彼は僕のヒーロー   作:社畜だったきなこ餅

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今日も早く帰れたので更新します。
今回から本格的に職場体験が始まるのだ……!


45.僕が出来る事

 

 職場体験当日。

 駅のターミナルに、雄英高校1-Aの生徒達は担任の相澤引率の下集まっており。

 彼等彼女等はそれぞれの出席番号が記された、コスチュームが入っているケースを抱えていた。

 

 全員が揃っている事を相澤は確認すると、コスチュームを落とさないよう生徒達へ厳命した上で先方への失礼が無いよう生徒達へ釘を刺すと。

 話は以上だとばかりに生徒達へ背を向け、学校へと戻っていく。

 

 

「玉藻だけ居ないのもなんか仲間外れみたいだよねー」

 

「狐白ちゃんは、リカバリーガールの職場体験ですもの。寂しいけどしょうがないわ」

 

 

 この場に唯一居ないクラスメイトを思い芦戸が溜息と共に呟くと、蛙吹は彼女がこの場に居ない理由を口にし。

 ちょいちょいと、とある方向へ指差してみれば。

 

 

「それに、一番寂しいのは緑谷ちゃんよ」

 

「それもそっか」

 

 

 どこか張りつめた雰囲気を漂わせている飯田を気遣いつつも、気持ち普段よりも元気がない出久がそこにいた。

 最早、クラスメイト達にとっても出久と狐白は二人でワンセットな扱いなのだ。

 

 

 そんな感じに話題に上っている狐白、今彼女が何をしているかと言うと……。

 

 

「薬師稲荷、今日から一週間ほどあたしがあんたの面倒を見るよ。この一週間はあんたを一生徒ではなく、見習いのヒーローとして扱う……いいね?」

 

「はい!」

 

 

 雄英高校の保健室にて、普段生徒達を診る時の柔和な空気からは想像つかない程に、張り詰めた空気を纏わせたリカバリーガールから訓示を受けていた。

 ちなみに狐白の恰好は制服ではなく、コスチュームから狐半面や胸甲等の戦闘用装備を外した、言うなれば狐白ライトアーマーな恰好である。

 

 

「良い返事だね、じゃあ早速だけどまずあんたの個性に幾つか確認さね。あんたの『修復』の個性は、手を当てて患部を治療する他に抜け毛を編み込んだ包帯でも作用する、ここまでは良いね?」

 

「はい、後は……いずちゃん以外にするつもりは無いですけど、患部を舐めると包帯や手当てよりも治療が早くなります」

 

 

 クリップボードに留めた書類にリカバリーガールが書き込みながら質疑応答し、狐白からの返答に老婆は大きな溜息を吐くと。

 厳しい眼差しを狐耳尻尾の少女へ向ける。

 

 

「あんたは一刻を争う患者が居ても、惚れた男じゃないから治療しないって言い張るのかい?」

 

「それは……」

 

「同じ女として、あんたの気持ちはわかるがね……だけどヒーローとして活動する事を選んだ場合、選べる手札は多ければ多いほどいい。ここまではわかるね?」

 

 

 リカバリーガールのバイザー越しの厳しい視線に狐白は顔を曇らせて俯き、年若い上に複雑な事情があるだけにやむを得ないと老婆は思いながらも。

 なぁなぁで済ませる事は、今目の前にいるヒーローの卵にとって決して良い方向にはならないと確信して、言葉を続ける。

 

 

「だから、まずはあんたの唾液や抜け毛がどのぐらいの効能を持っているか、情報をまとめる必要がある」

 

「え……あの、今の流れからするととにかく患者の傷口を舐めて耐性を付けろって言われると思ったのですが……」

 

「そこまで無体は言わないさね、それにあんたが思ってる以上に傷口というのは細菌まみれなんだよ。怪我人を治すヒーローが病気になるような真似推奨できるもんか」

 

 

 ヴィランの攻撃によっては傷口が毒塗れだったりする事もままあるしね、とリカバリーガールは言葉を続けつつ。

 机の上に置いてあった印が打ってある空の試験管を数本、狐白へ手渡す。

 

