秘密兵器だとか言われてたけど、この作品には秘密兵器はいないのです。
聞き慣れたアラームが部室内に鳴り響く。その音にハッとした優希は直ぐに表情を引き締める。それを見た小学生組も同様に引き締めた。
「……これは、随分と久しぶりに聞きますね」
「そうね、ひなた。……ちびっ子達、こっちの世界に来て初めての戦闘よ。緊張するかもしれないけど、手伝ってくれるかしら?」
「勿論っ。ひっさびさに暴れまくってやりますよ!!」
「私達の力を見せてやんぜ〜」
「須美ちゃん。同じ勇者同士、私達と国防しましょう」
「っ!、国防……了解です!!」
小学生組は神樹様の世界に来て初めての戦闘になる。しかし、緊張しているようには見えず、3人とも気合とやる気に満ちていた。
須美は美森の国防の言葉に反応し、俄然やる気を出している。
「兄貴も、あんまり緊張とかしないでよ?」
「俺がそんな風に見えるか?」
「……風?私の事?いやん、兄貴ったら。どんだけ私の事好きなのよぉー」
「……名前を呼んだ訳じゃないんだけど。兎も角、俺は全然余裕だから大丈夫だ。大船どころか戦艦に乗った気分でいろよ」
「っ!戦艦っ……」
「それは超弩級戦艦以上で宜しいですか!?」
「落ち着け愛国主義者達」
「須美、その話は後な〜」
優希の頼もしさを例えた戦艦に過剰反応する美森と須美。夏凜はチョップを美森に食らわせ、銀(小)は須美の脇に腕を通して後ろに下がらせる。
引き締めた筈の帯は一瞬にして綻びるのであった。
「優希さん、私もパンチ系勇者なので色々教えてください!」
「パンチ系勇者とは……、あぁ、勇者パンチね」
「優希さんもするんですか?」
「まぁ俺はちょっと違うんだけどね」
「?……違う、ですか」
「まぁそれは後で見せよう。多分あんまり参考にはならないだろうけどさ」
優希の言葉の後、久しぶりに見る極彩色が部室内を包み込んでいくのであった。
樹海に入った勇者部は、端末を取り出して勇者服に着替える。
既に周りは無数の小型バーテックスで埋め尽くされていた。
「うわっ、なんだコイツら。見た事ないタイプの敵だゾ!!」
「落ち着きなさいプチ銀。アイツらは大型よりも機動力があるけど攻撃力はそこまであるわけじゃないわ。小学生組は注意して戦いなさい」
「なるほど、あれは伏兵という事ですね」
「数はいやってほどいるから、大型バーテックスが見つかり次第そっち優先の方が早く片付くわ」
「分かった。取り敢えず大型が出るまでの時間稼ぎをあれでしとけって事だな」
「そういう事よ」
ブンっと風は握る両手剣を肩に担ぐ。その姿に、我が妹ながら馬鹿力だなと苦笑いする優希。話を聞く限りでは樹もワイヤーで敵を捕まえて容赦なく細々と切り裂くらしい。妹達は戦いに生きる女となってしまったのだろうかと、優希は聞いた時頭を悩ませていた。
「よーしっ。勇者部、行くわよぉ!!」
「「「「「「おー!!」」」」」」」」」
「ちょっと待ってくれ風」
飛び出した所を優希が軽く受け止めて着地。一連の流れのように違和感無く着地した姿に全員はえぇーっと口を開いた。
「いやごめん風。ここは俺達に任せてくれないか?」
風を離し1歩前に出た優希はそう言うと、それに続くように小学生組3人も前に出た。須美は弓矢、園子は槍、銀は両手斧。そして、優希は拳を強く握り締める。
「合同で戦闘に参加するのは初めてなんだ。取り敢えず俺達の動きを見せておこうかなってさ」
「はいっ。皆さんに負けないぐらいの戦闘はこなして来たつもりです」
「泥舟に乗った気分で見てれば安心だゾ!」
「さっきのゆーにいのマネ?ミノさん、泥舟だとすぐ沈んじゃうよ〜」
「えっ、でもそれは……」
