それと、春服な私服仕様の狐白を現在絵師さんに依頼中です。
ヒーロー名の考案を含めたその日の授業が終わった放課後。
1-Aの生徒達は、教室に残って職場体験へ向かう先について各々のグループで集まって雑談に興じていた。
「オイラはMtレディ!」
「峰田ちゃん、またやらしいこと考えてるわね」
「懲りないよねー」
「ちちち、違うし!」
その中で峰田が誇らしげに激しく主張するが、興味なさそうに蛙吹にあしらわれた上に葉隠はけらけら笑いながら歩き去ろうとする蛙吹と並んで歩いており。
そんな少女二人に対して手を伸ばす仕草をしながら峰田が潔白を主張するが、悲しい事に誰も彼の擁護をする者はいなかった。
一方で、挨拶を手早く終えると教室を出ていった飯田の後ろ姿を心配そうに見ていたお茶子が気を取り直し、振り返りながら出久へ職場体験先をどこにするのか聞こうとしたところ。
「思ったどころじゃないぐらい沢山きちゃったよコレどうしよう断るなんて失礼なんだけど、でもこの中から一つ選ばないといけないんだよなぁ。ああ凄い迷うよどうしよう贅沢過ぎる、だけどそれでも選ばせてもらうならば得意な活動条件を調べて系統別に分けた後、事件事故解決件数をデビューから現在までの期間でピックアップして僕が今必要な要素を最も備えてる人を割り出さないといけないな。やっぱりこーちゃんを護れるようになるためにも護衛や警備が得意なヒーローに絞るべき?いやそれでも攻撃は最大の防御でヴィランが悪さをする前に殺さない程度に仕留めてしまえばいいって師匠達も言っていたから超攻撃的なヒーロー事務所を選ぶのもありかな……」
「いずちゃん、すごい楽しそうだなぁ」
「いや玉藻、さすがに少しは止めた方がいいんじゃね?」
お茶子の視線の先には鬼気迫る表情で膨大なヒーロー達の名前が記された書類の束を、丁寧に捲りながら物凄い勢いで呟いている出久の姿があった。
頼りになりそうな狐白はというと、思考に没頭している出久に寄り添うように隣に座りながら上機嫌そうに尻尾を揺らして呑気に呟いている。
思わず冷や汗を浮かべて瀬呂がツッコミを入れるも、なんで止めないといけないの?と返している辺りこの娘も大概手遅れだ。
「……ところで玉藻さんはどこにしたの? 職場体験」
「え?僕? うーん、沢山来てて正直困ってるからねぇ、ヒーローに詳しいいずちゃんに決めてもらおうかなって思ってたんだけどさー」
「うーん、デクくんすっごい忙しそうだから無理そうだね! でもその様子だと、気になってる所あるの?」
「うん、リカバリーガールから指名が来てたんだよね。僕の個性の関係もあるし、ここにしようかと思ってるんだ」
今この間も高速でブツブツ呟き続けている出久を視界に入れつつ、お茶子は時折におい付けをするかのように出久に体を擦り付けている狐白へと問いかけ。
問いかけられた狐白は我に返ってお茶子へ向き直ると、肩を竦めて迷ってますと言わんばかりの様子を見せつつ……。
指名リストの中にあった、リカバリーガールと言う名前に注目しそこへ行こうと思っていると告げる。
その瞬間、予想外の人物がお茶子と狐白の会話に口を挟んできた。
「え?! 凄いよこーちゃん!保健室で見慣れてるから忘れがちだけど、リカバリーガールと言えば治療系個性の大御所で彼女から指名を受けるなんてすばらしい事なんだよ!?」
「あ、帰って来た」
「割と緑谷って玉藻が絡むと何かあってもすぐ戻ってくるよな」
その人物とは、今先ほどまで職場体験先についてブツブツ呟きながらノートへ物凄い勢いで何やら書き込んでいた出久その人である。
突然正気に戻った出久の様子に尾白が反応し、砂藤が腕を組みながら緑谷も玉藻大好きすぎるよななどという感想を胸中に仕舞いつつ呟いている。
「そうなんだ、いずちゃんが言うなら間違いないね……じゃあ僕はリカバリーガールにしよっと」
「軽いね玉藻さん!?」
「修復に関してはお爺様とお婆様からの特訓だけじゃ限度があるしね、人を治し続けてきた人の指導を受ければいずちゃんが怪我してもすぐ治してあげられるし」
出久の言葉に狐白は担任である相澤から配布されたプリントの第一志望へリカバリーガールと記入し、そんな狐白の様子にお茶子が驚愕しつつツッコミを入れれば。
狐白は耳を忙しなくピコピコと動かし、尻尾を上機嫌そうにばさばさと揺らしながら笑顔で彼女のツッコミを真正面から受け止めた。
一方。
