輪廻と遡行【魔法少女ふるで☆りか】   作:夢遊の残骸

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泥濘 【視点-美樹さやか】

 

その瘴気の濃さは、見滝原よりも濃ゆくさえ感じた。

 

今の私にとって、勝てない数では無いとは思うけど。今回の戦いは梨花を守りつつと成るだろう。

 

上手く立ち回れるだろうか、彼女に怪我の一つもさせたくはない。

 

梨花は着実に自らの記憶に関するヒントを手にし始めているんだ、此処で怪我でもさせてしまえば元も子もない。

…粗方、彼女の記憶が失われたキッカケについては予想はついている。

勿論、其のキッカケが分かろうと分からずとも、私も彼女もやる事は同じだ。

結局は記憶の中身が本題なのだから。

 

…かつて、此処に居た。

 

そう、梨花は話していた。

 

にわかには信じ難いけど、私は似たような存在を知っている。

 

時を何度も遡り、一人の為に膨大な時間と労力を費やした愚かな魔法少女を。

 

そして、悪魔を。

 

梨花がそもそもどういう存在なのか、何処で何を経て見滝原に存在しているのか、それを知らないから何とも言い難いけど、悪魔の叛逆なる改編を機に梨花の記憶喪失や時間軸のズレが発生したと考えれば腑に落ちる。

 

問題は何故、梨花なのか。

 

それと…その記憶の果てに、梨花は手を貸してくれるのか。

 

…今はただ、彼女の記憶を追いかけるしか無さそうだ。

 

その為にはこの正義の騎士様がお守りしなくては! っと。

 

暫く木々と草むらを歩めばそこには、朽ちながらも荘厳と聳える神社、間近に見る鳥居は思ったより大きい。

 

微かに茂みの中に確認できる石畳は、そこに足を乗せればガタガタと揺れて不安定に緩んだ土の中で傾く。

 

そして其の神社を取り囲むように湧く、禍々しい瘴気を纏った魔獣達。

 

「…居るね。やっぱり蹴ちらさなくちゃ調べれなさそう。」

 

「…気をつけて。私には何も出来ないわ。」

 

「あたしに任せて。その辺りに居てくれれば、戦い易いかも。」

 

私は梨花を鳥居の付近に留まるように促す。彼女は息を呑み、ゆっくりと後退りしつつ見守ってくれるようだ。

此方に気付いた魔獣達が、徐に顔を向けつつ歩み寄ってくる。

その内のいくつかが触手を蠢かせ始めた。

早速仕掛ける心算だね。

 

「今のあたしに敵うかな?魔獣さんっ!」

 

生憎、円環を経た私は単なる魔法少女より幾分、戦闘に長けている。

運の尽きだね、魔獣め。

 

先に仕掛けられる前に私が先手を取るべきだ。

素早さには自信がある。

 

あくまで後方はしっかり意識しつつ、私は魔獣の懐へ潜る。

一閃、二閃、三閃。

まるで魔獣なんて、スローモーションだ。機敏な私は素早くその剣を薙ぎ、横へ両断。次いで側の魔獣へと駆けては縦断、漸く周りを囲もうと動く魔獣に対し、回転を交えて一気に蹴散らす。

 

「連携が足りないんじゃないのっ!?」

 

続けて前方から群がって飛び掛かって来る魔獣達。

其の戦術は余りに短絡的。後方へ距離を取る為、空中に身体を投げ出せば脚を空へ向けて宙を返る。一回転した後に片膝と片手にて地面へ着地しては其処から幾つもの剣が地に刺さった状態で私を囲んだ。

 

その剣の柄を持つなり、一直線に投げる。右手、左手、右手、左手。

さながら舞うように、次々と魔獣へ向けて飛翔する剣達が其の禍々しい身体を貫き…、剣が無くなりかけては再度補填。

ハイペースに数を減らせている、このまま終わらせてしまえ。

 

とは言え、一筋縄ではいかないようだ。一部の魔獣達が触手を此方に飛ばして応戦を企てる。

 

けれど、私には見える。この程度の速さなら捌ききる事など造作もない。

 

補填した剣の一つを掴めば、きっと見守る梨花には視認すら出来ないであろう素早さにて。

目にも留まらぬ剣戟が粉々に散らした触手達がその場で砕けて消滅する。

 

叶うなら、この場を退けて欲しいけど。魔獣にそんな交渉は勿論意味を成さない訳で。

 

魔獣達の攻め手を華麗に排除する正義の切っ先は容赦なく、彼らの数を減らしていく。

 

だけど。

 

不意に聴こえてきたのは、言葉。

 

魔獣達の喚き声は散々聞いてきた筈。

 

其れはきっと何の意味も為さず、私達魔法少女にとって聞く価値のない、音。

 

…其の筈。

 

それなのに何故だろう。

 

彼らの言葉だけは、意味を持っているような。

 

そんな気がして、瞬間、手が止まった。

 

其れを見計らったかのように、奥に忍んでいた魔獣達が頭部に閃光を帯び、砲台の様な形状を浮かび上がらせる。

 

…もしかして、前線は此奴らを守る為の囮だった?

