ボンドルドールズフロントライン   作:pilot

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私は不滅です


黎明の原動力

「フュンフ、起きる時間ですよ、フュンフ。」

 

空気の波だ。

これは所謂、音と言う奴である。

フュンフ、と呼ばれた。

呼ばれたのは誰だろう?呼んだのは誰だろう?

呼ばれたのはもちろん、フュンフだろう。

フュンフとは?自分だ。そう気付くまで、数秒。

寝惚けているからだろうか、フュンフという少女は思考に靄がかかったが如く、思考が散漫としていた。

 

「ん......?誰、ですか......?」

 

自分の名前がフュンフ、フュンフというのは自分。それは辛うじてわかったが、しかし呼んでいるのは誰だろう。

聞けばわかるのだろうか、それすら覚束無かったが、本能で疑問を口にしていた。

 

「おやおや、まだ半分夢の中のようですね。」

 

「私は貴方のパパですよ。」

 

パパ。は行の半濁点、あ列の音を二つ並べただけの簡素な言葉。

それは父親。自分の面倒を見る役目。自分を導いてくれる存在。

 

ああ、そうだった。合点がいった。「フュンフ」は結論付けた。

 

 

父親の役目の一つは教育であり、そして教育とは狭義の洗脳である。

明らかに怪しく、一文字の紫光を放つ「パパ」など、ろくなものではあるまい。

それでいて、陽光なのだ。

 

 

彼女はパパの目の届く範囲で、支度を始める。

彼は彼女に声をかけ、また彼女の声に反応しながら、なにやら板をスワイプしたり、タップしたりしている。

 

「起き抜けゆえに」フュンフにはわからなかったが、それはただの携帯情報端末だ。

彼が行っていることとはつまり、記録作業である。

 

「あの事件」から数日、しかしたった数日で彼女の記憶は書き換えられた。簡単な話だ。

 

ボンドルドの人間性は、強引という他ない。

そも、人間性と表すにはいささか純粋が過ぎる。

普通は良くも悪くも不純物が混じるものだ。大抵は効率を求める内に、効率に振り回されたりだとか、逆に感情を大切にするあまり、雁字搦めになってしまうとか。

 

ボンドルドはそうではない。

 

感情のために、効率を用いる。それもどちらも純粋に。

 

I.O.Pの技術は凄まじく、ボンドルドの頭脳とこの基地の特殊な設備を用いても「記憶の編集」は不可能だった。

ボンドルドは頭を捻る。捕獲した鉄血、I.O.P問わない野良人形数台をばらして、思い付くかぎり全ての行動のデータを取ってみても、やはり不可能だった。

 

そこで発想を転換する。

 

結果、着地点の見直しだ。

 

彼の最終目標は「様々な人形と擬似感情を結び、劣悪な電子戦環境でも活動できる」様にするためのカートリッジの大量生産、及びそれの原材料の安定確保法の確立である。

 

前例個体はIDWのみ。

これではよくない。

何より、装備適用範囲の人形が「初期からこの基地にいる古参」のみに限られる。

足掛かりとしては申し分なく、だが黎明とするには昏すぎる。

 

そこで目をつけたのが機械であるゆえの感情編集なのだが、上手くいかない。

傘ウイルスを利用する方法も検討されたが、制御と質、つまりそのものが憎しみを持たせることに特化した機能である故に「愛」には向かない事実が、それらの案を即廃棄に持っていった。

 

そこで。

ボンドルドは上書きを考えた。事実呪い避けカートリッジでも、「薬剤による感情の上塗り」は実践済みだったからだ。

今回の発案は、有機化学的であるそれの主要刺激が、電子的且つ原始的、つまりハッキングと拷問というシンプルで「広義の物理的」な手法にすげ変わっただけにすぎない。

 

拷問といっても肉体に危害を与える方法ではない。

ゲシュタルト崩壊に類するものだ。

仮に、通信機能で大量に「偽の記憶」を送り込んだとしても、それ単体では「偽物」と瞬時にAIが判断し、実際にそのカテゴリに素早く分類され、対象の人形の生き方に大きく影響することはない。

 

そこでボンドルドは「処理落ち」を起こすことにした。

 

手法はこうだ。

対象人形「フュンフ」に大量のダミーデータを送り込む。

これらは大抵、処理に使うエネルギーの大きいもの......

今回は「円周率」だった。

円周率の計算に「頭脳の全て」を使用させ、AIをパンクさせた。

 

その上で、通信機能を使い「作戦要項」に偽装した経歴の情報を「数十年ぶん」送り込む。

カテゴリ分けされていない状態で、しかも本来の記憶データより長大な「本物」に見せかけたデータを誤認させたのだ。

 

いったいどうなることかと思われたその実験は、果たして上手く遂行されることとなる。

 

「パパですよ」の一言、たった一言が参照データをすり替えることに成功した。

 

全く人形とは、人間に似すぎて適当なものである。

 

 

 

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