原作だと数コマで終わってた浜辺の清掃作業に入学試験ガイダンスの前の部分。
今回はその部分のお話ですが……。
しかし漸くここまで来れました。
出久と八木の特訓に狐白が参加するようになり、必然と今まで以上に出久と狐白が行動を共にする事が増えた。
勝己がヘドロ型ヴィランに囚われた事件の後は少々ギクシャクしていた二人であったが、その後急速に仲直りをした様子から周囲は二人の関係を邪推したりもするようになっていたものの。
諦めかけていたヒーローへの道が開けた出久はそれらを気にする余裕はなかったし、目を離せば無茶をしようとする幼馴染の出久から目を離せない狐白もまた周囲からの反応などどこ吹く風であった。
何となくそう言う関係になったんじゃないか、という扱いをするようになってきたのだが残念ながらソレを否定し修正する人間もまた誰一人いなかった。
梅雨時の雨が降りしきる中では……。
「ほらいずちゃん、身体冷やしたままだと風邪引いちゃうよ」
「ありがとうこーちゃん、持ってきたタオルもびしょびしょになって困ってたんだ」
本来ならば人々の憩いの場として作られたであろう浜辺の休憩所で、ゴミをどかし多少のスペースを確保した範囲で狐白は肩から提げている鞄からスポーツタオルを取り出すと。
雨の中作業を続け体を冷やしきっている出久の体を甲斐甲斐しく拭き始め、ある程度ふき取ったら今度は休憩所のベンチにうつ伏せに寝かせてマッサージをし始める。
「なぁ緑谷少年に玉藻少女、二人は本当に付き合ったりしてないのかい?」
「え? はい、こーちゃんは親友ですし」
「うん、いずちゃんは親友だしね」
うつぶせたままマッサージの心地よさに頬を緩めだらしない顔をしていた出久、そしてマッサージをしていた手を止めて顔だけ八木へ向けた狐白が異口同音に八木の問いかけを否定する。
最近の若い子の事情は私らの頃とはまた変わってるんだなぁ、などと呑気に首を傾げる八木であった。
日差しが強くなり人々の気持ちが浮わつく夏の日では……。
「今年も暑いのにこの海浜公園には人が全くいないね、いずちゃん」
「うん、そうだねこーちゃん……だけど前よりも少しずつ綺麗になってきてるから、頑張らないと」
「その意気だぞ少年! ……玉藻少女、今日も頼めるかね?」
朝日が差し込むも人々が寄ってくる気配のない海浜公園の様子に、狐白が尻尾をゆらりと揺らしながら周囲を振り返り。
狐白の言葉に出久は同意を返しながら、この浜辺の水平線を復活させることが己のヒーロー活動の第一歩だと、気合を入れ直して清掃活動へと挑む。
そしてこの日もまた八木と狐白は出久の奮闘を見ながら、狐白はブルーシートを適当に綺麗になってきている浜辺に敷いて肩から提げていた鞄を置いてから八木を座らせる。
普段やっている出久へのマッサージと比べると若干扱いが適当にも見えるが、そもそもが出久への対応が丁寧すぎるのである。
八木はブルーシートの上に座り、傷痕が生々しい彼の腹部へ小さな手をぺたぺたと這わせると、狐耳をペタンと倒して渋い顔を浮かべる。
狐白に無理のない範囲を続けているだけでは、少しずつ疲労や……彼女は知らないが八木がオールマイトとして活動している行動によって、その体の症状は一向に良くなる気配が無かった。
故に彼女は、新たに発見した己の個性の特徴を試しつつ有効活用しようと、鞄から包帯を取り出した。
「その包帯は一体何かね? 玉藻少女」
「これはですね、僕の尻尾の抜け毛を縫い込んだ包帯です。最近いずちゃんが授業で怪我した指を舐めたらあっという間に治ったから、抜け毛にも何か効果あるかなって家で試したら効果あったから用意してみました」
