輪廻と遡行【魔法少女ふるで☆りか】   作:夢遊の残骸

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祭場 【視点-古手梨花】

私達をここまで運んできたバスが車庫へと駐車する為に、バックの音声を鳴らしている。

 

バスの暖房に慣れてしまった身体は外に出た途端、寒村地域の冷たい風に鳥肌を立てた。

 

「さっむいなぁ…」

 

「仕方ないわ。何なら此処で待ってる?」

 

「…何も無さすぎて地獄だよ。地の果てまでお守りしましょう、お姫様。」

 

辺りはこの小さな停留所以外、何もない。

雑木林、剥がれた狭いコンクリート道。

停留所も人が居ないのだろうか、恐らくバスの運転手さん一人しか今のところ居なさそうだ。

 

古手神社の位置情報はどうにか確認できたものの、徒歩での経路は途中、不明だ。

というのも、マップ上において鹿骨北は廃村。一部の道しか認識されていないようで。途切れている箇所が何箇所もある。

 

「…行きましょう。」

 

「ん。」

 

先程までは度々言葉を挟み、談話に耽りつつ窓から景色を眺めていたというのに。

私もさやかも、バスを降りた途端から口数が減った。

…私は、どこか息の詰まるような緊張感のせいで。

さやかは、単純に寒いのか。はたまた私の様子に合わせているのか。

それとも、歩くのが面倒で億劫になっているのか。

 

収穫がなくたって、良いとすら思える。

古手と名のつく神社を訪れるだけでも幾分、自分の中で何かが変わるような気がする。

そんな希望と…不安は相変わらずで。

 

勿論、だらだらと歩く訳にもいかない。

街灯等もある訳が無いし、この季節は陽の沈みが早い。

帰れなくなったら…廃村で野宿だ。

隣の騎士様は魔法少女とは言え、頼りない。

 

せかせかと歩み始めた私に…さやかが問いかけた。

 

「…どんな結果が待っていても、後悔しない?」

 

「…分からないわ。けれど、後悔する結果になっても…私は構わない。」

 

「今よりもっと、苦しくなるとしても?」

 

「えぇ。」

 

さやかの目元が見えない。

その前髪が俯き気味の目元を覆い隠す。

 

「…どうしたの、改まって。私はもう後戻りはできない。する気も無いわ。」

 

「…いやさ。」

 

さやかは笑みを取り戻しつつ、応えた。

その笑みはどこか。

…哀しそうに。

 

「そうやって真実を求めた結果、絶望に身を委ねたヤツが居たなぁ…って。思い出してさ。」

 

「…その結果、あたしは救えなかったどころか…裏切られて。でも、アイツはきっと裏切るだとか…そんな風に考えてすら無かったんだろうなぁ。」

 

「やっぱ馬鹿だわ。あたし。…そんな事を思い出してるとさ…もしかしたら梨花も」

 

「心配ないわ。」

 

さやかの手を、握り締めた。

強く。強く。

 

「寒いわね。カイロ代わりに使わせて頂戴。」

 

彼女は繊細だ。

 

奔放を気取っているけれど。

 

「…ありがと。」

 

…カイロにされてそんなに嬉しいの?

 

握り締めたさやかの手が僅かに。

ぎゅ、と強められて…握り返してきた。

 

やはり頼りない騎士様だ。

貴女と其の裏切り者…まぁ、粗方誰だか予想はつくけれど。

其の間に何があったか、未だ教えられていないのだから。

其処には口を挟まないけれど、明言できるわ。

絶対に裏切ったりしない。

する訳がない。

一応これでも、信じているんだから。

貴女も私を信じてくれないかしら。

 

…だなんて言えなくて、手を握り続けるに留めておいた。

 

道のりは段々と木々や雑草が目立ち始める。

 

かつては白い塗装のガードレールだったのだろうか、錆びに錆びた柵状の物が道路の傍に目立つ。

鳥の鳴き声、木々を揺らす風。

ひび割れたコンクリートが小さな瓦礫のよう。

倒れた電柱や何も描かれていない朽ちた看板。

 

「痕跡は未だ残っているわね。」

 

「ね。…不気味。」

 

そこそこに角度のついた坂道は私達の脚に負担を与える。

 

暫く歩けばその通路らしきものの塗装がなくなり、土が靴を汚す。

左右から伸びた草がはみ出して、行く手を阻みたがっているようで。

 

さやかの言う通りに不気味な…かつて人里ではあったものの、今は忘れ去られたかのように朽ちたその光景は、不穏な空気にすら思えた。

 

…遠くに川のせせらぎだろうか。

水の流れるような音色が微かに聞こえる。

 

歩みを進めるにつれて。

 

その音が…近くなる。

 

あれは。

 

「梨花!水車だよ!回ってるわー…」

 

「………えぇ。」

 

何十年もの刻を経ても尚、川の流れに身を任せて回り続けていたのだろうか。

緩やかに回転し続けている水車が水飛沫を小さく立てて、波紋を起こす。

 

…眺めれば眺める程。

 

胸の奥がざわつくのは、何故だろう。

 

「…悲しい場所だね。」

 

「そうね。村人が全員、亡くなった場所だもの。」

 

「そりゃそっか。」

 

二人で見つめる水車は。

繰り返し、繰り返し、何度も何度も…廻っている。

廻っている。

 

少々歩みを止めて眺めていたけれど。

 

「…これじゃ観光だよ。まだ遠いんでしょ?行こ。」

 

「あぁ…ごめんなさい。」

 

