「視察、ですか。」
執務室というものはいつだって話の種となる。
今ここで、全身真っ黒の装備に身を包んだこの基地の副官と、そして責任者たる指揮官、あの青年が会話をしていた。
「そうだ、ボンドルドさん。俺たちは非常に素晴らしい戦果を残した。
鉄血のスクラップを大量に届けた時にあの過酷な戦場でどうやって活躍したのか興味を持たれてな、人形をそこまでの練度に育成するメソッドが知りたい、という話らしい。」
字面だけ見れば誉められている、と捉えてもいい。
しかしながら、青年の顔はあまり喜んでいるようでもなく、むしろ曇っている。
「そうですか、私達の発見と成果が周囲に還元されるのは素晴らしいことです。その瞬間は何度味わっても飽きが来ませんから。」
「ボンドルドさん、多分アイツら俺たちのこと疑ってんだよ。」
のほほんと答えたボンドルドのあまりの危機感の無さに、思わず青年は懸念を吐露する。
「疑う?何をでしょう。」
「例の事件は半分人為的に起こされてるだろ?ここであのジャミングだらけの戦場で何故か他を出し抜き活躍した俺たちが怪しくないなんて言うのは、常識にとらわれてる奴から見れば無理があるだろ。」
「なら、私達の作り上げたカートリッジの実演をして見せましょう。きっと喜んでくれますよね。
サンプルの鉄血人形を触媒にすれば、しばらくだけですがジャミングの再現をすることも可能なんですよ。」
そうじゃないんだよなぁ、と言わんばかりの呆れ顔を浮かべる青年は、喉元まで上がってきた小言をすんでのところで飲み込むと、とりあえず彼のことを信用しようと心に決めるのであった。
今までも大丈夫だったし、これからも大丈夫だろう、と。
事実、彼は奔放な手段を使い「なんとかしようと」するのであった。
_____「この度決まった私たちの基地の視察、出来うる限り良いものにしたいですよね。」
「というわけで早速視察員の情報を抜き取ってきました。」
それはどう考えても上役に対する宣戦布告なのではないのか、という周囲の視線をよそに話を続けるボンドルド。
「視察員の方はなんと人形なんですよ。今の私達と同じからだの構造をしていますから、頑丈ではあるものの人と同じもてなし方そのままでは物足りないと感じるのです。」
「つまり」
「今まで私達の培った技術を全て動員して、私達の研究結果を知ってほしい。今後に役立ててほしい。ということで皆様にも協力をお願いしたい。」
おおー、と分かりやすく歓声を上げてみるもの、既に方法を模索し始めているのかうつむきぶつぶつ呟いているもの、ボンドルドがやるなら私もやろう、と立ち上がるもの。
十人十色の反応だったが、結論として全員乗り気だ。
しかも非人道的な発想で物事を考えているのも同じなのだ。
誰もブレーキ役がいない、それがこの前線基地。数少ない人間だったナニかがこうなのだ、人間についていく人形がそうならないわけがない。
「やはり実演がいいのではないか。」
「百聞は一見に如かず、とも言うしな。」
「いえ、それならば体験の方がより楽しいのではないでしょうか。ここをこうすれば____」
様々な人形工学の権威による知識が詰め込まれた重厚な資料、そして自ら実践して集めた血の染み付いたような資料、それらをところせましと広げながら会話しているのは、次の実験の話でもあり、またこれはある種のパフォーマンスでもある。
「「傘」によるジャミングの再現には、貴重ですが捕獲した鉄血人形を使いましょう。
一体だけで前回の戦場の状態を再現するのは大変大きな負荷がかかるでしょうが、彼女は頑丈ですしおそらく大丈夫でしょう。」
「おっ、鉄血のクズを使うのか。」
「おやおや、クズなんかではありませんよ。私達の大事な協力者です。」
「すまん、昔の癖でな。」
はっはっは、と朗らかに笑い会う人形たち。
戦場で着用していた重苦しい鎧は今は無く、設計者がきっとこだわって設計したのであろう美麗な顔が、調和の取れた可憐な表情を浮かべている。
その中で異彩を放つ真っ黒な人形も、しかしながら朗らかで幸せそうな声は負けていない。
ここにいる全員が、活力に満ちていた。
その活力の先が、地獄なのだけれども。