 ちなみに怪我人の患部へキスする事で治療を施す事に定評があるリカバリーガールであるが、彼女自身も感染症等への配慮は十分以上に注意しているらしい。

 

 

「まずはそれ全部の印が打ってあるところまで、あんたの唾液を入れな。入れ終わったらゴム栓でちゃんと蓋するんだよ」

 

「わかりました、んっ……」

 

 

 生徒達が授業に勤しむ中、誰も来ない保健室でリカバリーガールだけに見られながら。

 狐白は口をもごもごと動かし、口の中に唾を溜めると……己の舌を伝わせながら指定された試験管へ唾液を垂らしてゴム栓を閉めていく。

 

 

「……なんだか恥ずかしいですね、コレ」

 

「我慢しな、まぁ今の時間は生徒達も駆け込んでこないから安心するといいさね」

 

 

 出久以外には見られたくない姿だな、などと狐白は思いつつ試験管をリカバリーガールへ手渡し。

 続いて彼女から手渡されたブラシで、自身の尻尾をブラッシングして抜け毛を採取していく。

 

 

「このぐらいでいいですか?」

 

「十分だよ、サポート科の薬剤に詳しいヒーローに回して検査させるからね」

 

 

 狐白の尻尾から採れた抜け毛を受け取ったリカバリーガールは、口を密閉できるビニル袋にソレを仕舞いつつ。

 手提げ式のトランクケースを取り出して開くと、内側から冷気を漏らしているケースへ狐白の唾液が入った試験管を格納していく。

 

 

「もしかしてソレ、薬剤運搬用のケースですか?」

 

「その通りだよ、薬品によっては温度変化が命取りになる代物もあるからねぇ。それにこういう時のサンプル回収にも最適なのさ」

 

 

 初めて見るソレを興味深そうに尻尾を揺らしながら覗き込んでくる狐白に、リカバリーガールはしわくちゃの顔に笑みを浮かべながら軽く説明し。

 ああそうだ、と何かを思い出してポンと手を打つ。

 

 

「念の為あんたの尻尾の毛を織り込んだ、八木やイレイザーヘッドの治療に一役買ったっていう包帯も一巻わけてもらえるかい?」

 

「これもサンプル行きですね、わかります」

 

 

 まぁそう言う事さね、と言いながらリカバリーヘッドは狐白が腰のポーチから取り出した特製包帯を受け取ると。

 ビニル袋へ入れた尻尾の抜け毛と一緒に、冷蔵トランクケースへと仕舞ってケースの蓋を閉じる。

 

 

「サポート科の連中は有能だから、今日の夕方には検査結果が出るはずさ」

 

 

 その代わりやりたい事優先する連中ばかりだから、しょっちゅうやり過ぎるけどねと小声でリカバリーガールはぼやき。

 彼女の小声を狐耳で聞き取ってしまった狐白は、大丈夫かなぁなどと心配しながら小さく尻尾を揺らすのであった。

 

 そんなこんなで、成分や効能調査へ送った狐白由来素材の調査結果を待つ間、何をするかと言えば……。

 

 

「あたしはこっちの生徒を診る、そっちはあんたで治療しな。但し負傷状況や治療内容まで報告できるようにしっかりとね」

 

「はい!」

 

 

 リカバリーガールの業務を手伝いながら保健室へ駆け込んできた生徒達の治療に狐白は取り組み、治療後はレポートに手早くまとめてリカバリーガールへ報告。

 そのたびにダメ出しを食らったり褒められたりしながら、知識を蓄えていく。

 

 

「あんたはアレだね、割と直感で動く癖があるねぇ。緊急時はソレでいいけども大事なことを見落とす原因にもなるから気を付けな」

 

「慌てて治療して、相手の体内に毒や菌を残したり変な状態で治さないためにも。ですね」

 

「よくわかってるじゃないか」

 

 

