花結いのきらめき その1
「ーーーふぅ……、しゃーないな……」
大橋の手前、着々と進む
勇者は黒と白を合わせた服を着ているが、自身の流れる血液で赤黒く染まっている。
手には他の勇者から拝借した2本の
「………ゆう、き……さん」
後ろから勇者を呼ぶ声。振り返ると、勇者服に身を包んだ少女が手を伸ばしていた。その顔は苦痛に満ちており、今にも涙を溢れさせそうな瞳を向けている。
「……動かない方がいい、傷が開くよ」
「……お願い……、ゆ……きさん。いか……ない、で……」
「ごめん、行かなきゃ。アイツらはどうやっても、待ってはくれないみたいだからさ」
困ったような呆れたような、そんな曖昧な表情を浮かべつつ、安心させる為に笑みを浮かべる。その表情が更に少女の胸を締め付ける。
「……最後くらい、伝えたい事いっぱいいっとくかな。妹達には出来なかったから」
「……やめて、おね……がい、だから……」
「銀ちゃん、元気でね。君はいつも元気に2人を楽しませていた、そんな姿に俺も助けられた時があったんだ。ありがとう。これからも笑顔で友達を元気付けるんだ」
「……いやっ、いやだっ。聞きたくない………っ」
「2人にも伝えておいてくれ。須美ちゃん、また何処かで母国について語り合おう。それと、約束を守れなくてごめん。そのちゃん、また会ったらお兄ちゃんって慕ってくれると嬉しいな。友達と仲良くね」
「やめてよ……っ、まだっ、優希さんはまだ……っ」
「俺の妹達にもしあったら、助けてあげてほしい。可愛い妹達だから、どっかの馬の骨にちょっかい出されてるのは流石に嫌だからな」
「優希、さんっ、優希さんっ……」
「最後に、俺の両親に伝えてくれ。高嶋家長男として、先代勇者のように戦い抜いたと」
「……っ、………待ってっ」
「じゃあ行ってくるよ。必ず勝ってくるからーーー」
「ーーーまたね」
勇者はそう言葉を残し飛び上がる。倒れる少女達から離れる為、敵に向かうため。そんな事は今考える必要は無い。
倒す敵は前、護るものは後ろ。1歩どころか身体を後ろに逸らすこと自体出来るはずもない。
勇者は、ここで散り行く。けれど大切な物を守る為、命を掛けて成し遂げる。
死ぬつもり等さらさら無い。先の別れ際の言葉通りになるかもしれない。生き残って笑ってまた顔を合わせる事が出来るかもしれない。
そんな淡い気持ちを持ちつつ、勇者は一人立ち向かう。
「ーーーふぅ……、さぁ、さあさあっ、これが最後の大見せ場っ。我が自陣最強の勇者が今っ、貴様らに鉄槌を下す!!」
「ーーー我は高嶋家長男、高嶋優希!!」
「ーーー推して参るっ!!」
引き摺る想いを断ち切る様に、勇者は気持ちを切り替えた。息を吸い、激しかった鼓動を抑え、心を今一度静かに研ぎ澄ます。
それと同時に、勇者を包み込む大きな蕾が花開く。
「ーーー火色舞うよ」
一人の勇者の戦いが、幕を切った。
「ーーーーっしーっ!!わっしーっ!!」
身体を揺さぶられ、須美は目を開ける。目の前に居たのはボロボロになった園子と銀。慌てて起き上がろうとするも身体が上手く動かない。
園子に手伝ってもらい、上体を起こす。
「……バーテックスは、どうなったの?」
「……分からない。優希さんが一人で向かって行ったのを最後にあたし、気絶しちゃってた。気付いた時にはもう……」
「そんな……、優希さんは無事なの!?」
「探したけど見つかんないんだ。それに、まだバーテックスがいるかもしれないから離れて行動なんて出来ない」
「じゃあ早く探さないと……っ」
無理矢理にも起き上がろうとするが全身がズキズキと悲鳴を上げている。3人の中で大きな怪我をしているのは須美だ。2人よりもあまり長くは動けない。
「わっしー、ゆーにいなら大丈夫だよ。だって最強の勇者なんだから」
「……そのっち。そうよね、優希さんは歴代最高の勇者。きっと大丈夫よね」
「取り敢えずあたしが須美を背負うから、探しに行くぞ」
銀の言葉に、2人は強く頷く。
3人は心の中でもう一人の勇者の無事を確信していた。男の勇者であり、歴代最高の勇者とも呼ばれる存在。学業、運動神経共に良く、並外れた身体能力を身に付けている彼。そんな彼がやられるはずない、と絶対的な確信を持っていた。
3人は思う。話すならまず何を話そうかと。
抱き締めてもらう。笑い合う。手を繋ぎ合う。お互いにお疲れ様と労い合う。様々な思考を頭の中で巡らせ、彼を探す。
「ーーーあ、彼処におっきなクレーターがあるよ!!」
先行していた園子が戦闘の傷跡を見つける。そこに彼はいると、3人は本能的に察した。故に更に嬉しさが込み上げ、3人の心が晴れていく。自然と笑みが零れた。
