彼は僕のヒーロー   作:社畜のきなこ餅

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大変お待たせして申し訳ありません。



53.期末試験のアレやコレ

 

 

 時は流れ六月最終週、学生達は日常を謳歌したり恋人同士で過ごしたりとある少年が毎週日曜日、恋人の祖父母含めた連中にカワイガリを受けたりする中。

 気が付けば期末テストまで残すところ一週間を切っている1-Aの教室にて、女子達はとても盛り上がっていた。

 

 

「まぁっ、緑谷さんと婚約を!?」

 

「うん、まだお互い学生だから内々の話なんだけどねー」

 

「わー、玉藻おっとなー!」

 

 

 下着や体のことで色々と喋る事が多い狐白と八百万がそんな事を互いに話し、耳ざとく聞き取った芦戸がはしゃぎ狐白の尻尾へ飛びつきながら大声で騒いだのを切っ掛けに。

 恋愛系の話題に目がないガールズ諸君は、わらわらと狐白の周囲へと集まる。

 

 

「その、婚約とかってどんな感じなん?」

 

「もしかして、緑谷くんがこの前の休み明けボロ雑巾みたいだったのってそれが関係してるのー?」

 

 

 わいわいがやがやと耳郎や葉隠も、興味津々と言った様子を隠すことなく……葉隠はその個性の関係上表情こそ不明だが、慌ただしく動いている袖の様子から好奇心があふれ出してるのは想像に難くなく。

 そんなクラスメイト達の質問に狐白は尻尾を揺らせ、たじろぎながらも幸せオーラを隠すことなく質問に答えていく。

 

 一方男子側はというと。

 

 

「緑谷ぁぁぁ…………許すまじ、羨ま死い……!」

 

「落ち着け峰田、それ以上負の感情を膨張させるとお前自身が闇に堕ちるぞ」

 

「スカしてんじゃねぇよ常闇ぃ! お前は男として、否一人の雄として妬ましくないのかよぉ!?」

 

「悪鬼羅刹の魑魅魍魎へと堕ちたか……」

 

 

 ちくしょーーーと泣き叫びながら常闇の胸倉を掴み、八つ当たり全開で咆哮する峰田。

 クラスメイトの哀れな闇落ち姿に常闇は成すがままに揺らされながら、嫉妬する前に己を磨くべきではないだろうかなどと思いつつも口に出さないのでいたのだが。

 

 

「男らしくないぞ峰田、緑谷に苛立ちぶつける前にモテたいなら自分磨けよ」

 

「そうだぞ峰田くん! 古い考えであるがそれでも男の嫉妬は醜いぞ!」

 

「うるせぇよナチュラルイケメン共ぉ! オイラのこの顔とガタイ見てもっぺん同じこと言えるのかよぉ!?」

 

 

 割と天然気味かつ男気ある行動と態度に重点を置くクラスメイトの切島と、クラス内の不和を委員長として収めようとした飯田が峰田の行動と発言を窘める。

 峰田に胸倉を掴まれてガクガクと揺すられていた常闇は、敢えて言わなかったのになどと思い教室の天井を見上げ。

 その直後、峰田の血を吐くかのような悲惨な咆哮があがった。

 

 

「荒れてんなぁ峰田、まぁそんな事よりさ緑谷。期末テストの対策どうよ?」

 

「勿論対策済みだよ上鳴君、毎日こーちゃんと一緒に勉強会してたしね。そう言えばこの前なんてこーちゃん、尻尾にリボン巻いたりしてたんだけど凄い可愛かったんだよ」

 

「おう緑谷ナチュラルに惚気るのはやめろ、死ぬぞ俺が……だけどサンキュな緑谷、お前がまとめてたノートコピらせてくれたおかげで俺も赤点は回避できそうだぜ」

 

 

