真剣で嫌われものだった奴に恋しなさい……   作:YABA

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-Prologue- 始動

昔の自分を、何回、何十回、何百回と思い出すことはよくあることだ。ふと、と何も考えていないときに思い出しては、口元が緩んだり、冷静になり恥ずかしがるなど、人間らしいことができるはずだ。俺だって、昔はそうだった。ずいぶん前に、妹分に向かって自信満々に自分自身の夢を語ったり、長く家に使えている執事にたいして、自分の思いをぶつけあったり、同年代の子たちと一緒に冒険したり、そんな思い出が様々ある。これを思い出しては、俺だってさっき言ったとおりの反応をしていた。そうだな、して『いた』……。

今じゃ、羞恥心で忘れたいとかではなく、どうしても忘れたい思い出に変換されてしまった。昔の俺はバカだ、大馬鹿、本当のバカ、もしタイムスリップできるのなら、前の俺に向かって大声で『バーカ』って、伝えたい。そんなことができないとわかっていながらも、こう言うことを何回も考えてしまう。子供のころは現実を分かっていないのは当たり前、そして金持ちのボンボンだから、さらにそれが拍車をかけたんだろう。あぁ。どんどん嫌な事を思い出しちまうよ……。親だと思っていた人たちや、実の兄弟のように過ごしていた彼らに追い出されたこと、家族と思っていた執事やメイドたちに、嫌われ虐められていたこと、仲間だと思っていたやつらから裏切られ、その枠から外されたこと。

 

すべて、すべてが俺のせいだ。

 

俺のせいで、彼らに迷惑をかけ続けたから、こういう最悪の結末になってしまったんだ。あの時、俺が少しだけ現実を分かっていれば、あの時俺の勇気がなかったら、あの時あの時……。答えが見つからない、もしもを見つけ出す日々が今日も続いていく。気づけば、こんな生活は3年以上続いている始末だ。制御できない自分も嫌になり、ついには眠れない日もあるほどに。

ベッドの上で横になりながらも、布団もかけず両手で頭を抱えうずくまる。目は写ろながらも、何かの答えを見つけたいのか瞳の部分が揺れ始め、悔いた思いを噛み殺したいほど、歯に思い切り力を入れ歯茎から血が出てしまった。目の前がどんどん虚ろになってはきたが、ここで気づいたのが光が現れ始めたことだった。カーテンから漏れる、光は俺の目の前に差し込み、意識が戻れば朝だと認識した。まただ……何日目だ、寝れなかった日は。

嫌なことを思い出すほど、生気がその思い出に持っていかれる気分だ。ここまで深刻な事態になるなんて、最初は思わないさ。でも、なっちまうほど俺はもう昔のようになれないと、少しずつ確信を抱く。これ横になっても仕方ないと思い、重たい体を起こし、足取りは危なっかしいが、そのまま洗面台に向かった。洗面台に設置されている鏡を見て、まるで死人のような目つきだなと、内心嫌味をいいながら顔を洗う。一通りの支度を済ませ、もう一度ベッドに戻った。

 

全身を預けるよう、ベッドに倒れ込んだ。もう動きたくはない、けど今日は平日だから学校いかなくちゃ……でも、嫌だな……行きたくない、もうすべてが嫌だ。別に面倒くさいとかじゃない、学校は好きだ。色んな人たちがいて、様々な話を聞いたりするのは。それだけで楽しいし、生き甲斐の一つでもあった。でも……それでも、行きたくはないなぁ。しかし、と思いながら横に置いてある充電済みのスマホを見て、ため息が出る。毎日毎日、この人たちは懲りないよな……。

スマホを起動すれば、メッセージの通知が137件、電話の通知が78件が来ていた。同じ人からではない。もう一度深いため息をつきながら、窓から外の景色を『確認』する。今日も日差しがよく出ており、青空一面である晴天日和だ。けれども、玄関前には俺が住んでいる和風の家とは決して似合わない、執事服の老人とメイド服の女性が立っていた。

 

金髪で体もしっかりしている、欧州系の執事。そして、その横でそわそわしながらこちらの窓を見つめている、亜細亜系のメイドがいる。今日はこの人たちか……関わりたくないって俺も言っているし、あっちも言っていたのになんで関わってくるのか、意味が分からない。正直、これ以上は関わり合いたくもない。これ以上、俺の存在のせいで迷惑かけるのなら接触もしたくないって思っているのに、この人たちはそれでも俺に会おうとしている。どうせ家から出なかったら、またこないだみたいに俺が玄関ドアから出るまで、ずっと待っているんだろうな……。後味が悪いと思い、床に乱雑に置かれていた鞄を脇に抱え、玄関ドアに向かう。途中、ドアノブを捻ろうとしたとき、また嫌な記憶が頭の中を逆流し、手が止まってしまった。

