お兄ちゃんは勇者である   作:黒姫凛

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ストーリー性皆無が私の売りです(..◜ᴗ◝..)


花結いのきらめき その6

 

 

 

 

 

 

 

あれは何時の話だっただろうか。

 

雨の降る心做しか寂しさを感じた夕暮の日。何時もの通学路を歩き、真っ直ぐ家に帰ろうとしていた私。

雨のせいか足取りは重く、差し持つ傘に当たる雨の音が私の心を冷やしていく。

 

何があった訳でも無い。いつも通りの1日を過ごしたに過ぎない。自然と降る雨によって気分が害されるのはよくあること。ネガティブになったり、落ち込んだりしてしまうのは雨のせいだと私は結論付けているが、素直に納得はしていない。

 

こういう時はいつもそうだ。何かしら私は考え、ふとした事で気分を消沈させる。雰囲気のせいでもあるが、私自身の性格によるものもある。

寂しさが不安に。不安が絶望に変わっていくのが分かるものの、上手くコントロールは出来ていない。

悩ましい、克服したい私の悩みである。

 

それで、今何を考え消沈しているのか。これは、末っ子である者故の悩みなのかもしれない。

 

私には4つ上のお兄ちゃんと、2つ上のお姉ちゃんがいる。

背が高く頭が良く運動が出来てカッコイイお兄ちゃん。優しくて面倒見のいいお兄ちゃん大好きっ子なお姉ちゃん。

私にとって、かけがえのない大切な存在である。

 

だがいくら私が2人を大切な存在であると思っていて、2人も私を大切な妹であると思っていても、私は時折孤独感を感じる。

お兄ちゃんがお姉ちゃんに。お姉ちゃんがお兄ちゃんに。お互いがお互いに常にくっついて動き回っているからだ。

 

お兄ちゃんが行く道を、お姉ちゃんはいつも着いていく。私はその後を追うだけ。

お姉ちゃんはお兄ちゃんに褒めてもらおうと色々な事に挑戦している。私は眼中に無いみたい。

 

寂しい。そう思って、そう思いたくもない筈なのに、私はとてつもなく寂しさを感じてしまう。冷たかった体が余計冷たくなる。

あの2人は既にお互いが求め合う存在になっている。皮肉な話、何の取り柄もない出来損ないの妹に気を回すぐらいなら、放って置いて他の事をする。

 

涙が滲む。まるで私の心を表しているような雨がザアザアと降り続け、私が零しそうになった涙の代わりに地面に落ちていく。

 

酷い話だ。私自身、ここまで劣等感を抱いているとは思わなかった。自覚も無く、お兄ちゃんとお姉ちゃんの仲が凄くいい事に羨ましさを抱いていた筈なのに。いざ考えてみると、そんな自虐的に捉えてしまった。

 

私は重い足取りで歩き続ける。お兄ちゃんが買ってくれた通学用のスニーカーが雨に打たれて水分を吸って重くなっている。ベチャベチャと歩く度になる不快な音が、より私の心を汚していく。

 

もっとお兄ちゃん達と仲良くなりたい。もっと構って欲しい。いっぱいお話がしたい。どうすればいいのか考える。

2人の仲に今更ズコズコと入っていく事は出来ないし、かと言って積極性に欠ける私が自分の意見を言うのなんて言うのも出来ない。

 

このままずっと、過ごす事になるのだろうかと最終的に結論付けてしまう。自分を変えたいと思う。周囲の環境も変えていきたいと思う。何より、お兄ちゃんとお姉ちゃんとの仲を1番変えていきたい。

図々しいのは分かっている。だけど、私は寂しいのは嫌いだ。ひとりぼっちなのはもっと嫌だ。恥ずかしがっても、誰かと楽しく生きていたい。

 

 

3人仲良く、幸せな毎日を過ごしたかった。

 

 

ふと足が止まる。私の目の前に立つ人物に目を奪われたから。

黒い傘を指した高身長の青年。誰かを待っているような雰囲気で電柱の麓に立っていた。

思わず口が開いてしまう。今呼びたい、大切な人の事を。

 

 

「ーーーお兄ちゃん!!」

 

 

青年はゆっくりと振り返り、私の姿を見てニッコリと笑ってくれた。

それを見て私も嬉しくなり、無意識に頬を緩ませる。

お兄ちゃんの元に駆け寄り正面に立つ。見上げなければ見ることの出来ない顔を私はじっと見つめ、暫くその状態を続けてみる。

お兄ちゃんはなんとも思っていないようで、手に持っていたカバンからタオルケットを取り出して私の頭に被せてくれた。頭は別に濡れている訳では無いのだが、そうしてくれるだけで私はとても嬉しくなってしまう。さっきの憂鬱感が薄れていき、冷たかった身体に暖かな感触が戻ってくる。

 

私は、確かにお兄ちゃんとお姉ちゃんに劣等感を抱いていて、孤独を感じている。

だけど、私はそれでもお兄ちゃんとお姉ちゃんが嫌いな訳では無い。寧ろ大好きだと言っても過言では無い。誰も嫌いだとは一言も言ってはいないからね。

 

