「にゃにゃ!?指揮官の部隊、とっても強いんだにゃ~!」
無邪気にはしゃぐ、一人の人形。
その回りにいるのは、五つの異形。
皆それぞれ、おかしな仮面を顔に着け、重厚な服、あるいは鎧のようなものを身に纏う。
それぞれの中身をうかがい知ることが出きるのは、その手に握る銃のみ。
彼女らは姿こそおかしいが、れっきとした人形である。
「......隊長。」
他の人形が撤退のためにさまざまな「やるべきこと」をこなしていると、その中の一人の人形が、リーダーと思わしき人形に話しかけに出てきた。
話しかけられたその人物は軽やかに振り替えると、その伺えない顔から声を発する。
「なんでしょうか?」
他の人形が女性の声、というよりもグリフィンに所属する人形ほぼすべてがガイノイドなのだが、しかしその「隊長」と呼ばれる人形は、成人男性のような低い声を発していた。
「どうしてIDW、新入りをこの部隊にいれたのだ?効率がいささか悪い気がするぞ。現に、戦闘中は逃げ回るか怯えるか、あるいは突貫し我々に負担だけをもたらしている。」
苦情はもっとも。
ここら一帯は敵の本拠地近く、彼らは前線も前線に出張っているため少しの負担も命に直結する。
つまりは、あまり負担を増やしたくはないのだ。
苦労してまでIDWに構う理由が、彼女にはわからなかった。
「編成をしているのは私ではなく、指揮官ですよ?」
「バレバレの嘘をつくのはやめてくれ、私は知っているぞ、隊長が指揮官すらも篭絡しているのを。」
問い詰めるような文面だが、その口調は終始穏やかで、確認を取るだけのようなものである。
信頼が透けて見える。
「嘘ではありません。私はアドバイスをしているだけですよ。
ただ何故IDWを部隊に入れるようアドバイスしたのか、それが聞きたいんでしょうか?」
「無論だ。元より私も、隊長を慕っている。ここにいる人形は皆そうだ。理由さえ教えてくれればいいんだ。」
すると隊長はにこやかな声で、当たり前のように言い放った。
「全ては未来と、彼女のためです。
私の研究では、まだまだ未知なる、そして驚異的な存在は鉄血に、ひいては世界には溢れております。
可能性を広げたい。彼女に、世界の広さを教えて差し上げたいのですよ。」
そんな愛に溢れた、夢みたいなセリフを。
「彼女は、自らのことを何も出来ないといっていました。
いいえ!とんでもない!
世の中には無駄な命などどこにも存在していない。
世界は、希望に満ち溢れています。」
こんな絶望しかないような世界で。
「彼女にも、役に立つ喜びを、味あわせてあげたいのです。」
彼だけは、輝いていた。
「隊長はいつもそうだ。優しすぎるし、真っ直ぐすぎる。
私たちには理解できんが、それがいいんだよな。」
問いかけていたその人形は、大振りなマシンガンを背負い直すと、撤退のための準備をしている仲間の元へ向かっていった。
「IDW......私は、貴方を見捨てはしません。」
その背を追うように、「隊長」も部隊に戻っていくのであった。
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「にゃ......にゃにゃ......」
射撃訓練所にて。
人形のほぼ全てが、素晴らしい成果を上げている。
基地内ですら、その制服ともいえる特異な服装をやめない人形たち。
一人だけ、他の基地と同じような服で射撃している人形がいた。
だがその顔は暗い。
あまり、芳しくないようだ。
「中々成果が出ないな。ボンドルドさん、いまさらながらあんた、あんなの育ててるの物好きだよな。」
元青年、現在指揮官。
ボンドルドとは一番長い付き合いで、しかし彼のことは欠片しかわからないと言っていた。
青年もボンドルドに対する理解度は高いのだが、如何せん受け入れることはできても同じ発想はできない。
この荒廃した世界で愛を語るボンドルドは、さながら異常者であった。
「何故私が彼女を気にかけるか、ですか。」
「ああ。気になる。」
「その質問、同じ部隊の人形にも聞かれたんですよ。
簡単なことです、私は彼女の喜ぶ姿と、そして「夜明け」が見たい。それだけのことなのです。」
「あんたはいつもそうだな。」
呆れはしていない。
底知れぬ精神を理解しようとするのはもう諦めていた。
というよりもそもそも、彼は人同士の相互理解などは迷信だと信じているタイプでもあった。
ただひたすら、主観視点のみを上手く認識する人間であったのだ。
だからこそ、ボンドルドとも上手くいっているのだろう。
「ええ、私は変わりませんよ。不滅です。」
「あんたがいうと、比喩になんねえよな。」
ふふ、少しばかりのジョークです、などと返しながら、ボンドルドは立ち上がる。
その向かう先は、落ち込むIDWへ。
励ましに行くのだろう。
現に、悲しむIDWを抱き上げ、なにやら耳元で励ましと助言を与えている。
そのお人好しぶりをみて、青年はつくづくボンドルドという人間の異常さを噛み締めるのであった。
どうせ、その人形も、いつか人形でなくすのにな、と。
青年は知っている。
現にどういう計画が進行しているかを。
メンタルモデルを都合の言いように書き換えて、障害となる「傘」すら利用しようとしているのを。
人形のシステムは、感情面と戦闘面で区別されてはいるが、しかしそれは完全ではない。
感情面とのリンク、愛や信頼度、価値すら与えるのもおこがましいものに、彼は価値を視覚化させた。
カートリッジ計画、と名付けられたそれは、他の人形と材料となる人形のメンタルモデルを、信頼、愛を限界まで高めることで疑似リンクさせ、そしてありとあらゆる負荷を代替させる装備を作るのが目標だ。
現在人形のからだのボンドルドは、流石の彼と言えど傘の影響下では動きづらい。
「傘」に対する回避策として産み出されたそれは、他ならぬボンドルドの考案であるのだ。
そして自ら、愛を育もうとしている。
これを知っているのは、青年とボンドルドだけ。
青年は戦闘にでないからいいとして、何故人形に知らせないのか。
そのような所で負荷をかければ、完成後影響があるかもしれない。
お互い思い会う心にひびは入れたくないとのことだ。
そういう本人は、あとで自らの手で殺すことが確定しているというのに、それをおくびにすら出さず、しかも本気でIDWという人ですらないものを愛している。
それはとても度し難く、異常だ。