その瞬間――。

 

「お、おはようございます! 蒼月さま」

 

動かしていないドアノブが勢いよく捻られ、また玄関ドアも大きな音が出たほど開けられた。突拍子もないことに多少驚きながらも、目の前の女性が挨拶してきた。

 

「あ、あぁ……おはよう、ございます」

 

「はい!」

 

ぎこちない挨拶で返しても、普段見せない笑みを俺に向けてくる。やめてくれ、そんな笑みを俺に向けないでくれよ。また、頭の中に記憶が流れ始め自分でも制御できなく、体がよろけだした。気持ち悪い、頭がいてぇ……。

 

「ッ! 蒼月さま、体調が悪いのでしたら私に掴まってください」

 

そういい、彼女は優しさからだろうか俺の手を握りだした。その瞬間に、俺に流れていた記憶がブツンと、無造作に切られてしまい、感情に埋め尽くされた。

 

「ひっ……!? さ、触るな!」

 

一言でいうのなら、恐怖だった。体が勝手に彼女の手を払いのけ、一歩、二歩と後ろに下がる。触られた手を、もう片方の手でさすり何かを落とすかのように擦る。少しずつ冷静になり、俺がいまやった行動が判断できるようになると、自分自身が嫌になってくる。咄嗟とは言え、俺は李に対してなんてことしてしまったんだ……!。手に触れられただけで、どうしてこうも取り乱す風になってしまったんだよ。悪感情が渦巻き、目の前に意識を集中すると李はこの世の終わりのような表情となりながらも、震える手を下げた。すると、そんな俺たちの行動に対して、沈黙していた執事の表情は怒りを募らせ、李に詰め寄った。

 

「おい、李! 貴様、蒼月さまにに対してなんという無礼を……!!」

 

「申し訳ございません、蒼月さま……ッ。私の身勝手な行動で、蒼月さまを傷つけてしまい……!」

 

ヒュームは全身の気を高ぶらせながら、李の行動に対して許されざる行動だと言い、俺を気遣っている。そして、李も深々と頭を下げ謝罪している。俺のために、二人はそれぞれの行動していると思うけど、俺なんかに構わなければ、こういう事にならないのにと、頭によぎった。あれから3年も過ぎたけど、みんな変わってしまったのだ。この二人も例外ではない、俺の周りの人たちは変わってしまった。俺のせいでだ。俺のせいで、最悪の結末になってしまい、李やヒュームはこうも変わってしまった。

昔のヒュームなら、このぐらいなら怒ることもなく、子供に躾をするように言葉を選んで言うけれども、今のヒュームは怒りに身を任せて李を攻めている。李も、普段の彼女は冷静で無口のはずだけれども、今では俺に対して過剰に反応している。これ以上話が膨れると、二人の関係が悪化すると思い、口を出すことに。

 

「い、いや……急に触られて驚いただけだ。ヒューム、さん、もそこまで怒らなくて、だ、大丈夫だから……り、李さんも、な? 気にしないでくれ」

 

「……お見苦しいところお見せしまして、申し訳ありません」

 

「蒼月さま……」

 

「そ、それよか今日は気分が悪いから車でと考えているけど……乗せてもらっても、い、いいかな?」

 

李には悪いけれども、触られたときからずっと気分が良くない。もう、倒れてしまいそうなほどだ。でも、ここでそう伝えたら待ってもらったのに、申し訳ない。人混みに入ったら、倒れる可能性もあるし、それに李がずっと泣きそうな顔になっていし……。ヒュームも今は落ち着いているけど、今のヒュームは感情が表に出やすくなっていて、どうなるかわからないから。

車なら、他の人たちと関われず学校に行ける利点もある。最大の難点は、密室の空間で李やヒュームと数十分過ごすことだけど……外で倒れるよりましか。車の提案をしたら、二人の顔つきは先ほどとガラリと変わった。

 

「は、ハッ。蒼月さまの傍にいられること、光栄に思います」

 

「で、では車内にお入りください。いつも蒼月さまを思い、毎日整備や清掃も私が努めてましたので、ぜひ」

 

「あ、あぁ……」

 

李が後部座席のドアを開いてくれて、不自由もなく奥の方まで入り込めた。俺が入ってから、二人が入り込むまで多少の時間はかかったけれども、それでも3分程度。それぐらいでのロスで遅刻でもないし、気にもしない。ヒュームは運転席、李は俺に気を使い、助手席に座った。車内は綺麗に整えられており、少しだけ種類は分からないけれども花の香りがする。九鬼にいた時、よく乗っていた車もこんな匂いしていたなと思いにふけながら、窓の景色は続きに変わりだした――。




短いですけれども、よろしくお願いします。

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