お兄ちゃんは勇者である   作:黒姫凛

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携帯ぶち壊れました。
iPhone 11に切りかえます。


最近ゆゆゆの小説もう一個書いたので是非読んでみてください。


番外編
リンゴの中の葛藤


 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は戻り、勇者部が先代勇者4人と合流した日に遡る。

 

 

 

 

 

 

大赦から用意された寄宿舎に案内され、与えられた部屋に到着して早数時間。先程端末に連絡が入り、妹達が食材を持って来るときた。初日ということもあり、共に寄宿舎に入居した小学生達と巫女であるひなたも呼んで食事をしようと連絡を返し、優希は使えそうな物を部屋から探す。

寄宿舎に入る前に大まかだが、色々と買い揃えた為使うであろう調理器具は一式あるし、皿も買った。だが、元々設置されていたものはキッチンにはないと聞いた為、必要分と少し多めに買っておいたが、人が来ては皿が足りないので皆に自分の分の容器は持ってきてと頼んである。

 

机に並べ、あとは何をしようかと考えた優希は、買っておいた材料で何かを作ろうかとキッチンに向かい、備え付けの冷蔵庫に手をかけた。

 

 

「取り敢えず簡単にーーー」

 

 

 

 

 

「………どうやら、今日は順調だったようだね」

 

 

 

 

 

不意打ちの声にハッとする。突然の事に心拍数が上がるのを感じ、優希はすぐ様落ち着きを取り戻そうとする。

相手は優希が驚いた事には気付いているだろうが、優希はそれ以上悟られないよう慎重に口を開く。

 

 

「……一体、何の御用で?」

 

 

声は震えていない筈。冷静さを保てている筈。慌てず心を落ち着かせて心を入れ替える。

相手が今何を思っているかは分からないが、意地悪を成功させて嬉しがる子供のような気持ちを抱いているであろう口調で相手は言葉を続ける。

 

 

「そんなに警戒しないで欲しいな。私としては、これから末長く君と仲良くして行きたいんだけど」

 

 

「……それは俺も同じです。偉大なる過去の英雄と、そのような関係を築いて行けるのであれば嬉しい限りです」

 

 

「あははっ、英雄だなんて大袈裟だよ。私はそんな偉大な事を成し遂げたりはしてないよ?」

 

 

「そんな、ご謙遜を。蔵に残っていた資料を引っ張り出して貴方についての記述は読んで覚えてます。大赦にとっては最大の危機でしたので」

 

 

「……嬉しいな。私の頑張りは無駄じゃないんだって、素直に喜べちゃうよ」

 

 

声の質からして女性。何処と無く幼さを感じる声音から勇者部員達と年齢は大差ないだろう。姿は見えない。廊下に立ってドア近くで話しているだろう彼女は、俺の気配を察知して話し掛けている。

彼女は気を取り直してと、一言挟むと静かに、そして何処と無く冷たく言葉を続ける。

 

 

「じゃあ、感謝の気持ちも込めて君に良い情報を持ってきたよ。同時に悪い情報もね。どっちから聞きたい?」

 

 

「……既に俺からしたらその情報はどちらも悪い話です。この際良い情報から聞いて気持ちを楽にしておきたいので、前者でお願いします」

 

 

「良い情報からね。この話はまとめて言うつもりだけど幾つかあるからしっかり覚えてね、私説明苦手だから。まず重要な事なんだけど、もうすぐ西暦時代の勇者達が召喚される」

 

 

その言葉に、優希は表情に皺がよる。苦虫を噛み潰したように眉間に皺を寄せて深く考え込むように唸りをあげる。

今の優希は、西暦時代の勇者達が召喚されてくる事に嫌悪感を抱いているような感じがするが、優希にそう言った感情はない。深く言うつもりは無いが、優希からすればそうなった場合非常にまずい状況になってしまうとだけ言っておこう。

 

 

「……早くないですか?召喚当時の話だと、体感約2ヶ月後だと聞いていましたが……?」

 

 

「それは申し訳ないんだけどねぇ。現実世界でもなんだか四の五の言ってるような場合じゃなくなるというか、神様達が痺れを切らしているというか。なんか色々と度重なって早まる事になったみたいだよ」

 

 

「これはどうにも出来ない事だからね。私達じゃどうすることも出来ない。唯忠実に従うだけだよ」

 

 

