ぼちぼちと更新は続けていきたいと思っておりますので、どうかお付き合い頂けますと幸いです。
【期末試験に備える者達~ヤオモモ組編~】
「そろそろ休憩しましょうか、根を詰めすぎても良くないですし」
「ヴぁーーー!疲れたーーー!」
眼鏡をかけた八百万が参考書を閉じて宣言した瞬間、1-Aが誇る刹那主義筆頭の芦戸が雄叫びを上げながら上品なテーブルクロスのかけられた机に突っ伏した。
今彼女を含む1-Aの一部の面々は、八百万の屋敷にて彼女に勉強会を開いていたのだが……。
「芦戸、普段授業でノート取っておけばまだ楽だったんじゃないの?」
「ノートをとってもわからないんだよー!」
八百万の指導にて何とか学力に上方修正がかかっても尚、頭から煙を噴き出しそうな勢いで芦戸は耳郎のツッコミに叫んで返す。
だが一方で、1-A二大アホ巨頭の片割れだった上鳴の様子はと言うと。
「でも芦戸、八百万の説明はわかりやすかったぜ? プロの教師かと思うぐらいだったしな」
「なんでアンタはそんな余裕なのさ! アタシと共に1-Aの最底辺を通そうと誓ったのは嘘だったの!?」
「いや誓ってねぇよ巻き込むな」
軽く体を伸ばしてコリをほぐしながらどこか余裕な状況である。
出久のノートを借りてコツコツと実力を伸ばしていた彼は今、学力的には辛うじて最底辺を脱出していたのだ。 個性を過剰使用するとアホになるのは変わっていないが。
「でもすげぇよ上鳴、コレも緑谷ノートのおかげか?」
「それもあるし、アイツ要点を抑えた説明がめちゃくちゃ上手いんだよ。俺のレベルに合わせてくれて教えてくれるし」
リアルメイドさんのお茶かよ、などと呟きながらカップを使用人から受け取り一口啜った瀬呂が上鳴に横目を向けながら問いかけ。
問いかけられた本人は、おかげで最近授業内容もわかって楽しいぜなどとおどけた調子で笑って答えながらカップへと口を突けた
そんな二人の会話に聞き耳を立てつつ、耳郎は心からの疑問を上鳴へぶつける。
「そう言えば上鳴さ、お礼で緑谷にファッションとか教えてるけどアンタは彼女出来たの?」
「ごふっ」
情け容赦のない指摘に、上鳴は勢いよく飲みかけた紅茶を噴き出した。
上鳴電気、絶賛彼女大募集中である。
【期末試験に備える者達~爆豪勉強会編~】
ところ変わり爆豪という表札が掲げられた一軒家、その中の爆豪と切島の二人がいる部屋で、シャーペンが紙の上で走る音が響いている。
そして唐突に切島の手が止まり、何か言おうと顔を上げれば。
「その数式の類は解答見てから逆引きしろ」
「お、おう……だけど勉強なのに解答見ていいのかよ?」
「どうせどう解けばいいかもわかんねぇんだろ? だったらコツ掴む方が先だろが」
「なるほど!サンキュー爆豪!」
爆豪からの言葉に首を傾げて聞いた切島であるも、続けて放たれたぞんざいな物言いに目を輝かせて納得したとばかりに手を打ち。
感謝の言葉を述べると共に、答えを逆引きしてから苦戦していた数式へと取り掛かる。
そしてまた一時の間、互いに無駄口を開くことなくシャーペンを走らせていく。
ちなみに一見そっけなく見える爆豪であるが、時折切島の様子を気付かれる事無く視線だけで確認しており、詰まるようであれば指導をする様子を見せていた。
こんな感じに分りにくい形でしか気配り出来ないが故に、とある狐耳尻尾の幼馴染は彼の事を非常に面倒で拗らせたツンデレと称したりしているのは……。
本人こと爆豪が頑として認めていないのは、言うまでもない。
閑話休題
爆豪の母がオヤツと飲み物を持って来たタイミングで小休止を入れている中、切島がうと思いついた様子で口を開く。
「そう言えば爆豪、お前って緑谷と玉藻との付き合い長いんだよな?」