美森が何か申したいような顔を向ける。無理もない。過去を知る者からしたら絶対に止めたい行動だ。人数もいる。全員で倒した方が効率もいいはず。
「……兄貴、ホントに大丈夫なの?」
「………大丈夫だって。危なくなったら俺が全力で撲滅するし、何かあったら呼ぶよ。すぐ戻るから、待っててくれ」
「……なら、せめて危ないと感じたら援護射撃の許可を…っ」
「そりゃ助かるよ。ありがとう、美森ちゃん」
美森の申し出に優希は笑顔で了承した。他のメンバーの表情も少し柔らかくなった気がする。だが、風と樹、中学生側の3人はふと考え、また表情に影が指す。また離れる事になるかもしれない恐怖がどうにも頭の中から離れない。そんな姿を見た優希は、風と樹を抱き寄せて思いっきり抱き締める。
「……ごめんな、今はこれしか出来ない。また後で、一緒にいよう」
「………そうやって、すぐ抱き締めれば私達は満足すると思ってる?」
「戻ったら、何処か出かけようか。好きな所に行ってやる」
「……私は、ずっとお兄ちゃんのそばに居たいよ」
「後でしっかり叶えてやる。だから、今は許してくれ」
「……私も、そうしてもらうわ」
「分かった。待っててくれ」
優希はポンッと頭に手を置いて一撫ですると、次は同じく表情を暗くしている美森達の方を向いた。優希は自分が未来でどうなるのか分かっていない。だが、5人の表情を見れば何か悲しませる様なことを何度かしてしまったのかもしれないと優希自身がそう思っている。優希は美森達に近付き、いつもの笑みで語りかける。
「……そんなに心配か?」
「……はい。私は、また……優希さんが傷付くと思うと、とても悲しい……」
「……ゆーに、……優希さん。もう嫌だよ、優希さんが深い傷を負って私たちの所に戻ってくるのは……」
「あたし達もいくから……、皆で戦ってくれよ……っ」
「……なら、大型バーテックスが出現したら皆で倒す。それまで小型バーテックスの方は俺たちにまかせてくれないか?命の危険があるとはいえ、これから戦っていく仲間の動きとか見とかなきゃ行けないだろ?全員で見て、覚えて欲しいんだ。頼むよ」
確かに、共に戦う仲間の能力は見るに越したことはない。だが、やはり恐怖が3人を逃がさない。蘇るトラウマ。浮かび上がる光景。思い出される手の感覚。背筋が凍り、全身から力が抜けた虚無の時間。あの時の自分達がどれだけ無力で哀れだったのか、身をもって体験した。優希達はまだその場に至っていない。まだ知らないから、少し危険な道も渡れる。美森達には、もう危険な道も命を賭ける運任せの特攻も、起こす気すら起きないのだ。
「……無事に帰れる保証がありませんっ。……例え作り物の世界だとしても、現実世界と変わらず……、攻撃を受ければ傷を負いますっ。……お願いですから、どうか……」
美森が涙を流す。それはあの時の光景を止めたいがための、優希を束縛する涙。守ると決めた3人が涙を流している事に、優希は酷く後悔する。銀(中)と園子(中)もそれぞれが涙を溜め込んでいる。怖い、恐い、悲しい。優希は3人の涙する姿に、どれだけ自分が思われているのか理解する。
「……東郷さん。過去の自分は、そんなにも未熟ですか?」
「………え?」
「……私達は貴女方が何に悩み苦しんでいるのか分かりません。きっと辛い事を経験したんでしょう。ですが、私は東郷さん、銀さん、そのっちさんに聞きたい。辛い経験をしたのは貴女方が思い浮かべている出来事だけだったのですか?何より、小学生の時の私達は、そんなにも簡単にやられてしまう程、情けなかったのですか?優希さんに助けて貰わなければ何もすることが出来ない弱い心を持っていたのですか!!」
