ボンドルドールズフロントライン   作:pilot

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白笛

「さ、流石にこれはねえだろボンドルドさんよぉ!」

 

全力逃走する青年。

巡回してきた鉄血人形から逃げてかれこれ「数十秒」、たったこれだけの時間と言うのに、もう既に追い付かれそうになっている。

 

「はええ!つええ!クソがっ!これでもくらいやがれ!」

 

いまは食堂からでてすぐのところの購買区画だ。

だがもちろんここも、食堂と同じように暴れだした鉄血の鎮圧に皆忙しかった。

 

とにもかくにも逃げ切るためには外聞も手段も気にしてはいられない。

道を通り抜ける際に次々物を粗雑にぶちまける。

少しは時間を稼いでくれ、と願いを込めて作り上げた瓦礫の山は、少しだけだが青年に猶予を与えた、かもしれない。

 

「誰か助けてくれ!誰かいないのか!」

 

銃撃のする方向へと逃げながら青年は叫ぶ。

銃を使っているのはおそらく装甲人形だろう。

警備係のあいつらなら、民生品人形を接待用に転用しただけの鉄血など蹴散らしてくれる。

そう信じていたから走れた。

かたかたと、足と床の叩き会う音が複数なり響き続ける。

 

いくら走ったころだろうか。

やっと助かる、淡い希望をもってフロントまでたどり着いた青年が見たのは、数の暴力でとうの昔にスクラップへと変えられた警備人形と、殺意に目をぎらつかせ銃を乱射する鉄血人形であった。

 

「ど、度し難い......」

 

彼の鍛えられた目は、人形がこちらを向き引き金を引くのを見逃さなかった。

 

転がるように死角に逃げ込むと、またもや疾走を開始する。せざるを得ない。

 

銃撃は散発的に続くが、青年が構うことはない。

訓練などされていない人間が銃を撃ったとて、命中率などたかが知れている。それが例え人形であっても。

 

青年はそう信じていた。

 

が、不運とは重なるものだ。

 

むちゃくちゃに撃たれた弾のうちの一つが、衣服に食い込み、そのすぐあとに肉を抉る。

 

悲鳴。

青年は兵士とはいえ、声くらい出す。

 

そして被弾した部位は運悪く、手でも肩でも腹でもなく、足であった。

 

動くことはままならず、人ならざる脚力で鉄血人形が迫る。

埃を巻き上げ、迫り来る。

死か、死か、死か。

死ぬしかないのか。

だが青年には、不思議と走馬灯は見えなかった。

 

枢機へ還す光(スパラグモス)

 

何故かと問われるのなら、彼はこう答えるだろう。

真の人ならざる黎明が、自らの味方をしているからだ、と。

 

目の前にいた筈の、鉄血人形は焼き消えた。

そもそもがいなかったように。

突然青年の後ろから放たれたその光線は、跡形もなく、人形ですら消し飛ばした。

 

「遅くなって申し訳ありません。

着替えを探すのに手間取りました。

貴方がたの研究していた私の勝負服、非常事態なので少しばかり返して頂きたいのです。」

 

そう答える声は、あの頭のなかで響いていた声と同じ、底知れぬ優しき声であった。

 

「随分派手に登場するな......まあいいけどよ、俺はまだ死にたくないぜ。

あんたが言うところの「人間としての運用」を続けるのなら命の保証は欲しいとこだ。」

 

「おやおやおや......

命の保証など、私が与えるものでもありませんよ。

事実貴方は生き抜いた。素晴らしいですよ。後は私に。」

 

青年が後退りし、ボンドルドが悠然と前に出る。

鉄血人形たちは先程の熱量を持った攻撃を警戒して遠巻きにボンドルドを睥睨している。

 

「ご安心を。枢機へ還す光(スパラグモス)は消費エネルギー、発熱ともに非常に大きいので、お人形さんたちにも活躍の機会はあります。

さあ、私に是非ともその力を見せてください。」

 

それを聞いたからなのか、それともルーチンなのか。

どちらかはわからないが、複数の鉄血人形が突然飛びかかる。

 

一体目。

突然ボンドルドの背から伸び上がった触手のようなもので地面に叩きつけられる。

 

「見たところ遺物を使用した「祈手」の体は腐り落ちてしまったようですが、遺物自体は健在だったようですね。

意識で動く腕(サードワークス)、かっこよくて私も好きなんですよ。」

 

だが、叩き付けられた程度では頑丈さが売りの鉄血人形は止まらない。

 

腕の力のみで飛び上がると、ボンドルドへと頭突きを食らわせようとする。

 

「!?

素晴らしい......

素晴らしい......!

かつてのオーバードには及びませんが、目を見張る頑丈さ......

