輪廻と遡行【魔法少女ふるで☆りか】   作:夢遊の残骸

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回廊 【視点-美樹さやか】

成す術もなく過ぎ往く時間はやがて、己の無力さを際立たせるばかりで。

 

かつて女神の片棒を担いだ"人魚の魔女"は、今やただ一人の著しく一般的な魔法少女に過ぎない。

 

…魔法少女を一般的、と形容するのもまた、滑稽なんだけど。

 

そう僻んでも仕方ないよ、私。

 

等と自分に言い聞かせるけど、あの"女神を引き裂いた悪魔"に抗う手段は未だに見つかっていなくて。

 

一向に進まない戦局は次第に、私を沼のようなまやかしの平穏に浸からせるばかりだった。

 

…けれど。

 

「どうしたのですか、さやか。浮かない顔をしていますのですよ?にぱー☆」

 

深い青みがかった長い髪、私達の中では誰よりも幼く、その緑色のワンピースに赤いランドセルが際立つ。

屈託のない可愛らしい、あどけない笑みを宿す少女。

彼女は古手梨花、という。

ベベ…いや、百江なぎさの親戚らしく、彼女と一緒に暮らしている。

話し方も二人はどこか似ていて…というよりほぼ、瓜二つといっても良い。

だけど、時折見せる…やけに大人びた妖艶さすら漂わせる口調が、裏腹と黒さを感じさせる。

 

「あぁ…梨花。だいじょーぶなのだ!さやかちゃんは少し考え事でぼーっとしちゃいましたー…はいはいにぱー!にぱー!」

 

余りにも煌びやかなその笑顔が、お前も笑えと言わんばかりだったので。

私はあからさまに取り繕った笑顔で、彼女に応じた。

 

「引き攣ってんぞー、さやか。ッたく、ガキの相手もろくにできねーのー?」

 

杏子が私の頬を指先でぐりっと、軽く捏ねてから。

吊り目がちなその眼差しを私に向けて茶化す。

 

「なんだよー!じゃあアンタがやってみたら!」

 

と、特に不愉快に感じたわけでもないけど。

負けじと言い返せるのは、二人の間にある絶対的な信頼のお陰であり、ささいな喧嘩を装った単なる茶番劇。

 

「にぱー!梨花はさやかを慰めてやろーとしたのに、ツレねーよな!よしよし、お菓子買ってやろーかい?」

 

…経験があるからだろうか、はたまた…妹が居たからだろうか。

やけに子供相手が上手なものだから、私の対応を指摘してきた事に…妙に説得力を帯びた。

 

「お菓子ですか?嬉しいのです!キムチにするのです。」

 

キムチ。

 

変わった子だ。

 

…古手梨花。

 

私が知る世界線において…彼女は見た事も聞いた事もなかった。

 

魔法少女でもないのに私達の中にいつの間にか入り込み、仲良く和気藹々と日常を共にしている。

…それどころか、私達が魔法少女であることも認識しているし、

杏子やマミさんも"認識されている事を認識している"。

 

改編後、幾日を過ごしたけど…彼女が一体何者なのか。はたまた…ただの何でもない少女がたまたま、私達のコミュニティに紛れ込んでいるのか。

それすらイマイチ掴めていない。

正義の味方、美樹さやかこと私は…梨花に底知れない、得体の知れなさを感じていた。

 

「痛ッ…。ごめ…。…………。」

 

唐突に肩に走った、少々の衝撃。

誰かの肩にぶつかってしまったのだと、歩めていた脚を止めて…咄嗟に謝ろうとしたけど。

あぁ、その必要は感じない。

 

真横を通り過ぎるその横顔は目尻に影を宿し…艶やかとでも思っているのだろうか、気味の悪い口角は嘲笑を浮かべ。

耳には重たそうにぶら下がるひし形紫のアクセサリー。

ローズマリーな香りをふわりと漂わせて靡く、黒髪のストレートなロングヘア。

 

「あら…ごめんなさい、美樹さやか。」

 

私を執拗なまでに…小馬鹿にしきった、その声色。

 

…悪魔。魔なる者。叛逆者。

 

…暁美ほむら。

 

「…ッ。」

 

かつてまどかの為に何度も世界を遡行し、その果てにまどかが望んだ救済の選択肢を…引き裂き、破り捨て、閉じ込めた悪魔。

 

女神すら蹂躙してしまった、叛逆者。

 

私は彼女に打ち勝たなくてはいけない。

彼女は…敵だ。

 

けれど…彼女が蹂躙するこの世界の中で唯一、私だけが暁美ほむらの事を悪魔なのだと…知っているのに。

…何も。少しも…覆す事ができていない。

そしてその事実を、ほむらは嘲笑っている。

執拗に。しつこく。異常なまでの執念で。

口に出さなくても分かる。彼女はやたらと不必要な一言や、卑下の眼差し、侮蔑の表情を無力な私に手向けてくるんだから。

…絶対に許さない。

 

けれど、私は…弱くて、情けない。

 

…黒い感情がまた。

 

これ以上ほむらを呪っても、私には何の得もない。

寧ろあいつの思う壺だ。

 

「…ほむらとは仲が悪いのですか?さやか…。」

 

梨花の目つきは目尻を下げてうるうると。

ずるいってーの…。そんな顔を子供にされちゃあ、さやかちゃんも流石に誤魔化すしかないよね。

 

「ううん、気にしないで!オトナの事情ってやつ。」

 

「ほむらちゃんは悪い人ではない…と思うんだけどなぁ…」

 

「…変わった子だけどね。彼女。」

 

「んま、ほっとけば?なーんか、気味悪ぃし。あたしらが関わんなくても、アイツは十分強いしさー。」

 

「なぎさは嫌いじゃないのです!」

 

まどか、マミさん、杏子、なぎさ…皆が咄嗟にフォローするように各々言葉を紡いだ。

気を遣わせただろうか、申し訳ない。

 

皆には"仲が悪いだけ"と通しているけど、これじゃあ時間の問題かな。

 

"せめてあの子の前では仲良くしましょうね…"

 

所詮、悪魔。

自分が言った事も実行できないワケ?

 

…やっぱり気分が優れない。

先程から、梨花の事がやけに気になったり…ほむらにムカついてばかりだ。

 

「ごめん、さやかちゃん今日調子悪いかも!お茶会は一旦パスさせてもらおっかなー!」

 

「はぁー!?なんだよさやか!!」

 

「怒らないの、佐倉さん。…気分が乗ったら後からでも来ていいからね?」

 

「大丈夫?さやかちゃん…元気出して欲しいなって…」

 

マミさんの家で毎日のように紅茶をいただいているけど、今日はやめておこう。

…少し、自分を改めたい。

何を考えるべきか、どう戦うべきか…。

何を知るべきか。

 

一頻り皆に弁解と…後で行くかも、という保険をかけて。

私は帰路を辿る事にした。

 

 

…前方に見えるのは、憎たらしい黒髪。

 

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