彼は僕のヒーロー   作:社畜のきなこ餅

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PV一万超えたので更新します。

引き続き原作一話の流れを踏襲していく話なのです。
しかしそのまま書くとアレなので、カット気味になったけどしょうがないよね!




6.正義とは

 ヘドロ状のヴィランに捕まり、あわや危機一髪と言うところで憧れのヒーローであるオールマイトに救われた緑谷出久。

 堪え切れない想いに突き動かされた少年は、立ち去ろうとするオールマイトの足へと咄嗟にしがみついて空を舞う一陣の風となっていた。

 

 彼らは彼らで一つの運命の転機を迎えようとしていたのだが。

 

 

「……全くもう、いずちゃんは相変わらず思い込んだら一直線なんだから」

 

 

 一人置いてかれた形となった狐白は、放り出されたままになっていた出久の宝物であるノートを拾い、同様に放り出されていた学生鞄へ仕舞う。

 そして、自身の学生鞄とは別に親友の忘れ物を拾い上げた。

 

 

「あっちは、商店街の方かな? また無茶してないと良いんだけど」

 

 

 少女は独り言と共に溜息を吐き出すと、尻尾をゆらゆらと振りながら歩き出す。

 なお現在進行形で、No.1ヒーローは誰にも明かしていない秘密を暴露する羽目となり……出久は命の大事さを説かれると共に、ヒーローへの夢を優しく否定されていた。

 

 そんな事は露知らず、少女は親友を追いかけながら歩を進めていたところ、進もうとしていた先から破砕音が聞こえるのをその狐耳で拾い上げる。

 時折聞こえてくる悲鳴や怒号に嫌な予感を感じた少女は、急ぎ足で音が聞こえる場所へ向かう。

 

 そして、その場で目にしたものは……。

 

 

「……なんで、あいつ捕まってるのさ」

 

 

 少女にとって不倶戴天の敵と言える幼馴染の少年、勝己がオールマイトによって捕縛されたはずのヘドロ型ヴィランに捕まり、良いように利用されている光景であった。

 思わず周囲を見回してみるも、見物客以外に見えるヒーロー達もまた手を出しあぐねており、せめて二次災害を起こさないようとしているのか呑気に見物している一般人を叱りつつ避難誘導をしていた。

 

 

「あのヴィラン、兄弟でもいたのかな? ……あ、いずちゃん!大丈夫だった?!」

 

「う、うん……」

 

 

 狐耳をピコピコと動かし、足音から遥か彼方の天空の住人になっていた筈の親友が地に足を付けて後方から歩いてきたのを、狐白は見つけると駆け寄って彼の体に怪我がないか忙しなく見始める。

 しかし、普段は恥ずかしがってそれらを断るはずの出久は、まるで信じていた全てに裏切られたかのように沈んだ表情と共に曖昧な返事を返しながら、狐白から鞄を受け取るのみであった。

 

 だが、俯き淀んでいた彼の視線が前を向いた瞬間その目が開かれ、彼は自らの手で口を覆う。

 出久は気付いてしまったのだ、己が咄嗟に飛び立とうとしているオールマイトにしがみついたあの瞬間、彼が無造作にポケットへねじ込んでいたヴィラン入りのペットボトルを落としてしまったのだと。

 

 そしてその光景は、トゥルーフォームと呼ばれる骨と皮だけの姿となったオールマイトもまた目にしており、出久の夢を諭しておきながら自らの失態で起こしたこの事態を酷く悔やんでいた。

 やがて見物客たちが、今暴れているヴィランが昼に銀行強盗後逃走していたところを、オールマイトに追い詰められていたヴィランだと気付くと口々にオールマイトの登場を望み始める。

 しかしそれでも、オールマイトは動けない、何故なら……既にタイムリミットを超えた今無理に戦いへ赴く事は命を削る事と同義だからだ。

 

 

「僕の、せいだ……」

 

「そんな、いずちゃんは何も悪くなんて……」

 

 

 自身の軽挙が招いたこの事態に、先ほどの夢を否定された事と合わせて出久は強く感情を揺さぶられる。

 今も囚われている幼馴染の事を狐白は欠片ほどは気にしつつも、しかしそれ以上に大事な方の幼馴染のただならぬ様子に安心させようとその手を優しく握る。

 だが、次の瞬間出久は見てしまった。

 

 いつも不敵に笑い他人を蹴落とし高笑いを上げる幼馴染が、か細い希望を願うかのように泣きそうな目をしているのを。

 

 

「いずちゃん!だめぇっ!!」

 

 

 幼馴染の手を、少しだけ躊躇しながら振り払った少年は泣きそうな親友の声を置き去りにしながら走り出す。

 今この瞬間助けを求めている、幼馴染を救い出す為に。

 

 余りにも無謀すぎる少年の暴走とも言えるその行為、その内容に見物客もヴィランを遠巻きに眺め手をこまねいていたヒーロー達も、そして自身の無力さを嘆いていたオールマイトまでもが驚愕する。

 そして、次に飛び出した言葉は。

 

 

「馬鹿野郎ぉぉぉ!止まれ!止まるんだぁ!!」

 

 

 ヒーロー達の一人が絶叫するかのような声で無謀な少年、出久を必死に止める。

 しかし出久は止まらない、今この瞬間出久の頭にはこの事態を招いてしまった後悔も無個性だから何も出来ないという諦観も存在しなかった。

 

 ただ一つあった意思、狂気的とも言える強さを持った『助けを求めている人を見捨てたくない』というエゴだった。

 