 

「ーーーお兄ちゃんは、なんでここに居るの?」

 

 

「ーーーお前と一緒に帰る為だ。当たり前だろ?」

 

 

わしゃわしゃとタオルケット越しに撫でてくるお兄ちゃんは、さも当然のように言い放つ。その言葉がどれほど私にとって嬉しい言葉なのか。欲しい言葉なのか。幸せを感じる私はニヤケ顔が収まらない。

こんなにも優しいお兄ちゃんを嫌う事なんて出来る訳が無い。お姉ちゃんだってそうだ。いつも私を朝起こしてくれて、頼りになるお姉ちゃんを嫌う事なんて出来る筈がない。

 

 

「ーーーさぁ、帰ろう。今日は何が食べたい?」

 

 

今日の夕飯についてお兄ちゃんが聞いてくる。私はお兄ちゃんの料理ならなんでもいい。どれも外れがなくて私の好みの味だから。お姉ちゃんと一緒に作る料理は、今まで食べて来た中でも上位を争うレベルのものだ。

 

 

「ーーーお兄ちゃんの料理なら、私なんでも食べたいな」

 

 

在り来りな返しだが、事実を言ったまでだ。困ることなんて無い。私がこう言っているんだからなんでも出して欲しい。なんでも食べるし、なんでも言うことを聞く。困らせるつもりは無かったが、変に悩むよりお兄ちゃんに任せたい。

お兄ちゃんは困ったような表情を見せると、そっと、私の手を握って来た。

 

 

「ーーーじゃあ、今日は寒いから鍋うどんだな。家族皆で鍋を囲って食べよう」

 

 

「ーーーうん!」

 

 

私は末っ子の妹。お兄ちゃんとお姉ちゃんの妹である。

お兄ちゃんとお姉ちゃんに自慢出来る事なんてひとつも無い。お兄ちゃんとお姉ちゃんがとても羨ましい。

だけど、私はお兄ちゃんとお姉ちゃんが大好きだ。特に、私と一緒に歩いてくれるお兄ちゃんが、私は大好きだ。

 

いつの間にか雨が止み、雨雲の隙間から天の光が差し込める。光が出来上がった虹を照らし、大空に7色のアーチが広がる。

私はその虹を見上げながら、その光景に願いを綴る。

 

 

いつかきっと、私がお兄ちゃんとお姉ちゃんに思いの丈を叫べるように。今はずっと、見守っていてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はとうの昔に過去と折り合いをつけた。それがどんなに辛いものであったとしても、今の私には乗り越えた現実だ。

 

中学1年の時、大橋崩壊の事故で巻き込まれて、帰らぬ人となった。

当時、学校から帰って夕飯の準備をしていた時、大赦と言う組織が私達の家にやって来て、私達の親が死亡した事を告げられた。

 

その後のことは覚えてはいない。意識を取り戻した時、目に映ったのは自室の天井だった。あの後は何があったのか記憶が無いため、私は時計を確認する。時計の針は12と6を指していた。窓から指す光を見るに朝方であると確認した私は、ゆっくりとベッドから立ち上がってリビングに足を運んだ。

 

 

いつもなら聞こえるはずの話し声が聞こえない。

いつもなら鳴り響く包丁の刻み音が聞こえない。

いつもなら見ているテレビの声が聞こえない。

 

いつもなら暖かいはずの家が、冷たくて仕方がない。

 

 

リビングのドアを開ける。ゆっくりと開かれる扉の向こう側に広がる光景に、私は思わず息を呑んだ。

 

ソフィアに座り、新聞片手にテレビののニュースを見ているはずの父ーーー。

キッチンに立ち、私達の朝食を作っている筈の母ーーー。

 

 

『おはよう』

 

 

いつもなら掛けてくれるはずの声が、光景が何一つ無かった。

 

思わず私は親の部屋に飛び込んだ。勢いよく扉を開けるが部屋には人の気配一つ無いもぬけの殻。

それが、どうしようもなく私の心を抉ってくるようだった。

 

受け止めたくない現実。知りたくなかった現状。思いもしなかった突然の悲劇。

 

崩れ落ちた私を受け止める人は誰もおらず、力なく私は廊下に倒れ込んだ。

不意に目尻が熱くなり、淡々と流れ出す涙。抑えようとも思わない。今は何もしたくない。何も出来ない。

涙の量は更に増え、嗚咽のような泣き声が無意識に流れてしまう。

 

 

「ーーー………っ、あ……っづ、…………っ」

 

 

宥めてくれる人は居ない。抱き締めてくれる人は居ない。暖かく見守ってくれる人は居ない。誰も、誰も居ない。

 

お兄ちゃんが家から出ていき、親と二度と会えなくなった。どうしようもない虚空感が私の心を侵食し、深い深い絶望を見せてくる。

フラッシュバックする走馬灯のような記憶。楽しかった思い出、悲しい思い出、辛かった思い出。どれもこれもが私にとっては大切な思い出。

 