「……うぉわ!峰田お前ものすっげぇ形相になってんぞ?!」
「悪鬼羅刹とはこの事か」
距離が如実に近付いただけじゃなく、明らかに互いの態度が露骨に変化している出久と狐白の様子に峰田は歯軋りして拳を握りしめながら嫉妬120%の表情を浮かべていた。
その形相は、偶然彼の顔を見た切島が素でビックリする程度にまがまがしく、常闇は腕を組んで溜息をつきながらある意味ぴったりと言える表現を口にした。
ともあれ仲良く雑談に興じていた生徒達であったが、それでもやがては帰宅する為に一人また一人と教室を退出していき。
ソレは出久と狐白の二人も例外ではなく、まだ雑談を続けていた瀬呂達へ挨拶をしながら教室を出た瞬間。
「わわ私が独特の姿勢で来た!!」
並んで歩く二人の前に、お辞儀の姿勢のような前傾姿勢のまま勢いよく横滑りしてきたオールマイトが現れた。
出久は思わず驚きの声を短く漏らし、狐白に至っては察知できなかったことに驚きながら狐耳と尻尾を立てて警戒を露わにしている。
「ど、どうしたんですか? そんなに慌てて……」
「ちょっとおいで緑谷少年、すまない玉藻少女。ちょっとボーイフレンドを借りてくよ!」
「ぼ、ぼーいふれんどだなんてそんな……」
顔中に冷や汗を浮かべるオールマイトというレアにも程がある姿を、出久は脳内メモリーに欠かさず保存しつつ困惑しながら彼へ問いかける中。
少し話があるとばかりに出久をオールマイトは手招きすると、狐白へ軽く頭を下げて出久を連れて歩いていくのであった。
ちなみに狐白はオールマイトが放ったボーイフレンドと言う言葉に顔を真っ赤にし、己の指先を突き合わせながらしどろもどろになっていた。
その姿はオールマイトをして、この娘チョロすぎない?と心配するに足る有様であったそうな。
「まずは数多くのヒーローからの指名を良くぞ勝ち取ったね、おめでとう緑谷少年」
「あ、ありがとうございます。色んな人に支えられて何とか結果を出せました」
「相変わらず謙遜する事に余念がないね君は、まぁいいや今はそこは重要じゃないんだ」
二人で並んで歩きやがて辿り着くのはいつもの密談場所である仮眠室。
その中の定位置とも言える椅子に、机を挟んで二人は向かい合うと……オールマイトはトゥルーフォームに戻りながらとても言い辛そうに口を開いた。
「君に指名が来ている、かつて雄英で一年間だけ教師をしていた私の担任だった方で……玉藻少女の祖父母と共に私を鍛えて下さった、グラントリノと言う方からね」
オールマイトが放った言葉に出久は驚きながら、しかしトゥルーフォームに戻っただけにしては明らかに顔色が悪いオールマイトの様子に怪訝そうな表情を浮かべる。
まるで、こう……とてもその人物を恐れているかのように見えたからだ。
「ワンフォーオールの件もご存じで、それもあって君に声をかけたのだろう」
「そんな凄い方が……って、『それも』?」
「その、ね……玉藻少女の祖父母と共に鍛えて下さった、てさっき言っただろう?」
「はい」
顔色が悪いどころか、ガタガタ震えながら口を開いたオールマイトの様子に嫌な予感が膨れ上がっていく出久である。
一瞬とある想像が頭を過るが、まさかそんなと思いつつオールマイトの言葉の続きを待つ。
「先代の盟友であり、師匠や玉藻少女の祖父母と一緒にそれはもう厳しい、本当に思い出すと何故か震えてくるぐらい恐ろしい指導を受けたものさ……」
「あのオールマイト、大丈夫ですかオールマイト?!」
人間はビル解体用クレーンの鉄球を受け止めたり拳で弾き返したりできませんよ師匠、ああやめて暴走バギーで追いかけ回さないでなどと小声で呟くオールマイトを本気で心配しながら出久は冷や汗と共に叫び。
後継者の叫びに我を取り戻したオールマイトは、ポケットから連絡先と住所が書かれた紙を取り出すと出久へと手渡す。
「あの人でなし夫婦ばかりずるいぞ俺も噛ませろなんてメッセージ送ってきたぐらいだから……折角の指名だ、存分にしごかれてくるくく……くるといィいィィ」
どんなヴィランや苦難に対しても笑顔で挑み全てを薙ぎ倒したオールマイトとは思えない様子に出久は。
少しだけ行きたくないなぁ、などという弱気な気持ちを感じながらも大事な幼馴染を守る力になると信じて、連絡先を受け取るのであった。
どうしても出久と狐白、そして二人を取り巻く環境やクラスメイトが中心になりがちだから……オールマイトの影が薄くなってしまう、何とかせねば……。