須美の言葉に3人はハッとした。思い出す。合宿で優希の力を借りずとも協力して訓練を乗りきった事を。優希が居ない時、3人で協力して2体のバーテックスを倒した事。優希の力を借りず、困難に打ち勝った事を。
「私達がずっと目指す目標があったでしょ?何故簡単に諦められるのですか!傷ついて痛い思いをした、悩み苦しんだのも私の記憶では新しい記憶です。ですが、そんな簡単に、そんなあっさり捨てられるような事を私達は目指していた訳じゃない!!」
「確かに今回の事は私達の我儘です。でも、私達はそれでも行きたいんです!どうか、私達を行かせてください!お願いします!!」
頭を下げる小学生3人の姿。何処までも真っ直ぐな気持ちが、美森にひしひしと伝わってくる。
そうだった。あの時の私達は、今よりずっと強かった。
優希の背中を追い掛け、いつか優希と肩を並べて戦いたい。守られる存在では無く、守り合いたい存在になりたかった。
ひたむきに取り組み、真っ直ぐ突き進んで行ったあの頃の姿が、美森達には眩しい程に輝いていた。
「……須美ちゃん、でもっ」
「……須美、やめなよ。今はそんなに言い争ってる場合じゃないだろ」
「……わっしーの言いたいことも分かるんよ。でも、わっしーも気付いてるんでしょ?なら、私達は応援しなくちゃ」
「……銀、そのっち」
それでもと、納得出来ない美森を止めるのは銀(中)と園子(中)だった。美森も分かっている。こんな状況で言い争ってる場合でもないし、須美の言う昔の自分達ならどうだったのか納得もしている。優希が命を落としたのも慢心では無かったし、自分達は慢心等で止まる程低い目標を掲げているわけではなかった。絶対に叶えたい目標があったから、今美森達は過去の自分達を強いと思える。
「言い訳になるかもしれないけど、今の俺達は4人だけじゃない。心強い味方が俺達の背中を守ってくれる。4人の時の以上に俺は安心して戦う事が出来るよ」
「……兄貴」
「だから、必ず勝ってくるから。俺達に任せてくれないか?」
あの時の言葉よりも、絶対的な安心感を感じる。
銀(中)は思う。これはあの時、優希が3人に掛けた言葉。その言葉はとても切なく、胸が張り裂けそうなぐらい苦しいものだった。だが今はその言葉は暖かく、言葉に言い表せない絶対的な自信が込められている。
そんなにも力強く言えるのも、優希の隣に3人の姿があるからだろう。1人ではなく仲間達で。仲間がいれば何倍にも何十倍にも力が増す。
そういう考え方をする銀(中)が思うのだから、何となくだが納得出来てしまう。
「………分かりました。でも、約束してください。あくまで小型バーテックスだけだと。大型が出現し次第私達も参加します」
「ああ、それで構わない。ありがとう、美森ちゃん」
「ありがとうございます、東郷さん」
美森が首を縦に振る。苦渋の決断だが、状況が状況である為時間をかけ過ぎては不味い。何よりも、信じようとする人と、それに応えようとする人がいるのだ。自分だけ嫌だと駄々をこねるのは両者に失礼。まだ納得は完全ではないが、何個か条件を出したので渋々了承した。
全員の承諾を得た優希は小学生組3人を見つめる。3人共にやる気に満ちており、小学生とは思えない逞しさを感じる。優希には何が彼女達をここまで突き動かしているのかは分からない。だが、それでも彼女達の姿を見ると、自分もやる気が出てくる。自分に課した思いが力をくれる。頼もしい小学生だと、優希は心底思うのであった。
目線を敵に戻した優希は小学生組を集め、縮こまって円を作る。
「いいか、敵は小型だが一つ一つ着実に潰せば倒せる。銀ちゃんと俺は前に出て後ろの二人に近づけないようにしよう。そのちゃんは須美ちゃんの護衛。遠距離攻撃の支援よろしく。須美ちゃんはいつも通りど真ん中連発期待してるよ」