更に近付いていくと横たわる人影が見えた。3人は思わず涙を零す。それは嬉し涙。やっぱり生きていてくれたんだという感情の表れ。完全に3人の心は晴れあがった。
だが気付かない。彼の変わり果てた姿に。
胸と腹に風穴のような大きな穴が2つ。首元は皮一枚で繋がっていると言ってもいい程の悲惨な状態。穴が開き捻れた右腕。無くなった左腕。ぐしゃぐしゃになった両足。何度も吐血を繰り返した事を物語る真っ赤に染った口。光の宿っていない虚ろな瞳。
彼の横たわる場所から半径数メートル、真っ赤な色に染まり、それは少しずつ広がっている。
誰がこれを
少女達の涙が
「ーーー勇者部の皆さん朗報です。皆さんの頑張りで神樹様の力が少しですが回復しました。そこで、いよいよ新しい勇者の方をお迎えしたいと思います」
今この場に至るまでの経緯は敢えて割愛する。敢えて言うなら、彼女達は地獄を乗り切り、記憶を無くしても尚、大切な人達の為に戦ったのだった。そして、彼女達の戦いはまた始まっていくのだった。
パチンっと両手を合わせた西暦の巫女、上里ひなたはにっこりと品のある笑みを浮かべてそう言った。
「おぉっ、ついに別の時代の勇者がくるんだねひなちゃん。うわぁ、楽しみだなぁ」
素直に喜ぶのは結城友奈。目を輝かせ興味津々。
「……どんだけ興奮してんのよ、まぁ新しい戦力が来るのは素直に歓迎ね」
「そうだねお姉ちゃん。でも、仲良く出来るかどうか……」
「何よ樹、新勇者部部長としてしっかりしなさい。サプリ、キメとく?」
「もう夏凜ちゃん、そんな危ないもの樹ちゃんに飲ませちゃダメっていつも言ってるでしょ?」
「そ、そんなに言われてないわよ!!ちゃんと緊張を解すサプリがあるから!!」
「……いや、そんなサプリは無いでしょ」
「にぼっしーは本当にサプリ中だね」
「中毒ちゃうわ!!」
花が咲いたように会話が始まる。犬吠埼風、犬吠埼樹、東郷美森、三好夏凜、乃木園子、
勇者となり数々の戦いを経験し、バーテックス、天の神を倒した少女達。苦難に立ち向かい、時には涙を流し、激怒し、絶望した。しかしそれを打ち破り、世界を救う事となった。
そんな彼女達だが、取り戻した日常を謳歌していた時、突然白い光に包まれ別の世界に飛ばされることになった。気付くとそこは樹海の中で、園子と銀の姿が見当たらない。そして消えたはずの勇者アプリがスマホにインストールされていた。再び戦うことになった勇者達だが、突然聞こえた声に従い勇者となって敵に立ち向かう。
戦闘が終わると今度は部室に飛ばされ、西暦の時代から来た巫女、上里ひなたからこの世界について語られる。それを聞いた勇者部は、再び戦うことを決意した。
そして戦いの末、神樹様の力が少し戻り、新しい勇者を召喚出来るようになったと伝えられる。
「でも新しい勇者って、私達とは違う時代の人達なんだよね?この世界に連れてこられて混乱しちゃったりするのかな?」
「いや友奈、自分が一番混乱してたじゃない」
「あれー?そうだったっけ?」
呆れたと言わんばかりに夏凜は友奈を指摘する。確かに、この中で一番理解力が乏しいのは他でもない友奈である。それともう1人。
「銀、貴方も心配なんだからね?」
「おいおい須美さんや。あたしは友奈よりも理解してたんだゾ?」
「頭から煙出してショートしそうだったよミノさん」
「なんでバラすんだよ園子!?」
考えるのが苦手である、三ノ輪銀である。美森が貴方もよと銀を問い詰め、銀は反論。しかし、園子が暴露し銀は崖っぷちに立たされた。
「ハイハイ5人とも、静かになさい。ひなたが戸惑ってるでしょ」
「いえいえ、私のいた時代の勇者達も皆さんのような感じだったので、とても懐かしく感じました」
「やっぱり勇者って、似た者同士が選ばれるんですね」
「ふっ、けど私の女子力は歴代最高の数値よ。誰にも負けはしないわ!!」
「流石にそれは言い過ぎだよ……」
5人を静めた筈が注意した本人が騒ぎ出す。樹は行き過ぎた姉の姿に手を焼かされる。
「ではそろそろ、お呼びしたいと思います。きっと、不思議な体験をすると思いますよ」
そう言うひなたは、美森、銀、園子の方を見てそう言った。3人はそれぞれ首を傾げる。
(不思議な体験……、別の時代の勇者……っ、まさかっ)
不思議な光と共に、人影が現れる。段々と見えてくると、小学生ぐらいの背丈の美森、銀、園子にそっくりな少女達がそこに立っていた。
「あれ?ここは……どこかな〜?」
「目の前が真っ白になったと思ったら、次は知らない人達……。?何だか、そのっちと似てる方がいるわ。そちらも銀とそっくり……」
