43.名乗るぞヒーロー名!
雄英体育祭後の二日間の休みを終えて、授業が始まった日。
1-Aの生徒達は朝のホームルームが始まる前の短い時間で、雑談に興じていた。
「超声かけられたよ来る途中!」
「私もジロジロみられて何か恥ずかしかった!」
テレビ放送された影響か、体育祭に出ていた生徒達は通学途中で様々な声をかけられた感想を興奮交じりに語り。
瀬呂がげんなりした顔で小学生にドンマイコールされた事を口にすれば、クラスメイト達は揃って彼へドンマイコールをかける。
その中で……。
「ところでさ、デクくんと玉藻さん……なんか距離近くない?」
「「……え?」」
今気づいたとばかりに、両手の指を合わせないようにしつつ掌をポムと合わせたお茶子が出久と狐白の二人の様子を見て口にすると。
クラスメイト達の視線は話題に上がった二人へと集まる。
この時出久は朝言葉を交わした、兄であるプロヒーローインゲニウムについて危うい様子を抱えた飯田の様子を心配していて話題を聞き逃しており。
狐白に至っては、尻尾を上機嫌そうに揺らしながら背中からおぶさるような恰好で出久にくっついていた。
「確かに元々近かったけど……休み明けから顕著になってますわね」
「けろけろ、仲良しなのは素敵な事よ」
「緑谷ぁぁぁ! お前!お前もしかしてこの休みの間に大人の階段のぼって玉藻のきつねっぱいにあんなことやそんなことをしちまったのかよぉ!!」
「峰田!ステイ、ステイ!!」
視線が集まる中慌てて離れる様子を見せるどころか、狐耳をピコピコ動かし尻尾を振っている狐白の姿に八百万は頬を赤らめ。
蛙吹が二人の様子にニコニコ笑顔を浮かべる一方、峰田は血の涙を流す勢いで立ち上がり出久を問い詰めようとするが上鳴に羽交い絞めされていた。
ちなみに峰田は雄英体育祭終了後、八百万が創り出したロープで教室の中で宙吊りにされ泣くまで棒で突かれる刑に処されたらしい。
途端に賑やかな喧騒の場へと変化する教室、しかしチャイムと共に担任の相澤が入って来た事で全員が即座に席へと戻った。
このクラスのヒエラルキーの頂点は担任なのである。
「相澤先生包帯取れたのね、良かったわ」
「殆ど治ってた上での処置だったからな、婆さんの処置が大袈裟なんだよ……そんな事より今日のヒーロー情報学は、ちょっと特別だぞ」
その中で担任の顔全体に巻かれていた包帯が取れていた事に気付いた蛙吹が声をかけ、相澤は生徒の言葉に応じつつ剣呑な気配を滲ませながら言葉を続ける。
ちょっと特別というその言葉に、学力に自信がない勢は内心でテストとかは勘弁してほしいと願い……。
「『コードネーム』、ヒーロー名の考案だ」
「胸ふくらむヤツきたぁぁぁぁぁ!!」
予想の斜め上をPlusUltraで突き抜けていったワクワクワードに、ガッツポーズをしながら席を立つ。
なおその歓声は相澤が目付きを鋭くさせた事で鎮圧された、怒った相澤先生はとても怖いのだ。
ともあれすぐに静かになった事に相澤は満足そうに頷くと、体育祭の前に話したプロからの指名が関係してくることを生徒達へ説明し。
今回の体育祭の内容や結果を踏まえた、プロヒーロー達からの指名の集計結果をスクリーンへ映し出した。
その内訳は……。
緑谷 2711
爆豪 2710
轟 2425
飯田 2218
常闇 360
八百万 214
上鳴 166
玉藻 101
切島 68
麗日 20
瀬呂 14
以上の形となっていた。
「例年はもっとバラけるんだが、上位4人に指名が集中したな今年は」
発表された内容に学生達は思い思いの感想を述べつつ、上位二人の票差に注目すると。
思わず納得と言わんばかりに声を漏らしながら、雑談を始める。
「一位と二位逆転してんじゃん」
「まー爆豪の台詞とか顔、ちょっとおっかなかったもんな……」
「ビビッてんじゃねーよプロが!!」
一票差で明暗が分かれた上位二人に切島が苦笑いと共に呟けば、瀬呂はしょうがないと言わんばかりに感想を述べ。
ただでさえ一票差で出久に負けてイライラが溜まってた勝己が二人へ咆哮した。
「静かにしろお前ら……これを踏まえた上でお前達には、指名の有無に関係なく所謂職場体験ってのに行ってもらう」
指名が来ていなくても生徒を受け入れてくれるヒーローが居る旨も続けて相澤は告げながら、プロの活動を実際に体験する事によって訓練とする事を告げると。
生徒達はヒーロー名を決める事の意味を理解すると共に、迫りくる職場体験への期待に胸を膨らませていく。
「まぁ仮ではあるが適当なもんは……」
「付けたら地獄を見ちゃうよ! この時の名が世に認知されてそのままプロ名になってる人多いからね!!」