 

「爆死、だ」

 

 

 そんな少年を嘲笑うかのように、ヘドロ型ヴィランは触腕を伸ばして今も人質に取っている少年の個性を出久へ向けようとするが。

 汚泥じみた悪意をぶつけるよりも早く、出久は手に持っていた鞄をヴィランの顔と思しき場所へ勢いよく投げつけ、視界を塞ごうとするソレを振り払った一瞬のスキを突いて出久は懐へと飛び込んだ。

 

 

「かっちゃん!」

 

「何で、てめぇが!?」

 

 

 懐へ飛び込んできた鬱陶しい子供を振り払おうとするヘドロの触腕を、出久は神経をとがらせてぎりぎりでかわしながら必死にヘドロをかき分けて囚われた幼馴染を救おうともがく。

 今も彼の頭には打算などなければ、具体的な解決策も浮かんではいない、だがそれでも。

 

 

「君が、助けを求める顔してた!」

 

 

 そして漸く囚われていた勝己の腕を出久が掴んだ瞬間、ヘドロの触腕が出久を害そうと襲い掛かる。

 その光景を為す術もなく見詰めていた狐白は悲痛な声で叫び、ヒーロー達が悪態を吐きながらそれでも子供の命を救うべく打開策など二の次で動き始めたその時。

 

 正義の化身、オールマイトが現れ二人の少年を救い出すと共に、ヘドロ型ヴィランを吹き飛ばした。

 

 

 その後、無茶な飛び出しをした出久はその体捌きや判断力は評価されながらも、命を投げ捨てるような真似をしたことを強く叱責され。

 囚われた被害者でありながら、それでも長時間耐え続けた勝己はヒーロー達にその体力を称賛される事となった。

 

 

 

 

 

 そして、出久はヒーロー達からの説教を受け終わった後は夕日が照らす道を、狐白と共に並びながら歩いている。

 互いの間に言葉はなく、ただ足を進めるのみであった。

 

 だが、そんな無言の空間を荒々しい怒声が食い破る。

 

 

「デクゥ!てめぇに助けを求めてなんかねぇぞ……!! 助けられたわけでもねえし、無個性のてめぇが分不相応な事して恩売ろうとか考えて見下すなよ俺を! このクソナードが!!」

 

 

 声の主は今にも暴発しそうな激情をこらえ、歯軋りしている勝己であった。

 荒々しい幼馴染は、ヘドロ型ヴィランに囚われていた自分へ一方的に言いたい事だけ言うと背を向けて大股で歩き去っていく。

 

 そんな勝己の様子に、出久はどこか晴れやかな気持ちを浮かべながら自身の夢へと決別しようとしたその時。

 

 

「……いずちゃん、こっちむいて」

 

 

 騒動の後合流してから、ずっと黙っていた仲が良い方の幼馴染である狐白に静かな声音で呼びかけられて振り向いた次の瞬間。

 出久は大きな音を立てながら、その頬へ狐白から平手打ちをされた。

 

 

「なんで、あんな事したの? 死んじゃうかもしれなかったんだよ?」

 

「ごめん、こーちゃん……だけど、考えるよりも先に動いちゃってたんだ。助けたいと思っちゃったんだ……」

 

「だったらなんで、僕に声をかけてくれなかったの? 僕はいずちゃんにとって頼りない、信じられない存在なの?」

 

 

 普段は糸のように細いその目を開き、眦に涙を浮かべながら訥々と訴えてくる狐白の言葉に出久は罪悪感を感じながら、それでも抑えられなかった衝動を素直に打ち明けるも。

 その優しさに自身は救われてきた事を狐白は理解しながらも、それでも張り裂けそうなほどに心配した激情を狐白は堪える事ができなかった。

 

 

「ごめん、ごめんね……こーちゃん」

 

「せめて、今度から無理をするなら僕にも言って……叩いてごめんねいずちゃん」

 

 

 俯き謝罪の言葉を口にする幼馴染に、もう危ない事はしないでほしいと狐白は言いかけるも。

 ソレをお願いする資格が彼のその無謀とも言える優しさに救われた自分自身にあるかという想いが、狐白の胸中を覆い出久とわかれて一人家路につくのであった。

 

 

 

 

 

 

「おかえりなさい……あら狐白、泣きそうな顔してるけど出久くんと喧嘩でもしたの?」

 

「違うよ母さん、しばらく部屋に籠るね」

 

 

 帰宅した狐白を出迎えた彼女の母は、泣きそうな顔をしている娘の様子に何かしら幼馴染とあった事を察するも。

 自身の感情の整理が上手くつかない狐白は、鬱屈した気持ちを抱えたまま自室に入ると布団へとその身を投げた。

 

 

「いずちゃんの、バカ……」

 

 

 力なく呟かれた狐白の言葉に込められた感情。

 ソレは、彼女自身でも言葉に出来ないモノであった。

 

 




少しだけ不穏というか後ろ向きな展開ですが、ちょっとした谷展開と言うか。
喧嘩した後は雨降って地固まる的なのをやりたいので、辛抱強くお待ちくださると幸いです!



なお、デク君は狐白と帰り道わかれた後オールマイトからヒーローになれると言われて号泣しました。
そしてその後、だけども無理してガールフレンドを泣かせるのは感心しないぞって怒られました。
しょうがないね!

そしてこの話で、狐白の『稲荷』個性とは別に父親から受け継いだ個性を出す予定でしたが、思った以上に出し辛かったので、出せませんでした。
多分次回こそ出せる、はず。きっと。

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