掴みたくても掴めない。掴みたいのに掴めないこのジレンマ。躍起になって掴もうとするが、手では掴めず虚空を振るう。

離れていくその思い出が、そっと私を冷たい海の底に突き落としてくる。

 

抗う事はしない。もがく事はしない。抜け出そうとも思わない。

 

 

全部無意味だと、冷たい感情でそう見出した。

 

 

これから、私はどうすればいいのか。頼るものは誰もおらず、頼れる者は今は亡き者。絶望と言う崖っぷちに私は立たされていた。

 

この時私はほぼ諦めていたのかもしれない。残された私達で暮らしていくなんて耐えられない。生きる事が、なんだか辛くて仕方がなくなってきた。

 

 

もう、ここから解放されたい。

 

 

そう思うと自然と涙が止まった。さっきまで力が入らなかった身体に、自然と力が入るようだった。

動けるようになった私は、ゆっくりと起き上がりキッチンへと向かう。

窓ガラスに写った私の顔は、乾いた笑みを浮かべた人形のようだった。何もかも諦め、見切りをつけ、ここで終わろうと終止符を打つ現実逃避者の成れの果て。これから私が何をするのかなんて、表情だけで全て察する事が出来る。

 

キッチンに入り包丁を手に取る。反射して見えた私の顔は最早なんと言えばいいのか分からないほど滑稽なものだった。全てを諦め、全てを捨てようとしている哀れな表情。滑稽だ。実に愉快だった。

 

手首に包丁を添える。何処を切ればいいのか分からないが、手首には動脈があってそこを切ると大量の血が出るて死に至ると何かで聞いた事があった。

これで、私は解放されるのか。包丁を見つめ、自身の左手を見つめる。

 

ふと、包丁が震えているのが分かった。それは握っている手が震えているからだ。恐怖しているからだ。戸惑っているからだ。

意気地無し。何故私はそんな事もできないのか。無性に腹が立つ。

 

覚悟を決めろ。私は辛いんだろ。解放されたいんだろ。ここにいたところで、私はなんになると言うんだ。寂しいのならいっその事、あの人達の所に向かえばいいだろう。

 

ギュッと柄を握り締め、私は覚悟を決めた。

これで終わる。さぁ、行こう。

これで、また家族一緒にーーー

 

 

 

 

 

『ーーーお姉ちゃんなんだから、頑張れ!!』

 

 

 

 

 

 

「ーーー………っ」

 

 

走馬灯の先。浮かび上がった兄貴の表情。優しく頭を撫でて励ましてくれたいつかの光景。それは私に光を差し示した。

 

 

ーーー出来るわけがないだろ。

私は姉だ。姉として、残された唯一の妹を育てて行かなきゃならないだろ。誰があの子の面倒を見る?誰があの子を甘やかしてあげられる?誰があの子の不安を取り払う事が出来る?

 

 

姉だろう。姉しかいないだろう。

残された私しか、私だけしか居ないだろう!!

 

 

叫ぶ。

 

 

根性見せろ犬吠埼風!!私はなんだ!!私は姉だ!!お姉ちゃんだ!!兄貴から、お父さんとお母さんから任された長女犬吠埼風だろう!!

 

 

雄叫びをあげる。

 

 

私が折れたらどうする!!諦めるな!!私はやれる!!私は乗り越えられる!!

 

 

一歩前へ。

 

 

辛くても、苦しくても、どうしようもなくても、私は……、私は………っ。

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー私はっ、犬吠埼っ、風っ!!犬吠埼家長女として、負けてたまるかぁぁああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

負けられない。負けたくない。

私は長女として妹を守る。妹を助ける。妹を育てていく。

 

家族が死んだのは悲しいし、とても辛い。だけど、まだ終わりじゃない。私が居る。私がやれる。

私が姉として、犬吠埼家を守るんだ。

 

 

 

 

 

 

いつかきっと帰ってくる兄貴の為に、兄貴の帰る場所を私が守るんだ。

何できるとするならば、それはきっと、兄貴の居場所を用意する事だ。

いつでも帰って来れるように、私は兄貴の居場所を守り続ける。

 

 

 

 

 

それが私に出来る家族を守る為の事だ。兄貴を、妹を守る。懸命に生きて、私は強くなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、現実は甘くはなかった。

 

再び大赦が私達の家を訪れた時、持ってきたのは兄貴の遺産だった。

 

これに理解するまで、受け入れるまで、私達は狂っていた。

 

 

現実は残酷だ。誰も幸せな結末を用意してはくれない。

 

消失は虚空だ。心の中にぽっかりと穴が空いた。

 

想いは無慈悲だ。私達の事など考えず、淡々と日々が過ぎ去っていく。

 

 

私は現実を見た。そして、現実によって潰された。殺意が湧く。巫山戯るなと殴り倒してやりたい。

 

だがもう遅かった。誰も、正常に戻ることは出来なかった。

 

 

 

私はそれからと言うもの、大赦が来る事は何か不幸が起こるのだと姉妹の中でそう認識付られた。

 

 

私は現実を受止め、折り合いをつけた。だけど、憎しみだけはどう足掻いても私を離してはくれないみたいだ。

 

 

 

 

 

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