彼は僕のヒーロー   作:社畜だったきなこ餅

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ご都合気味だけども職場体験四日目更新なのです。
しかし前回のあとがきの内容に、三日三晩の激痛ぐらいならオールマイトだと耐えそうというオールマイトへと熱い信頼に不覚にも笑いました。





50.職場体験四日目、そして

 

 職場体験三日目の夕方に、保須総合病院に担ぎ込まれた幼馴染を衝動的に治療し反動で気絶した狐白。

 彼女が再び目を覚ましたのは、翌日の朝であった。

 

 

「ぅ、ぁ……ここ、は……?」

 

 

 ぼやけた視界と痛む頭を押さえて体を起こそうとした時に少女は、右手が誰かに握られており誰かがベッドの傍らの椅子に腰かけて寝入っているのに気付き。

 その人物が誰かという事を理解すると、その握られた手を愛おし気に握り直す。

 

 

「良かった、いずちゃんはしっかり治せたみたいだね」

 

 

 決して軽くない、深手を負っていた少年に目立った傷が無い事に狐白は花開いたかのような笑顔を浮かべ。

 左手でベッドのサイドテーブルに置かれていた、高カロリーゼリー飲料を四苦八苦しながら開けて中身を飲み下し、補充された燃料を用いて弱っていた消化器官を治しながらエネルギーへ変換。

 弱っていた自身の体をもメンテナンスし、先ほどから自身を苛んでいた頭痛をゆっくりと治していく。

 

 少女がそうやって動いている振動は、今も握られている出久の手に伝わり……椅子に座ったまま寝息を立てていた出久もまた目を開き。

 上半身を起こして呑気にゼリー飲料を啜っている少女を目にした瞬間、感極まった様子で少女を強く抱きしめた。

 

 

「わっ、どうしたのいずちゃん?!」

 

「よかった、こーちゃんが倒れて……凄い心配して、でも元気そうで本当によかった……!」

 

 

 突然出久に引き寄せられて抱き締められ、そのぬくもりと感触に確かに少女がそこに生きている事を実感した出久は安堵から涙を零しながら少女を強く抱きしめ続ける。

 痛いぐらいの抱擁に少女は目を白黒させるが、久しぶりに感じた幼馴染の感触と匂いに心から安心したかのような表情を浮かべると、ゼリー飲料を手にしたまま両手を出久の背中へ回して抱き締め返す。

 

 

「なんであんなに消耗してたのに無理やり個性使ったのこーちゃん。リカバリーガールから大手術終えたばかりだったって、聞いたよ?」

 

 

 そして、出久は少女を抱き締めたまま少女へと問いかける。

 あの時、自分に治療を施してそのまま意識を失った狐白を見た時、出久は足元が崩れたかのような衝撃を感じ。

 もしもこのまま、狐白が目覚めなかったと思ってしまった時言いようのない恐怖に、襲われたのだ。

 

 だからこそ、出久は狐白を逃がさないとばかりに抱きしめたまま詰問をしていく。

 

 

「そうは言うけどね……いずちゃん、僕ね、とても心配したんだよ? あんな大怪我で担ぎ込まれたら、気が気でないと思わない?」

 

「それで、こーちゃんが倒れたり二度と目覚めなくなったら僕は、どうすればいいの?」

 

 

 出久の腕と体から伝わる逞しさと温もり……そして、稲荷の個性によって敏感になっている嗅覚から感じる大事な幼馴染の匂いに狐白はうっとりと目を細めながら。

 少年からの詰問に対して口答えをするものの、出久の有無を言わせない言葉に狐白は言い返す事が出来ずに黙ってしまう。

 

 出久が何故ここまで、狐白の身を案じているのか。

 ソレは、いつも傍に居てその事が出久にとって当然の光景だったのだが……昨日目の前で狐白が倒れた事で、少女が自身にとってかけがえのない存在である事を認識すると共に。

 そこでようやく、出久は己の気持ちに気付いたのである。

 

 