オーバーリアクション気味に首を傾げ、狐白が取り出した包帯を指差して八木が尋ねれば返って来たのは、少しばかり少年には刺激が強そうなエピソードとこの言葉である。
ちなみに出久が怪我をしたのは調理実習の時なのだが、その時に隣にいた狐白が出久の手を取り指を口へ含んだという事件があったりする。
狐白が性転換する前から仲の良かった二人だが、特に露骨な態度をとるような気がしてきた狐白の様子にクラスメイトはちょっとドキドキしているらしい。
なお結論から言えば、狐白の抜け毛入り包帯は消耗していく八木の体の調子を維持するという、地味に偉大な成果を上げることとなる。
後日八木は、真実を知る知り合いから包帯の出所を尋ねられたが、その時は全力でわざとらしくすっとぼけたそうな。
その後も時に出久が無理をしすぎて八木と狐白が並んで説教をしたり、無自覚にあざとすぎる真似をして出久を惑わせる狐白を八木がやんわりと諭したり。
劇的な変化こそそれほどないが、しかし一歩一歩着実に海浜公園の清掃を進める事数か月……国立雄英高等学校の入試当日の朝6時。
海岸線から、ゴミ一つ転がっていない浜辺で出久は拳を握りしめやり遂げた男の咆哮を上げる。
その後、やり遂げた感動からボロボロと涙を流す出久に駆け寄ろうとする狐白を、八木はそっと押しとどめると二人だけで話がしたいと言われる。
出久が心配な事この上ない狐白であるも、清掃の間も師弟としてやりとりしていた二人にしかわからない事もあるのだろうと考えてその場から離れると。
いつも清掃後のマッサージを行っている、浜辺の休憩所の中のベンチに腰掛けて幼馴染を一人で待つ。
そして、時間にして数分後涙で目をはらした出久が休憩所へと現れた。
「ごめんこーちゃん、待たせたかな?」
「んーん、気にしないでいいよいずちゃん。さ、横になって」
ベンチから腰を上げた狐白は、敢えて出久の様子に触れずに出久をベンチへいつも通り寝かせると、個性を発動しながら親友へのマッサージを始める。
今は女体と化した身を持つ狐白であるが、それでも元は男の意地や我慢を理解できる男子であった、そしてそれが故に今の出久に何があったのか聞く事は野暮だと判断したのだ。
「こーちゃん、その……いつもありがとう。僕結構汗臭かったよね?」
「また今更な事言うねいずちゃん、そりゃそうだよ」
何やら口をもごもごさせながら、言い辛そうにしているから何を言い出すかと思えばそんな事を問いかけてきた幼馴染の言葉に、狐白は呆気にとられたあと噴き出す様に笑みを漏らすと。
ケタケタ笑いながら、マッサージの手を止める事なく容赦ない事実を告げて出久をベンチへと突っ伏させた。
しかし、狐白は出久にはあえて伝えなかった思いがある。
それは、その臭いが嫌いじゃないという事実だ。だがさすがにそれは何だか変態っぽいかなという想いがあり狐白は口にしなかったのである。
なおそんな二人の様子、不純異性交遊等がないかこっそり見守っていたナンバーワンヒーローのオールマイトこと八木は。
本当にあの二人付き合ってないのかな? 緑谷少年、クリスマスプレゼントに玉藻少女手作りのマフラー貰ってたよね、などと思っていた。
そんなこんなで、ヒーロー特訓は無事完了となり帰宅した出久はシャワーで汗を流すとそわそわしている自身の母から激励を受けると。
駅で待っていた自身の身長よりも長い長物が収められた包みを持った、同じ高校を受ける幼馴染の狐白と共に入学試験の会場へと向かう。
「ここが、雄英高校……」
「おっきい学校だね、いずちゃん」