 デート対策についてアドバイスを求めた出久、そして難儀しながらも求めに応じアドバイスを授けた上鳴。

 もしも出久が内向的なままであったら、それほど深い交流は生まれる事はなく顔見知りであり戦友であるくらいの繋がりになったであろう二人は……。

 奇妙な縁にて、わりと親しい友人関係を築き上げていた。

 

 

「そんなわけでさ緑谷、俺に美人のお姉さんを紹介してくれいやほんとに心から頼みたい。玉藻の親戚のお姉さんとかで独り身の人いない?」

 

「そんな事言われても困るよ、上鳴君」

 

 

 ダメもとで出久へ問いかけてみるが、困り顔を浮かべる出久の様子に上鳴は冗談だよと言いながら肩を竦め。

 一方出久の方は、心当たりのある幼馴染の少女の親戚の女性が何人もいるにはいるのだが……彼女達の男性へ求める条件が自分より強い男であるが故に。

 幼馴染との交際を報告に行った時の地獄連戦を思い出し、そんな女性をクラスメイトに紹介するのは人道に反すると考えていたりする、酷い話だ。

 

 ちなみに二人の会話はさほど離れていない場所にいた女性陣にも聞えており……。

 

 

「そいえば何も勉強してなかったぁーーーー!」

 

 

 今この時になって、尻に火が付いた状況である事を思い出した芦戸が神は死んだとばかりに叫ぶ。

 刹那主義極まるが故に毎日遊び倒していたが故の、清々しいまでな自業自得であった。

 

 

「あの、座学なら私お力添えできるかもしれません」

 

「ヤオモモー!!」

 

 

 ぬわーー!と叫んでいた芦戸、八百万からの助け舟に全力乗船するが如き勢いで彼女へと飛びつき、抱き着く。

 同類だと信じていた上鳴が抜け駆けするかのように緑谷の助力で学力を伸ばしている現状、ダントツ最下位になりかねない現状に芦戸も焦りを禁じ得なかったらしい。

 

 

「だけど演習の方はその、からっきしでしょうから自信が……」

 

 

 なお八百万は八百万で、最近行ってきた職場体験がヒーロー活動というよりもアイドルじみた内容であったこと、その中で出久や轟達は実戦で結果を出している事に焦っているのか。

 どこかも物憂げな様子でたそがれていた、持てる者は持てる者で悩みがあるようだ。

 

 その後なんやかんやの末に、八百万の下に勉強会参加希望者が殺到。

 一方で成績トップ陣でありながら誰一人声をかけて来ない勝己は面白くなさそうに舌打ちしており。

 

 

「この人望の差よ」

 

「俺も人望ぐらい腐るほどある! てめぇ教え殺すぞ!?」

 

「おお! 頼むわ!!」

 

 

 何のかんの言ってつるむ機会が多い切島は、そんな勝己に絡みつつ頼りになる勉強会の教師をゲットする事に成功していた。

 この少年、意外と強かである。

 

 

 

 そんなこんなで授業は進み、お昼時間。

 いつもは二人で肩を寄せ合って狐白の手作り弁当を味わう出久であったが、期末試験対策の話し合いもある為幼馴染と共に弁当を手に食堂へとやってきていた。

 

 

「だけどどんな演習試験になるんだろう、こーちゃんはどう思う?」

 

「うーん、そうは言っても期末試験だし手の込んだ事やらないと思うんだけどなぁ」

 

「普通科目は授業範囲内からで、何とかなると思うんだがなぁ」

 

「相澤先生に聞いても、一学期でやった事の総合内容としか言ってくれないしねー」

 

 

 御飯にサクラデンプで大きなハートが描かれてる狐白の手作り弁当を味わいながら、出久は隣に座る狐白へ問いかけ。

 問いかけられた狐白はお茶を一口飲んで考え込みつつも、無茶はしないであろうという考えを口にする。

 

