ボンドルドールズフロントライン   作:pilot

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最終挑戦 :ERROR

ぼやけた意識。

自らと他の境界が失くなる感覚。

エクスキューショナーのメンタルモデルは霧散する寸前なものを、無理矢理繋ぎ止めていた。

鉄血のネットワークが異常動作を起こしている。

強すぎる自意識、エゴが他の全てを飲み込もうとしているのだ。

猫?人?なんだっていい。

 

何かを盲目的に信仰する執念が、集合体意識の均衡を破壊する。

 

「にゃあ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にゃあぁぁぁぁああああ!!!」

 

耳に入るのは叫び。

目に写る世界は、全て大雨。

誰が泣き叫んでいるのだろうか。

それが自分自身の声だ、と彼女にはわかりきっていたとしても、そんなものはどうだっていいらしい。

 

挫折感。喪失感。無力感。

その全てを突っ込んで混ぜこんだような心中は、その人形に似合わない。

 

何故、泣くのか。

つまるところは解雇だ。

しかもやっとのところで見つけた就職先からだ。

慣れない戦闘のために、得たいの知れぬコアすらも増設し、機関銃を握り、駆けずり回った結果がこれだ。

 

指揮官に役立たずと罵られればどれ程良かったか。

もしそうだったならば、その浅い人間性に怒りを燃やし、恨むことも出来たろうに。

 

しかし、指揮官は良く人間が出来ていた。

悲しくなるほどに、非は自分のみにあるということを理解せずにはいられなかったのだ。

 

あんまりにも向いてない、いつかひどい目にあってしまう、やめたらどうだ、などと言われればやめざるを得ない。

権限は指揮官にあるのだし、これ以上迷惑はかけられない。

 

コアを入れたが戦闘ではろくすっぽ活躍できず、日常業務には向かない生来の頭の悪さ。

もう少しだけ、と懇願したかったが、自らの力の無さは痛感していたIDWには、そこまでの気概も残っていなかった。

 

それでも健気に頑張ろうと、指揮官から離れてもグリフィンに届く依頼をなんとかこなそうとした。

補給から戦闘、編成まで自分達で話し合って決める。

頑張った。足りぬ頭を使った。体も動かした。

 

その結果が、自分以外全滅、目的も達成できず無様な撤退を余儀なくされたとしても、頑張った筈、考えた筈、働いた筈なのだ。

 

そう自分に言い聞かせるが、電脳に飼う常識が返してくるのは、どう考えたって無能の言い訳にしかならないと言う冷静な実力主義の答え。

 

カミサマが居るのなら、力が欲しいとは言わない。

ただ誰かの役に立ちたかった。

その機会が欲しかった。

 

切にそう願う少女は、豪雨のせいか、それとも泣き声のせいか、酷くかわいそうに見える。

 

誰かの役に立つ。

誰かに認めてもらえる。

そして、良ければでいいけど、その誰かが頭を撫でてくれる。

 

そのためなら、きっとなんだって投げ出せる。

 

 

 

 

 

 

「おやおや。そのままでは機体に不具合が生じますよ。」

 

どれくらいの時間がたったであろうか。

彼女は声を聞いた。今度は、自分自身の声ではない。

そこまでは時間の経っていない気がする中で、彼女は気づく。

なにかがこの作戦領域に入ってきている?

 

心は消沈しているというのに、体は恐怖に敏感で、曲がりなりにもも戦うために最適化されている。

咄嗟に顔を上げてみれば、異形がいた。

 

でも、紛うことのない異形だというのに、IDWはそれに奇妙な安心感すら覚えている。

 

「おや?泣いていたのですか。

ここの作戦は私達がもう終わらせましたよ。君は帰らないんですか?」

 

慈しみの言葉。

安全になったから、おうちへと気をつけて帰りなさい。

それは、家なきものには銃弾よりもよっぽど強力な一撃になる。

 

「にゃあぁぁぁぁああああ!!!」

 

また堰を切ったように泣き出すIDW。

するとその異形は、異形だというのに明らかに心配した表情を見せる。

まるで実の子をあやすように、彼女を抱き上げた。

 

「よし、よし。何か辛いことがあったんですね。

大丈夫です、私にきかせてください。

無理にとは言いませんが、貴女の楽になるのなら私はなんだってしてあげますよ。」

 

その言葉だけで、どれだけIDWは救われたか。

 

「ほ、ほんとにゃ?」

 

すこしだけ。

彼女にはすこしだけ、夜明けが見えたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわあああ!」

 

叫び。自分の?自分だ。俺はIDWなどではない、エクスキューショナーだ。

そう自分自身に言い聞かせる。

 

鉄血は皆、常に回線に、自らを接続している。

 

それになにかが無理矢理アクセスし、リソースをぶんどっている。

エクスキューショナーも使用領域をいくらか取られた。

お陰でこの戦場の鉄血下級人形のうち、エクスキューショナーが率いていたものの一部は戦略的能力を全損、ただ突っ立って反撃しかしない置物と化した。

 

この底知れぬ恐ろしい何かをはやくどうにかせねば。

そう考えたエクスキューショナーは、既に行動を起こしていた。

 

 

空気を割く音が響き渡る。

拳銃を連射、狙うは頭部。

人形相手に、速攻でかたをつけるにはこの手に限る。

だが結局それも当たることはない。

 

頭部のみを動かし、その全てを避けるボンドルド。

小馬鹿にしているのかと言いたくなるほど、その動きは少なく、そして正確で迅速。

 

人形とはいえ、異常な反応速度と処理能力。

 

「ではこちらの番です。」

 

指で顔をなぞるうごき。

 

不可解だ。

銃器か?格闘か?

なんらかの武術の構えだろうか?

 

答えは光線だ。

仮面から直線的に放たれたそれは、壁、地面、建造物の合間を縫うように駆け巡る。

 

「なにっ!?」

 

遮蔽物は咄嗟に届く距離の無い開けた場所、こうなれば一か八か。

 

「どうだっ!」

 

ガキンッ!

嫌な音だ。あまり使いたくなかった、そうエクスキューショナーが感じた時には既に事は終わっていた。

巨大な右腕の保持するブレードの腹で、咄嗟にその光線の軌道を読み受け止めたのだ。

 

「おや?貴方はそのブレードを自分の体のように大切にしているのですね。私はそれに当てたかったわけではないのですけど。」

 

訳のわからないことを呟く仮面。

 

「俺のトレードマークだからな......!

お前、この剣に惨たらしく切られて死にたくなけりゃ早く帰って父親ごっこしてるほうがいいぜ。」

 

だから脅す。

気に入らないやつは徹底的に殺す。

コイツが逃げ帰れば、追いかけて基地中全て潰してやろう。そんな機体だ。

だがいくら彼女が脅したところで、おそらくボンドルドは逃げないのだろうが。

 

「死を恐れていては見えるものも見えなくなります。

ご心配していただけるのは嬉しいですが、私は引けません。」

 

ある意味予想通りの返事。

エクスキューショナーはありったけの力を込めてブレードを握り直す。

コイツは、他の木偶とは違う。

ヤれるやつだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

にゃあ。

にゃあ。

にゃあ。

 

 

 

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