相澤の言葉を遮りながら現れた、煽情的なコスチュームに身を包んだプロヒーローことミッドナイトの姿に一部男子が興奮する中。
ミッドナイトは適当な名付けについて注意をすると、相澤が自身にはセンスがないので彼女にヒーロー名を査定してもらうことを生徒達へ告げる。
ちなみに後ろの席に座っている峰田が目を血走らせてミッドナイトの姿をガン見している中、出久は一瞬であるが考えてしまった。
もし狐白がミッドナイトのコスチュームを付けたらどんな姿になるのかを……そして我に返ると慌てて頭を振るが、狐白はそんな幼馴染の姿に首を傾げていたりする。
ともあれそんなこんなで始まったヒーロー名発表会、まさかのクラスメイト達の目の前での発表という形式に生徒達が度胸が必要だと戦慄する中。
胸を張り先頭で発表した青山が、まさかの短文形式なヒーロー名を発表した事で空気が一変。
更に続けて発表した芦戸が、『エイリアンクイーン』と言うヒーロー名を発表した事で大喜利じみた空気が加速した。
なお芦戸の名誉のために言うなれば、その誇らしげな笑顔から笑いに走った様子は見受けられない。
だからこそタチが悪いとも言う。
真面目なヒーローネームの発表がし辛い空気に教室が包まれる、しかし神は1-Aの生徒達を見放してはいなかった。
挙手した蛙吹が、可愛らしく親しみ易そうなヒーロー名『FROPPY』を発表した事で空気が変わったのである。
なおこちらも恐らく真面目な空気に戻そうとする意図は無かったと思われる、彼女は割とマイペースなのだ。
そこからは生徒達が思い思いに発表を続け、ミッドナイトが審査をしていき……。
ヒーロー名の考案が終わった狐白が挙手して、フリップを手に教室の壇上へと上がる。
「色々と悩んだんだけど、『薬師稲荷』にしました」
「薬師如来にあやかった素敵な名前ね!白い狐は神様の使いとも言われてるから、玉藻さんにぴったりね!」
照れながらもその名前に恥じない、大好きな幼馴染を癒せるヒーローになりたいという願いを込めた名前を狐白は発表し。
そこはかとない青春ラブの臭いをミッドナイトは察知しつつ、少女の名前と願いを応援する。
その後もヒーロー名の発表は続き、勝己が発表した爆殺王がダメ出しを食らった後。
飯田は負傷によってヒーローの道が絶たれた兄の名を継ぐか迷った挙句、自身の名前を苦渋に満ちた表情で発表。
友人のその様子に出久は心配そうな表情を浮かべつつ、迷った末にとある名前を書いたフリップを手に壇上へと上がり。
「えぇ緑谷、いいのかそれぇ?!」
「……いずちゃん、本当にいいの?」
「うん……今まで正直この呼ばれ方は好きじゃなかったけど、だからこそ蔑称のままで終わらせたくないんだ」
クラスメイトや幼馴染に心配そうな声をかけられる中、ある意味で自分の原点とも言えるその名前についての気持ちを出久は言葉にする。
大事な人達に支えられて今に至り、そしてヒーローの道を歩けるようになった感謝。
そして、先の大会では一歩及ばず負けた相手からつけられた蔑称を覆してやるという強い意志により……出久は『デク』と書かれたフリップを皆へ発表する。
「だから、これが僕のヒーロー名です」
誇らしげな出久の様子に勝己が忌々しそうにしながら大きな舌打ちをすれば、出久の想いを察した狐白は親の仇を見るかのような視線を勝己へ向け。
そんな視線を向けられた勝己は内心で俺がそんな事知るかボケなどと吐き捨てつつ、鬱陶しそうに視線を逸らしていた。
なおその後、リテイクを食らった勝己は誇らしげに書き直したフリップを発表するも。
「爆殺卿!!」
「違うそうじゃない」
まさかのリテイクすらミッドナイトにダメ出しを受け、その様子を狐白にニヤニヤ笑われた事で心理的報復を受けるのであった。
ちなみに当初はかれぼく!を書いてアンケートで出久君のヒーロー名について意見を募ろうとしたのですが……。
DQ5モノ書いてる時もお世話になった実在性ゲマさんより「かっちゃんラブで名乗るんじゃね?蔑称のままで終わらせないとかで」という鶴の一声でこの流れとなりました。
やはり、狐白の恋のライバルはかっちゃん。はっきりわかんだね。
ちなみに狐白の使命が一回戦敗退にも関わらず多いのは……。
彼女のビジュアル(+ハプニング)に吊られたヒーローからの指名と、一族所縁のヒーロー達からの指名に一応現役ヒーローである祖父母からの指名、それと特訓中に彼女からマッサージを受けた女性ヒーロー達からの指名で成り立っております。
更にそこに、とある医療関係大御所ヒーローからの指名もありますが、それについては次回判明する予定です。