「そう言う須美のそっくりさんもいるじゃん。まるで姉妹だな」
「んー、私にお姉ちゃんはいないと思うんだけど〜。確かに私そっくり」
「私にもいないわ。養子先でもそんな話は聞いた事ないけど……」
「因みにあたしにもいないゾ。あたしが長女だ」
「見た目そっくり……。もしかして、私達の小学生の頃の姿?」
まさかの登場人物に勇者部面々と呼び出された3人は一同驚愕。その中でいち早く気付いたのは美森であった。
「小学生の頃の東郷さんなのかな?……ゆ、ゆあねーむいず東郷さん……?」
「?えっと……はじめまして。確かに私は昔“東郷”を名乗っていましたが、今は“鷲尾”です。後、私はあまり英語が好きではありません」
「あ、ハイ。ごめんなさい」
「……やっぱり。じゃあ他の2人は……」
「ゆあねーむいずのぎさん?」
「いえーす。あいむのぎそのこ!!」
「じゃあこっちのちっちゃい子は」
「あたしっすか?あたしは三ノ輪銀です」
「……まさかの自分の昔の姿を見る羽目になるとは」
先代勇者組はそれぞれ正体を確認し、全員が同一人物である事を理解した。友奈はいつもと違う冷たい返しを美森にされ少し気を落とし、銀はまさかの事態に頭を抱えた。
しかし、中学生側の3人は足りないと内心首を降った。もし別の時代だと言うのなら、必ず“彼”が来るはずだと。
「……おや?可笑しいですね。あと1人呼んだ筈なんですが。何処かに引っかかってるのかもしれませんね」
「何処に引っかかる要素があるのよ……」
「本当にどうしたんでしょう?こんな事ーーー」
ーーー瞬間、警報を伝える音が鳴り響いた。
「っ、敵さんのお出ましのようね。ごめんひなた、あと1人は待ってられそうにないわ」
「ええ。一先ずは敵を撃退してください」
「3人とも、いきなりで申し訳ないんだけど、一緒に戦って。後で詳しい説明をするから」
「共に国防に励みましょう」
「国防……っ、はい」
国防の言葉に気が引き締まった小学生美森。やっぱり美森は変わらないのだと友奈はその姿で少し気分が上がる。
小学生園子と銀も、それぞれ説得して戦闘に参加する旨を伝えた。
そして樹海化が始まり、アプリをタッチして勇者に変身する。
状況を上手く飲み込めていない小学生組も、しっかり勇者服に変身出来ていた。
「ーーーさぁ行くわよ……ってもう誰か戦闘を始めてる?」
「あ、ほんとだ。東郷さんの射撃じゃないよね?」
「……え、ええ。私じゃないわ。それに、これは……」
「……もしかしたらって思ったけど、ほんとに呼ばれるなんてね」
「……今更、どんな顔して合えばいいってのさ、全く」
「?ちょっと、何しんみりしてるのよ先代3人。小学生組が不安に満ちた顔で見てるわよ」
中学生側の3人の表情が暗くなった。それを見た夏凜は指摘し、樹は大丈夫だよと小学生組に声をかける。
遠くから聞こえる戦闘音。どうやら苦戦しているようだ。
「とにかく、早く手助けに行かないとーーー」
「ーーーくたばれこのやろぉおおおおお!!!!」
巨大な拳が上から振り下ろされるのが目に映った。餌食となったバーテックスはぺしゃんこにつぶれ、巨大なクレーターを作った。
苦戦していると思ったのは誰だろうかと問いただしたくなるが、今はどうでもいい。
勇者部の前に、戦っていた人物は降りてくる。
黒と白を基準とした勇者服。短髪で薄い金髪。身長は170後半ぐらいで夏凜のようにしなやかな筋肉がついている
「ーーーっ」
「ーーーっ、マジかよ……」
「ーーーっ、ゆーにい……」
中学生側の3人は息を飲んだ。運命だとしても、これはあまりにも唐突過ぎる。あの地獄の大きな代償。二度と出会うことは無いと思っていた“彼”の姿。あの時から変わっていない姿に、3人は涙を零す。
「あっ、ゆーにい〜」
「優希さんっ」
「さっすがー、優希さん」
小学生組が飛び出し、園子が勇者にダイブする。それを優しく受け止めた勇者は片腕で持ち上げて抱き上げた。小学生美森は空いた手を握り、小学生銀はにっこりと笑みを浮かべる。
「なんだ3人とも、どこに行ってたんだ?探し回ったんだけど……?」
勇者は目の前に唖然と立ち尽くしている勇者部員に目を向けた。首を傾げ、今日一番の爆弾を投下した。
「………風、樹。なんでこんなとこにいんの?」
「「いや兄貴(お兄ちゃん)こそ!!」」
「「「「「「「「えっ、どういうこと!?」」」」」」」」
これが絶望に変わるのか、希望に変わるのかは、神樹様のみぞ知る。
捏造注意⚠捏造注意⚠
いや何が捏造で何がねじゃないのか自分でも分からなくなってきた!!