「不本意極まりねえけどな、それがどうした?」
麦茶で喉を潤し煎餅を勢いよく噛み砕きながら、不機嫌そうに爆豪はジロリと不躾な質問をぶつけてきた切島を睨むも。
睨まれた当人は特に気にする事なく、爆豪が肯定の意志を示した事で次の質問をぶつけた。
「いや大した質問じゃねーんだけどよ、玉藻って実際どうなんだ? この前の体育祭だと飯田に一歩届かず負けちまったけどよ」
「つまんねー事聞くなよ、あの陰険狐目は真正面よーいどんならクソ雑魚だ」
切島のふとした疑問、それは元男子であり今は美少女と化したとこの前盛大にカミングアウトしたクラスメイトの戦闘能力である。
身のこなしは鋭いモノがあるが、実際戦うとなった時どうなるかという……真正面から殴り合うタイプの切島らしい疑問とも言える。
だからこそ爆豪は、詰まら無さそうに鼻を鳴らしながらぶっきらぼうな物言いで切島の疑問に答えを返した。
「……じゃあ、何でもあり。玉藻がコスチュームで持ってる薙刀? とかもありだとどうだ?」
「俺なら楽勝だな。それとアレは長巻だ、思ってたよりリーチあるから敵に回すと面倒だぞ」
「マジかぁ、一回組手頼めねぇかな。武器持ち相手の訓練って経験ねーんだよな」
「多分デクの野郎説得する方が面倒だな、あのクソナード浮かれに浮かれて過保護極まりねーからな今」
爆豪は心底うんざりしていると言わんばかりの表情で、忌々しそうに言葉を放つと空になったコップをテーブルへ置き。
休憩は終わりだ、続きやるぞと切島へ声をかけ……声をかけられた当人も応!と元気よく答えてテキストを開き直すのであった。
【期末試験に備える者達~幼馴染カップル編~】
八百万の屋敷で複数人のクラスメイトが勉強会を開き、爆豪家で男子二人が勉学に励んでいた時。
出久と狐白の二人もまた、二人だけの勉強会を出久の部屋で行っていた。
「いずちゃん、ここの化学式はどうすればいいの?」
「ああそこはね、こうやってこうすれば……整理してシンプルに考えると凄い簡単になるんだよこーちゃん」
「本当だ、いやもうほんと化学式ってみるだけで嫌になるよ……」
オールマイトグッズに囲まれた少年の部屋に折り畳み式の机を置き、座布団を敷いて隣り合って少年と少女は勉強に励んでいた。
二人は肩を寄せ合うほどに密着しながら和気藹々と、時に難儀しながらも問題へ取り組んでおり……。
時折、かまってほしい少女の心情を表しているかのように動く尻尾が少年の身体を擽れば、少年は柔らかく笑みを浮かべながら指で梳くように少女の尻尾を優しく撫でていく。
ちなみに今少年少女が座っている座布団は、二人で出かけた時に買ったお揃いの柄の座布団だったりする。
「こーちゃん古文とか数学は強いのにね」
「古文はお婆様やたまに顔出す親戚のお姉さんが色々教えてくれたからねぇ、和歌とかも得意だよ」
時折、まるで猫が飼い主に甘えるかのように少女がぐりぐりと少年の方に頬擦りし、少年は困ったように笑みを浮かべながらも。
愛しそうな手つきで先ほどまで尻尾を撫でていた手で、少女の白銀色の狐耳ごと頭を優しく撫でていく。
そして、少年がその手をそっと少女の肩へ乗せてそっと抱き寄せようとしたその時。
部屋の扉がノックされた事で出久と狐白は顔を真っ赤にしながら慌てて離れた。
しかし、離れたと言っても肩が触れ合う程度に近いのはそのままであったりする。
ノックの後部屋を空けた出久の母、引子は二人の様子に微笑ましそうに苦笑いを浮かべると飲み物とオヤツの載った盆を床へ置き。
ごゆっくり、などと言いながら扉を閉めるのであった。
リハビリも兼ねた短編集でした。
地味に上鳴の学力レベルが上がったりしてる改変、結果芦戸が1-Aの絶対アホクイーンとして君臨する事に。