 そして飯田がカレーを前にして両手を合わせながら、座学の内容に言及すればラーメンのどんぶりを手に持った葉隠が困ってるかのような口調で言葉を続ける。

 ヴィランの襲撃や何やらという命がけな内容とは異なるとはいえ、学生にとっては生きるか死ぬかの瀬戸際とも言える案件な為、クラスメイト達は熱心に議論をし……。

 

 

「……どうしたの?」

 

「ああごめん、頭大きいから当たってしまいそうになったよ」

 

 

 幼馴染が真心こめて作ったおかずの厚揚げを箸で摘まみ口へ運ぼうとした瞬間、背後に感じた気配出久は弁当をそっと机へおろしつつ頭を傾けて何かを躱し。

 軽く振り向いて見れば、そこに居たのは慇懃無礼な様子を隠そうともしていない1-Bが誇る問題児こと、物間であった。

 

 出久の視線を向けられた物間は、悪びれる様子もなく口を開き喋り始めたのは出久達が遭遇したヒーロー殺しについての内容。

 だが言葉の内容は遭遇した事に対して心配するとか励ますというポジティブな意味合いとはかけ離れた、出久達の神経を逆撫でするかのような言葉であった。

 

 あまりにもあまりな物言い、しかし出久もヒーロー殺しに兄が襲撃された飯田も特に怒りを表す様子はなかった、それは何故か。

 

 

「何で君がそんな怖い顔して睨んでくるのかな? ああごめんごめん、愛しの彼がヒーロー殺しに遭遇したってんならしょうがないよ……ふっ?!」

 

「そこまでにしときな」

 

 

 そのまま言葉を続けるとその口縫い合わせるぞと言わんばかりの眼光を放っている狐白の様子に、物間は口角を吊り上げてにたりと嗤い。

 言葉の矛先を狐白へと向け始め、今度は幼馴染であり恋人へ口撃が向いたことで出久が放つ気配が急速に冷え切っていく。

 

 ソレに気付いてか気付かずか、物間の口は閉じるどころか愉悦に塗れた声音を絶好調に放ち始め、そしてその言葉は彼の背後から現れた1-B女子生徒こと拳藤が物間の首筋へ手刀を落とした事で強制中断された。

 ちなみに彼が手に持っていたプレートは床へ落ちる前に、拳藤の隣にいた心操が軽やかに回収している。

 

 

「ごめんなA組、こいつちょっと心がアレなんだよ」

 

「悪いヤツじゃ……ないと言い切れないんだが、赦してやってくれ」

 

 

 クラスメイトの発言を拳藤が出久達へ詫び、心操もまた慣れないフォローをしようとして失敗しつつも1-Aの生徒達に頭を下げる。

 そして、詫びになるかどうか知らないがと前置きした上で、拳藤は1-A生徒達に期末テストの演習試験についての情報を開示した。

 

 その内容とは、入試の時みたいな対ロボットの実戦演習だと伝え、根拠として先輩に知り合いがいる関係で聞いたのだと説明する。

 一方納得いかないのは猫のように拳藤に首根っこを掴まれている物間である、折角の情報アドバンテージを捨ててA組を出し抜くチャンスだったのにと呟くも……。

 問答無用とばかりに再度物間の首筋へ手刀を落とし、問題児の意識を刈り取って心操ると共に立ち去っていくのであった。

 

 

「B組の姐御的存在なんやね、拳藤さん……」

 

「あれぐらいじゃないと、物間君は止まらないのかもしれないな」

 

 

 うひゃぁ、と呟くお茶子の言葉に飯田は頷きながら納得がいったと言わんばかりの様子を浮かべ。

 出久はと言うと、恋人を馬鹿にされてご機嫌斜めな狐白を宥めながら手作り弁当を味わう、大事な時間に戻るのであった。

 

 




期末試験の流れを少し変えたり、上鳴君と出久君が友情を育んだりという微妙な変化をしつつ。
原作の流れを踏襲するお話でした。

今作ではA組もB組も定員数が21人となっているため、B組には心操君が加えられてたりします。
(体育祭の時もB組として出場してました)

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