不可解なものというのは以外と近くにあるものかもしれない。
とある青年の自室にて。
青年は悩んでいた。
青年にありがちな、漠然とした不安ではない。
将来も、この崩壊した世界では数少ない安定した職業、つまりは軍人である彼にとって悩むべきものでもない。
恋か?交遊か?
いいや、彼は真人間で、人気者の部類にはいるし、別に拗れた関係のものがいるわけでもない。
彼はなぜなやんでいるのだろうか?
それこそが、この世界における理不尽とも言ってよかった。
「聞こえていますか。私もこれ以上無視されるのは流石に堪えますよ。」
頭のなかで声が聞こえる。
馬鹿げた、子供だましのようなあり得ない話かもしれない。
しかし彼にはハッキリとそれが聞こえていたし、さらにこちらに語りかけていると言うこともわかった。
「あああ!あんたは一体何なんだよ!この前の遺跡に憑いてた幽霊か何かか!?」
端から見たら発狂しているようにしか見えないだろう光景。
だかやらざるをえない。
ここ数日ずっと何かしらするごとに
おやおや、だの素晴らしい、だの。
そして好奇心旺盛なのかそれらについて説明を逐一求めてくるうっとうしさは彼にとって十分な苦痛であった。
このままでは本当に発狂してしまう、そう考えた彼は謎多き声に対話を試みることにしたのだ。
対話にしては、随分と剣呑であるが。
「心外ですね。私はれっきとした人間でしたよ。」
でした。
結局のところまともではないのは確かだ。
そんなことはもうわかりきっている。
「答えになってない!結局あんたはなんなんだ!名前はあるのか?どうやって俺の頭に住み着いてるんだ!?」
パニック症状に片足を突っ込む青年。
それとは対照的に、明らかに異常なその声は、その異常さとは裏腹に冷静に話をしはじめた。
「私はボンドルド。白笛、と呼ばれていました。
全ては過去形ですが、しかし私はそれに見合う量の活動を行い続けていました。
ですが、少し問題が起きてしまいまして。
その問題解決に奔走していたら、気づけばその「問題」により体のストックは全滅。
ああそう、貴方が触れたあれが私の生命線。
ゾアホリックと言う「遺物」です。
精神を他人に移植することができるのですよ。」
「ゾアホリック?遺物?問題?あんた何を言ってるんだ?」
恐れ。
無理もない。
あの持ち帰った、ただの彫刻にしか見えないなにかが。
それがこれの原因だというのだ。
皆不審なものは積極的に触ろうともしなかったのに、あれだけは全会一致で持ち帰ろうと決まったのは偶然にしては不思議なことであった。
もうすでにそのとき、このボンドルドという存在は彼らを操り始めていたのかもしれない。
「ああ、副作用が出ていますね。
ゾアホリックは人間には荷が重いのです。
貴方が成功して善かった。
精神すら失ってしまえば、次に私が出てこられるのはまた遠い未来になってしまっていたでしょうね。」
不思議と、青年は聞き入っていた。
脳内で響く声は、語り合ってみれば予想以上に心地よく、まるで父のそれ。
先程までの焦燥が嘘のように消え、すべて委ねてもいい気分にすらなる。
「ゆっくり、ゆっくり真実を教えてさしあげます。
ですから代わりと言っては何ですが、協力者になってくださいませんか。」
もう魔の手に落ちていたのだ。
あるいは、ただ単にボンドルドの魅力のなせる技かもしれない。
どちらにしろ、青年は新たなる影になる。
合掌の偶像。
祈りは、また届くのだろうか。
いや、それをどんな手を使ってでも届かせるのがかつて黎明卿と呼ばれた「ボンドルド」という人間であった。