明らかに落ち込む優希。その姿に言葉を掛ける彼女だが、その言葉には何か深い重みを感じる。冷たくて重い、物理的な感じ方ではなく精神的な感じ方だ。

何処と無く重くなった空気を優希は何とか誤魔化すよう、動いて1度入れ替える。

 

 

「それに伴って、私達も召喚され次第動く事になる。君には悪いけど、頑張って貰うしかないよ」

 

 

「……分かってます。心構えは常に」

 

 

「早めに折り目をつけておいてよ。後々引き摺るとか、ペアである私としてはやりずらいからね」

 

 

「ええ勿論」

 

 

何処と無く心在らずと言った感じだろうか。しかし、いつまでもグダグダと話を続けるつもりがない彼女はそのまま話を続けていく。

 

 

「じゃあ次に悪い情報からね。これも教えてもらった事なんだけど、この世界に召喚された時点で、君の勇者としての能力ランクが大幅に下がった。元々抜きん出てた君の身体能力が制限される事になる」

 

 

「……まあ薄々気付いていた事なんですが、これはバランスを保つ為の措置という認識で合ってますか?」

 

 

「半々って所かな。半分正解だけど、半分違う。もう半分の事は君の()()が知ってるんじゃない?」

 

 

「成程……、詰まり俺は()()()

 

 

「そういう事。まぁ元から君の使命は始まっていたんだから、こんな世界に呼ばれてもその役割は継続されるって事で理解してね」

 

 

「それについても重々承知しています。………本当に俺にとってキツイ情報だったので釈然としませんね」

 

 

「あはは、仕方ないよ。君は選ばれてるんだから。だから私の使命の為にも、しっかり働いて欲しいな。……なんなら、癒してあげてもいいよ?」

 

 

「流石にそこまでは。いくら現実とは違うとは言え、口に出す言葉は考えてから言うべきです」

 

 

「そう?結構考えているんだけどなぁ」

 

 

やりずらい、と心の中で毒付く優希。優希にとって彼女は英雄の存在だ。語り継がれぬ隠された真相を含み、彼女の歩んだ道は尊敬に値する。偶見つけた高嶋家の蔵で見つけた大赦の記録史。それに描かれていた顔も知らぬ約150年前の英雄の話。共に生き抜いた友を失い、1人業火を纏って暗躍し続けた勇者の話。

それを閲覧した優希は涙し感化された。第三者目線で描かれていたそれは、まるで本人と関わっていたからこそ描くことの出来る言葉の数々。信仰心が強い優希が憧れない訳が無い。

本人と対面して優希が思い浮かべていた想像像と違い、肩透かしを受けて気分がダダ下がってはいたが、優希にとってはそれでも憧れる存在だ。そんな存在だからこそ、上辺の言葉を吐いて欲しくないのは当たり前のことで。

 

優希自身も実感している。これはあくまで優希のメンタルを崩さない為の配慮だ。優希の運命が救いようの無いものである事は決定されている事である筈なのに、自分が死ぬという事に深く考えていない優希に、彼女は少しでも気分を和らげる為に狙って話しているのだと。

彼女は元々こういう感じなので優希に配慮などそこまでしていないのだが、優希はそう考えつけた。知らないと言うのは幸せな事だな。

 

 

「……それでこれからの動き、教えて貰っても?」

 

 

「勿論。それも伝える為に来たからね」

 

「取り敢えずまず、西暦時代の勇者が召喚されるってさっき言ったけど、西暦の勇者は3回に分けて召喚される。そして私は1度目の召喚後に登場する予定だよ。勿論、君がこちら側に来るのもその時だ」

 

 

「本当に早いタイミングですね。神様間で何が起きているのですか?」

 

 

「まあ詳しく言っちゃうと神樹様の寿命が底尽きそうで、早く()()()作らなくちゃって焦ってるらしいよ。どうする?このままだと、君の寿()()も縮むよ?」

 

 

「……あまり俺の心を揺さぶらないで頂きたい。これでも内心焦っている」

 

 

「ごめんごめん。でも、準備はしておくんだね。もしこの世界から開放されたとなったら、君の使命が直ぐに来るかもしれないからね」

 

 

「えぇ勿論。全ては、神樹様の為に」

 

 