その体も検体に欲しい。」

 

もちろん口では誉めている。

本心から誉めている。

だが体は全くといっていいほど無言であった。

つまりは、無傷。無駄。

片手で頭を握り潰された鉄血人形は、手足を空へ投げ出して機能を停止した。

 

二体目。

先程の銃持ち鉄血人形。

少しは先程のよりも賢いようだ。

明らかに近付いてはいけない武装ばかり。

そんな相手には銃を撃つに限る。

子供でも解る道理が、AIにわからぬわけがない。

しかし。

 

「素晴らしい......華奢な手足には見合わない勇気......

必死に射撃するその姿もかわいいですね。

その銃も気になりますし、頭も気になる。

どんな計算を今しているのか?欲しい。是非欲しい。」

 

言葉は届く。

思考も筒抜け。

しかしながら、もっとも届いて欲しかった筈の銃弾は意識で動く腕(サードワークス)で難なく弾き飛ばされた。

そして驚異は、距離を問わない。

 

明星へ登る(ギャングウェイ)

 

ボンドルドが自らの顔を撫でる。

すると不気味に光る縦一文字の仮面が一際輝いたと思えば、その光は一点に収束し、まるで夜明けを知らせる明けの明星のごとく、目にもとまらぬ早さで迸る。

 

鉄血人形の頭が欲しい。

ならばそれ以外の急所を撃ち抜けばいい。

戦術人形の構造を魂に叩き込んでいたボンドルドが、かつての武装明星へ登る(ギャングウェイ)を取り戻せばその程度は造作も無かった。

 

残りの一人は、それでも戦うことを選んだ。

真っ直ぐに、愚直に、しかしそれ以上無いほど速く。

 

「孤立無援となり、圧倒的な不利とわかっていたとしても、逃げも隠れもせず立ち向かうその姿。

とても美しいですよ、名も知らぬお人形さんですが敬意を表したい。素晴らしい......。素晴らしい......!」

 

震えるほど喜んでいる。

ボンドルドは嬉しかった。

ただの機械人形ですら、この世界ではやりたいことをやれる。

解放されている。

憧れへの道が潰えていない。

創造主や、既存の権力や決まりが一番偉い、それがボンドルドにはいまいち理解できなかった。

探求する心こそが、全てを乗り越え全てを得る力になるのではないのか。

そう彼は常々考えていた。

 

そんな思考のよそで、彼は淡々と仕事をこなす。

 

呪い針(シェイカー)

 

枢機へ還す光(スパラグモス)を放った口とは逆側の、手甲に付いた穴から針が三つ飛ぶ。

戦術人形に三つ突き刺さったが、それきりだった。

 

「!?」

 

ボンドルドにクリーンヒットするタックル。

呪いが、効かない。

ボンドルドはうすうす感じていた予測が当たっていたことに大喜びしていた。

 

「素晴らしい......!

彼女らの力さえあれば、呪いを受けずいくらでもアビスへと探求の歩を進められるではないですか......!

祝福を受けられないのは惜しいですが、流石に望みすぎと言うものですね......」

 

素晴らしい、素晴らしい。

そう言ってはいるが彼はピンチだ。

流石に上から押さえられれば、人形の膂力はすさまじく、抜け出しにくい。

 

「素晴ら......」

 

ドン、ドン、ドン。

 

打撲音。

馬乗りの体勢のままボンドルドを殴り続ける人形。

 

このままでは流石の人形の体、手に入れ直した暁に至る天蓋でもいつかは耐久力の限界が訪れるかもしれない。

 

それでもボンドルドは素晴らしいとしか言わなかった。

 

「ピンチなら素直に助けを求めんかい!」

 

先程ボンドルドが撃ち抜いた人形から取り上げた銃の残り少ない弾倉から飛び出た一撃が、鉄血人形を大きく揺らす。

 

「おや、ありがとうございます。

助けてくれると信じてましたからね。

それに彼女らの力も気になりまして。

ここで負けても貴方の体もあることですし、そこまで心配なさることはないのです。」

 

すかさず第三の腕(サードワークス)を使い体を起こし、そのままの勢いで人形を蹴り飛ばす。

 

「あれも是非捕獲したい。「月に触れる(ファーカレス)」」

 

黒い何かがボンドルドの腕から伸びる。

生き物のようなそれは、事実生き物。

ボンドルドは人間、非人間、自分、他人の問わず使えるものはすべて使う。

これもその産物だ。

 

「捕えろ」

 

その繊維が最後の一つを絡めとり、戦闘は終わった。

 

ボンドルドは仮面をしているというのに、明らかにニコニコしているように見えるほど機嫌がいい。

久し振りの勝負服と、そして未知の検体が合法的に、楽に手に入ったからだろうと、青年はそう思うことにした。

 

 

 

 

 

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