いつの間にか離されていたさやかの手が、私の肩をぽん、と叩いた。

夢心地のような。呆然とした意識からふと立ち直り、私は彼女の隣へ再度歩む。

 

拓けた道の左右には点々と、古びた家屋の残骸が見受けられる。

骨組みこそ残っているものの、蔓や草に蝕まれていた。

 

程なくして…その家屋の残骸も段々と減ってきた頃。

 

遠方にて白がかった山が目立つ。

広めの更地と、その傍にある大きめのプレハブじみた造形。

 

ざわめきが増す。

 

「なんか広いスペースだね。何だったんだろう、コレ。」

 

「…少し見ても構わないかしら。」

 

「…お。うん。」

 

この土だらけのスペースと、家屋に比べると一回り大きい建造物は

景色の中で一際目立っていたけれど。

何より、私は…。

 

私はつい最近まで。

 

ここに居たような、気がして。

 

何故だろう。

 

此処は賑やかな場所だったような。

 

気がする。

 

漠然と。

 

歩み寄る足元には雑草が茂る。

 

その建造物は間近で見れば見る程に、懐かしい。

 

…その玄関と思わしき場所に近付く。

 

「気をつけて。」

 

さやかが注意を促しながら、気味悪がって腰を引き。

怪訝そうにその建造物の入り口に近付く。

 

「なんか書いてるね。」

 

かつては戸があったのだろうか、大きく口を開いた入り口の傍に…表札じみた長方形の板。

 

二人で其処に書いてあった文字列を、読み上げる。

 

 

 

 

 

「雛見沢分校」

 

 

 

 

 

「へぇー、分校だって。」

 

「梨花?」

 

 

 

 

 

内装を眺める。

 

階段は崩れ

 

所々に草が生え

 

下足入れだろうか、いくつかが穴開きになったまま…錆びついて赤茶色を帯びている。

 

ガラス片や土、石に混ざって下足入れのドアにあたる部分が、数枚落ちている。

 

シューズだろうか。

 

茶色に染まった数足が乱雑に、散らばっている。

 

数十年の時を経て朽ちたせいでもあるだろう。

 

それに加えて野鳥が遊んだ形跡として、羽根がところどころに見受けられる。

 

殆どは埃を被っていて…その色合いは全体的に茶色と灰色。

 

「さやか。」

 

「ん。」

 

「…危ないから、其処に居て。」

 

「っえ?ちょ、ちょっと梨花…危ないって。」

 

抑えられない。

唯成らぬざわめき。

頭の中でぐるぐると、この光景の本来の姿をイメージしている。

確か、もっと。

階段は手すりが、あって。

えっと。

 

中に入るのは危ないと、分かっていても。

 

探究心とも呼び難い、得体の知れない衝動が滾る。

 

「慎重にね。」

 

さやかが心配しながらも側についてきてくれている。

天井が崩れでもしたらひとたまりもない。

それでも。

 

ガラス片を靴で踏み付けると、ぱりん、かちゃっ…と不愉快な音。

 

…ただ単に中を調べたいだけじゃない。

 

あの下足入れが。

 

異常なまでに気になる。

 

大股に一歩ずつ、バランスを崩さないように…何かの瓦礫や破片を踏み付けながら。

 

一直線に下足入れに向かう。

 

 

此処だ。

 

ある一つの箇所が、どうしても気になるんだ。

 

その箇所はノブが外れて閉まったまま。

 

開けようとしても摘む所がない。

 

「さやか。顔を背けて頂戴。叩くわ。」

 

「叩く?此れを?」

 

「えぇ、多分…反動で開くわ。」

 

「…開けたいんだね、わかった。」

 

そう告げて、顔を背けたさやかは自らの両手で臨時マスクを象る。

 

私も…目を細めながら、顔を背け。

左腕を鼻と口に押し当てつつ、右手を強く握り。

 

ガンッ!と。

 

右手の側面を下足入れの扉に叩きつけた。

 

「ッ、けほっ!けほっ!」

 

「ッ、ちょ、やば、けほっ!」

 

案の定、勢い良く…尋常ではない量の埃が舞い散る。

 

暫く二人で咳込み、片手を振って埃を退けながら…お互いに腰を軽く折って苦しんでいた。

 

それでも確認できた音。ギィ、と音を軋ませて開いた下足入れの扉。

 

埃と錆びの香りが鼻をついて不愉快。

 

「けほっ…………。」

 

小さく咳込みながら…恐る恐る中を覗き見る。

ネズミでも出てきたらびっくりしてしまうから。

 

…その中には、埃を被った上履きがあった。

 

動悸が私を襲う。

 

咳き込んだせいではない。

 

"見覚えがある"

 

小さめの上履き。

 

当然、汚れに汚れて燻んでいるけれど…そんな事もどうでも良くなる程に。

私はその上履きに興味を強く惹かれている。

躊躇はなく。ゆっくりとその上履きのかかと部分に指を忍ばせ、左と右の両方を指先で摘み。

 

そして、下足入れから取り出す。

 

先端は…赤だ。

 

埃を払ってしかと確認する。

 

間違いなく赤色だ。

 

そして。カビついて茶色に染まり汚れたかかと部分を…指先で幾度か擦る。

汚れてしまったって構わない。

 

擦る、擦る。幾十年の汚れは伊達じゃなく、頑固にこびりついている。

 

剥がれていく汚れの中から、現れた文字は。

 

 

 

 

 

 

 

左足に

 

"ふるで"

 

右足に

 

"りか"

 

 

確かに、そう書いてある。

 

 

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