決意を胸に、それに反して強く拳を握る優希。

時は流れるのは早いと言うが、本当に早過ぎる。この世界は現実とは違う。この世界にいる間、1日1日は訪れるものの身体の成長は起きず、死ぬ事も到底有り得ない。神樹様の命を削るからこそ出来る世界の統治。今の段階では誰も深く考えてはいないだろうが、この世界に長く居たいとは思っては居ても、いつかは帰らなくてはと思う時が来る。

だが優希は違う。優希は現実世界に戻った場合死ぬ。選ばれた、()()()()()()()()使命によって優希の命はこの世界に存在している時点でも刻一刻と朽ち果てる時を刻んでいる。

 

 

「……散々言ってきた私だけど、よくもまあそう思えるよね。私なら嫌だ嫌だって駄々こねるけどな」

 

 

「それを踏まえての俺と言う選択肢だったのではないのですか?神樹様の方針に対して反論が無く、それなりに力を有している人間は今の時代的に扱いやすい。断る所か喜んで身を捧げるものですよ」

 

 

「自分の事なのにそれ程理解している。なのに承諾したってのは矛盾して無い?」

 

 

「まぁこの左腕の事は突然過ぎて振り解けませんでしたからね。それに現実の俺はこれに関しては無知にも等しい。知らなかったこその主観と知っているからこその主観を持っている所以の考えですよ」

 

 

「それを言うなら君は一体どっちなんだい?」

 

 

「俺は半々ってところだと思います。誰かの為に何かをしたいって、なんだかかっこよくないですか?」

 

 

「……英雄に、憧れてるのかな?君のような人間が」

 

 

「男って生き物はどれだけ年齢を重ねてもカッコイイ自分を思い浮かべるそうですよ。父から聞きました」

 

 

「いつまでも理想を見続ける悲しい生き物……か。君は違うと思ってたけど、君も及ばない理想を抱き続ける人って訳か」

 

 

「……貴方は、何を理想に戦っていたのですか?」

 

 

数秒の無言。思考を巡らせているのか、それとも無言で通すのか。

何か緊張が走る雰囲気。今までの会話で何か焦りを覚える優希。今この質問も、優希が不安だからこそどうすればいいのか聞いている事。それを彼女が理解しているかは分からない。が、どう足掻いてもそれを理解してないとは言いきれないのは確実。誰かに弱音を見せる事を良しとしない優希にとって、最悪だと毒付く状況だ。

 

 

「……理想は立てたところでどうにもならないよ。1つの目標を掲げてたら、そこに到達するまでに何かを削っていかなきゃならない。何かってのは色々だよ。人、権力、財力、人格、友情様々」

 

「理想を立てたのなら、途中で折れることは許されない。折れて挫折して止まったら、今までの事が全て無駄になる。託された誰かの願い。血の滲む思いで捨てた何か。そこまでに費やした自分の人生。こんな事したくなかったと、なんでしてしまったんだと。理想に近付いて行くに連れ、止まった時の反動は大きくなる」

 

「君が理想とするその心。私は嫌いじゃないけど、それは絶対に何処かで止まる。ううん、今この瞬間にも止まっているかもしれないね。今までの話を考えたら、君は今不安なんだろね」

 

「確かに怖いよね、死ぬって分かってるんだから。でも君の心は二つに分かれている。死ぬか死にたくないか。単純だけど、君にとっては大きな選択肢だ。しかも、死ぬ未来しかない君は気持ちが片方に揺らいでいる。だからどうにかしてかっこよく朽ち果てることを望む。素敵な事だと私は思う。けど、あの子達はどう捉えるか。きっと、君の心はあの子達の気持ちが聞けるまで揺らぎ続けるよ」

 

「ただ、時間はもう無い。これは君自身が見つけ出すべきだよ思うよ。自分の事だ。自分がどうしたいのか、しっかり考えて導き出してね。それが、求める理想の終着点だ」

 

 

誰かの為に自分を使う。簡単な事だろうが簡単ではない。上辺なら優しい世界なのだろう。しかし、根本的な事を見つめるとそれは余りにも無謀過ぎる。

自分は満足出来るかもしれない。だが、それはほんの一時の感覚に過ぎない。いつか、自分の心を蝕まれる。

命の終わりが見えているからこそ、どう使えばいいのか考える事が出来るのは優希という存在の他とは違う決定的なメリットだ。例えそれしか無いとしても、自己犠牲は誰も喜ぶ事は無い。

