ボンドルドールズフロントライン   作:pilot

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あいのかたち

「愛とは、数値化が非常に難しいものです。

誰もがそれをするのはおかしいと私に言いました。」

 

「ですが、戦術人形という存在は、今の今まで不確定要素の巣窟であった「愛」を視覚化することすら可能にしたのです。」

 

ざわつき。

基地の中には湿りきった空気が充満している。

しかし活気には溢れていた。

どんよりとした雰囲気すら弾き飛ばすほどの爛々と輝く「憧れ」が、そこにいる全員に宿っていたからだ。

 

常人には理解しがたく、焼き焦がれるほどの憧れ。

 

「そこに、彼女という私たちの救いが現れた。

この数ヵ月間、IDWは私たちとの間に確実な「愛」を育み、そして壁を取り払ってくれました。」

 

その発信源は、この人の形をした、「怪物」

 

____戦術人形ボンドルド。

後にそう呼ばれる呪われ、祝福された精神は、この世界に目覚めるべきではなかったのかもしれないし、それでも彼は世界を救おうとする。

その過程で何を失おうが、憧れと決意は止まることがないのだ。

 

「遂に最終段階です。

施術のために少しばかり施設を改装させてもらいました。」

 

コアを取り出す工程はどこの基地でもできる。

しかしメンタルモデルもとなると、それは違法改造に中るためできる工房となるとかなり限られてくる。

そこでボンドルドは二の足を踏むことには......

もちろんならなかった。

出来ないならば出来るようにするのみだ。

 

破壊しないよう、精密な作業を可能にする、そういった施設へと作り替えるのだ。

 

「まさかあの施設の改造は......」

 

ハッキリと、祈手となった戦術人形たちにもわかっていた。

メンタルモデルを抜き取るというのはよっぽどの事だ。

普通バックアップを取るにしても機体から直接、というのが普通である。

しかしそれではいけない。

彼が目指すところは、「限りなく人形の元の状態を維持した、それでいて体積は小さく、持ち運び可能」という状態。

 

人形そのものをいくら増やしたところで、人形を背負って装備するわけにもいかない。

 

ではどうするのか?

IDWという人形の隅から隅まで、データの劣化を防ぐために直接、吸出しと完璧な複製をこなさなければならない。

 

それには肉体など不要だ。

コアを直接抜き出し、隅から隅まで解析し、長い時間をかけて「完璧な」IDWを作り続ける。

 

そしてその材料はもう作り終わっていた。

あとは調理だけなのだ。

 

「ええ。IDWからデータを抜き出し、私たちの「装備品」へ加工します。」

 

ざわつきが大きくなる。

それもそうだ、IDWはその不出来さが始めこそ煙たがられていたが、今やこの基地の全員から好かれ、そしてIDWもこの基地の全員を好いている。

 

我が子を材料にして加工してもいいですか、そう言われてはいいいですよと言える人間や人形などそういない。

 

だがここはそうだ。

ここはそういう人形しかいない。

そういう魂の持ち主しかいない。

 

魔境といってもいい。

目標にまっすぐで、目標しか見えていない。

 

そのためならばIDWという愛しき「存在」がどうなろうとも、尊い犠牲として笑顔で送り出すことすらできるのだ。そう、この場の全員が、だ。

 

「IDWは、いつ頃加工するんだ。」

 

もう加工の話まで飛び出した。

誰も、その決定について文句を言うものはいない。

 

「それはIDWの気分次第です。」

 

ニコリ。

そう聞こえそうなほど、嬉しそうな声で。

 

「彼女の輝かしい門出なのです、彼女の思うようにしてあげたい。」

 

この怪物は、そう言いはなった。

 

 

_____________

 

ある日のことだ。

酷く傷つき、人工体液をばらまいて、ボンドルドは逃げ帰ってきた。

 

IDWも、それを見た。

彼女は通信規格の権限すら与えられていなかったから、なんともなかった。

 

だがダミーを多用する他の祈り手の話は別だ。

大量の傘ウイルスによるハックに電子戦で対応しながら、鉄血本体とも戦わなければならない。

 

無論勝てるはずもないのだ。

結果として珍しく部隊は壊滅、血まみれ傷まみれで敗走したのだ。

 

それでも誰もがIDWを庇った。

いつか絶対、自らの手で何度も何度も殺すことが確約されているIDWを本気で皆助けた。

ボンドルドも例外ではなく、彼もまた本気で彼女を逃がした。

銃撃をその身で受け、貴重な発掘品で構成された装備をボロボロにしてもだ。

 

「にゃ......にゃ......」

 

何も言えない。正しくそういうことだろう。

なんでもしたかった。

どんなことをしてでも、助けることができるのなら助けたかった。

しかし天は____人はIDWに力を与えず、そして人一倍の責任感と優しい感情だけを与えた。

 

残酷と言ってもいい。

己の無力さを理解できない白痴ならばどれほどマシだろうか。

無駄、虚弱、哀れみ。

 

そしてそれらが、自らの愛する人間に災いをもたらしているのだ。

 

そんな中でも、そこまで被害を受けたとしても、ボンドルドは一言も愚痴など言わず、暴言も吐かず、役立たずと罵るどころか「貴方にもいつか、なにかできる。」と言い続けてくれたのだ。

 

そこまでしてくれたボンドルドに、なにも返せていない。

 

IDWは、ただひたすらにそれが辛いのだ。

血塗れの人形たちが、修復槽の前にずらりと並ぶ。

 

その道は赤く、有機素材特有の生臭い匂いが充満している。

ただそれを、見ていることしかできない。

しかしどうだろうか、顔は見えないが、皆暗い雰囲気ではない。

それこそ、無償の愛を注いできたIDWが無事だったからだ。

彼女は決意した。

 

血生臭い道は、もしかすればIDWのその後を暗示していたのかもしれない。

 

_________________

 

「私に出来ることなら、何でもさせてほしいにゃ!」

 

愛は形にできる。

それがどれほどおぞましく視覚化されたとしても、ボンドルドはそれを成し遂げた。

 

そのIDWの申告、それを心待にしていたのだ。

 

だから、彼は躊躇することなく

 

「助かりますね。私たちも、貴方のために新しい「方法」を用意しました。気に入ってくれると思います。」

 

そう、言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、IDWを見たものはいないけれど、その基地の人形たちは出撃に関する話をするとき、決まってIDWの話を出す。

ありがとう、と。

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