お兄ちゃんは勇者である   作:黒姫凛

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今回は本編。中々時間無いな。ホント勘弁………。



感想等ありがとうございます。皆さんが考察してくださるお陰で、作者のインスピレーションが刺激されます。感謝感激雨あられ、です!!


花結いのきらめき その7

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寝苦しさから来る不快さから、思わず目を覚ました。

寝汗とは思えない汗の量、心拍数が上がり呼吸が荒くなっている。咄嗟に来る左腕の重々しい痛み。何かが折られるような不快な音が幻聴で聞こえ、ブルブルと体が痙攣する。

 

 

「……タイミング、合いすぎだろ………」

 

 

思わずそう呟いた。

夕方の件もあり、気を引き締めようとした最中。唐突な開始のゴングより強制的に始まってしまった出来レース。

しかし普通なら怒る事なんだろうが、怒りよりも脱力感が強い。もう始まってしまったのかと思うと、やるせない気持ちになる。

 

 

ブチブチと何拘ちぎれる音が聞こえる。幻聴だろうとなんだろうと、これが自分の体から聞こえるのは異常である。

左指が上手く動かせず、まるでバグったような狂気の動きを見せる。何かが左腕の中で暴れているような感覚だ。痛みはあるが、これだけ左腕が動いて変形しているにも関わらず、肉や皮膚が破られるような痛みを感じない。

 

だんだん熱を感じるようになった。体温より一回り跳ね上がったような高温。ジンと骨身に浸透する熱と痛みが更に気分を害しに来る。

 

 

一先ず、腕を冷やす為に冷水に付けることにした。桶に水をはり、左腕を突っ込む。冷たいと思うが、熱が引くことはないようだ。だんだん桶の水から湯気があがっている。水がお湯に変わっているのかと思うと、効果は無いと考え左腕を水から上げる。

 

 

更に痛みが増した気がした。ズキズキと来る痛みに合わせて動悸する左腕。重量を感じるようになり、左腕を支えられる力が入らなくなっていた。

 

 

「……本格的に、まずい……」

 

 

シャワーで体ごと冷やそうと考え、浴場に向かう。

 

 

 

歯車は順調に進み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「………頼むから、もう少し…………、もう少しだけ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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先代勇者達が召喚されてから早数日。ウキウキと声を弾ませながら招集をかけたひなたに首を傾げながら集まった勇者部一同。

部室に入るなり、キラキラと輝きながらニッコリ笑顔でパイプ椅子に座るひなたが目に入り、何事かと一瞬驚愕するのが今日のお決まりとなっていた。

 

 

「ふーふふーん♪皆さんの活躍の〜♪お陰で〜♪新しい勇者が呼べるようになりました〜♪」

 

 

テンションアゲアゲなひなた。新しい玩具を買って貰った子供のような満面な笑みを浮かべて声を弾ませる。

 

 

「やけにテンション高いわね。……って、そのテンションと新しい勇者って事は……」

 

「ふふふっ、気付いてしまいましたか!!そう、今回は西暦時代の勇者達が召喚されるんです!!」

 

「ひなたさんの仲間たち、なんですね。凄いドキドキしてきました…」

 

「ひなちゃんのお友達って何人来るの?」

 

「5人ですよ友奈さん。部室がより華やかに、そしてより可憐になりますよ。特に、その中には園子さん達の御先祖様もいます」

 

 

ピンと人差し指を上げ、したり顔でそう説明するひなた。思わず全員の口から声が漏れる。

特に樹と園子ズはドキドキさが他のよりも高く見える。樹は自身の性格から来る不安の大きさから。園子ズは御先祖様に会えることへの期待。

しかし全員に共通して言えることは、緊張している事だろう。

 

 

「未来の自分だけじゃなく、御先祖様にも会えちゃうなんて〜。今日は緊張して眠れないんよ〜」

 

「しかも5人。これは戦力も大幅に強化されたと考えていいわ。より円滑に敵を殲滅出来ます」

 

「兄貴、なんか情報とか無いの?」

 

「何故俺に聞く?……まぁ少しだけならあるぞ。本家の大蔵にあった資料に目を通した時に書いてあった」

 

「やっぱり、私達とはレベルが違うのでしょうか?」

 

「資料によると、風たちの端末に入っている精霊システムがないから俺たち同様バリア無しの戦いだったとか。勇者時の上昇能力も今より劣っていたと記載されてたな」

 

「なら確実に私達よりも強いわね。なんか燃えてきたわ」

 

「いやなんでそんなにも血の気が多い?落ち着きなって」

 

 

夏凛が何故か闘志を燃やし、急いで消火にかかる銀。夏凛の心に何か滾るものがあったのだろう。

 

 

「皆さんとってもいい方達ですよ。すぐに打ち解けられる筈です」

 

「遂に勇者部メンバーも2桁後半に差し掛かって来ました!一気に増えて良かったですね、風先輩」

 

