黎明
いつの時代でも、人は憧れを止められない。
崩壊液が世界を覆い尽くしはや数年。
その出所である遺跡の類型は至るところで発見されていた。
様々な環境、様々な座標で見つかるそれらは、何故か共通項を多くもつ。
多くの研究者は、地球に古き支配者がいて、ありとあらゆる地域に生息していたと結論付けた。
だが仮に、もしも。
その遺跡郡が、元は全く同じ位置にあったとしたら。
天災により、世界のかたちが変わってしまったとしたら。
深淵は霧散しているのかもしれない。
「気味が悪いな。」
数人の男の内の一人がそう呟く。
先程から用途不明の品ばかりをみつけ、捨て置く。
それを繰り返していた。
そして奇妙なことに、それは毎回増えたり減ったり移動したりと安定しない。
暗く深い世界へと歩を進めていく探検隊。
人工的に整えられたようにも思えるところや、逆に自然環境そのままのような場所が斑に現れる。
「遺物」と呼ばれる前時代の忘れ物は基本的に理解不能な作用を引き起こす。
だが、それらだけではなく、現在の技術で再現可能な物も現れることがある。
そして、その不可解なものが遂にその姿を表した。
「なんだ、あれ......」
それは大きな、今までに類を見ない、明らかに人が作った建造物であった。
「なんということだ。手入れが行き届いているとはな。」
内部に入れば、丁寧に組み上げられた壁面、床面、天井。
流石に機能を保ってはいないが、電球のようなものさえある。
ともすれば生活感すら醸し出すここは、明らかなる異常存在だ。
謎と興味は加速する。
取り返しのつかなくなるそのときまで。
彼は気づけば、それの前に居た。
花のような、この世の物とは思えないような、不思議な物体。
吸い寄せられるように、彼はそれに近付いていた。
彼はそれを美しいとは思わなかったし、特段と素晴らしいとも思わなかった。
それでも何故か、触らねばならぬ気がした。
呼ばれていると形容してもよいだろう。
彼は感受性が豊かだったのか、あるいはただ不幸だったのか。
「おや、おやおやおや。」
触れた途端に、やっと埋まり、見えなくなっていた憧れが、彼を、いや、彼だったものを焦がす。
先程までとはまるで変わりきった表情が彼だったものから溢れ落ちる。
なにかが、変わった。
なにかが、彼のなかに入った。
得たいの知れぬ物が、人の皮を被っている。
「新しい影......興味は尽きませんね......ですが、未だそのときではないのでしょう。」
ぶつぶつとしゃべり出した彼らしきものは、一通り呟き終わると途端に糸が切れたかのように崩れ落ちる。
はぐれた彼が、仲間に発見されたのはその後すぐだった。
探検隊がこの遺跡から得たものは大きい。
強力な外骨格らしきもの、光学兵器、そして謎の美術品らしきもの。
だが、同時に彼らは憧れを持ち帰った。
何者にも変えがたく、そして全てを犠牲に輝き続ける止まることのない憧れを。
ゾアホリック、またの名を精神隷属器。
それに封じられていた物は、人の時代の黎明か、あるいは別のものの黎明なのか。