「IDWは人一倍優しい人形で、皆に好かれたいいこでした。」
目の前の怪物は、エクスキューショナーと戦いながらそう囁く。
その手で、どんなおぞましいことをしてきたのか、それを知らぬはずはない当事者だと言うのにも関わらずだ。
「彼女は努力家でした。私の役に立とうと、みんなの役に立とうと必死で、真摯で、とても誠実でもありました。」
剣と異形の尾が撃ち合う轟音をBGMにしながら、彼は美しい思い出を、自慢話のように語る。
「テメェ......その誠実な人形をどうしたって言うんだ!?
言ってみろ、俺の予感が合ってるならお前はろくでもねえバケモンだ!」
両者の温度差も気にせず、ボンドルドは話を続ける。
彼にしてみれば、愛しいIDWの話にどんな形であれ興味を持ってくれるのはとても嬉しいのだろう。
「IDWは、
察しのいいエクスキューショナーは、予想ではなく、ハッキリ分かってしまった。
このずっと続く、どこからか響く声と、ボンドルドが背負う何かの装置との関連性。
そしてIDWという人形が、どれだけおぞましいことをされているのか。
傘の力はエクスキューショナーが一番知っている。
それを、下級の人形一つで防御するのだ。
発想自体が間違っている。
そう感じるのも必然だ。
「______クソ野郎ォ!」
怒りに任せた銃撃。
敵とはいえ、同族が意味のわからない何かに利用されているのは、曲がったことが嫌いなエクスキューショナーを義憤に駆るには充分すぎた。
箱に入りたがるという例え、コア一つでという事実から、IDWのとるべき形は一つ。
生きてはいるが、それは死んでもいないだけであろう。
人の形すら、生き物の形すら保っていない、呪われたような姿になっているのは確実。
銃撃はもちろん当たらない。
またボンドルドは静かに避けた。
銃だけでは決定打にならないことを悟った彼女は、彼女がもっとも得意とする拳銃と大型ブレードによる戦闘スタイルに切り替えることにした。
そのためにはまず、距離を詰めなければいけない。
しかし、ボンドルドも黙って近付けさせてくれるような戦いかたはしていない。
徹底的なリスク管理と効率重視の戦術は、アビスの中へと潜っていたときの名残なのか、それとも彼自身の性格の現れなのか。
予備動作無しにまた仮面から光を撃つ。
「!?指の動作要らねえのかよ!?」
不可解な動作が本当の意味で不可解だったことを理解したエクスキューショナー。
しかしながら一度見た攻撃だ。
スライディングで咄嗟に頭の位置を変え、寸前で回避する。
あまりに早めに避けると、弾道を補正し命中させるこの遺物を、偶然だが見切ったのだ。
「素晴らしい、一度ならず二度も。偶然ではなく、貴方の実力が類いまれだということを証明していますね。」
「馬鹿にするなド外道が!」
ブレードを思い切り振り抜こうとする。
空気を切り裂き、衝撃波すら飛び出すその鋭さは、寸前で届くことはなかった。
近付き、振り抜いた瞬間に、衝撃がエクスキューショナーを襲う。
苦悶の声を漏らし、吹き飛ぶエクスキューショナー。
感覚が、無い。
IDWの意識が流れ込んだ時とは違い、体全体がぼやけたようなものとはことなり、あるべきものがない。
そんな「痛み」だった。
「あ、あ......お、お前......何をしたって言うんだ......?この一瞬で、どうして俺の自慢の右手が
人工体液が大量に流れ落ち、赤い池を作る。
しかし、肉はどこにもない。
切られたわけでも、潰されたわけでもない。
あの一瞬で、はじめからそこになかったかのようにかきけされていた。
「耐久度は高い、ですがやはり
「そろそろIDWが限界です。」
カシュッ。
湿ったような音と共に、箱がボンドルドの背から排出される。
「これは不味いですね......しばらく通信ができません。
想定より大幅に持たなかった......すこしはしゃぎすぎてしまったようです。」
言い終わるか否かのその瞬間。
処理能力がお互いに元に戻り、優位はエクスキューショナーにある。
瞬間的に、重心を操作し起き上がるエクスキューショナー。
迷うことなく、突貫。
ボンドルドは突き飛ばされていた。
「おや、おや......」
「ざまぁ見やがれド外道!他人を食い物にして得た力なんざ、すぐにボロが出るんだよ!」
直ぐ様マウントポジションをとり、ひたすらに顔を殴りつけるエクスキューショナー。
貧弱そうに見える左腕だが、人形の膂力はそれでも素晴らしい。
「あぁ......ゲホッ......素晴らしい。あなたにもお礼が言いたい。」
「何がお礼だよ、外道で被虐趣味の野郎に何を言われたって嬉しかねえよ。」
「私は、道なき道を進み、私の後ろに道を作ってきました。それが誇りであり、誰かの憧れになるのなら、私は嬉しい。
だから、外道というのは私にとっては嬉しい言葉なのです。
道を外れ、道を作る。
それに、その外道という言葉を聞くと今は居ない
「なにいってんのかわかんねえよ、俺には。」
こんな化け物にも、何故思い出はあるのだろう。
突然しみじみと語り出したソイツに、エクスキューショナーはすこしだけ、羨望を持ちかけた。
にゃあ。
「おや、やっと二つ目と接続できたようです。では。」
にゃあ。
だが、化け物は化け物だ。
このような、本人にとっても懐かしく、輝かしい思い出すら、今や未来のためならいくらでも利用するし、踏みにじる。
またあの、声。
すこしでもコイツに耳を貸したのが間違いだったか。
有無を言わさず殺せば良かった。
そう気づいた時には、もう頭は吹き飛ばされていた。
仮面の光を至近距離で、顔に撃たれたとすれば、流石の鉄血ハイエンドもあっけなかった。
「ありがとうございました。」
「人形は便利です。一度愛を得れば、コピーを大量にとれるのですから、とても効率的。素晴らしい。」