【職場体験が終わった後の爺達の密談】
一週間の職場体験の関係で滞在していた出久が立ち去ってグラントリノ一人に戻った彼の根城。
いつも通りの静寂に満ちた休日が戻ってくるかと思いきや……。
「よう邪魔するぜ、酉野」
「藪から棒に連絡してきた上に押しかけてくるんじゃねぇよ玉藻、こちとら忙しいんだよ」
「ヒーロー活動に小指の爪程も興味がないお前が? ハッ」
「てめぇ鼻で笑うたぁ良い度胸だなこの人でなし、ぶっ飛ばすぞコラ」
我が物顔で立ち入って来た甚平姿の老人が遠慮なく扉を開けて入ってくるや否や、どっかと乱暴にソファへと腰を下ろし。
傍若無人極まりない極道爺の行動に、酉野と呼ばれた小柄な老人ことグラントリノが額に青筋浮かべながら拳を握りしめつつ、極道爺の対面にテーブルを挟んで座る。
「で、どうだったよ我らが愛弟子は?」
「アホかこの人でなし、型が癖になってワンパターンになってたぞ。無理やり矯正したから多少マシにしてやったがよ」
「さすがじゃねぇか、戦友」
「ケッ、てめーに褒められても欠片も嬉しくないわ」
机に置いたままのポットから粗茶を適当なカップへ注いで、突然の来客へ寄越しながら昔から欠片も変わらない目の前の男に内心でグラントリノは溜息を吐きつつ。
古き戦友が訪ねてきた原因であろう用件を、自ら切り出す。
「お前がわざわざ足を運んだってのは例の、ヒーロー殺しの件だろ?」
「御明察だ、テレビやら何やらじゃいまいちパッとしなくてなぁ。実際に現場にいたらしいお前さんに話を聞きに来たのだが……お前から見てアレはどうだった?」
「……最悪の部類だな、燻っていた悪意に火を放つには最適過ぎた」
「そうかい……」
ずぞぞぞ、と音を立てながら戦友が淹れたお茶を啜りながら老人は顔を顰める。
「ヴィラン共が、一つの旗印に集いだすのは想定に難くないぞ『黒狐』」
「いっそまとめて、集まった所を軍用の火炎放射器で焼き払うなり毒ガスぶちまけてやりゃいいんじゃねぇかなぁ」
「お前ほんっと昔から変わらんな!? お前の嫁さんよりも合理的に始末しようとするからタチ悪いわ!!」
神妙な顔で言葉を紡いだグラントリノの言葉に、半ばボヤくように呟いた極道爺の言葉に全力でグラントリノはツッコミをいれる。
同年代という事で若い頃は半ば成り行きで、先代のワンフォーオールも含めた4人で活動する事が多かったグラントリノ達であったが……。
隙あらば血生臭い行動に動く鮮血夜叉こと血桜、死ななければ良いじゃない精神でギリギリを攻めていく鋼糸こと黒狐。
そして、割と天然で人でなし夫妻に口八丁で丸め込まれてしまう先代ワンフォーオールの志村……例えていうならばボケの三連星。
その中で燦然と輝くツッコミ一番星であったグラントリノは、今も昔も色んな意味で振り回されているのであった。
「……少し前から家内の号令で葛乃葉の家に探らせてはいる、彼奴……オールフォーワンの手がかりが見つかったらお前さんにもすぐに伝えるさ」
「俊典にも話したが、やはりお前も思ったか」
「ああ、この狡っからく面倒で迂遠だが確実に詰めてくるやり方はそこらの小悪党に出来るもんじゃない、十中八九……アイツが絡んでるだろうよ」
絡んでなかったらソレはそれで黒幕の首を死なない程度に曲げてやるがな、と物騒な事を呟きつつ極道爺はカップを机へ置くと。
どこかやりきれなさそうな顔を浮かべながら、しみじみとした顔で口を開く。
「出来る事ならば、儂らだけでケリつけてぇところだな」
「……ああ、俊典には半ば脅かすように話はしたがもうアイツの体は限界を迎えている、後継者が育つのが間に合えば良いが」
「彼奴もソレは織り込み済みだろうよ、そして彼奴ならば」
「後継者がいるのなら育つ前に、居ないのならば確実に俊典を殺しに来る、か」