「こーちゃん、僕は君が好きだ」

 

「ふぇ……?」

 

 

 怒られているのに痛いぐらい強く抱き締められている心地よさに、尻尾をゆらゆらと振っていた狐白の耳が大きく跳ね上がり。

 その言葉の真意を探るべく狐白は思考を巡らせるが、突然の発言に少女の脳内は混乱していく。

 

 

「こーちゃんがいたから僕はヒーローを目指し続けられた、君だけは僕の夢を否定しなかったからここまでこれたんだ」

 

「そ、それはいずちゃんが、頑張り続けたからだよ……?」

 

「だけど、こーちゃんが応援し続けてくれなかったらきっと僕は漠然とヒーローになりたいと願うだけで、身体を鍛えたりとか考えなかった」

 

 

 出久の独白じみた言葉に狐白は、そんな事は無いと言葉を返す。

 しかし少年は、半ば確信めいた言葉で少女の言葉を否定してあり得た未来を口にする。

 

 出久にとっても今の自分からは考えられないが、しかし同時に間違いなくそうだったであろうという想いがあるのだ。

 母に無個性である事を謝られ、幼馴染の勝己に否定され続け周囲からも夢を嘲笑され続けてきた幼少期、もしそこに今も自分の腕の中で身を委ねている幼馴染がいなかったどうなっていたのか?

 そう考えた時、出久は夢を諦める事はなかったとはいえしかし、心は折れる寸前になっていたとも考えたのだ。

 

 だからこそ、出久は幼馴染の狐白の存在の大きさを理解し。

 その幼馴染が居なくなってしまうという恐怖が、耐え切れなかったのである。

 

 

「ぼ、僕はもともとは男だし、それに……」

 

「関係ないよ、こーちゃんはこーちゃんだ」

 

 

 混乱した頭のまま、出久の言葉と想いに対して尻尾を忙しなく振りながら狐白は言葉を紡ぐが。

 そんな事は関係ないとばかりに、出久は力強く言い切った。

 

 無論、狐白が性転換することなくいたのならば二人は多少怪しいところはあれども、健全な親友同士の関係を続けたであろう。

 しかし、今の狐白は生物学的にも医学的にも女性そのものであり、故にこそ出久もまた親友へ感じる愛情が男同士のモノから別のモノへと変化してきていた。

 

 

「もう一度言うよこーちゃん、僕は君が好きだ。大好きだ」

 

「いずちゃん……僕も、君のことが大好きだよ」

 

 

 だから、もう二度とあんな無茶はしないでほしいと小さく呟いた少年の言葉に狐白は、申し訳なさそうに少年の名前を消え入りそうな声で呟き。

 やがて二人はどちらともなく抱擁を緩めると、互いの顔を近づけ合い……。

 

 今、二人しかいない病室で二つの影が一つとなる。

 二人のファーストキスはレモンの味ではなく、オールマイト印の超ハイカロリーゼリー飲料の味がした。

 

 

 そして、二人の拙くも激しい口付けは病室の扉を叩くノック音で中断され。

 二人は弾かれたように離れると、狐白は恥ずかしさと衝動の赴くままにベッドへと潜り込んで声にならない声で悶絶じみた鳴き声を上げ始め。

 出久はと言うと、顔を真っ赤にしてブツブツとキスしちゃったキスしちゃったと壊れたラジオのように同じ言葉を繰り返し始める。

 

 

「なぁ緑谷、保須市の警察署所長が話があるって……どうしたんだお前ら?」

 

「な、ななななな、なんでもないよ轟くん!!」

 

「こゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」

 

 

 ノックの後遠慮がちに扉を開いて入って来た轟が目にしたもの、それは。

 顔を真っ赤にしてブツブツと呟いていた出久と、尻尾だけ外に出しつつベッドの中に潜り込んだ狐白が愉快な鳴き声を上げながら物凄い勢いで尻尾を振っているという、謎としか言いようのない光景で。

