルをポケットへねじ込みながら、親指を立ててオールマイトは出久を称賛し……雲の上に居る憧れの存在から声をかけられ更に褒められた出久の顔は、まさに感無量としか表現のしようがない表情を浮かべ。
親友が思った以上に元気な事に狐白はホっとしつつ、座り込んだままだった出久を助け起こす。
「あ、そ、そうだ!サインをお願いします!」
「うむ、お安い御用さ!」
一瞬ボーっとしていた出久であるが、大事なことを思い出したとばかりにハっとした表情を浮かべて放り投げられた学生鞄から、大事なヒーローノートを取り出して空白のページを開くと。
オールマイトへ両手で差し出し、90度直角のお辞儀をしながら誠心誠意を込めてサインを強請った。
一方ほったらかしな状態となっている狐白はと言えば。
大事な親友である幼馴染がオールマイトの大ファンである事は知っていたが、まさかここまでだったとはと内心で戦慄をしつつも親友の新たな一面が知れたことをさり気なく尻尾を振って喜んでいた。
「ありがとうございます!家宝に!家宝にします!!」
「じゃあ、私はコイツを警察に届けるので!液晶越しにまた会おう!!」
オールマイトの直筆サインが書かれたノートを出久は抱き締めると、背を向けて歩き出したオールマイトへ何度も何度も激しく頭を下げる。
だが、まだ何かを聞きたそうにしている出久の様子に狐白が嫌な予感を感じている間に、オールマイトは時間の大事さを……まるで自分には時間が無いようにも取れるように告げながら。
軽く屈伸を行い、トンネルの出口で深くを膝を曲げて屈み始め……ロケットが飛び立ったかのような衝撃音と共に、オールマイトは遥か高い空へと飛びあがっていった。
その太く逞しい脚に、咄嗟に飛び出した出久をしがみつかせながら。
「……え?」
そして改めて狐白は思わず隣を見れば、そこにはつい先ほどまでいた筈の出久は居らず。
もう一度空へと飛びあがっていったオールマイトの方へ視線を向ければ、米粒ぐらいの大きさになったオールマイトの足に人影がしがみついているのが見えた。
「……い、いずちゃーーーーーーーーーーーーーん!?」
状況を理解した狐白は、目を見開いて思わず叫ぶ事しか出来なかった。
己の想定を斜め上どころじゃない行動を起こした、大事な親友の名前を。
前回の話から約一年が過ぎ、二人は中学三年生となっております。
しかし特に二人の関係は進展してません、何故なら二人は互いに親友で幼馴染だと思ってますから。
なんかその割には狐白がみょうに動きが雌っぽい?
大丈夫です、アイツ男性時代からバレンタインに女の子からチョコを貰えないという理由で親友に手作りチョコ渡してましたから。
そんな行動してたから、中学校の腐の民達が活性化したのかもしれないね。