ボンドルドールズフロントライン   作:pilot

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最終挑戦 鉄血工造

「にゃあ。」

 

銃声と悲鳴。

これは、私たちが起こしたことだ。

エクスキューショナー、処刑人の名を持つ鉄血の現場指揮人形は、その事実を噛み締めながらも、攻撃の手を緩めることはない。

 

ここまで大規模な戦闘は、彼女にとっても久し振りなようだ。

おびただしい数の鉄血下級人形と接続しながら、目的の人形を探し当てるために精神を研ぎ澄ませる。

 

「にゃあ。」

 

雑音。叫び。

ノイズだ。

現実で?

いいや、違う。

電脳空間、鉄血のネットワークに?

大量のハイエンドとその写し身が同時接続しているからであろうと、エクスキューショナーはその時点で考えていた。

彼女は頭を使うことは好きでもなく、そして得意でもない。

こういうことはスケアクロウに任せればいいのだ。

そう楽観的に見ていた。

例えノイズが走ろうとも、グリフィンの木偶どもに負けるはずはないのだから。

 

「にゃあ。」

 

調子が戻らないままに、作戦は進む。

うかうかなどしてはいられない。

 

「鉄血のクズめ!殺してやる!」

 

雑兵。

グリフィンの人形は力量すら理解していないのか、それともそもそも勝つ気すらないのか、ときたま特攻じみたことを行うことがある。

構うことはないと判断したのか、エクスキューショナー本体は微動だにしない。

近くにいたガード級を遠隔操作する。

機敏な動きで瞬く間に距離を詰めたそれは、近接格闘により、敵の人形の首をあらぬ方向にねじ曲げる。

無理矢理力を加えられ弾けとび、皮膚から突き出た骨格。

様々な用途を機体内で持たされていたはずの人工体液は、今この瞬間のみ只の染料と化す。

多大なる傷、つまりは致命傷を負ったそれは、地面に、重力に従い崩れ落ちていった。

 

「鉄血めめめめmmmmmrrrrrrrrrrrr......」

 

断末魔とすら言えない、言葉にならない機械音声が、先程破壊されたグリフィン人形のパクパク空虚に動く口から漏れ出ている。

滑稽なものだ。

こいつらは、彼女らよりもよほど脆く、頭脳も劣る人類のために惨たらしく死ぬ。

自分は賢い指導者がいて良かったと、そうエクスキューショナーは感じた。

少なくとも、今は。

 

「にゃあ。」

「にゃあ。」

 

うるさい。

もう作戦は終盤に近いというのに、エクスキューショナーは苛立ちを隠せていない。

うるさい。うるさいのだ。

あの声が電脳から離れない。

何度も、何度もグリフィンの人形をスクラップに変えた。

どこもかしもしらみつぶしに探した。

だが目的の人形は見つからない。

AR小隊はどこだ。

どこにいるんだ。

そして、この声の正体は何なんだ。

 

「にゃあ。」

 

にゃあ。にゃあ。

 

「うるさいッ!」

 

焦燥感に苛まれ、謎の声にリソースを食われる。

鬱陶しいことこの上ない。

はやくせねば。

見つけて殺す。

今までもそうしてきたではないかと、エクスキューショナーは自らに問いかける。

そうだ、俺はそれができる、と。

 

にゃあ。にゃあ。

 

ほら、そういってる。

 

お前は誰だ?