 お昼ご飯を保健室で摂り、駆け込んでくる生徒達相手に治療を施し……生徒が来ない間は今までの症例やリカバリーガールの経験に基づいた負傷者を事例にして、治療についての知識を狐白は高める。

 狐白の顔に妥協はなく一つでも多く知識をモノにしようとするその姿勢は、全ては今もどこかで職場体験を受けている出久の為であった。

 

 そうしている内に時刻は夕方へと差し掛かり、保健室の扉が勢いよく開かれてリカバリーガールと狐白の視線が入口へと集中すると。

 そこには、白衣を着たサポート科の先生らしきヒーローが興奮を隠そうとしない様子で立っていた。

 

 

「何だい騒々しい、どうしたのさ?」

 

「リカバリーガール!このサンプルはとても素晴らしいですぞ!」

 

「わかった、わかったからまずは飴でも舐めて要点を先に述べな」

 

 

 眉をひそめながら駆け込んできたヒーローへ苦言を呈すリカバリーガールであるも、乱入者は彼女の言葉に耳を貸すことなく小脇に調査結果らしき書類の束を抱えたまま老婆へと詰め寄り。

 詰め寄られたリカバリーガールはのけぞりながら、ヒーローへ飴を差し出して話の先を促す。

 

 ちなみに狐白は突然の事態に置いてけぼりである。

 

 

 結論から先に言うなれば、サポート科の薬剤関係が得意なヒーローや生徒が集まって解析した狐白由来の素材は、それだけで優れた治療薬である事が判明した。

 しかし唾液と抜け毛両方が同じ性質を持っているかと言えばそう言うワケでもなく……。

 

 抜け毛の効能は狐白も把握していた通り、効力が長い代わりに即効性に欠けるというものであったがそこには続きがあり。

 狐白の抜け毛、ソレ自体が患部と一体化し欠損した細胞や肉体に同化して修復する特性が発見されたのと。

 

 彼女の唾液に至っては即効性に優れ切り傷程度なら原液を塗り込めば、即座に傷口が塞がる上に。

 摂取すれば、体内から負傷したり弱った個所の修復が可能であろうという事まで判明したのである。

 

 

「まさか、ここまでとはねぇ……」

 

 

 詳しい入手先を強く求めるヒーローへ詳細は後で書類を回すと告げて追い返したリカバリーガールは、先ほどのヒーローが持って来た書類を手に大きな溜息を吐く。

 思った以上の効能どころか、扱いを間違えれば狐白自身が治療薬の素材として剥ぎ取られかねない、それほどの劇物情報であったのだから。

 彼女の心労は察して余りあるという話である。

 

 

「……まさか僕の体自体が薬箱状態だったとは、思わなかったですねぇ」

 

「とりあえずこの情報は今の所最重要機密さね、取り扱いをどうするかは根津や八木……それとイレイザーヘッドも交えてやっておくから、今日は帰りな」

 

「わかりました、本日はご指導ありがとうございました!」

 

 

 一礼をして保健室から退出していく狐白に、リカバリーガールは気を付けて帰るんだよと声をかけて見送りつつ。

 万が一に備え、隠密性に優れた教師を務めているヒーローを彼女の護衛としてこの一週間張り付ける事を決意するのであった。

 

 

 

 なお当の狐白はそんなリカバリーガールの苦悩など知る由もなく、出久が居なくて寂しいなぁなどと呟いて一人とぼとぼと帰っていたりする。

 

 




狐白、その体自体が回復薬の素材の塊だったでござる。の巻。
実はこの設定、当初から決まってたりします。
序盤の出久くんへの指チュパや、尻尾の抜け毛を織り込んだ特製包帯は全部コレの伏線でした。


余談ですが、狐白の父親の『修復』はメカニック的な修復ではなかったりします。
どちらかと言うと、自身の肉体から生み出したエポキシパテ的な物質を塗り込み、そして塗り込まれた物質が周囲と同化し馴染む事で修復をするという効果でした。
狐白はそんな個性を受け継ぎつつ、稲荷個性がその個性を発展変化させて今の形となっております。
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