「まったくねぇ……。そろそろあたしも引退するかねぇ。後は若い連中に任せてねぇ……。兄貴との縁側ライフを……」

 

「ブレませんね風先輩」

 

「冗談と安定のムーブを合わせた新しいボケなんよ〜」

 

「分かりにくいわね。もうちょいストレートに言ってくんない?」

 

「お姉ちゃんだけズルい。私もお兄ちゃんと縁側ライフしたい」

 

「俺まだ現役でいたいんだが?」

 

「……んーと、はいっ。取り敢えず、不肖三ノ輪銀並びに大人三ノ輪銀。両名とも頑張らせて頂きます。風さんは、取り敢えずお茶でも啜ってて下さい。あ、優希さんは置いて」

 

「皆ボケ通じないの?私の引退に反応してくれたの銀だけって………。けどそこはまだまだ若いから行けますよ風さんみたいな言葉をかけるでしょ」

 

「風さんの日頃の行動が裏目に出てますね。後注文が多い」

 

「風先輩のボケは同じというかなんというか……」

 

「変化球が欲しいところです」

 

「きぃいいー!!あったまきたっ。こうなれば明日は今溜まってる依頼全部終わるまで帰らせないわよ!!」

 

「パワハラ上司かよ」

 

 

ブチ切れ風さんのパワハラ臭が漂う発言に思わず兄からの制裁。一先ず部室からドナドナされていくのであった。

 

さぁと、話は戻って西暦勇者達の件。無駄話が過ぎたがそれがこの部員達の日常。きっと西暦勇者達も直ぐに毒されるだろう。

 

 

「ねぇひなタン。私達の御先祖様ってどんな人なの〜」

 

「やはり気になる所ですよね。まぁ一言で言うなら、西暦の風雲児ですね。初代勇者という事もあり、姿、立ち振る舞い等様々。まさにその肩書きに相応しい存在です」

 

「風雲児!!なんかかっこいい響き。流石初代様!」

 

「……風雲児って。流石に……」

 

「いえいえ銀さん。言い過ぎ等ではありませんよ。今友奈さんが言ったかっこいい姿を百倍、いえ千倍にして思い浮かべてください!」

 

「せ、千倍?なんか今日のひなたぶっ壊れてるわね……」

 

「凄い倍率ですぅ!」

 

「ふふふっ、それでもまだ……彼女……乃木若葉の素敵さ、かっこよさには到底及びません!」

 

「ん〜、御先祖様って普通じゃない気がしてきたんよ〜」

 

「園子ちゃん。安心しなさい。貴女も未来の貴女も普通じゃないから」

 

 

想像を絶するイメージに思わず普通というジャンルには収まらないと判断した園子(小)。しかし夏凛がすかさずつっこむ。

 

 

「西暦の風雲児……もとい、乃木若葉さんの他には、どんな方がいるのかしら、ひなたさん」

 

「シャイな方から賑やかな方まで幅広く。皆さん、とても素敵な方々ですよ。……うふふ、まぁ西暦という事もあって、実は外国人の勇者の方も……。アメリカから来た勇者とかいたりして」

 

「米兵!?須美ちゃん!これは一大事よ!」

 

「はい!竹槍を持ってきます!!皇国ノ興廃此ノ一戦ニ有リ……!!」

 

「はい落ち着いて深呼吸。東郷、ハチマキ置きなさい。須美ちゃん、どこから持ってきたか分からないけど竹槍置きなさい」

 

「ちょっと待って。ホントに何処から取り出した、須美」

 

「護国信者恐るべしね」

 

 

いっつあまじっく、とでも言うべきなのだろうか。それぞれが興奮に身を委ねながら、話はどんどん盛り上がっていく。

特に胸の高鳴りを抑えきれないのはひなたと園子ズの3人。今の勇者部の中でも関わりが深いであろうこの3人にとって、戦力が増える以上に対面出来るという喜びに満ち満ちている。

 

キャッキャウフフと喜び合う3人を見て、他の勇者達は微笑ましい笑みを浮かべるのだった。

 

 

ーーーーーーーーー。

 

 

と、刹那。鋭い空気が部室内を切り裂く。同時に鳴り響く警戒アラーム。

全員の表情が一瞬にして強ばった。

 

 

「っ、このアラームはっ」

 

「このタイミング!?」

 

「勇者達が召喚される時は敵が攻めてくる前兆って事?」

 

「先代組が召喚された時もそうだったから、その線はあるかも」

 

 

須美達4人が召喚された時も同時に敵が現れた。偶然にしては状況が合いすぎる。

しかし、今これについて追求出来る余裕は無い。一刻も早く樹海に向かわなければならない。

 

 

「皆さん。今神託が下りました。どうやら、若葉ちゃん達は樹海の中に召喚されたようです」

 

「大変だぁ。早く助けに行かなきゃ!」

 

「待ってなさい風雲児。この三好夏凜が実力を見せてやるわ!!」

 

「ひなた。初代様達のことは任せてくれ」

 