 

「お前は誰なんだよ!?」

 

にゃあ。

答える声は帰らず、虚空に向けて叫ぶのみ。

自分を見ていないようだと、そう感じられる。

 

「クソォ!何なんだよ!」

 

いつしかエクスキューショナー自身も叫んでいた。

短期な性格だから、仕方ないのだろう。

 

「おやおやおや。貴女方の方が優勢ではないですか。そこまで自分に厳しくならなくても、十分立派ですよ。」

 

にゃあ。にゃあ。

 

頭に響く声に気をとられ過ぎて、その存在が目の前に来るまでエクスキューショナーは気づくことがなかった。

そしてそれは、今こちらを覗き見ている。

生き物ではなく、暗いなにかを覗き込んでいるようにも思えるほどの異形に。

 

「?どうかされましたか?もしかして干渉しています?」

 

能天気な印象。

間抜けな声。

異様な見た目。

黒々とした姿に、紫に輝く一文字。

 

敵だ!とも断定できない。

コイツから発せられる電波はグリフィンの使うものとは異なり、なんなら鉄血のプロトコルに酷似した形式をしている。

エクスキューショナーは困惑していた。

このような鉄血の機械は見たこともないが、だからといってグリフィンにこんなものがいたかと問われれば、否定の意を示さざるをえない。

 

「にゃあ。」

「にゃあ。」

「にゃあ。」

 

どこかから聞こえる声が、どことなく大きくなった気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前......誰だ?

というより、何だ?」

 

ハイエンドからの問い掛け。

緊張。

一度回答を間違えれば、鉄血ハイエンド相手に並みのものが敵うわけでもない。

だが、彼は邂逅したときから変わらぬ様子でこういい放ったのだ。

 

「私はボンドルド。グリフィン&クルーガーの、しがない人形ですよ。」

 

敵であるはずの鉄血の、目の前で。

 

にゃあ。

にゃあ。

にゃあ。

にゃあ。

 

反応は早かった。

考える限り最速で剣を振り抜くエクスキューショナー。

人外の誇る凄まじい出力からなるその速度は尋常ではない。

暴力が目前へと迫る。

だが。

 

「予想以上の処理効率ですね。素晴らしい......」

 

最小限の動きで、さも簡単そうに避けたその人形。

かすりさえしない。

自分の行動と思考が覗かれるような感覚をエクスキューショナーはおぼえた。

 

「にゃあ。」

 

そんな剣呑な状況でも、構わずに響く声。

コイツが現れてから余計酷くなっている。

 

「あああ!お前も!さっきからのその声も!一体何なんだよ!全然意味わかんねえよ!」

 

鉄血人形の頭脳、ひいてはエクスキューショナーの処理能力がいくらおおきいといっても、限界というのは訪れる。

まるで媚びるような声だ。

 

にゃあ。にゃあ。

猫の声にしては人らしすぎる。

人の声にしては、白痴にすぎるように思える。

 

エクスキューショナーは興味を持った。

が、ここで言う興味とは、祈手やボンドルドのものとは異なる恐怖による興味。

後ろ向きの興味、と言うべきだろうか。

彼等のように、むしろ興味のために危険をおかさんとするようなある種「前向き」なものではなく、ただ単純にこの怪奇な現象から逃れたい一心であった。

 

だが残念なことにボンドルドは底無しに楽観的なので、そんな気持ちにすぐ気づくことなどない。

「その声はなんだ」という言葉を、自らの研究にプラスの興味を持ってくれた、という風に解釈したのだ。

もちろん、この異常な現象の根元はボンドルドである。

それはそれはおぞましい理由であった。

 

「あぁ。混線しているのでしょうか?私も、興味がありますね。

きっと、彼女の祝福の呼び声なのでしょう。素晴らしいでしょう。

今も私を守っていてくれているのです。

IDW、貴方は本当に役に立ってくれていますよ。」

 

「何か」に語りかける。

いや、今ならエクスキューショナーにも声の正体がわかった。

猫。

ボンドルドの口から出たIDWという言葉。

つまりこいつは。

 

にゃあ。

にゃあ。

 

声や、ノイズどころでもない。

なにやら映像も流れ込んでくるようだ。

鉄血のネットワークにグリフィンの人形が無理矢理接続しているのか。

そうすれば一体どのようなことが起きるのか分かっているのか。

 

エクスキューショナーは、その一瞬に懐かしみすら覚える、しかし見たことのない景色を見ることになる。

 

「猫って、箱に入りたがりますよね?」

 

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