自分達が不甲斐なかったせいで戦友である志村を喪い、更に後継者である俊典ことオールマイトに多大なる負担を課した後悔の念に二人の老人は苛まれながらも。
故にこそ、今度こそ憎き怨敵との決着を付けようと静かながら燃え滾る決意を抱く。
心優しい未来のある若きワンフォーオールの後継者である出久が、自分達のような屍山血河を乗り越えるような事が無いようにする為にも。
【そんな会話があった事など露知らない幼馴染共とクラスメイト】
激動の職場体験を終えた一週間、そして雄英高校へ登校した学生達は今。
朝のホームルーム前に、思い思いのグループで集まって職場体験の成果を報告しあっていた。
「「ダァッハッハッハッハマジか!!マジなのか爆豪!!」」
「笑うな……クセついて洗っても直らねえんだ、おい笑うなぶっ殺すゾ……!」
「「やってみろよ8:2坊や!アッハハハハハハハハハ!!」」
いつものボンバーヘッドな髪形からは打って変わって、かっちりした8:2分けに仕上げられた勝己を指差して切島と瀬呂が涙まで浮かべるほどに大爆笑しており。
二人の様子にとうとう怒髪天を突いた勝己が勢いよく椅子から立ち上がった瞬間、髪型がいつもの様子へと戻りその流れを見せつけられた二人の腹筋もまた爆裂四散していた。
一方で、女性陣は平和なモノで……。
和気藹々と成果を話したり内容を話したりしてる中、一人お茶子が纏う気配が武術とかの扉を開いた修羅じみた雰囲気を滲み出してもいる。
しかし、その中でやはり一番大切だったのはという話題になった瞬間、クラスメイトの視線は自然とあるグループへと向けられ。
その視線の先には、集まって話していた轟と飯田……そして満面の笑みを浮かべた狐白を背中に張り付けた緑谷が居た。
ちなみに彼らが意図する話題については、特に狐白は関係が無かったりするのは言うまでもない。
色々とツッコミどころが浮かぶクラスメイトであったが、彼らはすんでのところでその言葉を飲み込み話題に挙げたのはヒーロー殺し。
物騒極まりなく、危険なヴィランがUSJ騒動の時に来てなくて本当に良かったと尾白が呟く中。
「でもさぁ確かに怖えけどさ、動画見たか?アレ見ると一本気っつーか執念っつーか、かっこよくね?って思っちゃわね?」
「上鳴くん!」
恐怖について同意しながらも、いつもの軽い調子で上鳴が呑気に言葉を放ち……出久が慌てて制止するかのように名前を呼んだ瞬間。
自分が配慮に欠けた発言をしてしまった事を悟った上鳴は、慌てて自分の口を覆う仕草をしながら飯田へ詫びを入れる。
しかし、上鳴の無神経とも言える発言に対して飯田は怒りや悲しみを見せる事はなく、いつもの冷静さに溢れた発言で上鳴の話した内容へ一定の理解を示しながら。
「奴は信念の果てに『粛清』という手段を選んだ、どんな考えを持とうともそこだけは間違いなんだ」
「だから俺は、俺のような者をこれ以上出さない為に。そして預かったインゲニウムの名前に恥じない身となる為にも、改めてヒーローへの道を歩む!」
「飯田くん……」
「すげぇよ飯田、なんか……ごめんな」
「気にするな上鳴君、それに兄は当初は絶望的だったがリハビリを続ければ復帰できるそうだからな!自分が絡む話題で若者が沈む事は、兄も望まない」
いつもの角ばった動き、そして自信に満ちた笑顔を浮かべて言い放った飯田の言葉に出久を含めたクラスメイトは感銘を受け。
上鳴は自身の発言を心から恥じ入り、申し訳なさそうに頭を下げるが飯田は気にするなと声をかけ、インゲニウムの病状については緘口令を敷かれてない事からクラスメイトの心を軽くするために告げると。
1-Aのクラスメイト達は、口々に飯田へ祝福の言葉を投げかけ……飯田は敬愛する兄の体についての朗報をクラスメイトが喜んでくれている事に、心から嬉しそうに笑みを浮かべるのであった。
