「なあボンドルドさん。」
「なんでしょうか?」
一人で虚空に話しかける一人の青年。
彼自身は大真面目だが、端から見れば大分滑稽だ。
それでも気にすることはない。
周りに人は居ないし、なによりもう彼も「あっち側」の人間なのだから。
「今、楽しいか?」
なんともない素朴な質問。
あまりにも平和すぎる漠然としすぎた問いだ。
それでも、ボンドルドは至極楽しそうな雰囲気を隠そうともせず「ええ。」と肯定の意を示した。
「だろうな。なんせ......」
「俺の体を寝ている間に勝手に使うくらいにはウキウキしてんだろ?やめてくれよマジで。」
そう吐き捨てた彼の目の下には、濃く大きな隈が広がっていた。
というのも現在のボンドルドは、言わば青年の体を間借している存在。
主導権を奪おうと思えば何時も奪えるのだが、彼はかつてボンドルドが協力を申し出た孤児たちとは異なり運用目的は人だ。
だから自分では自分を紳士的だと思っている彼は、使われていない時だけ使うという方法に出た。
睡眠など投げ捨てていた期間が長すぎた彼は、その重要性を忘れ去っていたのだ。
言われてからそれに気づいたらしい彼は、珍しく困った声色に変わる。
「まさか探求心故の軽い行動が貴方の大きな負担になるとは......度し難い。
出来るだけ消費は少なくしたいものなのですが......」
何を今更、やはりずれた感性だなと青年は再確認した。
すると、何かに気づいたのか彼は焦ったような口調で突然捲し立て出した。
「そういえば、貴方白い笛を着けた「体」を見かけませんでしたか。」
青年には白い笛は確かに見た記憶があったが、しかしながら「体」らしきものは全くもって見ていなかった。
確か、外骨格らしきものがあったことは覚えている。
「体、というか白い笛をさげた外骨格?装備品は見たぜ。」
「本当ですか......!それはいま何処に?」
すると、彼は食いついてきた。
余程大事なものなのだろうと、青年に感じさせる程には。
「いま研究に回されているぜ。
軍部の最高機密だが、俺たち探検隊だけは知ってる。
なんせ持って帰ってきた張本人なんだから。」
「研究?素晴らしい......!ヒトの生命は私たちがいくら掘り起こそうとも無限に出でる好奇心の源泉......
あの体たち、私の優秀な部下だった祈手たちはそれぞれが特別でした......」
「それがな、中身はもうとっくに腐り落ちて無くなってたよ。だから外骨格なんだ。」
沈黙。
口振りからは余程大事な部下だったんだろう。
何せ「特別」なのだから。
演技にも見えなかったし、あそこまで心配していたのだ。
少しだけだが、青年は彼に同情しかけた。
「では貴方に装備を着てもらいましょう。」
やっぱやべえわこいつ。
そう心のなかで叫ばざるを得なかった。
「いやなんか他に言うことないのか!?」
「何がですか?
ああ、死んだ彼のことですか。
彼との出会いは_____」
青年は愛ある語りにうんざりしながらも、ボンドルドと協議を重ね、ある代用案を捻り出すこととなる。
ボンドルドは決して薄情な人間でもない。
ただ合理的なだけでもない。
ただひたすらに、魅力と、精神構造とその覚悟、憧れ、技術、おびただしい数の特質によって愛と理性が両立した、してしまった偉人だ。
彼は、愛してる者を愛ゆえに使い潰し、真に感謝する。
そして犠牲者はそれを望むのだろうし、そうでなくともまたどこかで感謝してしまう。
憧れを止められない彼の周辺には、やはりその憧れに共振するものだけが集ってくる。
深淵を覗き、その暗黒すらも照らし尽くす黎明なのだ。