「任してください!!あたしの力見せてやりますよ!!」
「うぉ〜、やる気が漲ってくるぜぇ」
「後ろはお任せ下さい!!」
「よっしゃ、行こう!!」
散開する4人。その姿を勇者部員達は心配そうな瞳で見つめる。
須美は全員とはぐれない丁度いい距離を保ち、園子はその近くで槍を振るう体勢。優希と銀はそれぞれ右と左の位置に移動する。
「ーーー火色舞うよ」
その時、黒い花が咲き誇った気がした。美しく、それでいて寂しさの感じる黒い花。ヒラヒラと舞散り、美森達3人と風、樹の頬をまるで優しく撫でるように頬を掠めた。無意識に、花びらが掠めた頬に手を置く。まるで優希の気持ちがそこから伝わってくるようなそんな感覚が、美森達の心を落ち着かせる。
4人は動き出した。優希は地面を蹴り、出会い頭に腰を動かし右腕を前に振るう。文字通り爆散したように、小型バーテックスが吹っ飛んだ。それを初めて見る先代中学生側3人以外のメンバーは驚愕した。
「ーーーしっ」
続く二撃。腕を振るった反動で回し蹴り。周辺の敵を纏めて吹っ飛ばした。更に向かってくる敵に、着地と同時に膝蹴り。続く敵を掴んでぶん投げる。
「だぁああぁあっ!!」
優希の武器は言うなら身体が主である。人並外れた身体能力から繰り出される攻撃は小型バーテックス程度では一撃。更には纏めて数体倒す事が可能である。
鋭い一撃一撃で、確実に仕留めていく。
「ーーー3人ともっ、行くぞ!!」
「はいっ」「おぉっ」「いっくよー」
園子が槍で階段を作り、須美がその上をかける。須美の引く弓が一回り大きくなり、最後の一歩を思いっ切り踏み切って空中に飛び出す。真上、弦を引き空高く弓矢を放つ。矢は敵の真上まで飛び、形を紋章に変えて敵全体に矢の雨を降らせる。
「今ですっ!」
「やっちゃえ2人とも!」
「ーーーあぁっ、銀ちゃん!!」
「ーーー任せてくださいっ、うぉおおお!!」
雄叫びをあげる。自分を鼓舞するように力の限り叫ぶ。優希の手の甲、銀の斧に刻まれた花の紋章が輝き出し、力が溢れていく。優希は黒い炎、銀は赤い炎。それぞれの炎が共鳴し合い、見惚れるような美しい炎となって2人を包んだ。
「「ーーーくらえぇぇええええ!!!」」
同時に駆け出す。今の2人には誰も敵うはずがなく、繰り出される炎舞と斬撃によって小型バーテックスは吹き飛ばされ、切り裂かれ、消滅する。
圧倒的な力。しかし、それは4人がそれぞれお互いを助け合い、信じ合うからこそ生まれる絶対的な力である。不安があろうとそれをお互いでカバーし、それを糧として力を振り絞る。
美森はそんな姿に、零れる涙を抑えきれない。何処までも進み続ける4人の姿を思い、感情を抑えきれない。壊したくない、引き裂きたくない。あの4人を欠けさせたくない。けれど、今の自分には何も出来ない。こうやって後ろで泣く事しかできないのだから。
そっと肩に触れるのは、銀(中)と園子(中)。その眼には懐かしいようで悲しい光景が、焼き付くように残っている。二度とあの頃には戻れず、あろう事か戻れない光景を他人となって見る事になっている。皮肉な話だ。あの場所には、自分達が居たはずなのに。どうしようもない切なさ、悲しみ、胸にポッカリと穴が空いたような虚空を触る感覚。 どうしたってその気持ちを和らげる事など無理な話である。
だが、お互いには何も言わない。心では3人感じ取っているから。きっと、言わなくても2人なら分かっていると感じているから。
ーーー離れたくない。けど、私達は……もう……っ。
未だ、3人の黒い雫は止まることを知らない。
その後大型バーテックスが出現するも、全員で立ち向かい、被害を出すこと無く倒す事が出来たのであった。
戦闘シーンはなんか苦手です。薄っぺらい……。