 もし轟が男女の機微に敏かったら、二人に何があったのか何となく察したであろうが……その辺りの機微が疎いなんてものじゃない少年は、ただ不思議そうに首を傾げるのみであった。

 

 

 

 一方その頃

 

 

 

「兄さん!?」

 

「おお天哉か、どうした血相変えて」

 

 

 体のあちこちに包帯を巻いた状態の飯田が、兄のいる病室へと飛び込むように扉を開けて入れば。

 その中には、顔中に脂汗を浮かべながら……二度と動かない筈の両足を拙く動かして、リハビリに励んでいる兄の姿がそこにはあった。

 

 

「リカバリーガールから聞いたんだけど、本当に、本当に足が治ったの?!」

 

「完治じゃないけどな、脊椎の神経学習が真っ新な状態……いわば赤ん坊と同じ状態だから、まともに歩けるなんてまだまだ先になりそうだよ」

 

 

 病院の中をけたたましく駆けてきた弟が医師に叱られながら、しかしそのまま自分へ詰め寄ってくる弟にインゲニウムこと飯田天晴は苦笑いを浮かべると。

 言葉とは裏腹に、未来がある現状に晴れ晴れとした表情を浮かべながら弟の問いかけへと応じる。

 

 

「一体、どんな治療が……」

 

「すまない天哉、それはまだ言えない」

 

 

 手術開始前の説明にあった、手術内容の守秘という項目に沿ってインゲニウムは申し訳なさそうに弟へと告げ。

 治療中に施された薬師稲荷の個性によって安定した様態、そして心理的に前向きになった事から快復が早まったことにリカバリーガールが連れてきた学生ヒーローにインゲニウムは内心で感謝しながら。

 今はまだ、彼女の功績を讃えらえない事にもどかしさもまた感じていた。

 

 

「それより聞いたぞ天哉、お前無茶やってしまったなぁ」

 

「そ、それは……ごめん、兄さん……俺はやっぱり兄さんの名前を継ぐ資格なんて……」

 

 

 自分を尊敬し自分みたいなヒーローになりたいと、目を輝かせていた弟に重荷を課してしまった事をインゲニウムは後悔しながら……。

 苦笑いを浮かべながら、頭を下げる弟の頭を乱暴にくしゃくしゃと幼い頃のように撫でると。

 弟の重荷を軽くするために、そして自分の決意表明を告げる為にその口を開く。

 

 

「そうだな、だからお前に託すんじゃなくて……暫く預ける事にしたよ、インゲニウムは」

 

「それは、どういう……?」

 

「俺が戻るまで天哉、お前がインゲニウムだ。だけど俺もまたお前の背中をすぐに追い抜いてやる、だからな」

 

 

 それまで、インゲニウムの名前を預かっててもらえるか?と不器用に笑う兄の姿に、天哉は目に涙を浮かべて嗚咽を漏らしながら頷くと。

 そのまま嗚咽を堪え切れず、再び兄が走りヒーローをやり直せるという喜びの涙を流し始め……。

 インゲニウムはそんな弟の様子に、ただ苦笑いを浮かべながら優しく弟の頭を撫でてやるのであった。

 

 




この後デク君と飯田君、そして轟くんは原作通り面構署長にお叱りを受けたそうです。

実はもう少しデク君と狐白ちゃんの関係は焦らすつもりだったのですが……。
互いの感情が両片思い状態で、前回の終わり方したらデク君なら突っ走るよなぁという感覚の下こうなりました。
ごめんね!

ちなみに今回ちらっと書きましたが……。
狐白の個性によって再生された臓器や神経は、言ってみれば赤ちゃんレベルにまっさらでかつ脆弱となります。
なので慎重なリハビリや静養が必要となったりするので、重症負った場合は即再生即復帰とはいかないジレンマがあったりします。



そして皆様にお詫びがあります。
絵師様に依頼だしてた狐白のバニー姿ですが、発注ミスにより社畜の別作品『ねごしえーたー!』の主人公ちゃんのバニーガール姿となりました。
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