飛び交う銃弾。
つまりは殺意を込めて、お互いを喰らい、滅ぼさんとする意思のせめぎ合い。
緊張はもはや張り裂けんばかり、一瞬の躊躇すら許さぬ、生々しき戦場。
そこに人はいないというのに、人が主役だったころの戦争と謙遜ない思惑と感情が渦巻いていた。
「AR小隊だけはなんとしても逃がして!私たちが壊れたとしても!」
未だ幼気な少女が、その口から飛ばすのは不相応な覚悟の籠る激励。
旧世代のイギリス産の銃を握り、被弾によりおぞましき姿となろうとも進み続ける。
全てはグリフィンと、AR小隊のために。
「進めぇ!一歩も引くなぁ!」
突撃。突撃。突撃。
そもそもが勝つために戦っているのではない。
自分以外の誰かを助けるために、自分の命を犠牲にするのだ。
所詮はバックアップのある人形の命、それならばより高級な人形を守るために玉砕することは合理的だ。
しかし、彼女らは死へと駈け続けるなか異物を見つける。
全身くまなく覆った装備の集団。
人間、人形から逸脱した体格のものもたくさんいる。
だからといって、軍用人形らしい姿はしていない。
気品を感じさせるような意匠と、実用性を兼ね備えた装備をしている。
ここにいるのはグリフィンしかいないはず。
ステンは不審に思ったが、もうそんなものを気にしている余裕はない。
きっと彼等もAR小隊のために戦って、散るのであろうと。
ならば私たちも進むべきだと、覚悟を決めて走り続けた。
彼等の機械の瞳は、ステンのそれとは違って使命感にも、義理人情にも燃えてなどいない。
ただその身全てを飲み込まんとする好奇心に目を輝かせ、ステンらの行く先を嬉々として観察したがっている。
みたい、しりたい、ほしい。
それが人の形を取ったものこそが、ボンドルドと祈手である。
「作戦領域は現在非常に密度の高い混戦状態です。
更にフィールドには例の鉄血製電子ウイルスが干渉、迂闊に手出しはできないでしょう。
戦場の端の端に、怪しげな集団が固まる。
皆、肌は見えない、顔も見えない。
どの組織にも属していないようにも見えるが、彼らはれっきとしたグリフィンだ。
「事前に配布したこの外付け対抗装置を必ず装着しておいてください。
上手く利用すれば鉄血ネットワークのリソースを乗っ取ってスペックを上昇させることができます。
開発には様々な苦難が訪れましたが、協力してくれた
背に背負うようにした大型の、人形用装備。
彼による一年間の研究の中で、鉄血独自の通信規格とそれに付随したある種のウイルスを発見した。
感染した人形の指揮権限を鉄血へと委託するこの厄介なウイルスに、ボンドルドはなんと希望を見出だした。
それは、そのシステムの完成度につけこむ発想、膨大なリソースを誇る鉄血ネットワークに処理を押し付けることによりより戦闘力を高めようとした。
が、利点のみならず、問題もちろんある。
指揮系統が奪取されるということはつまり、いつその人形がこちら側に牙を向くかわからなくなるということである。
一見正常に見えて、有事に鉄血が指示を出せば、人形自身の意思はどうあれこちらへ加害するのは確実。
さらに厄介なことに、このウイルスは二次感染する。
保有者が他の人形とデータ接触するのみで、次々鉄血へと戦力が接収されることとなるのだ。
人形は通信も人と違い、内蔵の装置でそのままできる。
それがまずいのだ。
ボンドルドが検証したところ、それだけでも感染は拡大。
視覚、聴覚、様々な分野で対照実験も行ったが、間に無線通信装置などを挟まない限りは皆感染した。
これでは感染後に対策しようにも、保有している限りグリフィンの一般的な味方との連携が取りづらくなる。
そこでボンドルドが考案したのが、この装置だ。
中に挟む、その発想を転用した装置は鉄血へと接続するプロトコルと、ウイルスを水際で遮断する構造となっている。
つまりは、ウイルスを無理矢理保持することで、キャッシュエラー、異常動作、命令の矛盾による無限処理、その他様々な不都合をすべてこの装置が肩代わりし、使用者が安全に鉄血ネットワークを盗用することを可能とする。
しかしながら、この装置はある種凄まじい製品である。
これらを製作するのに、何故一年という長い年月がかかったのか。
それは後々わかることとなる。
奇しくも既に、このウイルスの間接的作成者と双璧を成した人形研究者がウイルス自体を発見していたが、具体的なこれに対する解決策をこの時点で提示、実現していたのはボンドルドのみであった。
それがどれだけ悲惨なものだろうとも。
「感謝していますとも。役に立っていないなど、誰が言えるでしょうか。貴方はとても、とても、広く役に立ってくれましたよ。
本当にありがとう......。」