2062年 アンブラハンズ
AR小隊
燃え盛る炎。
崩壊する基地。
馬鹿げた規模の鉄血人形に強襲され、跡形もなく蹂躙されたとある地点。
そしてこのような地獄に似つかわしくない、二人の少女。
しかしながら、両者の目はこの地獄に負けず劣らず剣呑で、恐ろしい。
長髪の、いささかあどけなさも残す顔つきの方が、使用人の服を着た方に首を締め上げられ宙に浮いている。
よく見れば、この二人は敵同士であることは明らかだし、そしてなにより人間ですらなかった。
片やI.O.Pの誇るエリート人形、AR小隊の隊長M4A1、そしてそれを押さえ付け優位に立っているのは、なんと反乱を起こした鉄血製人形の中の最上位、代理人と呼ばれるハイエンドである。
ところどころ機械の骨格が見えるこの世のものとは思えない状態で、代理人とM4A1は相対している。
その膠着した状態はいつまでも続くと思われるほどだったが、不意に飛んできた銃弾により均衡は崩れる。
直ぐに代理人はその場を去り、しかし何かをM4A1に吐き捨てたようだった。
明らかに動揺し、焦る。
助けに入った彼女の仲間、そして姉であるM16A1。
仮に彼女が居なければ、直ぐにでも破滅的且つ直情的な判断を実行したであろうと思われる程には、狼狽していたのだ。それほど恐ろしいことを言われたということだろう。
具体的には、彼女らを救助しようとしている人形すら、鉄血ハイエンドが連携し殺し尽くすというおぞましい作戦内容。
それでも、彼女らは諦めぬ。
エリートである自負と、そしてなにより深い絆がそうさせるのだろう。
「一年近く実験を自由に行えたおかげで、様々なことがわかりましたよ。グリフィンは素晴らしい企業ですね。」
戦場を睥睨しながら、不気味に呟く人影。
「自由に出来る研究施設、そのための広い土地、作戦立案の自由。
探求には自由が必要なのです。軍も素晴らしい設備でしたが、やはりしめつけがあるというのは私の肌に合いませんね。」
不気味だというのに、その口調はひたすらに穏やかで、優しくて、嬉しそうで、明るくて。
この世界の希望すべてを湛えるような、それでいて深淵の用な絶望すら内包するおぞましく、そして美しい精神。
ボンドルド。
一年前に正規軍の探検隊が目覚めさせてしまった、その真っ直ぐな精神性は、一年経ち、そして場所と所属を変えた今であっても色褪せることはない。
「もう毎日聞いてるよ。さあ、大仕事になりそうだぜ。
この前も研究員の頭覗いたんだろ?んでもって今から救援に行くのは、そいつらの大事にするエリート人形。
状況は最悪。」
その横に現れたのは、ボンドルドと同じく全身外骨格、顔は仮面で様子を伺うことのできない人間。
彼こそが、この世界で一番はじめの影、つまり祈手。
あの日正規軍から抜け出した、青年その人である。
「負けませんよ、「私たち」ならば。」
その言葉に続き大量の人影が現れる。
「負けません」
譫言のように呟いて。
「勝とう」
それはボンドルドの本心かもしれない。
「被検体が欲しい」
紳士的な仮面が剥がれた、本心かもしれない。
「ヒケンタイ」
「鉄血」
「ハイエンド」
「ほしい」
「アンチレイン」
「しりたい」
「かえりたい」
「還りたい」
「アビスへ」
「しりたい」
皆まともな姿などしていない。
一様な、全身を包む装備に仮面。
全てが、「ボンドルド」の影である「新しきボンドルド」なのだ。
「ああ......この一年でとても大所帯になりましたね。
気長に鹵獲、勧誘を繰り返した苦難が、遂に実を結びました。
君たちには、沢山のお礼が言いたい。」
大衆の前で、腕をゆっくり広げるその姿は、かつての黎明卿その人の姿を彼のなかに想起させた。
憧れは、世界が壊れても、変わっても、止まらない。