目を見開き威風堂々たる威容を誇る校舎に出久は目を見開いて呟き、当然のように隣に立っている狐白は模造長巻入りの包みを肩にかけて尻尾を揺らす。
冴えない男子に誰もが目を引く狐耳尻尾の美少女と言う取り合わせに、受験者達は興味深そうに目を向けながら会場へと足を運んでいく。
「いずちゃん、見上げてるだけだと受けれないから行こ」
「あ、ま、まってこーちゃん写真だけでも……」
「どけやデクに狐目ぇ! 往来のど真ん中でイチャついてんじゃねぇぞゴラァ!!」
ともあれ感嘆に身を震わせている幼馴染の腕へ自然な仕草で腕を絡めた狐白は、飄々とした調子で幼馴染を会場へ連れていこうとし。
自身の肘が幼馴染の大きくて柔らかい胸にあたった事に気付いてしまった出久は、顔を真っ赤にしつつもソレを気取られないように適当な事を口走り……。
背後から聞こえてきた、聞き慣れた怒声にその身を震わせて恐る恐る背後を振り返る。
「かっちゃん!」
「俺の前に立つんじゃねぇよお前ら、殺すぞ!」
「お、おはよう……頑張ろうね、お互い」
狐白と腕を絡ませた姿勢のまま、物騒な事を言い放つ幼馴染の勝己に入学試験の互いの健闘を願う言葉を投げかける出久であったが。
勝己は出久の言葉と様子にわざとらしく大きな舌打ちをすると、これ以上は言葉を交わす必要もないとばかりに横をすり抜けて会場へと入っていく。
なお余談であるが、出久と狐白の様子に歯軋りし血の涙を流していた特別身長が小さく葡萄のような髪型をした少年が、ガッツポーズと共に勝己へ対してグッジョブを送っていた。
「……行こう、こーちゃん」
「うん、だけどあのクソ煮込み爆発頭……あんな言い方しなくて良いのにね」
恥ずかしさから組んでいた腕を外し、決意を込めて一歩歩みを進める出久と狐白。
そして、出久はその大きな第一歩で緊張から思いきりつまずき、勢いよく転びかけた。
「いずちゃーん!?」
慌てて手を出して掴もうとする狐白、しかしそれよりも早く。
丁度出久の隣を通り抜けようとしていた少女が、右手の掌を出久の体へ触れさせた瞬間今にも転びそうだった出久の動きが止まる。
「大丈夫?」
「わっ、え?!」
「私の個性、ごめんね勝手に。でも転んじゃったら、縁起悪いもんね!」
浮遊状態にあった出久にかけていた個性を解除し、丸顔の可愛らしい少女が自身の両手を合わせながら出久へとはにかみ。
お互い頑張ろう、と出久へ応援すると手を振りながら会場へと向かっていった。
「……こーちゃん」
「……どしたの?」
「ぼ、ぼく……女子と、喋っちゃった!」
「…………ふーーーーーーーーーーーーん」
頬を赤らめそわそわしてトンチキな事を言い出した親友の出久の様子に、狐白は不機嫌そうに尻尾を膨らませながら狐目な糸目からは気付かれない程度に出久へジト目を向けると。
先に行ってるよと乱暴に言い残し、模造長巻入りの袋を掴む手に力を込めながら一人会場へと向かい……出久はそんな幼馴染の様子に慌てて声をかけながら後を追うのであった。
この一連の流れを目撃した、葡萄頭の小柄少年はぼそりと呟く。
「あいつ、ションベンする度にチャックに皮挟めば良いのに」
その呟きは、地獄の業火とも揶揄できる呪詛を含んでいたそうな。
狐白の戦力的な立ち位置は自衛可能なヒーラーになります。
彼女の修復の効力の違いは……。
瞬発性:個性を使用しながらのマッサージ>尻尾抜け毛入り包帯
持続性:尻尾抜け毛入り包帯>個性を使用しながらのマッサージ
となっております。
ちなみに彼女のふかふか尻尾に抱き着きながら深呼吸すると、精神的な不具合にも効果があるかもしれません。恐らく。