 

 

「……成程、手厳しいですね。英雄様の言葉は深いな」

 

 

だからこそ、彼女が出来る優希に対してのアドバイス。1度経験したからこそ、後から後悔するのは野暮な事。自分の起こした事には責任が絶対についてくる。すぐには答えを出すな。自分の気持ちではっきりと見つけ出せ。

過去の者だからこその出来るお節介のような何かだ。

 

 

「君が不安になっているのは分かるけど、こっちに来たら気持ちをはっきりさせて欲しい。私達にも御役目がある。中途半端には出来ないよ」

 

 

「分かってます。だからこそ、自分の命の使い所をーー」

 

 

()()()()、そんなこと言うの」

 

 

 

 

 

ドンッと、空気が重くなった。

 

 

 

さっきの言葉よりも、もっと強い意志が籠った言葉が優希にかけられた。

いつの間にか優希の背後に立っており、威圧をかけるように赤い瞳で睨みつけている。殺気に近い何かが、優希の背後に迫っている。

しかし優希は怯む姿を見せず、今の状態に何がおかしいのが鼻で笑うと淡々と言葉を返した。

 

 

「……何か、気の触るような発言をしましたか?」

 

 

「今の言葉、本気で言ってるわけじゃないよね」

 

 

「……命の使い所、ですか?」

 

 

「分かってるじゃん。なのに、私によくもまあその言葉を聞かせたよね」

 

 

「別に間違った事など言っていません。この命は()()俺のです。せめて、自分の命のぐらい何かに使わせてください」

 

 

「そう……。さっきの話を理解してくれなかったのかな?私は()()答えを出すなと言ったんだよ。なのに、自分の命を使う事は前提なのかな?」

 

 

「それに関してもお伝えしてくださったのは貴方だ。この世界だろうと現実世界だろうと、命を捧げればその分伸びる事になる。勇者達の運命は残酷だ。だったら、その運命を和らげてあげたいと思う事もまた事実。俺も最後に悔いなく使えるし、勇者達も幸せな時間を過ごせる。お互い良い事しかないでは無いですか」

 

 

「君の事は好きだけど、その考えは本当に嫌いだ。なんでそう頼まれていないのにそうするの?理解に苦しむよ」

 

 

「それを無理矢理理解してもらおうとは思ってはいません。俺は俺の信念を貫きたい」

 

 

「……カッコイイ自分だの理想だの信念だの。君はあれだね、馬鹿なんだね。いいよ。そうやって幻想を語っていればいい。いつか、絶対に君の考えはあの子達によって覆される。その時まで、楽しみにしてるよ」

 

 

「俺の考えは揺らぎません。それが、誰かの望みになる筈ですから」

 

 

「……今日のところは帰るよ。取り敢えず、もう少しで君はこっちに来る事になる事を理解しておいて。後、誰にも悟られないように」

 

 

 

それから、背後から気配が消えるのを感じる。周りの空気の重さも無くなり、肩の重みが消えた感覚がある。

優希は一つ息を吐いた。緊張から解かれたからと言うより、あの女の相手をする事に疲れたから出た溜め息であった。

 

初めてこの世界に来た時、優希は大量の情報と記憶を頭の中に入れられた。自分が何者でなんなのか。自分の使命、そして自分と言う存在意味。当初動揺を隠せず苛立っていた。しかし、この世界では妹達がいるということで何とか落ち着きを取り戻し、優希が彼女側に着く前に妹達と過ごさせて欲しいと願い出て少しの間猶予を与えられている状況である。

 

優希はまた一つため息を吐いた。今度は疲れからでは無く、これからについて重い感情が優希に覆い被さっている事から出た息である。

優希にはもうどうすることも出来ない。出来るとするなら、これから起こるであろう絶望から目を逸らすことだけである。

辛いものだと聞かされた。それは、妹達を裏切る行為であるが故に、優希にとっては巫山戯るなと拒否したくて仕方が無かった。

 

だがもう止められない。優希自身もそれについては理解している。

優希がこの世界に呼ばれた時点でそれは始まるもの。

 

 

「……辛いなぁ。誰かを裏切るのって……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーごめんな。最低な兄貴で……」

 

 

 

 

花の苗は既に芽生えて始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




かっこよく死ぬか生きたいと願うか。貴方はどちらを選ぶ?

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