「必ず連れて帰ります!」

 

「はいっ、ありがとうございます。皆さん、お気をつけて」

 

 

勇者達は光とともに、樹海に移動するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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樹海に召喚された勇者達は、端末を取り出して敵の位置情報を探る。端末の画面には、敵の反応とこの場にいる勇者以外の勇者の反応が5つ存在していた。状況から察するに、既に交戦中の可能性が高い。勇者達の中でフツフツと焦りが込み上げてくる。

 

 

「みんな急ぐわよ!!既に戦ってるかもしれない!!」

 

「足の速い俺達が先行する!!銀ちゃん達と夏凜ちゃんっ、飛ばすぞ!!」

 

「「「はい(了解)!!」」」

 

 

グッと地面を踏み込み跳躍。その馬鹿げた脚力は一瞬にして優希を目と鼻の先まで空を作った。それに続き銀達と夏凜も優希ほどでは無いが一気に距離を離していく。

 

 

「……一体、何処にあんな力があるのかしら」

 

 

前回の戦闘とは違い今回は緊急事態である為、優希が先行して行くことには文句は無い。これで間に合わず召喚された勇者の誰かに怪我をされてはひなたに顔向けが出来ない。

優希も暗黙の了解を得て先行したのだろう。その証拠に銀達と夏凜を連れて行ったことを見れば分かる。優希1人なら余裕で行けるが、1人だとまた何か言われる可能性を感じ、少し遅れるが銀達を連れて行くことで1人で突っ走っている訳では無い事を証明している。

頼られた事に銀達は若干の喜びの色が見えるが、今の風には分かるはずもなく。遠ざかる銀達の背中を見つめながら、常々そう感じる。

 

 

「勇者服ってあんなにも身体能力を上げるのね。いつも見るけど、やっぱりなんか不公平よ」

 

「仕方ないよふーみん先輩。元々勇者服は適性が高ければ高い程勇者としての力が増す。ゆーに……、優希さんは身体能力が高くて、それプラス勇者服、適性の高さが追加してるからあんなにも凄くなるのは当然だよ」

 

「じゃあ銀達と夏凜はどうなのよ」

 

「あの3人に関しては順応してるって言った方が簡単に説明がつくんよ。勇者服の力を完全に使いこなしてる。優希さんに及ばなくても、私達よりは何倍も力の差が出るんよ」

 

「………私達が力を出し切れてないって事は」

 

「……心のどこかで、まだ信用しきれてないかもね」

 

 

その言葉の重みに気付きたくなくとも気付いてしまう。風達讃州中学勇者部が味わった恐怖の数ヶ月。まだあの時体験した恐怖は鮮明に体に染み込んでいる。最後まで戻る事が無かった友奈。痛ましく涙を流す美森。夢が潰えた樹。友のために身体を顧みず戦った夏凜。2年もの間ずっと独りだった園子。血反吐を流しそれでも戦い続けた銀。妹の、後輩の痛ましい姿を見て怒りに飲まれた風。

世界の為とはいえ、体を、友を、記憶を、夢を消す事になったこの力を、今の風達がもう一度信用など出来るはずもなく。心の隅で嫌悪感に似た否定したい気持ちが揺らいでいるのだろう。

 

 

「………改めて思うと、嫌よね。こんな役目……」

 

「……お姉ちゃん」

 

「…………」

 

 

何よりも最愛である兄を奪われた風と樹、焦がれた人を無くした美森と園子には払いきれない憎悪の念が帯を引いている。はいそうですかと切り替える事など出来るはずが無い。

 

 

「……先輩方の事情は理解したのですが、では私達はどうして銀のように力が出せないのでしょうか?」

 

「私もミノさんみたいにぴょーんって飛びたいんよ〜」

 

 

ふと疑問に思い、そう質問したのは後方に位置する須美と風の後ろに続いていた園子(小)であった。

 

 

「2人は多分、順応しきれてないからかもしれないんよ」

 

「?私達はまだ順応しきれていないのでしょうか?」

 

「勇者服は適性ある子が着れば勇者服の能力は引き出される。けど、着用者と勇者服の間には超えきれない壁みたいなのが存在するんよ。能力が体に反映されるのは、その壁のようなものの小さい隙間から体と勇者服がお互いにくっ付き合ってるから。私達の状況が今説明した感じだと思って欲しいんよ」

 

「へぇ〜、じゃあミノさん達はその壁みたいなものを壊してもっとお互いにくっついてるってことでいいの〜?」

 

「そういう事なんよ。ミノさん達はその壁みたいなものを壊して完全に体と勇者服の繋がりを作ってる。だから100%に近い力を勇者服から引き出して使えてるんよ」

 

「じゃあどうやって壊せば……」

 

「須美ちゃん。簡単な事なんよ」

 

 

 

 

 

 

 

ーーー全ては気持ち次第って事。

 

 

 

 

 

 

何処か、その言葉に重い何かを感じた。

 

 

 

 

 


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