 

まずい。アレが光線だとすると後方まで守りきれないかもしれない。

 

「梨花!逃げて!やばいかも!!」

 

咄嗟に叫びながら私は奴らに一気に剣を投げつける。

 

一陣、二陣、三陣、四陣…間に合うだろうか。

 

後方を確認する余裕がない!

 

「…さやか!そいつ等…っ!!」

 

鬼気迫った声色だ。何を感じたのかは分からないけど、とにかく剣を放つ他ない!

 

幾つもの斬撃を投擲するも、砲台を浮かべた魔獣達がその閃光をより一層強めた瞬間。

 

眩しい程のフラッシュを帯びた赤黒い光線が一直線に此方へ向かってくる!

 

…梨花!

 

…私には治癒能力がある。

 

痛みも消せる、傷も治せる。

 

…梨花を守る事が、何より先決!

 

瞬間的な私の判断は、後方の梨花へと駆け寄りその背のマントを広げ。其処に魔力を賭しつつ、梨花の身体を覆うようにぎゅっと強く抱き締める事だった。

 

「くっ………ッ!!」

 

頼むから、持って…!

 

シールドの要領でマントはどうにか光線を防ぎつつも段々と其の光輝を失い赤黒く呪いの力に染まりゆく。

 

意地でも梨花は守らなくちゃ!

そう、強く決心すると共に、マントが剥がれても自らの身体にて梨花を守ろう、その為には痛みをも覚悟しなくてはと。

強く強く、梨花を抱き締める刹那。

 

私達を襲っていた光線が唐突に。

 

此方を避けるように二手に分かれて…擦り抜けていく。

 

「何…?!」

 

眩くも邪な呪いの閃光の中、私が横目に見つめた後方には。

 

…手だ。

 

いや、正確にはそのものは見えないけど。

 

明らかに、閃光を穿つ一点には手の形が浮かび上がり、私達を守るようにしてその箇所から光線を大きく分けていた。

 

「…………ッ?!」

 

其の得体の知れない現象に驚愕せざるを得ないものの、現にこの現象は私達に味方している。

何だかよくわからないけど、何かが…私達に付いてくれている!

 

一頻りの光線が放たれ白煙を噴き上げる一帯。

其れは此方の反撃のチャンスを示すものだ。

 

「…梨花!大丈夫ッ!?」

 

「えぇ!」

 

「よし!終わらせてくるッ!」

 

瞬間の隙も見逃せない。またアレを撃たれてはたまったものではないから。

此処で一気に畳み掛けて、仕留める!

 

突進の如く駆け抜け魔獣達の元へ。先程の攻撃はきっと渾身の一撃だったのだろう、動きが一層鈍い!

 

「トドメっ!」

 

次々と繰り出す斬撃、弾け飛ぶ彼らの四肢。

風を切り、空を唸る。

そして最後の4体に向けて一直線に、左から右へと…一閃!

 

 

 

 

 

 

 

 

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…ッ!?

 

 

 

 

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なんだ…?

 

…喋っているの?

 

 

 

 

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………!

 

 

 

 

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…ッ。

 

 

 

魔獣達が何を告げたのかは、分からないけれど。

 

どうしてだろう。

 

泣いているように、聞こえた。

 

 

 

「…ごめんね。」

 

 

 

魔獣に同情するだなんて、私もヤキが回ったかな。

 

それでも、彼らもまた、元は人々の呪いから産まれたもの。

 

…私は一言だけ。

 

一言だけ、謝っておいた。

 

魔獣相手に胸を締め付けられるなんて初めてで。

 

何とも言えない罪悪感に苛まれるも。

 

吹き抜ける強い風が…勢い良く私達の頬を撫でた。

 

まるで慰めるかのように。

 

見守るかのように。

 

 

 

「…一時はどうなる事かと思ったよ。…怖い思いをさせちゃったね、ごめん…梨花。」

 

「とんでもないわ。ありがとう…。」

 

そう告げる梨花は安堵の表情ではなく。

 

どこか神妙そうな。釈然としない眼差しだ。

 

「どうかしたの?どこか怪我でもしちゃった?」

 

心配になり思わず問いかけるも、彼女は首を横に振り。

 

「…貴女一人じゃ、なかったような気がして。」

 

懸念を抱いた眼差しにて見つめてくる。

 

「…多分、あたし一人じゃなかったよ。それ以外は何も分からないけどね。」

 

…魔獣の攻撃から私達を守ってくれたあの…"手"。

 

其処には何も無かった筈なのに、明らかに手の形が光線を受け止め、弾くように退けていた。

 

…雛見沢はやっぱり、不思議で、神聖で、恐ろしい場所だ。

 

梨花にとっても、私にとっても。

 

「…もしかしたら、神様かもね?梨花がいい子だから守ってくれたのかな。なんて。」

 

そう、誤魔化すように不可解な現象を纏めようとしたけど。

 

「…そうね。」

 

梨花は意外にもそれを肯定し、

 

 

「オヤシロ様が見てくれていたのかも、しれないわね。」

 

と、付け足した。

 

空を見上げた梨花は…何かに思いを馳せるかのように。

木々のせせらぎにでも耳を傾けているのだろうか。目を閉じ暫く黙り込んだ後。

徐に私の顔を見つめ、

 

「仮にそうなら、お礼を言わなければいけないわね。」

 

其の笑顔は…どこか苦しそうで。

 

けれど…清々しそうでもあった。

 

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