「……ねぇこーちゃん」
「んー、どうしたのいずちゃん?」
「もしかしてさ、インゲニウムの体治したの……」
「……えへへー、今はまだ内緒だよー」
クラスメイトが賑やかに飯田へおめでとうコールを響かせる中、出久は背中にへばりつき今の自身の首筋に臭い付けするかのように頬擦りしていた狐白へ声をかけ。
小声でインゲニウムの突然の朗報について問いかけるが、幼馴染の少女は一際強く背中から出久へ抱き着いて豊満で柔らかな双丘を押し付けながら曖昧な声音でごまかすのであった。
そんなワケで、爺共の会話とクラスメイトの日常会話なのでした。
ちなみに轟君は、特に聞かれてもないし話す事でもないよななんて思ってるので。病室の出久と狐白の微妙な空気は誰にも話してません。
クラスメイト達は、なんか更に密着度高くなってるし緑谷もなんか落ち着いてね?なんて不思議に思ってる感じです。
なおこれからさらに糖度が上がる模様。
そして、極道爺こと狐白の祖父のプロフィール公開です。
(やりたい放題な設定だから反応が怖いけど、我慢できずにぶっぱする作者の屑)
『玉藻 黒狐(くろこ)』
玉藻狐白の祖父であり、今もヒーロー免許は失効しないよう更新こそしているがほぼ引退状態の爺。
元々は真っ黒な髪の毛だったが、加齢によって白髪だらけとなった髪の毛を短く刈り上げている。
普段着は甚平姿と下駄という時代錯誤極まりない恰好を愛用しているが、本人曰くコレが一番楽らしい。
本来ならば自身の妻が当主になる事は無い、気楽な本家の末っ子男子だったのだが。
若き頃当主だった自身の母と次代当主だった姉が、公安との密談中にヴィランに襲撃された事で死亡した事により、なし崩し的に妻が当主となる事になった。
公安との密談が襲撃された理由は、あってはならない内通者による情報漏洩が原因であり……元々公安との歩調が合っていなかった玉藻一族が、本格的に公安に見切りをつけた理由となっている。
元孫息子、現孫娘である狐白はそれこそ目に入れても痛くない大事な大事な孫であり。
彼女の伴侶とするからには、中途半端な事など一切出来ないとばかりに出久を鍛えているらしい。
所属:玉藻家
誕生日:7月7日
身長:176cm
血液型:A型
出身地:京都府あたり
好きなもの:酒、煙草、家内、娘、孫
嫌いなもの:ヴィラン、公安、警察
戦闘スタイル:糸繰りによる相手の行動阻害からの近接戦闘、また糸を用いた変則機動
個性:『糸繰り』
糸繰り:両手の指先から、細さと硬度を自在に操れる糸を伸ばし操る事が可能。
糸の最大射程距離は長き研鑽により50mにまで届き、硬度は鋼レベルにまで高める事が出来る。
しかし加齢による衰えか、精度は若い頃より高くなっているが硬度や強度は落ちているらしい。
糸自身は粘着性を帯びていないが、ある程度動きを操る事が出来る為高速で動いている相手へ巻き付ける事も、それほど難しくないそうだ。
必殺技
門縛り:相手の両腕や両足を縛り上げ、門を叩く事も通る事も許さない状態に拘束する。
ここから派生し、殴る蹴る極める折るが常套手段。
羅生門:相手の髪の毛や衣服へ糸を巻き付け、髪の毛や服を毟り取る勢いで固める極悪技。
鍛えようのない頭皮、更には反応が遅れがちな服への縛りによる捕縛率は非常に高い。
一説によると、この極道爺が現役だった頃は自発的に髪を剃り上げ服も体に張り付くようなスーツを着用したヴィランが多かったらしい。
絡繰傀儡・獄門:相手の四肢、関節、首等の可動域全てを糸で縛り、物理的に曲がらない方向へ一斉に力をかけて合理的かつ効率的にへし折る文字通りの『必殺技』
この技を極められたヴィランは、糸が切れた操り人形が如くなすすべもなく崩れ落ちるしかない。